2020年11月6日、松田優作さんの命日に日本映画専門チャンネルで『華麗なる追跡』が放映されました。
村川透 監督、古内一成 脚本、日本テレビ&セントラルアーツ制作による2時間ドラマで、本放映は1989年の10月7日、主演の優作さんが亡くなるちょうど1ヶ月前というタイミングでした。
'89年と言えば多部未華子さんが生誕された年。その多部ちゃんは今や人妻でベテラン女優の域に入りつつありますから、それだけの長い年月が経ってるワケです。そりゃあ私も当時は若かった。
優作さんが亡くなられたのはハリウッド映画『ブラック・レイン』の公開真っ只中だったもんで、それが遺作だと思われてる方が多いでしょうけど、実際はこの『華麗なる追跡』が最後の出演作です。
私はなぜか、これを今回の追悼放映まで一度も観てませんでした。本放映の頃はハリソン・フォードに夢中で『太陽にほえろ!』マニアは卒業したつもりでいたし、作品の出来もあまり芳しくないであろう予感があり、10年ほど前にDVD化されても手を出しませんでした。
その予感は正しかったようで、実際に観たらやっぱり面白いとはお世話にも言いがたい出来映え。当時観てたら途中でチャンネルを替えたことでしょう。
けど、今の刑事ドラマでは決して味わえない独自の世界観があり、優作さんの遺作であることを抜きにしても見所はあります。単発スペシャルじゃなく、連ドラとして制作すればカルトな人気が出たかも知れません。視聴率は取れなかっただろうけどw
優作さん演じる主人公=兼城直也は、警視庁公安部の外事第二課の刑事。その同僚はまだ若造だった香川照之さんを筆頭に、山西道広さん、山谷初男さん、ポール牧さん、伊藤洋三郎さん、そして部長が角野卓造さん、課長が小林稔侍さん、という味わい深いメンツ。
この外事二課の刑事たちがなぜか全員アロハシャツ姿でw、キャンプ場みたいな所で楽しそうに共同生活を送ってるもんで、まったく刑事に見えませんw 『探偵物語』の工藤ちゃんとその仲間たちみたいな雰囲気。
それは「いかにも刑事に見える格好して尾行や張り込みが出来るか?」みたいな、優作さん独自のリアリズムかも知れないし、海外市場を意識してあえて無国籍な感じにしたのかも知れません。
あるいは、同じ日テレ&セントラルアーツ制作で大ヒットした『あぶない刑事』以降、高級ブランドのファッションショーみたいになってた当時の刑事物に対する皮肉だったのかも?
そのへんにカルトな魅力があると私は思うんだけど、いかんせんドラマの内容がつまんないw
いや、本来なら……最初の狙い通りに創られていたなら、もしかすると伝説的な作品になってたかも知れません。少なくとも『ブラック・レイン』の陰に隠れて誰にも回想されないような事にはなってなかった筈です。
なぜ、予定通りにいかなかったのか? その理由は、とても切ないものでした。
ストーリーを簡単にご紹介すると、ある日、成田発バンコク行きの旅客機がテロリストに爆破され、乗客の1人だった少年=クリスが亡くなります。その捜査を担当した外事二課の敏腕刑事=兼城は、同じく事件の真相を追うアメリカ人ジャーナリスト=ティファニー(フローレンス・ジョイナー)と出逢います。
死んだクリスを養子にしてたティファニーは、爆破の実行犯として手配されてるタイ人女性がクリスの実の母親であることを知っており、彼女が犯人であるワケがないと主張します。ティファニーを信じた兼城は、事件の裏に潜む巨大な陰謀を仲間たちと共に暴いていく。
ティファニー役のフローレンス・ジョイナーは、ご存じ元陸上選手でソウルオリンピックの金メダリスト。役の上でもオリンピアという設定で、このドラマは「世界一速く走る女性と、世界一走る姿が美しい俳優」がコンビを組んで、とにかく走りまくる! それが最大の見せ場になる筈でした。
この企画を生み出したのが誰あろう、松田優作という逸材を真っ先に発掘し、アクションスターに育て上げた『太陽にほえろ!』のメインプロデューサー、我らが岡田晋吉さんです。
優作さんが演技派の映画俳優として名を上げてからも、岡田さんとはテレビドラマの企画を模索してたんだけど、明るいアクション物をやりたい岡田さんと、そういうのはとっくに卒業したつもりの優作さんが、互いに納得できる企画がなかなか生まれなかった。
ところが『ブラック・レイン』の撮影が終わった頃に、優作さんから「岡田さんの好きな企画でやるよ」って言い出して、この『華麗なる追跡』の企画が動き出した。その時、優作さんは「台本には注文つけないから」と約束されてたんだそうです。
なのに、優作さんの注文によりことごとく改変された脚本は、最初の狙いとは全く違ったものになっちゃった。なにが違うって、世界一速く走る女性と世界一走る姿が美しい俳優が、二人で走りまくる場面がひとつも無い!
クライマックスで唯一、敵組織が撃ちまくる弾丸よりも速く走るジョイナーさんと、車に追われて走る優作さんの場面があるにはあるんだけど、あっさりしたもんで見せ場になってない。そもそも逃げてばっかりで「華麗なる追跡」になってない。
何よりショックなのは、わずかなアクションシーンで見られる優作さんの動きがやけに鈍重で、走る姿も全然美しくない! これじゃ何の為にこのドラマを創ったのか分からない!
