ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『踊る大捜査線』1997

2019-04-08 00:00:05 | 刑事ドラマ HISTORY









 
1997年冬シーズンに全11話が放映された、フジテレビ系列・火曜夜9時枠の連続ドラマ。

お台場にある湾岸警察署・刑事課強行犯係の新任刑事=青島俊作(織田裕二)の活躍と成長を縦軸にしながら、警察組織の業務形態や実情をリアルに、そしてコミカルに描いた、刑事ドラマというより「警察ドラマ」のパイオニア的作品です。

スタート時のレギュラーキャストは他に、青島と対立しながら友情を育んでいく本庁捜査一課の管理官=室井慎次に柳葉敏郎、湾岸署刑事課盗犯係刑事=恩田すみれに深津絵里、強行犯係の若きエリート=真下正義にユースケ・サンタマリア、定年間近のベテラン=和久巡査長にいかりや長介、魚住係長に佐戸井けん太、袴田課長に小野武彦、秋山副署長に斉藤 暁、神田署長に北村総一朗、そして事件関係者から湾岸署交通課婦警になり、やがて真下と結婚することになる第2ヒロイン=柏木雪乃に水野美紀。

さらにスペシャルドラマや劇場版シリーズで筧 利夫、内田有紀、真矢みき、寺島 進、小泉孝太郎、伊藤淳史、小栗 旬といった新メンバーが加わっていきます。

TVシリーズはそれほど高視聴率でなかったにも関わらず、その斬新さと面白さがクチコミや再放送で世間に広まり、絶妙なタイミングで公開された劇場版の大ヒット(『相棒』もそうでした)により、『太陽にほえろ!』を凌駕しかねないほどメジャーなタイトルになりました。

2012年まで劇場版が4本、TVスペシャルが3本のほか、脇キャラを主役にしたスピンオフの劇場版が2本、TVスペシャルが3本、更に短編ドラマや携帯配信ドラマなど、もはや把握しきれない程の副産物も生まれました。

ですが、私が本当に「素晴らしい」と思ってるのは、最初のTVシリーズ全11話のみです。劇場版はどれも残念な出来だと思うし、今じゃ可愛さ余って憎さ100倍で、最も嫌いな刑事物になっちゃいました。

その「素晴らしい」TVシリーズでさえ、今あらためて観直したら嫌悪感を覚えるかも知れません。だから再放送はあえて観ないようにしてます。

私がなぜ、最初のTVシリーズに胸躍り、もしかしたら『太陽にほえろ!』を超える番組になるかも……とまで思ったのか? なのになぜ、映画化されて以降は虫酸が走るほど嫌いになっちゃったのか?

その答えは、脚本の君塚良一さんが書かれた『テレビ大捜査線』というエッセイ本を読んで明確になりました。『踊る大捜査線』というドラマがどんな過程を経て生まれたのか? そこに全ての答えがあったんですね。

まず、最初から決まってたのは織田裕二が主演であること。織田さんは直前までラブストーリーの連ドラに主演しており、次は全く違った内容のドラマをやりたがってた。そして君塚さんもプロデューサーの亀山千広さんも、いつか刑事物にチャレンジしたいと思ってた。

そんなワケで君塚さんは、かつて視聴者として夢中になった『太陽にほえろ!』の脚本集を引っ張り出して、徹底的に研究されたんだそうです。

その結果『太陽~』が当時としては画期的な実験作であった事、そして現在ある刑事ドラマは全て『太陽~』のバリエーションでしかない事に気づくワケです。

それを嬉しそうに報告する君塚さんに対して、亀山Pは冷めた顔をして「じゃあ、それを全部、禁じ手にしちゃいましょう」と言ってのけた。

誰も見た事がない「新しい刑事ドラマ」を生み出すには『太陽~』がやらなかった事をやるしか無い。その辺りの嗅覚と判断力は、さすが名うてのヒットメーカーと言えましょう。

そこで君塚さんが自らに課したタブーは「刑事をニックネームで呼ぶ」「聞き込みシーンを音楽に乗せて見せる」「刑事と犯人の心情がリンクする」「刑事がよく走る」「刑事が殉職する」ほか、銃撃戦やカーチェイス、主役の刑事が犯人を逮捕する事すら禁じ手にしちゃった。(大事件となると捜査もさせてもらえず、本庁のパシリをやらされる所轄の現実)

と同時に、伊丹十三監督の映画『マルサの女』みたいに、それまで描かれて来なかった組織の内部、捜査現場の裏側を、ドキュメンタリーのようにリアルに、そしてハウツー物の楽しみを乗せながらエンターテイメントにしていく手法を思いつかれたそうです。

