◆MOOTW=友愛ボート
本日、鳩山首相が提唱した友愛ボート構想の実現へその第一号となる輸送艦くにさき、が呉基地を出航しました。首相は沖縄問題に忙殺され呉基地には足を運びませんでしたが隊員家族に見送られての出航です。
今回海上自衛隊が派遣されるパシフィックパートナーシップ2010はヴェトナム、カンボジアで二週間づつの医療支援と文化交流を行う事が目的です。このパシフィックパートナーシップは、訓練ではなく実任務で、アメリカ軍が主催する軍事組織による戦闘以外の任務MOOTW(Military Operations Other Than War)にあたります。くにさき派遣は5月23日の出航ののち7月15日に帰国する予定です。医療支援は内科を中心として行われる事となっており、報道によれば乗員160名と陸海空自衛隊の医官と歯科医官を中心とした医療支援チーム約40名が輸送艦に乗り組んでおり、現地で医療と災害救援関係のNGOメンバー22名が乗り込む事となっています。
輸送艦くにさき(LST4003)、は三隻が建造されたおおすみ型輸送艦の三番艦として2003年に就役しました。海上自衛隊第一輸送隊に所属し、全長178.0㍍、全幅25.8㍍、基準排水量8900㌧、満載排水量14000㌧。ディーゼルエンジン二基を搭載して機関出力は26000馬力、最高速力は二軸推進で22ノットとなっています。もともとは艦内に二隻搭載するエアクッション揚陸艇を用いてのドック型揚陸艦としての機能を有する輸送艦ですが、災害派遣に威力を発揮し、同型艦は既に国内だけではなく海外への派遣実績もあります。国際緊急援助隊としても派遣が考えられており、人道支援ではトルコ地震に伴う緊急人道物資の輸送、そしてインド洋大津波への派遣などが記憶に新しいところでしょうか。防災訓練への派遣も積極的で、特に首都圏直下型地震へは本型が優れた医療能力を持っている事もあり病院船として期待されています。数々の震災を通じて、陸上自衛隊の野外手術車への給電能力や航空機燃料搭載能力を強化させる改修が行われています。
おおすみ型は空母型船体となっていますが、上甲板前部は車両を搭載することが出来るようになっており、艦内とはエレベータで繋がっています。上甲板後部は飛行甲板となっていて、中型ヘリコプターまでは艦内へ収容することが可能です。ただし、陸上自衛隊の多用途ヘリコプターを搭載した際には艦内の車両甲板、ここはもともと90式戦車を一個中隊輸送するためのスペースなのですが、ここと上甲板を繋ぐエレベータの寸法が限られており、ローターを取り外す必要がありました。もっともローターを折り畳めるSH-60J/K哨戒ヘリコプターならば搭載できそうな気もするのですが、試験を行っているかは分かりません。おおすみ型の乗員定数は135名、しかし今回は乗員160名、と発表されていますから、指揮官と幕僚が乗り組んでいるのでしょうか、上甲板に防錆措置を施したヘリコプターでも搭載しているのでしょうか。そして艦内には前述の広大な車両甲板とエアクッション揚陸艇二隻を格納する区画、ここはコンテナ物資等の輸送区画にも流用できるのですが、他に乗員以外の上陸要員区画も配置されています。
友愛ボート構想は昨年11月に鳩山首相により提唱されたもので、災害派遣や医療活動へ実任務として参加することで国際緊急援助活動での医療や輸送分野での能力を向上させることも今回の狙いです。しかし、今回は民間NGOとともに平時のMOOTW任務に派遣されることとなるのですが、14000㌧といえば東南アジアでタイ海軍の空母チャクリナルエベト(11485㌧)、インドネシア海軍のドクタースハルソ級揚陸艦(11400㌧、4隻が就役)を超えるかなりの大型艦です。海上自衛隊のプレゼンスを東南アジアの南シナ海を含め中国海軍が進出しつつある海域に展開させるという点で意義は大きいですね。 鳩山首相の行った政策の中では評価できないものや疑問符が付くものも多いのですが、プレゼンス発揮と友好国との関係強化を行う今回の友愛ボート、MOOTW任務として考えた場合かなり評価することが出来るのではないでしょうか。
友愛ボート第一号、ということなのですが、これは継続的に行われる、という意味なのでしょう。個人的には災害派遣や武力紛争時の人道介入を行う多国間合同演習として“友愛演習”というものを東南アジア地域や南太平洋地域で実施しては、と思ったりします。“友愛演習”というと、ロシア語でザーパトでしたか、・・・、まあ、そういう名前の演習が過去にも行われているような気がしまして、十万人以上が参加し東欧で民主化運動が行われた際にソ連主導で十万以上のWPO軍を集結させ介入準備を行うという、目的も目的だったのですが、そういうものではなく、日本のプレゼンス発揮を目指して、“友愛演習”というものが検討されてもいいのかな、と。多国間での災害と紛争対処の訓練を行う事で、対中関係に対しても一定の機能が期待できますし、一向に具体的ビジョンは見えてきませんが、鳩山首相が一時期提唱していました東アジア共同体構想にも、各国の軍隊や人道団体との関係強化と信頼醸成には役立つようにも思えます。これはまた別の機会にちょっと考えてみたいですね。
HARUNA
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