■日本版アチザリットは可能か
戦車の国産基盤を維持するという大きな課題を戦車派生型の装甲車という視点から考えてみましょう。

10式戦車派生型の装甲戦闘車という視点について。10式戦車の生産数が少ないために工芸品のような水準にとどまっているとして、その生産数を確保するために必要性というものを考えてみましょう。実はこの視点、10式戦車の量産維持に留まらず将来、10年後30年後の戦車国産技術の維持という広い視野にたっても考えてゆかなければならないものです。

しかし、戦車開発に当たる方の声を聞いてみますと、10式戦車を相当改造しなければ装甲戦闘車に転用することは出来ず、また考えられる改造を行ったとして、装備実験隊の試験で良好な結果を出せることにはならない、という反応がありました。もっともペリスコープや車載機銃は既に共通化されており、転輪や操縦装置の共通化は可能だろう、という。

アチザリット。戦車を転用した装甲車としてはイスラエルが捕獲したT-55戦車を原型として開発した重装甲車の事例があります、これはイスラエルがチラン戦車として近代化改修していますが改修が限界に達したため、重装甲車に改修したという。驚く事に戦車の装甲を更に改修し、増加装甲により正面部分は125mm戦車砲弾の直撃にも耐える防御力です。

日本でも一見10式戦車を原型に可能であるようにみえますが、チランはT-55という第一世代戦車を改造したもの、これは古い550hpのエンジンをより小型の450hpエンジンに置き換え、後部に生まれた空間を降車用通路に転用する無理を通すとともに、10式戦車を転用する場合、そんな余裕ある新型エンジン搭載は費用対効果の点で問題が無いでしょうか。

ナメル装甲車というイスラエルでは戦車を転用した重装甲車がありますが、これは戦車が原型とはいえ車体前部にエンジンを配置するメルカヴァ戦車を原型としており、元来メルカヴァは後部にハッチを有しており、しかも60発という膨大な砲弾を搭載する設計であり、友軍戦車が破壊孤立する最悪の場合では、弾薬を投棄し乗員を収容救助する設計でした。

チャレンジャー戦車、既存の戦車を装甲車に転用しようとした事例は、オマーン軍が試しています。これはチャレンジャー2の導入で余剰となった戦車の再利用案ですが、結局エンジンを載せ替える費用対効果は考えず、車体前部に乗降扉を設置する、揚陸艇のような構造をとりました、操縦席横にあります車体前部の弾薬庫を撤去して通路にしたのですね。

既存戦車の転用、しかし、巧く行きませんでした、当たり前ですが前に乗降扉を配置すると敵前で戦闘室内を暴露するのです、治安作戦などで特殊部隊が建物に突入する際に壁を車体で突き破って室内に特殊部隊を送り込むなど、構想したようですが、せめてロシアのBTR-80装甲車のように乗降扉は側面でなければ、歩兵を護れず装甲車の意味がないという。

10式戦車の変速装置は後進でも前進と同じ速度を発揮できる為、いまの車体前部に乗降扉を設置し、今の車体から後進するかたちで新しく操縦席を、例えば冷戦時代のMBT-70戦車のように砲塔に操縦士が乗るかたちをとれば、チャレンジャー1の失敗やアチザリットの無理を冒さず済みます。ですがしかし、MBT-70も砲塔旋回が操縦を妨げ、試作のみでした。

BMP-3装甲戦闘車、第二次大戦中のカンガルー装甲車などをのぞけば戦車の車体を利用した装甲車としてもっとも成功した車両はこの車両でしょう、PT-76水陸両用戦車の車体を応用し、エンジンは車体後部にありますが、その上に通路を設置しています。この無理を通したのは歩兵より火力、強力な100mm低圧砲と30mm機関砲を砲塔に備えていた為です。

100mm砲は火力支援用で30mm機関砲は対装甲車用、これはソ連軍が低圧砲のみを搭載したBMP-1の対装甲戦闘能力の不足と30mm機関砲のみを搭載したBMP-2の火力支援能力不足を受け、いっそ両方積め、という無理を実現した為でした。兵員は砲塔基部を囲む用に座席があり、降車は砲塔基部後部からエンジン上の狭い通路を開いて這って降りる。

10式戦車派生型で例えば25mm機関砲と105mm戦車砲を連装し砲塔を小型化、小型化した砲塔基部の部分を囲む様に普通科隊員を6名乗車させ、車長が班長を兼ねる一個班を砲塔基部後部に扉を配置し、戦車体験試乗に用いる架設台のような通路を通り下車戦闘を行う、BMP-3方式10式戦車転用装甲戦闘車、こんなものを考えますが現実味は非常に薄い。