この時点で既に、私が『踊る大捜査線』を大好きになる理由と、大嫌いになる理由が、両方ハッキリと示されてます。要するに、君塚さんと亀山Pの温度差ですよね。

君塚さんには『太陽にほえろ!』が大好きだったという下地があり、大いにリスペクトした上で、それをタブーにするというチャレンジをされたワケです。

一方の亀山Pには『太陽~』への思い入れなど毛頭無くて、とにかく番組を当てる事しか頭に無い。それはまあ、プロデューサーとして当然の姿勢なんだろうと思います。

だけど、少なくともTVシリーズを立ち上げる時点では、両者が「全く新しい刑事ドラマを創る」っていうクリエイティブな志を共有されてた事が、君塚さんのエッセイからは伝わって来ます。何しろお互い「これはカルトになるね」「視聴率は取れないよね」って、そんな会話まで交わしてたんだそうです。だからTVシリーズは面白かったんですよ!

実際、私も初めてTVシリーズを観た時は、久々に衝撃を受けたもんです。最初の2回は見逃したんだけど、評判を聞いて観た第3話の冒頭、発見された死体の位置(ほんの数メートル)を巡って、他署の刑事たちと縄張り争いするシーン。

実はずっと以前に『太陽~』の後番組『ジャングル』でも似たような場面があったんだけど、その時には感じなかった新鮮さと面白さを『踊る~』には感じて、一気に引き込まれた記憶があります。

そこんところが、君塚さんの仰る「エンターテイメントにしていく手法」による効能だったのかも知れません。リアル志向は『ジャングル』も『踊る大捜査線』も一緒なのに、後者は見せ方が斬新でユニークだったんだろうと思います。

それと、これは『ジャングル』の記事にも書きましたけど、正統な続編である『ジャングル』よりも、他局の新世代スタッフたちが創った番組『踊る大捜査線』の方が、基本スピリットは『太陽にほえろ!』に近いんですよね。

『ジャングル』を創ったのは15年間も『太陽~』に携わって来たチームですから、また刑事物をやるなら根本から違うものをやりたかった筈です。対して『踊る大捜査線』チームは『太陽~』を観て育った世代ですから、アプローチは真逆でも根本的には『太陽~』に憧れ、自分たちの『太陽~』を創りたかったに違いありません。少なくとも君塚さんはそうでしょう。

だから、私がハマらないワケが無いんです。基本スピリットは『太陽にほえろ!』と同じなのに、全く新しい手法による刑事ドラマ。『太陽~』が終了して以来ずっと求めてた作品が、ついに現れたんだから。

ところが!『踊る大捜査線』は変わってしまった。劇場版1作目を観た時に、私は「何かが違う」って感じながらも、具体的に何が変わったのか答えを出せませんでした。

さらに劇場版2作目を観て、その戸惑いは怒りに変わって行ったんです。もう明らかに「つまんない」ものになってるのに、なんと日本映画史上ナンバー1の大ヒットを記録しちゃったもんだから、私の怒りは世の中全体にまで向くようになり、いつの間にか「破滅です」が口癖になっちゃったw

いったい『踊る大捜査線』の何が変わってしまったのか? その答えが、君塚さんのエッセイに記されてたんですよね。私はホント、目からウロコが落ちました。

事件は、TVシリーズがいよいよ最終回に向けて盛り上がろうとしてる時に、それこそ会議室で起こったんです。

「最終回の視聴率が20%を超えたら、映画化の許可が下りる」

亀山Pのこの言葉が、全てを変えてしまった。いや、亀山Pの中じゃ最初から何も変わってないのかも知れないけど、番組の方向性はここで180度変わってしまったんです。

君塚さんが最初に「禁じ手」とした筈の、『太陽にほえろ!』最大の武器とも言える「レギュラー刑事の殉職」っていうカードを、視聴率20%以上を稼ぐ為に、ここで使ってしまったワケです。それを今は後悔してるって、君塚さんは正直に書かれてました。

カルト扱いされてもいいから、全く新しい刑事ドラマを創ろう!っていうクリエイティブな心意気が、亀山Pの持ち込んだ「映画化」という甘い蜜によって、脆くも崩れ落ちたワケです。

ユースケ・サンタマリア扮する若手キャリアの真下刑事が凶弾に倒れ、その犯人検挙に燃える主人公=青島刑事たちが、この番組で初めて拳銃を手にするシーンには正直、私も燃えましたw ていうかメチャクチャ嬉しかったです。

だって、それはまさに『太陽にほえろ!』そのものなんだから。だけど今にして思えば、それこそ『踊る~』が『踊る~』でなくなっちゃった瞬間なんですよね。

結局真下は死ななかったんだけど、劇場版1作目では青島の殉職を匂わせ、2作目ではヒロイン=恩田刑事(深津絵里)の殉職を匂わせ、完結編でまたもや青島の殉職を匂わせるというw、もうそこにはクリエイティブな志しはカケラも残ってません。プライドも無く、ただひたすら商売あるのみ!

