北大路機関

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尖閣諸島防衛への一視点⑪ 理想はEFV?,現実はLAV-25,難しい防衛用水陸両用装甲車

2013-02-24 23:45:11 | 防衛・安全保障

◆今までの自衛隊に無かった装備体系

 防衛省は来年度予算に米水陸両用装甲車AAV-7を試験調達するとのことです。国産装備の重要性を説いている防衛産業関連の特集と相反する部分もありますが、これまで無かった技術は学ぶ、という姿勢は必要でしょう。

Img_4817 写真は89式装甲戦闘車ですが、今回導入されるAAV-7は陸上自衛隊が久々に導入する装軌式装甲車となります。このAAV-7は25名乗りの大型装甲車で陸上を72km/h、そして水上を13km/hで航行出来、島嶼部防衛において占領された我が領域に対し逆上陸任務を行える装備として期待されています。

Dimg_5168 しかし、89式装甲戦闘車は戦闘受領27t、全長6.8m、全幅3.2m、全高2.5mであるのに対し、AAV-7は重量24t、全長7.9m、全幅2.7m、全高3.26mとかなり大きく、原型のとなったLVTP-7は米軍へ1971年に配備開始、正直なところ設計面ではそこまで新しい装備ではありません。

Gimg_2232 AAV-7の導入は防衛用水陸両用装甲車の研究を行った防衛省が国内に技術基盤が無いとして参考品の取得として決定したものですが、米海兵隊では2010年まで、AAV-7の後継として洋上を25ノットで陸上に向かい、安定化された30mm機関砲により高い戦闘能力を有する将来水陸両用装甲車EFVが開発されていました。

Img_8533 EFVは2700馬力級という74式戦車のエンジンの三倍以上の高出力エンジンを搭載し洋上での高い機動力を備えていた野心的な装甲車でしたが、開発費の高騰と、そして取得費用が2000万ドルを超える費用が見込まれたため、米海兵隊ではAAV-7の延命改修を決定、EFVの開発を中止したという経緯があります。

Img_09_84 自衛隊としては、EFVが高速を要求された背景に米海兵隊が構想した水平線越の揚陸作戦、96浬程度の敵地上火力が届きにくい洋上からの揚陸作戦を念頭に性能が設定されており、96浬の行動半径があれば例えば宮古島から尖閣諸島までの展開も可能となるのですから、実用化されていれば興味があったのでしょうが、費用は恐らくUH-60JA多用途ヘリコプター並となったことでしょう。

Img_33_68 高コストから開発中止となったEFVですが、他方で現用のAAV-7についても老朽化は進んでいますので、いずれ後継車両は必要となります。ここで考えるのは、一応日本にも60式装甲車や73式装甲車に89式装甲戦闘車と装軌式装甲車の開発経験はあるため、共同開発としてアメリカのAAV-7後継車を開発できないか、ということ。

Mimg_1508 もしくは、米海兵隊には同じく老朽化が進むLAV-25装甲車があります。水陸両用式で長距離の洋上を機動する事は出来ませんが25mm機関砲を搭載した八輪式装甲車です。自衛隊には同じく八輪式の96式装備車輪装甲車がありますが、LAV-25は車幅は96式と同程度の2.5mで日本の道路事情にも合致するほか、アメリカとしてはC-17輸送機に並列二両を並べることが出来、有用な車両です。

Img_5285 LAV-25とAAV-7,全く経路が異なる車両ではあるのですが、これまで自衛隊が考えてこなかった両用戦任務に対応する装甲車で、日本には技術要素はあるものの、具体的にどのような装甲車として仕上げればよいのか、という経験や研究が無い、というものですので、この分野での日米協力は考えるのではないでしょうか。

Img_4407 LAV-25は、スイスのピラーニャⅠを原型とする装甲車であり、設計は非常に古いのですが、米海兵隊は欧州や米陸軍で過去のものとなりつつある装甲車の浮航能力を海兵隊という上陸任務を担う組織上必須のものとしていまして、これは浮く必要から重装甲を断念し設計されている車両が多いのですが、一方で日本は道路利用の観点から狭隘道路が多い国土を背景に車幅と必然的に装甲厚を犠牲とする装甲車を開発してきました。

