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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】アイアンドームが迎撃するハマスA-120ロケット弾と射程200kmのM-302型

2021-05-15 20:01:39 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛,最新論点
 緊張続く中東情勢について、先ず情報としてどのようなロケット弾が用いられているかを提示し報道を理解する一助となる話題を緊急特集します。

 イスラエルのパレスチナ自治区ガザ地区からのイスラエルへのロケット弾攻撃が激化し、イスラエル軍はアイアンドーム迎撃システムによる迎撃に加え空爆を強化、ガザ地区周辺に3個旅団を展開させ榴弾砲による攻撃も開始しました。しかし双方とも非戦闘員居住地区を市街戦でない状況で攻撃している。軍人には自国民他国民問わず市民を守る矜持が欲しい。
■多連装型のA-120ロケット弾
 ロケット弾による攻撃はかなり想像以上に長射程のものが多数含まれているようです。

 イスラエル国防省はイスラム武装勢力ハマスより5月からイスラエル主要都市に撃ちこまれているロケット弾について、新型のA-120ロケット弾であると発表した、エルサレムポストが報じました。これは2014年にイスラエルを攻撃したR-120ロケット弾を多連装化したもので、従来ハマスが多用したカッサムロケットよりも遥かに射程が延伸しています。

 A-120ロケット弾は射程が120km、これはハマスが実効支配するガザ地区一部地域からイスラエル主要都市を射程に収めるもので、ロケット弾はイスラエルメディア報道では八連装のコンテナ発射装置から連続発射が可能となっています。このコンテナ発射装置は報道映像を見る限り全周旋回式のものを地上に設置、ロケット弾は人力装填する構造でした。

 R-120ロケット弾は単発発射装置により運用され、トラックにより単発発射装置2基を輸送可能となっていますが、A-120の最大の相違点は8連装発射装置による投射能力の強化でしょう。これはロケット弾攻撃の多くがイスラエルのアイアンドームミサイルにより迎撃されていますが、単一弾道を同時多数投射する事で迎撃能力が飽和される懸念が出ます。
■テルアビブ狙うM-320
 今回のロケット攻撃はガザ地区からかなり距離を隔てたテルアビブ等に到達しています。

 イスラエルへのガザ地区からのハマスによるイスラエル都市攻撃には新型のM-302ロケット弾が用いられています。射程200km程度のロケット弾が少数でない規模で投入されており、これは新型のM-302ロケット弾である、5月13日付BBCが報道しています。ガザ地区から距離を隔てるイスラエル行政中枢テルアビブへの攻撃はM-302ロケット弾と推測できる。

 M-302ロケット弾の攻撃について、数は多くはありませんが、イスラエル軍が都市防空に充てるアイアンドームミサイル防衛システムに対し分散を強要する機能が考えられます。アイアンドームは優れたシステムですが、イスラエルの経済力では全土を同時防衛するには数が不充分、しかしテルアビブが標的とされるならば一定の配備を割かねばなりません。
■カッサムロケット飽和攻撃
 当初疑問だったのは何故イスラエル軍はガザ地区周辺にアイアンドームを展開させ地区内で迎撃しないかという事でしたが、各種飽和攻撃が行われているもようです。

 イスラエルへのイスラム武装勢力ハマスによるロケット弾攻撃は5月10日の開始以来三日間で1000発以上を超えました。ハマスには様々な射程のロケット弾が配備されています。最も射程の短いものは大量に製造されているカッサムロケットで射程10km、カッサム2とも呼ばれるクッド101ロケットは射程16km、カッサム3ことセジルが射程55kmです。

 都市部を標的とする長射程のA-120ロケットやM-302ロケット等がありますが、カッサムロケットと同時に射撃する事で、ガザ地区周辺に配備されたイスラエルのアイアンドーム迎撃ミサイルには、どのロケット弾が長距離ロケット弾であるかを欺瞞する効果があると考えられ、実際にハマスは最初の38時間で実に1050発ものロケット弾を発射しています。
■イスラエル防空艦2番艦
 イスラエル海軍はガザ地区を恒常的に海上封鎖し、オスロ合意で認められたパレスチナ自治区領海内での天然ガス掘削も行っていますが、ドイツはイスラエルに新型艦を売却しました。

 イスラエル海軍はドイツのティッセンクルップ社において建造していたサール6型コルベットの二番艦オズの引き渡しを受けました。サール6型はイスラエル海軍が初めて導入する防空艦で2016年に4隻の船体建造を4億5000万ユーロにて契約しています。武装はイスラエル独自のものが計画されており、今後イスラエルにて艤装工事を行うとのこと。

