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新型装甲車/装輪装甲車-改開発中止(考察)鈴木良之防衛装備庁長官が小野寺五典防衛相に報告

2018-06-06 20:14:38 | 先端軍事テクノロジー
■96式装輪装甲車後継白紙に
 火力戦闘車試作車が防衛省へ納入されたという報道がありました先週末、試作車が評価試験中の装輪装甲車(改)について、開発中止が報じられました。

 陸自の新型装甲車が白紙に、共同通信の驚きの報道を当方は札幌で知りました。翌日の第1旅団祭に併せてで、真駒内駐屯地祭では即応機動連隊改編を控えた第10普通科連隊が参加、新型装甲車は96式装輪装甲車の後継装甲車として開発が進められていたもので、即応機動連隊が今後順次改編創設される中で、毎年50両程度の調達が必要となる重要な装備です。

 コマツ、小松製作所の方が馴染み深いでしょうか、装輪装甲車 (改)として、開発を担当していましたが、試作車完成後、富士駐屯地の装備実験隊における評価試験の結果、防御力に問題が指摘され、二年間の期間で防御力改善設計変更を行っていました。報道では開発中止、鈴木良之防衛装備庁長官が既に小野寺五典防衛相に報告し了承された、とのこと。

 装輪装甲車(改)は2017年1月10日に試作車納入、全長8.40m、全幅2.50m、全高2.90m、重量20t、装輪装甲車 (改)の呼称の通り当初は96式装輪装甲車改良型との位置づけでした。96式装輪装甲車は全長6.84m、全幅2.48m、全高1.85m、重量14.5t、であり全長は1.5m、全幅は1.05m拡張されています。驚くべきは車高が1m以上高く90式戦車よりも高い。

 96式装輪装甲車、現状では既に400両近くが量産され、取得費用は一億円を下回った。安くて早くてお手頃などこが悪いのか、と率直に思う。陸自が新型装甲車を開発させた背景は96式装輪装甲車の車内容積と管制式簡易爆発物IED爆発への防御の低さでした。曰く増大する小銃班装備を全員分搭載出来ない、曰く車高を抑えた為に地雷への脆弱性など。

 01式軽対戦車誘導弾は96式装輪装甲車制式化当時には完成しておらず、当時諸従犯に配備されていた84mm無反動砲よりも大型です。また、96式装輪装甲車制式化当時の個人用装具は軽量な戦闘防弾チョッキⅠ型で側面防護板を追加した現行の戦闘防弾チョッキⅢ型は着席時の占有空間が一人当たり10cm程厚く、確かに小銃班装備全般は増大しています。

 しかし、車内容積が足りなければ250キロトレーラーを高機動車のように牽引すればいいのだし、01式軽対戦車誘導弾は車体上部に発射架を追加し機動時は被覆しておけばよいでしょう。IEDについては現在爆風対策には車高を上げて外に爆風を逃がし、耐衝撃座席採用程度しかなく、車幅制限のある日本ではトップヘビーにしかならないため限界がある。

 装甲車、要求仕様にIED防御が含まれていたとされますが、そもそも日本は専守防衛、IEDは仕掛ける側であって相手が国内でゲリラ戦を続けるまで戦う事を想定する必要はない。実際問題、IED被害が多発したのはイラク戦争治安作戦の米軍等有志連合、最近では自動車型IEDがISILにより攻勢にイラクで投入された事を思い出しますが、外征軍が我が国に攻め込む場合での使用は特性上考えにくい。

 コマツは防衛装備開発では非常に経験を積んだ防衛産業です。陸上自衛隊普通科部隊の主力装甲車となった軽装甲機動車はコマツ製ですし、96式装輪装甲車もコマツ製、自衛隊初の国産装輪装甲車である82式指揮通信車もコマツ製、戦闘車両では機関砲を備えた87式偵察警戒車もコマツ製です。73式装甲車開発では三菱重工と試作合戦を繰り広げました。

 装輪装甲車 (改)の改修は当初、2017年から開始され2021年に開発完了、という開発期間延長で進められていましたが、2018年の開発中止決定は、やはり基本車輛の重心と安定性を維持しつつ、防御力強化を行う事に限界があったのでしょう。一方、同時並行し三菱重工は独自に車幅の大きな装輪装甲車を開発中で、今回の装甲車代案に提示される事も考えられるでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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Unknown (ドナルド)
2018-06-06 23:20:29
清谷さんもおっしゃっていますが、18億円で開発費と5両の試作、という時点で明らかにおかしい契約です。安すぎる。Boxer の開発に、ドイツがどれだけの予算をかけたと思っているのか。

小松は、しっかりとした開発をする予定もなく、実際に開発もできず、NBC車の付け焼き刃的な改良で対応した結果、装輪APCとしては全く使えないものだったのでしょう。

そもそも装輪APCっぽい外見をしたMRAPだったのだと理解しています。それをAPCとして使わされる現場は、本当に困惑したでしょう。

白紙にもどって、本当に本当によかったと思います。

代案はしっかりと検討して欲しいです。それこそ、イギリスの装輪装甲車にも採用されたBoxerをそのまま採用したら最高ですし、フランスのVBCI、パトリアAMV、パンデュールII、ピランハVなど、優れたデザインがたくさんあります。技術的な遅れを取り戻すためにも、これらの装甲車をライセンス生産すべきではないでしょうか?
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Unknown (KGBtokyo)
2018-06-07 06:48:47
ドナルドさんと同意見ですね。
久方ぶりの朗報!どう見ても出来損ないが採用されなくて良かった。
装輪装甲車などあり物から選ぶば良いだけの話。
本質的な問題は自衛隊がグランドデザインを描けていな事、それ無しに場あたり的開発調達するから可笑しな事に成る。

装甲車にしてもIFVはどうするのか?
IFVとICVは正にハイローミックスであり、IFVどうするかによってICVの要求仕様も変わってくると。
また島嶼防衛に装輪装甲車の優先順位が高いのか?
装軌車の方が有用では?島嶼防衛島嶼防衛と言いながらなんでかんでも重装輪車に載せてユニット巨大化させ島嶼での機動や隠蔽を困難にしてどうするのか?
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www (名無し)
2018-07-18 07:46:44
あまり知ったかぶりで記事を書かない方がいいですよw
清谷と一緒で嘘が多すぎて笑えますw
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取材してないでしょ? (ハジメ)
2018-07-30 10:14:41
装備実験隊で試験してとか書いてあるけど、そこまで行き着いていないでしょ?
ちゃんと調べれば一般人でも分かりますよ。
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Unknown (流線形)
2018-07-31 00:38:50
いづれにせよ、間接的とはいえ、国民の要求に見合わないのであれば、中止するのは致し方無いとおもいますね。
問題は、次ですよ。もちろん、今回の反省も含めての話でしょうが。
”反省点”、”次回考慮点”の話なら、次に繋がる話しでしょうが、ブログ記事に対して揚げ足取りの様な反応は、意味が薄いと思いますね。
では、MHIが充分な検討を行なっているのかというと、どうでしょうね。
会社が決算説明会等で公言しているROIに対する防衛装備品のROIは低いでしょうから、ROIを重視すると公言している会社が、それを引き下げる案件を積極的に受注するとなると、別の問題を引き起こしそうですね…。
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