Img_5855 実のところ、これは重要でして、世界の装輪装甲車は装甲防御をどんどん重視する設計に転換、ドイツのボクサー装甲車などは正面装甲が30mm機関砲弾に直撃に耐え、フランスのVBCIなど各国の装甲車も25mm機関砲弾に耐える重装甲へと向かっています。こうして必然的に大型化してしまう装甲車が多く、日本の道路には向かない外国製装甲車が増えているのです。海兵隊は前述の理由から大型化できず、揚陸艇や輸送機への搭載から車幅も大きくできない背景があるので、日本が求める大きくない装甲車と重なる要素をもっている、ということ。

Img_8985 AAV-7やその後継車EFVも欧州ではあまり考えられなくなっている上陸戦闘を海兵隊という任務城必要不可欠な装備であるため、米海兵隊としては今後とも何らかの後継車両を模索してゆくこととなるのでしょうが、この点で島嶼部での防衛を安全保障上防衛政策から除外できない日本と重なるところに気づきます。

Img_9912 もちろん、島嶼部防衛は空挺部隊や空中機動部隊によっても達成できる任務が多いのですが、橋頭堡確保には軽歩兵だけの強襲ではなく装甲車両が必要な状況も多々あります。この点から、必要性を異なる背景ではありますがともに有する日米において開発、もしくは技術基盤の共同研究だけでも実施することはできないでしょうか。

Img_5529 特に戦車の技術では駆動系の変速装置や懸架装置等で一応世界的に最先端を往く車両を開発しています。基本的に陸上車両の技術は水陸両用車両にどの程度応用できるかは、また別の話となってしまうかもしれませんが、日米だからこそできる部分、あるようにも考えます。

Img_3840 加えて、これは蛇足で、またその話か、と言われる方もいるでしょうが、南海トラフ地震を筆頭とした津波災害に対し、例えばLAV-25後継車両となるような水陸両用車両が各師団や旅団に一個大隊、可能ならば各普通科連隊の一個中隊に配備されていたならば、大災害という有事に人々を救う重要な装備ともなるでしょう。

北大路機関:はるな

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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18 コメント

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先ずは、装軌式の水陸両用装甲車の開発をするべきで... (通りすがり)
2013-02-25 00:06:37
先ずは、装軌式の水陸両用装甲車の開発をするべきですね。今の装輪式一辺到の開発には、危機感を覚えます。新燃岳や東日本大震災の件を忘れて無ければ良いのですが。
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はるなさま (ドナルド)
2013-02-25 01:33:47
はるなさま

LAV25は確かに浮航能力を持ちますが、AAV-7と並べて「水陸両用」と言うのは、ミスリーディングです。LAV25の水陸両用機能は、河川用であり、海上での運用は考えていないと多くの資料に書かれています。車体が軽量なのは、CH-53Eヘリで揚陸できるようにするためです(あとC130での空輸)。浮航能力をもつということと、海上を航行できることの間には、大きな隔たりがあることには、気をつけるべきだと思います。

つぎに、(繰り返しになり恐縮ですが:笑)水陸両用装甲車ですが、私は不要派です。揚陸を真剣に考えるのであれば、少数の特殊な装甲車を整備するよりも、LCACやLCM、ヘリ、さらには輸送艦の整備にまず集中すべきであるから、というのが理由です。なんとしても整備するというのであれば、AAV-7の少数輸入が現実的かと思います(所詮ポーズに過ぎないのであるから、お茶を濁して終るべき、という考え方)。

国産の水陸両用装甲車の開発も全く反対です。開発費、整備費をいたづらに消耗し、益よりも害をなす方が多いと感じています。そんな予算があれば、89式IFVの後継の開発、APCの整備、兵站部隊の整備に投入すべきかと思います(揚陸戦は兵站が大事)。なお、災害派遣と水陸両用「装甲」車って、やっぱりしっくり来ないです。水陸両用車なら、BvS10の非装甲型が一番かと。(「どこでも行ける」all terrain vehicle には、まだ、色々な意味で価値はあると思います)