ただ、装甲戦闘車は乗車戦闘を行う、という1980年代の設計であり、2000年代からの装甲戦闘車は降車戦闘を最大限的陣地近くで行う為に重装甲と大火力を備え、迅速に下車し戦闘後は即座に乗車し前進する戦車の機動力に随伴する、という運用からは失格です。故に欧州もアメリカも、ソ連製BMP-3の後追いのような戦車派生装甲車の動きはありません。

では、10式戦車派生型の装甲戦闘車は不可能なのか、こう問われますと、思い浮かぶのはイギリスのエイジャックス偵察装甲車の存在です。振動と騒音と試験の遅れが指摘されていますが、オーストリアとスペイン共同開発のASCOD装甲戦闘車を、もともと28tの車両を42tの重装甲に再設計し火力強化、乗車兵員も削減、遠隔偵察機材を搭載しています。

偵察戦闘車、こう考えるならば10式戦車の設計をそれ程変更せずとも派生型を開発できます、例えば歩兵を支援する装甲戦闘車は陣地占領への近接戦闘へ小銃班を乗車させねばりませんが、偵察ならば斥候は数名、例えば87式偵察警戒車は2名の斥候員を必要に応じ下車させるだけで対応しています。車体弾庫を排するならば、斥候員席は追加可能でしょう。

10式戦車、既存の戦車を装甲車に改造するには無理があります。例えば設計時点からロシアのアルマータシリーズのように共通車体を採用するか、せめてメルカヴァ戦車のような機関部を前に置く、これは車体に命中すると機関部が破壊され、斜め前方からの命中に戦闘室が脆弱となる欠点があるのですが、こうした設計時点の相応の配慮が必要なのですね。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
戦車の国産基盤を維持するという大きな課題を戦車派生型の装甲車という視点から考えてみましょう。

10式戦車派生型の装甲戦闘車という視点について。10式戦車の生産数が少ないために工芸品のような水準にとどまっているとして、その生産数を確保するために必要性というものを考えてみましょう。実はこの視点、10式戦車の量産維持に留まらず将来、10年後30年後の戦車国産技術の維持という広い視野にたっても考えてゆかなければならないものです。

しかし、戦車開発に当たる方の声を聞いてみますと、10式戦車を相当改造しなければ装甲戦闘車に転用することは出来ず、また考えられる改造を行ったとして、装備実験隊の試験で良好な結果を出せることにはならない、という反応がありました。もっともペリスコープや車載機銃は既に共通化されており、転輪や操縦装置の共通化は可能だろう、という。

アチザリット。戦車を転用した装甲車としてはイスラエルが捕獲したT-55戦車を原型として開発した重装甲車の事例があります、これはイスラエルがチラン戦車として近代化改修していますが改修が限界に達したため、重装甲車に改修したという。驚く事に戦車の装甲を更に改修し、増加装甲により正面部分は125mm戦車砲弾の直撃にも耐える防御力です。

日本でも一見10式戦車を原型に可能であるようにみえますが、チランはT-55という第一世代戦車を改造したもの、これは古い550hpのエンジンをより小型の450hpエンジンに置き換え、後部に生まれた空間を降車用通路に転用する無理を通すとともに、10式戦車を転用する場合、そんな余裕ある新型エンジン搭載は費用対効果の点で問題が無いでしょうか。

ナメル装甲車というイスラエルでは戦車を転用した重装甲車がありますが、これは戦車が原型とはいえ車体前部にエンジンを配置するメルカヴァ戦車を原型としており、元来メルカヴァは後部にハッチを有しており、しかも60発という膨大な砲弾を搭載する設計であり、友軍戦車が破壊孤立する最悪の場合では、弾薬を投棄し乗員を収容救助する設計でした。

チャレンジャー戦車、既存の戦車を装甲車に転用しようとした事例は、オマーン軍が試しています。これはチャレンジャー2の導入で余剰となった戦車の再利用案ですが、結局エンジンを載せ替える費用対効果は考えず、車体前部に乗降扉を設置する、揚陸艇のような構造をとりました、操縦席横にあります車体前部の弾薬庫を撤去して通路にしたのですね。

既存戦車の転用、しかし、巧く行きませんでした、当たり前ですが前に乗降扉を配置すると敵前で戦闘室内を暴露するのです、治安作戦などで特殊部隊が建物に突入する際に壁を車体で突き破って室内に特殊部隊を送り込むなど、構想したようですが、せめてロシアのBTR-80装甲車のように乗降扉は側面でなければ、歩兵を護れず装甲車の意味がないという。

10式戦車の変速装置は後進でも前進と同じ速度を発揮できる為、いまの車体前部に乗降扉を設置し、今の車体から後進するかたちで新しく操縦席を、例えば冷戦時代のMBT-70戦車のように砲塔に操縦士が乗るかたちをとれば、チャレンジャー1の失敗やアチザリットの無理を冒さず済みます。ですがしかし、MBT-70も砲塔旋回が操縦を妨げ、試作のみでした。

