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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ドローン攻撃対策に防衛省本格化,サウジアラビア油田攻撃の衝撃と自衛隊無人機対策の現状

2019-09-24 20:19:13 | 先端軍事テクノロジー
■現代のエイラートショック
 サウジアラビア油田攻撃へイランが関与した、イギリスフランスドイツ首脳が共同声明にて発言し無人機攻撃の波紋が広まっています。

 防衛省はサウジアラビアでの無人機攻撃を受け、我が国に対し周辺国からの同様の攻撃が行われた場合を想定し、対策の方針を示しました。具体的には現在装備されている電子装備の強化や、無人機捕獲用無人航空機の研究等の施策が提示されています。現実問題としてサウジアラビアでの無人機攻撃は770km以遠、一説には1100km以遠から実施され、その技術は脅威といえます。

 ドローン攻撃、イランが支援するフーシ派による無人攻撃機による自爆攻撃は、市販のクワッドドローンのようなものではなくドローン制御技術を誘導装置として用い、小型航空機用エンジンを搭載する事で巡航ミサイル並の射程を備えた、簡易無人機というような性能を有する装備です。巡航ミサイルには輸出規制枠組が在りますが、盲点をついている。

 ドローン攻撃、日本にとっては脅威です。決して威力は大きくありませんが、沿岸部の原子力施設や国家石油備蓄施設に対する攻撃、被害は限られたものとなりましょうが原子炉の格納容器が無傷であったとしても、停止中の原子力施設であっても仮に攻撃が命中した場合、軍事的損害は皆無でも国内世論への影響や市場動揺、政治的損害は計り知れません。

 エイラートショック、これに似たパニックのような印象は感じます。1967年にイスラエル海軍の駆逐艦、イギリス製の艦隊駆逐艦が警戒任務中に遥かに小型のエジプト海軍ミサイル艇より発射されたソ連製対艦ミサイルにより撃沈された事で、対艦ミサイルへの過大評価が世界の海軍に衝撃を与えた事件です。対艦ミサイル対処と同じくこちらにも対策が。

 神出鬼没ではありますが、ドローンは万能ではありません、対艦ミサイルの百分の一程度というものですが、長距離ドローン本体にセンサーは無くGPSにより静止目標に命中する為、水上戦闘艦等移動目標には打つ手なしです。また、電子妨害に対しては脆弱性が高く、軍用電子戦装備を搭載した場合、費用がミサイル並に高騰する為、妨害が有用でしょう。

 E-767早期警戒管制機やE-2C早期警戒機、手のひらサイズで飛翔距離が数百m以内の無人機がビルの谷間を飛行する様子は流石に見えませんが、日本海を渡る規模の無人機で有ればどれだけ低空であっても探知可能です。なにしろドローンよりも遥かにレーダーに映り難いステルス機を探知する情報処理能力がある為、その探知能力の面では充分でしょう。

 サウジアラビアではミサイルコリドーというペトリオットミサイルの覆域圏外を飛翔し無人機が目標へ命中しました。この点、レーダーギャップという防空レーダーの設置されていない区域が防空上の盲点ですが、我が国では小笠原諸島の中部と南部、及び現在我が国施政権が及ばない島根県竹島や北海道千島列島を除けば、防空監視所が機能しています。

 早期警戒管制機であれば550km圏内の低空飛行飛翔体、1000km圏内の高高度飛行飛翔体への同時多数の警戒監視能力があり、また、無人機がバスケットボールよりも大型であれば、現在自衛隊が運用するミサイルならば検知可能で、ミサイルは弾道ミサイル迎撃用を除き、基本的に近接信管を有し、目標付近に接近した瞬間に作動し目標を無力化します。

 E-2C早期警戒機は実際に無人機対処任務へ投入されています。アメリカの話かイスラエルの話、と思われるかもしれませんが航空自衛隊の話です。2017年5月18日に中国からの無人偵察機が沖縄県にて領空侵犯した事例があり、航空自衛隊は2012年12月13日の中国機領空侵犯事件以来沖縄へE-2C早期警戒機部隊を展開させ、警戒監視任務に当っています。

