'80年に入ってからゲストのキャスティングが華やかになり、ストーリーも一時期よりシンプルになった気がするし、久々の早瀬婦警(長谷直美)登場や山さん(露口 茂)のアクション等、どうやら段階的に「テコ入れ」が始まった模様。
中でも私を一番喜ばせてくれたのが「鮫やん」こと鮫島勘五郎(藤岡琢也)の約3年ぶりとなる再登場でした。
八方破れでちゃんと笑いが取れて、時にハードボイルド。この時期の七曲署に足りてないものを全て持ってるキャラクターで、こういう人が1人いるだけでドラマが弾み、俄然面白くなることを見事に証明してくれました。
深刻なマンネリと裏番組の猛追により沈みかけてる『太陽~』を、一体どうすれば蘇生できるのか、今回の鮫やんを見て制作陣はヒントを得たんじゃないでしょうか?
☆第394話『鮫やんの受験戦争』
(1980.2.15.OA/脚本=畑 嶺明&小川 英/監督=竹林 進)
ある朝、出勤途中のスニーカー(山下真司)が飛び降り騒ぎに出くわします。青年(清家栄一)が受験ノイローゼで自殺しようとしたんだけど、スニーカーが説得するより先に小太りの中年男が彼を捕まえ、ぶん殴って説教するもんだから驚いた!
「ちょっとアンタ、よしなさいよ!」
「うるさいやっちゃな、お前は! どこのもんじゃい!?」
「七曲署のもんですよ!」
「ええ? あっそう。ほな、行こか」
「は?」
で、署へ連れて行ったら中年男の正体は鮫やん=かつて城北署でボス(石原裕次郎)の同僚刑事だった大先輩であることが判り、藤堂チームのニューフェイスは大慌て。鮫やんの登場シーンは毎回こんな感じですw
刑事を辞めてから探偵事務所や結婚相談所など様々な事業にチャレンジして来た鮫やんがいま経営中なのが、地方から上京してきた受験生たちに宿を斡旋する受験コンサルタント。自殺しようとした青年もそこの生徒なのでした。
青年は一応立ち直ったものの、様子が気になるスニーカーは生徒たちが寝泊まりする寮をしばし見学。そこで、生徒たちの父兄から鮫やんが預かってる受験費用=約2千万円が事務室の金庫から盗まれる!という事件が発生しちゃいます。
当然、生徒たちにも疑いの眼を向けなきゃいけないんだけど、鮫やんが全力で否定します。
「あの子らは受験のことで頭がいっぱいやねん。そんな事ようせえへん、絶対に!」
ちょうど金が盗まれたと思われる時間に配水管修理の作業員2人が寮を訪ねており、犯人は「そいつらに決まってる!」と根拠なく断言する鮫やんなのでした。
ところが、金庫のそばに合格祈願のお守りが落ちてたことに加え、作業員たちが修理を終えてすぐ裏口から出ていく姿を見たと、生徒の1人である神保圭子(谷川みゆき)が証言。そうなると生徒たちを1人1人尋問するよりほか無く、ロッキー(木之元 亮)や長さん(下川辰平)も駆けつけるんだけど、鮫やんが全力で捜査妨害しますw
「相手はな、受験生や。いま一番大事な時期なんや。もうちょっと神経使うたってくれよ、な?」
そう言われると刑事たちも迂闊に動けません。
そんな折り、七曲署に女性の声で「神保圭子が事務室から出ていく姿を見た」との密告電話が入ります。金庫近くに落ちてたお守りも圭子の物らしく、こうなると彼女を尋問しないワケにいきません。
「私を疑ってるんですか? 私、やってません! ひどい! 私を疑うなんてひどいわ!」
運動靴の大男と顔じゅう毛だらけの大男に尋問され、圭子は泣きながら寮を飛び出します。
「このアホんだらあーっ!!」
ちょうどそこに帰って来た鮫やんの必殺ジョーズ・パンチが炸裂し、スニーカーを履いたスニーカーがスニーカーごと吹っ飛びます。
「タレコミが何じゃアホ、証拠でも何でもないやないけ! 疑われたあの子の気持ちをちょっとは考えたったらどうや、おい!」
「そんなこと言ってたら事件は解決しませんよ!」
「ええのじゃもう、事件なんか解決せんでも!」
「はあ?」
なんと鮫やんは、奥さんと経営してる飲食店を売って、盗まれた金を全額弁償しようとしてるのでした。
「鮫さん……」
「ワシが盗られたんやさかいワシが弁償すると、それでええやないか」
「いや、しかし!」
「ええ言うたらええのじゃい!」
そして生徒たちには「金は見つかったから何も心配せんでええ」と嘘を言ってる鮫やんの姿を見て、心打たれたスニーカーは自分も生徒たちを信じようと決心します。
ところが、神保圭子が受験票や筆記用具を寮に置いたまま、試験当日に姿を消してしまいます。