BMP-3装甲戦闘車、第二次大戦中のカンガルー装甲車などをのぞけば戦車の車体を利用した装甲車としてもっとも成功した車両はこの車両でしょう、PT-76水陸両用戦車の車体を応用し、エンジンは車体後部にありますが、その上に通路を設置しています。この無理を通したのは歩兵より火力、強力な100mm低圧砲と30mm機関砲を砲塔に備えていた為です。

100mm砲は火力支援用で30mm機関砲は対装甲車用、これはソ連軍が低圧砲のみを搭載したBMP-1の対装甲戦闘能力の不足と30mm機関砲のみを搭載したBMP-2の火力支援能力不足を受け、いっそ両方積め、という無理を実現した為でした。兵員は砲塔基部を囲む用に座席があり、降車は砲塔基部後部からエンジン上の狭い通路を開いて這って降りる。

10式戦車派生型で例えば25mm機関砲と105mm戦車砲を連装し砲塔を小型化、小型化した砲塔基部の部分を囲む様に普通科隊員を6名乗車させ、車長が班長を兼ねる一個班を砲塔基部後部に扉を配置し、戦車体験試乗に用いる架設台のような通路を通り下車戦闘を行う、BMP-3方式10式戦車転用装甲戦闘車、こんなものを考えますが現実味は非常に薄い。

ただ、装甲戦闘車は乗車戦闘を行う、という1980年代の設計であり、2000年代からの装甲戦闘車は降車戦闘を最大限的陣地近くで行う為に重装甲と大火力を備え、迅速に下車し戦闘後は即座に乗車し前進する戦車の機動力に随伴する、という運用からは失格です。故に欧州もアメリカも、ソ連製BMP-3の後追いのような戦車派生装甲車の動きはありません。

では、10式戦車派生型の装甲戦闘車は不可能なのか、こう問われますと、思い浮かぶのはイギリスのエイジャックス偵察装甲車の存在です。振動と騒音と試験の遅れが指摘されていますが、オーストリアとスペイン共同開発のASCOD装甲戦闘車を、もともと28tの車両を42tの重装甲に再設計し火力強化、乗車兵員も削減、遠隔偵察機材を搭載しています。

偵察戦闘車、こう考えるならば10式戦車の設計をそれ程変更せずとも派生型を開発できます、例えば歩兵を支援する装甲戦闘車は陣地占領への近接戦闘へ小銃班を乗車させねばりませんが、偵察ならば斥候は数名、例えば87式偵察警戒車は2名の斥候員を必要に応じ下車させるだけで対応しています。車体弾庫を排するならば、斥候員席は追加可能でしょう。

10式戦車、既存の戦車を装甲車に改造するには無理があります。例えば設計時点からロシアのアルマータシリーズのように共通車体を採用するか、せめてメルカヴァ戦車のような機関部を前に置く、これは車体に命中すると機関部が破壊され、斜め前方からの命中に戦闘室が脆弱となる欠点があるのですが、こうした設計時点の相応の配慮が必要なのですね。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
「既存の戦車を改造して装甲車にする」のはとても大変だと思います。またそれをするなら90式でしょう。近代化さえすればまだまだ使えるものを、廃棄し始めているので。こちらはおっしゃるように容易ではありません。
一方で「10式の消耗部品を多く共有する重装甲車を開発する」のは容易ではないでしょうか?つまり、足回り(転輪やサスペンション、キャタピラ)と駆動系(エンジンとミッション)を共通化したものです。カメラの小型化高性能化が進んだ今、操縦手席が前方にないといけない理由も低くなってきました。
車体全部にミッション、その後ろの全幅を使ってエンジン、左側に吸排気系、右側に操縦手+車長席、後方に戦闘室。戦闘室の上面に、30mm砲規模の大型RWSを搭載し、後方にむけ8名分の兵員室を用意するようなイメージです。
RWSのFCSは10式戦車と共有しても良いでしょう。行進間射撃は、機関砲にこそふさわしいです。最近は30mm砲でもエアバースト(時限信管)弾や近接信管弾が開発されているので、走行しながらUAVむけの対空砲火をあげることもできるでしょう。
10式は現在戦車としては装甲が薄いですし、車体も小さい。こうして開発する重装甲車は一定レベルの装甲が必要だし、車体も10式ほどコンパクトにすることは不可能なので、10式と同じ重さにはなるでしょうから、エンジンや足回りは同じものが良いと思います。
どうでしょうね。。。
一方で90式改造の装甲車は、よくよく考えないと難しいと思います。でもまあ、できるとは思いますけどね。
10式戦車と、10式ベースの新重装甲車を組み合わせた機甲大隊と、90式戦車(近代化)と90式改造の重装甲車を組み合わせた機甲大隊の2種を揃えるのが良いかと思います。