殉職うんぬんは置いといても、恐らく君塚さんが『踊る大捜査線』でやりたかった事、生み出したかった事は、最初のTVシリーズで全部やり尽くしたんだろうと思います。だから劇場版以降はもう「出がらし」であり「同じことの繰り返し」にしかなってない。

そんなワケで、素晴らしいのは最初のTVシリーズだけなんです。TVシリーズは脚本のみならず、キャスティングも音楽も素晴らしかった。深津絵里さんも水野美紀さんも大好きですw

織田裕二さんも良かったですよ。最高の当たり役である事に変わりはないと思います。ユースケさんも良かった。いかりや長介さんと柳葉敏郎さんの芝居は、ちょっとクサかったw

もう1つ『踊る大捜査線』が斬新だったのは、警察組織の縦割り社会を一般企業以上にサラリーマン的と捉え、湾岸警察署という場所をごく普通の会社みたいに描いたこと。

そして警察上層部を、アニメの『エヴァンゲリオン』みたいにダークかつ無機質な連中として描いたのもユニークで、これ以降の番組はこぞって真似しましたよね。

『踊る大捜査線』が同じ話を繰り返すループ状態になった事で、青島刑事の成長ドラマはフリーズしてしまい、組織内部のゴタゴタばかり描くようになったのも、刑事ドラマ全体の流れを変えてしまった気がします。

つまり『太陽にほえろ!』が築いた本当の意味での「刑事ドラマ」ってジャンルを、いよいよ絶滅させちゃったのも『踊る大捜査線』だった。『踊る~』以降の刑事ドラマは、刑事(人間)ではなく警察(組織)が主役の「職業ドラマ」。

しばらくそのブームが続くんだけど、『相棒』がヒットして以降の刑事ドラマは「捜査」「謎解き」が主役になっていきます。それって『太陽にほえろ!』がテレビ界に登場する以前の形なんですよね。

つまり原点は「捜査(事件)ドラマ」で、『太陽~』以降が「刑事(人間)ドラマ」、『踊る~』以降が「警察(職業)ドラマ」で、『相棒』から再び「捜査(事件)ドラマ」に戻ってる。

時代は巡りますから、この次はまた「刑事(人間)ドラマ」の時代が再来するのかも知れません。現に『隠蔽捜査』や『BORDER』みたいに、事件よりも主人公のキャラクター(葛藤と成長)描写に力を入れた作品も出て来ましたからね。

もしかすると、そろそろ『太陽にほえろ!』や『踊る大捜査線』並みの起爆剤になる刑事ドラマが、また現れる時期なのかも知れません。現れて欲しいです。現れてくれないと、ほんとヤバいですよ、このジャンルは。
 

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2 コメント

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Unknown (carp2563)
2019-04-08 01:46:56
踊る大捜査線ははまりました。テレビシリーズも1話と2話はただのコメディかと思いましたが、3話からグッと引き込まれていきました。みな結構ここというときに熱くて溜飲を下げるような事をして応援したくなってしまいました。織田裕二ははまり役でしたし、小野武彦や佐戸井けん太もいい味だしてました。特に好きだったのは深津絵里ちゃんでしたね。当時深津絵里ちゃん主演のドラマはほとんど見てたと思います。水野美紀さんだけはこのドラマの中ではイマイチ魅力を感じなかったです。劇場版については第1弾は結構楽しめたのですが、第2弾楽しみにして見にいってがっかりして一切興味がなくなりました。劇場版第2弾は本当につまんなかったです。こんなに一気に熱が冷めるのも珍しいですね。
以後全く関知しなくなりました。


ムーミン
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Unknown (harrison2018)
2019-04-08 13:59:29
TVシリーズは実験要素とエンターテイメントのバランスが絶妙でしたよね。劇場版1作目はその集大成リメイクみたいなものだから「アリ」でしたけど、2作目以降はヒット狙い丸出しの典型的ファミリーアトラクションになって興ざめでした。

変にヒットし過ぎて大予算を背負っちゃった時点で本来の『踊る~』ではいられなくなった。それはもう仕方のない事なんだけど、TVシリーズだけで終わっていれば伝説になったのに、と思うと残念ですね。
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