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はるな様 (いごす)
2013-02-25 17:14:02
はるな様
防衛の素人(私)から見れば、尖閣防衛に最適なのは、オスプレイの配備でAAV-7より優先配備すべきなのではないかと思います。
オスプレイを自衛隊が所有していれば、有事の際はもちろん、支那の漁船団が押し寄せてきた時等の、広い範囲の対応が可能となると思うのですが。
専門知識のある方の見方を教えて下さい。
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AAV-7は教導部隊用ですかね (Unknown)
2013-02-25 23:20:19
AAV-7は教導部隊用ですかね
水陸両用戦闘車もですが日本は決定的に装甲車の数が足りません
バランスのいい軍隊を持つことで定評のあるイギリス軍を見習って2000両は欲しいところです
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通りすがり 様 こんばんは (はるな)
2013-02-25 23:22:15
通りすがり 様 こんばんは

仰る通り、火山災害には普賢岳のときも60式装甲車や73式装甲車が活躍、対して新島火山災害では不整地に強いはずの東京消防庁のウニモグが火山灰の張り付きでチェーン装着時でも身動きできませんでしたから、ね。
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ドナルド 様 どうもです (はるな)
2013-02-25 23:31:58
ドナルド 様 どうもです

ええと、本文ではLAV-25老朽化してるんだし、後継装備日米で一緒にやろうぜ、という内容で、LAV-25をそのまま導入、とは書いていないつもりなのですが、・・・、タイトルが紛らわしい?

一方、確かにLAV-25は浮くだけで波浪には弱いのですが、まあ、少々の沖合ならば在沖米軍のLAV-25は揚陸艦から揚陸艇を用いずそのまま陸上に揚陸していますので、そのまま沈む装甲車よりは使いやすいのかな、とも。・・・、こういう言い方をしますとBTR-80も浮くのですが、ね。

当方が浮くか浮かないかならば浮いた方がいい、という背景には、装輪装甲車の場合、防御重視でボクサーやフレシアのような車幅3m級の装甲車になってしまうと、日本の道路で身動きが取れないという懸念があるためです。国交省は輸送改革へ一部道路で3.2m車両通行可能な車線を増やし、長物コンテナ輸送へ幹線道路網を整備していますが、一部拡幅予算で20兆円、これまで整備した道路と併せ国道全体の2%がやっと対応するようになるとのことです。単純計算で1000兆円あれば、残り98%も拡幅出来ることになりますが、むらさめ型護衛艦2万隻分ですので、余り気乗りしません。

結果、日本の装輪装甲車は狭隘道路で運用する限り、防御には上限があるわけで、それならば、浮いた方がいいかな、と。

BvS10,ううむ、一緒に演習するのが米海兵隊ですからね・・・、本論から少し離れますが、日本は少々距離が遠いですが、イギリス海兵隊やフランス海兵隊と合同訓練を行った方が、予算規模と変える装備の質に現実的に揃えられる部隊規模が近いのかな、と思うところです。
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いごす 様 こんばんは (はるな)
2013-02-25 23:48:50
いごす 様 こんばんは

MV-22は陸上自衛隊としては揃える予算があれば揃えたい機体ではあります、現在の輸送ヘリであるCH-47と比べ速度が二倍で、航続距離も二倍ですから。

ただ、MV-22は24名乗りで小型ジープしか機内に搭載できないのに対し、CH-47は小型装甲車を二両輸送でき、55名乗りです。そしてMV-22はCH-47の二倍の値段ですので、一個飛行隊分12機のMV-22を導入する場合、今の予算では諦めなければならなくなる装備が多くなるのです。

自衛隊では戦闘ヘリコプターAH-64Dが予算不足で十分揃えられなくなっていますが、90機を買ったAH-1S対戦車ヘリコプターは老朽化でどんどん除籍されていますから、ただでさえ予算が不足している実情があります。言い換えれば、買いたいけれども買えない、という状況でしょうか。

MV-22はLAV-25装甲車のだいたい100倍の値段ですので、50両あれば一個連隊の大半に装甲車を配備できるという状態、12機のMV-22は24個連隊分の装甲車予算を必要とする、というわけ。

