北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

将来艦隊戦闘と巡航ミサイル【6】 AIP潜水艦あさしお方式船体延長による巡航ミサイル区画増設

2016-09-14 23:02:35 | 先端軍事テクノロジー
■トマホークVLS12基を増設
 AIP潜水艦あさしお方式での船体延長による既存潜水艦への巡航ミサイル区画の増設、これにより旧式化した潜水艦の巡航ミサイル潜水艦への能力向上と延命改修を同時に行う、こうした施策も考えられるでしょう。

 AIP潜水艦あさしお方式、はるしお型潜水艦あさしお、は1997年に潜水艦として竣工しましたが2000年に練習潜水艦へ種別変更すると共に、海上自衛隊が永らく導入への研究を進めていたAIP動力方式、非大気依存方式潜水艦の実験潜水艦へ転用するべく、船体後半部へAIP機関を挿入するべく9mの追加工事を実施しました。これにより全長は78mから87mへと延伸、満載排水量も3200tから3700tへと大型化しています。

 今回提示するのはこの船体延長工事を旧式潜水艦に対し実施し、蓄電池区角やAIP機関追加などではなく、UGM-109E,UGM-109H用VLS区画に転用する案です。潜水艦における巡航ミサイル用VLS区画ですが、これはアメリカ海軍のロサンゼルス級フライトⅡ攻撃型原潜が実施しているもので、ロサンゼルス級攻撃型原潜は12基のトマホークミサイルをVLSへ搭載しています。

 前述しました20発の魚雷及び対艦ミサイルの搭載能力の内、自衛用の4発を対潜魚雷とした場合、16発の巡航ミサイルを搭載可能ですが、ロサンゼルス級攻撃型原潜に範を取り、船体後部へAIP潜水艦あさしお方式でVLSを追加した場合、ここにロサンゼルス級攻撃型原潜と同数の12発を搭載すれば、28発のUGM-109E,UGM-109Hを運用可能です。場合によっては自衛用魚雷の数を護衛艦の対艦ミサイルと同数である8発まで強化し、UGM-109E,UGM-109H については24発を一つの単位として搭載する選択肢も考えられるでしょう。

 旧式潜水艦の転用ですが、海上自衛隊の潜水艦は550m程度の潜行能力を持つ、と考えられています。もちろん旧式化する事で一割や二割程度の潜行能力へ影響はあるでしょうが、潜水艦の潜行能力は元々安全係数を採っている他、仮に潜行能力が350m程度まで限定し運用した場合でも、潜水艦の戦略的価値はそれほど失われる訳ではありません。

 更に巡航ミサイル潜水艦として運用するのであれば、攻撃目標を3000kmという長大な離隔距離を隔てて投射できることから自らは哨戒範囲を離れて動く必要はそれこそ、知らずに接近する漁船からの回避を除けばあまり大きくは無く、動かなければ相手側に対し潜水艦の位置が暴露する可能性は限りなく皆無に近づきます。もちろん、船体延長改修を行うのですから必要な工事の期間、そして何よりも少なくない費用を要します。

 率直に言うならば、船体延長改修を行わず巡航ミサイル潜水艦として遊弋させるという選択肢がありますし、また延命するにしても、世界には40年近く運用、中には運用を相当制約し21世紀初頭まで第二次大戦壴の潜水艦を運用した事例や練習潜水艦や予備役として維持している事例もありますが、さすがにこれは例外的であり、運用期間には上限がありますので、船体延長改修の費用対効果については一概には言えません。

 他方で、新造時から余裕を持った設計としてVLSを搭載するべきか、と問われるならば、海上自衛隊の潜水艦は全て通常動力潜水艦ですので、大型化した船体に充分な航続距離を付与させる事は難しくなりますし、船体が大型化すればその分水中騒音が増大します、最初から巡航ミサイル用VLSを搭載する事はまだまだ、航続距離と静粛性の兼ね合いから一考の余地がありますが、老朽潜水艦の利用方法としては利点があるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ミグ25函館亡命事件から4... | トップ | 巨大災害,次の有事への備え ... »
最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
広域師団構想と連動 (はるな)
2016-09-22 18:37:11
ファッツ 様 こんばんは

ご指摘、一番重要な部分です

ここで、2014年はじめにありました、コメント欄での海空偏重主張に基づく陸自ほぼ全廃案の提示と、これに対する反論から生まれました”広域師団構想”と重ねてお考え頂ければ、と

”広域師団構想”では、機動力重視と打撃力重視の旅団へ部隊を再編し、現用の装備を管理替えし、人員を最小限度、10万名強の規模へ縮小、という非常に厳しい縮小案を提示し、海空へ人的ソースを移管もしくは海空の陸上任務を陸上自衛隊が縮小により浮いた要員を陸海空業務隊に充てるという選択肢を可能としています