 同時多数の無人機攻撃、スウォーム攻撃というAIにより自動完成された複数の無人機による攻撃が、早ければ2030年代半ばにも実用化される、との懸念があります。勿論、長距離を飛翔できる無人機とスウォーム攻撃に用いられる小型無人機を混同してはならないのですが、同時多数により迎撃が追い付かない飽和状態、という懸念がある事も、事実です。

 無人機対策を永らく痛感しているのは陸上自衛隊であり、その理由として市販無人機を敵対勢力が多用した場合、我が方の行動が暴露し情報優位を喪失する、との視点から対策が検討されてきました。一方、市販無人機は電子妨害へ脆弱性を有する事から、自衛隊では防衛用にスカイレンジャー70等の耐妨害性を有する高価な防衛用無人機を装備しています。

 ネットワーク電子戦システムNEWS、陸上自衛隊の無人航空機対策はこの装備に重点化されています。これは戦域内のあらゆる通信装備を標定し、我が方の通信電波を維持しつつ妨害するもので、広義にはGPS電波の妨害も含まれると考えられます。巡航ミサイルの様な慣性航法装置を搭載しないGPSに依存する無人機に対しては、致命的な威力を発揮する。

 防衛出動に際し、戦闘地域では彼我の戦力により戦闘と共に無線通信や情報収集とデータリンクという、電子の戦いが繰り広げられます。この中には無人機が取得した画像情報や、攻撃目標の標定なども行われます。ここで電子妨害を行うならば、一挙に敵無人機を広範囲にわたり制圧可能です。安価さが売りの市販無人機派生技術には、耐妨害能力はない。

 西部方面電子戦隊が来年度にも熊本の健軍駐屯地に創設され、有事の際には島嶼部へ展開し広範囲の通信や無人機の運用を妨害するものと考えられています。人員規模は80名で、同様の装備は北部方面隊直轄の東千歳駐屯地第1電子隊へも配備される。ただ、陸上からの電子妨害には大きな問題があり、この部分はサウジアラビア防衛でも指摘されています。

 電子妨害システムの陸上運用における問題点は、常時電子妨害を行った場合、携帯電話通信網や5G通信を含む移動通信網、テレビ電波や衛星放送からラジオ電波も妨害するほか、GPSを阻害するのですから自動車のカーナビや旅客機の航法にも影響が出ます。実際、サウジアラビアではこの問題が指摘され、広域GPS妨害の電子装備導入に踏切れていません。

 EA-18G電子攻撃機、アメリカ海軍が運用する電子攻撃機ですが、ドローン攻撃への一つの選択肢として、こうした広範囲の電子妨害を行い得る機種の導入も選択肢となるのかもしれません。広範囲の電子妨害を行えば民生被害が大きい、とは前述の通りですが、我が国の場合は幸い国境が洋上であり、日本海や太平洋に東シナ海であれば影響は局限される。

 EA-18G電子攻撃機の名をあえて挙げたのは、平成30年防衛大綱の検討段階で、その導入が真剣に検討された、という事情があります。イージスアショアやF-35Bに即応機動連隊やV-22可動翼機、数多くの優先事項からその導入が防衛大綱に盛り込まれるには至りませんでしたが、サウジアラビアでのドローン攻撃が、その優先度認識を一変させる可能性も。

 このように、低速で小型、長距離飛翔で安価、という複数の無人機の情報が混在し一種の混乱状況に在るのが現状といえます。ただ、日本にとっての無人機の脅威は今に始まったものでなく、優先度は最高度ではないものの対策は検討され続けてきました。極論ではRAMでも簡単に落とせる。過度に慌てる事なく、既存の装備を強化させ過去に検討された装備の冷静な検討が求められましょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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1 コメント

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Unknown (ねこまんま)
2019-09-30 22:40:23
コストを考えると対策方法が無いですね。
強力電波や銃により撃ち落とすのは、周辺住民への被害が大きいですね。
空想ですが、普段は監視カメラによりドローンを監視して、敵ドローンが侵入した時に使い捨てドローンを打ち出して投網を捕まえるのかな?
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