もう一つ、MV-22は最高速度565km/hと足が速いですが、CH-47も最高速度315km/h、巡航速度は265km/hあります。沖縄県の陸上自衛隊第15旅団が置かれている那覇駐屯地のヘリ格納庫から尖閣諸島までは420kmですので、MV-22なら最短45分、しかしCH-47でも1時間20分程度で到着します。まあ、最高速度で長時間飛行はしないのですが。

最後に一つ付け加えますと、MV-22は速いのですが、早すぎて自衛隊の対戦車ヘリも戦闘ヘリも随伴できません。アメリカ海兵隊は垂直離着陸型のハリアー攻撃機を護衛に充てる研究を行っているのですが、自衛隊にはこうした航空機がありません。航空自衛隊のF-15戦闘機では早すぎて、逆に護衛が難しく、自衛隊には使いにくいMV-22,という実情もあったりします。

・・・、ただ、千葉県の特殊作戦群を支援するために2~3機のV-22が首都圏に配備されていてもいいのかな、とは思います。予算が充分あれば、ですが。
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2013-02-25 23:20 様 こんばんは (はるな)
2013-02-25 23:57:35
2013-02-25 23:20 様 こんばんは

参考品ということですが、教導部隊か、といわれますと普通科教導連隊の滝ヶ原駐屯地は少々海から遠いですので、当方は別の部隊に配備されるのでは、と思っています。

2000両、ううむ、ただ、AAV-7は24名乗りで物凄く大型でして、上陸任務以外日本では、米海兵隊がイラクでやったような装甲車としての任務には使いにくいと思うのですよね・・・。
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AAV-7は装甲車というよりも岡に上がれる上陸用舟艇... (KGBtokyo)
2013-02-26 01:06:19
AAV-7は装甲車というよりも岡に上がれる上陸用舟艇というのが元々の成り立ちではないでしょうか?
どのみち自衛隊の装備数は少数ですし、揚陸戦ノウハウの乏しい日本が手を出すものではないないでしょう。
日本の島嶼地形様々ですが、幅広く使えるのは小型装軌戦闘車。
M8AGSや英CVR(T)系列などが好ましいですが残念ながら現状生産ラインはない、毛色は違いますが生産中のものではBv.S10ぐらいですかね。
道交法に気遣いするのでなく、本当の日本の戦闘に必要なもので、海外から入手困難なものなら国内開発止む得ないかなとも思います。
純国産よりもCVR(T)の権利保有しノウハウもあるBAEシステムあたりと共同開発。
小型装軌戦闘車は現状生産中のもの無いので輸出市場もそこそこあるのではないでしょうか。
中途半端なサイズの装甲車両開発するよりも、他国(仮想敵)の主力戦闘車に伍せるものと、地形的に敵主力戦闘車が投入できないようなところに投入できる小型装甲戦闘車という使途を明確にした2本立てが効果的。
島嶼防衛には、上記小型装軌戦闘車やヘリ空輸可能な軽量榴弾砲(M777)、さらに陸上から離れますがCB90強襲艇やヘリ空輸力強化(陸自ヘリもローター折りたたみ機能等艦上運用能力)
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LAV25ですが、最近はアフガン、イラクでの不正規戦... (ネレトー)
2013-02-26 01:54:00
LAV25ですが、最近はアフガン、イラクでの不正規戦を経てLAV25A2に進化しながら生産が続いています
海兵隊では、2035年前後までの使用を見込んでいるようですし。

A2は、アップリケアーマー(14.5mm徹甲弾の直撃に耐える)、V字型車底部追加装甲、耐爆シートな、サスペンション強化等を行いつつも、13トンの重量に保っています。
全幅も2.5mとぎりぎりですし参考に取得し96APCの改良型を作るのもいいかもしれないですね


とは、言いつつも米陸軍は装軌式の装甲車に回帰しつつあり、なかなか装輪式の装甲車ファミリー開発ばかりに目をやるわけにもいきません。
V-22、AH-64の話題も出ていますが、根本はいかに国防の為の力を削がずに戦略的戦力を強化維持出来るのか、という事だと思います。
個々の装備品ではなく相互運用を含めた全体的な視野で装備品の能力や取得数を決めるという基本的な事が最近は破綻しているのではないかと思います。
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