ただ、予算面では、旧式艦を耐用年数の上限についての再検討も加えて検討するにしても、やはりおおきな費用を要する事は確かですので、隣国の大量の巡航ミサイル脅威を、世論がその脅威顕在化に際し無視できるのか、否かにより、巡航ミサイル導入の可否はk待ってくるのかな、と
返信する
防衛予算は経済力の上限に反映 (はるな)
2016-09-22 18:30:18
軍事オタク 様 どうもです

防衛予算は経済力の上限に反映されますので、この当たりが厳しい所です
返信する
我が国策源地攻撃への抑止力 (はるな)
2016-09-22 18:29:15
PAN 様 こんばんは

数が少ない、と言われましても、半数を待機態勢若しくは遊弋させるとして120発は必ずしも少ないとは言えませんし、防衛出動の際に整備中の艦を艦隊復帰させ全てを太平洋に展開させれば240発を遊弋、240発の巡航ミサイル運用能力は長剣巡航ミサイルの総数と比較すれば六分の一程度ではありますが必ずしも少ない数ではありません

その目標ですが、我が国人口密集地への巡航ミサイル無差別攻撃を回避するための抑止力です、例えば、巡航ミサイル防衛用に相手の巡航ミサイルと同数の千数百発の地対空ミサイルを増勢するという選択肢もあるのかもしれませんが、飽和攻撃へは限度があるのではないでしょうか

これらを踏まえて、第一に使用するという選択肢ではなく、例えば南西諸島有事の際に、九州沖縄の人口密集地域への無差別攻撃が、喩えで示唆された場合に現段階では恫喝への対処手段がありません、故に、最後まで使わない為の潜水艦へのトマホーク搭載を提示しました
返信する
Unknown (ファッツ)
2016-09-15 22:05:36
見も蓋も無いコメントで申し訳無いのですが予算と人員が確保出来るとは…。現状の護衛艦ですら定員割れ多数の中更に選抜が必要な潜水艦乗組員をそこまで増やせるかどうかは…。予算的にも厳しい気がします。
返信する
Unknown (軍事オタク)
2016-09-15 13:19:20
情報収集能力は、偵察衛星や、電波情報、F-35偵察による飛行、これから整備してほしい人間のスパイ活動などにより、格段にこうじょうさせるとして、
まずは敵地攻撃能力をほゆうすべき、潜水艦改造案もいいですね。
ただ潜水艦が足りないので、全部で40隻くらいにはなるように整備してほしいですね。
原潜も含めて。
通常型24隻
攻撃型原潜12隻
戦略原潜4隻
+艦齢25年~32年のお年寄り通常型潜水艦8隻
48隻とか。
戦略原潜除くと今の整備目標の倍ですね。
返信する
Unknown (PAN)
2016-09-15 10:55:08
はるな様

旧式化した通常動力型潜水艦にVLSを搭載し、巡航ミサイル母艦とする案、たしかに技術的には可能でしょう。
しかし、前回の「トマホーク射程3000km」のさいにも疑問に思っていたのですが、自衛隊がトマホークを通常潜水艦に配備する、戦略的意図が不明瞭です。その部分をあえて指摘させていただきます。

兵器や装備は、開発にしても導入配備にしても明確に戦略的意図をもって行わなければなりません。果たして自衛隊はトマホークを持って何を攻撃するのでしょうか? 

例えば北のミサイル発射機というのであれば、日本向けの弾道ミサイルは移動式で、少数の巡航ミサイルでは効果は少ないし抑止力にもなりません。

核開発関連施設? そもそも、日本の現状のお粗末な情報収集能力では、攻撃すべきターゲットを特定するのも難しいでしょう。さらにこれらの施設の中枢はおそらく地中深くにあり、バンカーバスターでも使わない限り決定的なダメージを与えることは困難です。
また被爆国である我が国に、核汚染の可能性があるターゲットの攻撃決断ができるとは思えません。
それは指導者を狙うヤマモトオプションであっても同様で、我が国がそれを行う可能性は、現状無いに等しいでしょう。
そもそも、これらの対北への直接攻撃は、自衛隊が正面に出る局面は考えにくいものがあります。

個人的に考え得るとすれば、中国沿岸にある尖閣を睨んだ軍港や飛行場などの軍事施設攻撃でしょうか? なるほどこれなら、尖閣侵攻を受けたさいの出撃基地を叩くということで、あるかもしれません。
ただし問題は、中国本土に直接攻撃を加えることで、かえって我が国本土への報復攻撃を誘引してしまう可能性が高いことです。そうなれば限定エリアでの紛争&軍事衝突にとどまらず、戦争の長期化を招きかねません。
そして重要なのは、対中国で言えばたかだか数10発の通常弾頭のトマホークは、けして抑止力にはならないということです。

もちろん、ここにあげた以外にも、可能性はあるでしょうし、上記の想定について異論も多いとは思います。しかしまずは、トマホークをどのような事態で、何を攻撃する手段として装備するのか、その戦略的な意図から考えないと、意味は薄いのではないでしょうか?


返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

先端軍事テクノロジー」カテゴリの最新記事