 サール6型コルベットはドイツのブラウンシュバイク級コルベットの派生型として建造されており、満載排水量は1900t、全長90m、ディーゼルエンジンにより26ノットを発揮します。ELM-2248多機能レーダーを搭載すると共に武装はバラク8対空ミサイル32発と76mm艦砲、そして航空機格納庫を有し、SH-60Fヘリコプター1機の運用が可能です。
■人道危機に繋がる地上戦の懸念
 このままイスラエル軍がガザ地区へ展開し地上戦となれば非戦闘員に膨大な死者が凄惨な結果となりかねません。

 地上部隊侵攻はあり得るのか。イスラエル軍は、ハマスロケット弾陣地や物理封鎖されているガザ地区へのロケット弾関連物資搬入には過去、トンネルを用いた密輸が行われています。実は前回にガザ地区へイスラエル軍が侵攻した2014年には軍事作戦の目標がトンネルの破壊と位置づけられ、7年後の今日改めてトンネルを無力化する可能性は、あります。

 地上戦闘、しかしイスラエル軍には課題もあります。イスラエル軍の主力戦車はメルカヴァMk4,防御力を重視した設計で知られますが2006年の南レバノン紛争へ投入した際に初日で機雷により全損しました、地雷には強いのですが遥かに強力な機雷を武装勢力ヒズボラが敷設していたのですね。防御側には時間がある為、イスラエル軍の損害も免れない。

 市街戦では2014年のガザ地区侵攻に際し、ハマスは建物による戦車攻撃を行いました。従来は戦車の弱点であった上部装甲をビル上からロケット弾により狙う手法がありましたが、ガザでは四階建て規模のビルを爆破解体し、道路上のイスラエル軍戦車上に圧し潰すように倒壊させる手法も用いられ、重装甲を誇るメルカヴァ戦車も圧潰した事例がありました。

 重要なのはロケット弾攻撃がいつまで続くのか。これは同時に迎撃に用いるイスラエル軍のアイアンドームミサイルの備蓄が払底する前に、ロケット弾陣地を破壊する必要がある。ただ、ハマスのロケット弾攻撃は低調化、ロケット弾の方も備蓄が払底している実情があります。地上戦前段階として砲兵隊が展開していますが、ここで停戦できれば幸いと思う。
■理想はPKOでの兵力引離し
 人道危機を回避するには兵力引き離しが必要です、ハマスは自治区を実効支配した正規軍としての側面も持ち、ここからの文民居住地への攻撃も問題なのですからね。

 人道危機。理想論はPKO部隊を派遣し、兵力引き離しを行うという選択肢です。もっとも2002年以降のPKO任務は元々の国連総会と安保理による措置ではなく、安保理決議を根拠とした派遣である為、アメリカとロシア中国の合意が必要となる制約は大きいのですが、イスラエル軍の侵攻阻止と、ハマスによるイスラエル非戦闘員居住地への攻撃の阻止と。

 ルクレルク戦車のような戦車部隊の派遣が必要となる。これは2006年のイスラエル軍レバノン侵攻に際しUNIFIL国連レバノン暫定軍増強部隊ではフランス軍はルクレルク戦車を含む機械化部隊を展開させました。当初AFP通信がルクレルク戦車90両を派遣と報道し、これは2個戦車連隊規模の部隊ではないかと驚かされたものですが、重装備部隊を送った。

 UNIFILへは強襲揚陸艦ミストラル、ドック型揚陸艦シロッコ、フリゲイトのジャンバールとジャンドヴィーヌが派遣、ルクレルク戦車13両と装甲車両等が派遣、落下傘部隊を中心に1700名が派遣され兵力引き離しに当りました。ルクレルク戦車はUN塗装、120mm戦車砲を有する主力戦車の派遣は、機関銃の携行さえ躊躇した日本では驚かされますが。

 ルクレルク戦車が派遣された際には、停戦が崩壊した状況で実力にて戦闘を阻止するには戦車が不可欠というものであり、PKO部隊と保護する文民の安全を考えての派遣でした。フランスF2ニュースなどでは難民に接近するイスラエルのアチザリット装甲車部隊をルクレルク戦車が文字通り体を張って阻止、戦闘を回避した事例もあり、派遣は正解でした。

 PKOを送り兵力引き離しをガザでも実施できれば、理想ではあります。現在のPKOは安保理決議という法的拘束力に基づくものですので受入国の合意は必ずしも必要ではない。ただ、相当な危険が伴い、まさか自衛隊の戦車連隊を送る必然性も無く何処がリスクを引き受けるかという課題があります。ただ、どこかが覚悟を決めなければ、悲劇の連鎖は続きます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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