鮫やんや生徒たちと手分けし、必死に辺りを探し回ったスニーカーは、緑地公園に佇む圭子をいち早く見つけ、すぐ試験会場に向かうよう促します。
「疑わないんですか、私を? 私、2千万円盗ったかも知れないんですよ?」
「キミは盗ってないよ」
「えっ?」
「もうキミを疑ったりしないよ。大事な時にキミを苦しめて、悪かった。許してくれ」
「…………」
予期せぬ運動靴の言葉を聞いて、圭子が泣きじゃくります。実は彼女は、例の配管修理の作業員2人が事務室に侵入するのを目撃したにも関わらず、それを隠してわざと金庫近くにお守りを置き、自分で自分を告発するタレコミ電話をかけたのでした。
「どうしてそんな事したんだい?」
「試験が、怖かった……みんな私のこと受かるって決めてかかってるんです。もしも、もしも落ちたら……それが怖くて……ごめんなさい!」
彼女は刑事に疑いをかけられ、気持ちが動転していたから受験に失敗しても仕方がない、と皆に思われたかったワケです。
「わたし……今年は、試験受けません」
「落ちたっていいじゃないか!」
「え……」
「試験が全てじゃない、大学が一流か二流かでキミの人生が全て決まっちゃうワケじゃないんだ! 力一杯やってみて、落ちたら落ちた時のことだよ!」
鮫やんも途中から、生徒たちと一緒になりゆきを見守ってました。
「そうや、こいつの言う通りや。ワイも正直言うてな、ちょっと試験恐怖症になっとったな」
そう言って鮫やんは愉快そうに笑います。
「受かろうが落ちようがそんなもん、それはそれで人生の1ページやないか。気にせんとダーッとぶちかましたれ!」
ダーッとぶちかますかどうかはともかく、圭子はスニーカーの覆面車に乗せられ試験会場へと向かいます。途中で渋滞に巻き込まれても、パトランプを出してサイレンを鳴らせば大丈夫w
スニーカーは前々回も私用でパトランプを使い、始末書を書かされたばかりで躊躇したんだけど、狂暴な大先輩に「ええから出せ」と言われたら逆らえませんw
もちろん刑事部屋に戻ってボス(石原裕次郎)にまた叱られるんだけど、鮫やんが鮫やん流にフォローします。
「始末書なんてもんわな、まぁ言うてみりゃデカのハクみたいなもんじゃ。気にすな気にすな」
「こんなもんばっかり書いてるとな、鮫やんみたいになるんだ。よく覚えとけ」
そんなボスの嫌味もどこ吹く風で、鮫やんは神保圭子の受験がうまくいったことを嬉しそうに報告します。
「お前の1発が効いたみたいや。ありがとう、スニーカー!」
これまで「おい、新米」としか呼ばなかった鮫やんが、ここで初めて「スニーカー」と呼びました。
「もうお前は新米やない、立派なもんじゃ」
そう言われても、鮫やんに誉められてホントに喜んでいいのやら、複雑な顔になるスニーカーなのでした。(おわり)
この楽しさが拙いレビューでどこまで伝わってるか心許ないけど、やっぱりドラマに「弾み」をつける人が1人いるだけで全然違うんです。しかも藤岡琢也さんが本当に上手い!
藤岡さんが絶妙なツッコミを入れることによって、スニーカーはもちろん前回思いっきりスベってたロッキーですら面白い人に見えてくる! 太陽が輝けば周りも輝くワケです。
当時の『太陽にほえろ!』に何が足りてなかったか、どうすれば以前の輝きと勢いを取り戻せるのか、もう答えはハッキリ見えてます。一刻も早くあの人を杉サマのステージから連れ出さなきゃいけません。
圭子役の谷川みゆきさんは当時19歳。ドラマデビューが'77年の『怪傑ズバット』#13、初レギュラーが'78年制作で海外でも放映された特撮ドラマ『スターウルフ』で、明らかに「こっち側」の女優さん。
清純派のイメージが強いけど『太陽~』出演時には既に映画『真田幸村の謀略』('79) でヌードを披露されており、'90年代以降はエロエロなVシネマにも出演されてますます「こっち側」に寄られてます。
刑事ドラマのゲスト出演は『鉄道公安官』『爆走!ドーベルマン刑事』『Gメン'75』『特捜最前線』『噂の刑事トミーとマツ』等、'80年代前半に集中してる感じです。
なお今回の生徒役の中には、この直後『あさひが丘の大統領』に(#17から)レギュラー入りされる壇まゆみ(当時のクレジットは三留真由美)さんや、後に『青春はみだし刑事』でJACの高木淳也さんとダブル主演で刑事を演じられる堀広道さん等も混じってました。
谷川みゆきさんは大場久美子さんを誘惑するレズ役が何故か印象に残っていて彼女をドラマで見ると妙にエロいなとぞくぞくしてしまいます。
関係ありませんが、快傑ズバット、結構好きでした。