さすがに怒った岡田さんは、優作さんにちょっと強めの苦言を呈して、あとで後悔する羽目になります。
そう、優作さんはもう、まともに走れる状態じゃなかった。そして優作さんが癌に冒されてることを、岡田さんは全く知らなかった。なんとも切ない話です。
岡田さんだけじゃなく、同じように何も知らなかった他のスタッフたちや、ジョイナーさんも「話が違う!」とかなりご立腹だったそうで、そうまでして優作さんは、なぜこのドラマを撮られたのか……?
岡田さんは「最後にもう一度、昔の仲間たちと一緒にやりたかったんだろう」と述懐されてますが、その割りに現場では盟友=村川透監督を怒鳴りまくってたという証言もあり、真意が解りません。
いや、自分が近いうちに死ぬかも知れないと思いながら、それを皆に隠して、最悪な体調でハードな撮影に臨めば、イライラもするだろうし言動に矛盾があって当然かも知れません。そう思うとなおさら切なくなっちゃいます。
これはやっぱり、観るのがツラい作品ですね。『大都会 PART II』以来の刑事役で、本来ならアクション満載だった筈なのに、優作さんが病魔に冒されてたことが本当に悔やまれてなりません。
それが無くても性格に問題があり、ハリウッド進出で天狗になってたんじゃないの?っていう声もあるけど、まぁそういう側面も多少あったにせよ、それだけの人なら岡田さんや村川さんがまた一緒にドラマをやりたいとは思わなかったでしょう。私はそう思います。
余談ですが、ガンマニアのはしくれとしては、優作さんの使用拳銃がCOLTデテクティブスペシャルであることに眼を惹かれました。当時モデルガンが発売されてなかった機種なもんで、全編海外ロケなの?って一瞬思ったけど、よく見ると実物よりサイズがやや大きく、たぶんMGCローマンを改造したプロップなんでしょう。
ついでに言えば、優作さんがジョイナーさんに護身用の拳銃を渡すシーンがあり、そこで彼女に渡したのがローマンで、自分はデテクティブを使う優作さんに「ふつう逆やろ!」とマニアなツッコミを入れてしまいましたw(ローマンは一応マグナム拳銃で、デテクティブよりゴツいのです)
さて、本作を彩った女優陣は、香川照之さん扮する中井刑事の恋人=由紀子に中村あずささん、兼城らのキャンプ地に出入りする移動レストランの店長=芳蘭に沢たまきさん、その娘で兼城におっぱいタッチされて「いやん!」って言う香玉に、和久井映見さん。可愛い!
ぼくもディティクティブに見えましたが、ゴツいのでローマンMkⅡ以前かなと思いました。
(ローマンはMGCが出していたⅢしか知らないのです)
おっしゃるようにローマンはマグナムリボルバーなので、S&W M19のような「マグナムも撃てるけどね」と言った華奢なモデルとは違いますよね。モデルガンでしか知りませんが、両方を持ち比べると割り切ったリアサイトと言いローマン(コルト)の質実剛健さが際立ちます。
でもぼくは「コクサイS&Wリボルバー」で育ってしまったので、コクサイ贔屓なんですが…w。
松田優作の遺作から逸れてしまってすみません。
でもマイフェイバリットを1つ挙げろと言われたら、やっぱりMGCローマン旧2インチと答えます。究極の刑事ドラマ拳銃ですからね。
最近はタナカ製のリボルバーがコクサイを超えるクオリティーで、またコレクター熱が再燃して来て困ってますw あのクオリティーで旧ローマンをリメイクしてくれたら絶対2挺は買っちゃいそうです。いや~モデルガンって、本当にいいもんですねw
タナカのリボルバーは素晴らしいと、ツイッターでも散々言われました。絶対欲しくなるのでガンショップに行かないようにしていますw
(でもそう聞いてしまうとww)
若い頃はダーティハリーの6.5(?)インチなどに憧れましたが、如何にせん自分の(短い)指では握り込めません。「FBIはパンケーキホルスターにスナブノーズを入れ、抜き撃ち2発。スピードローダーは持たない」などと何かで読み、格好悪く思っていたスナブノーズが急に好きになりました。実に玄人っぽいです。
今の捜査官は流石にオートマチックでしょうが、正義のヒーローが持つイメージのリボルバーにはやはりロマンを感じます。
関係ありませんが「西部警察」の寺尾聰の8インチは、残りものだったと何かで読みました。撮影現場に集まったキャストが早いもの順にプロップガンを取って行き、最後に来た寺尾聰はアレしか残ってなかったそうですw。本当かどうか知りませんが、おおらかと言うか適当と言うか…。
ハリソンさんがもし演出担当なら、キャスティングと同時に「こう言うガンを使わせたい」と決めるでしょう。案外スタッフもキャストも銃器に詳しくないし、こだわりがないのかもしれません。
男なら誰でも乗り物と武器は好きになるもんだと思ってましたが、まったく興味がない男も意外と多いみたいですね。特に最近の若い子らはアクション映画も観ない。この国の未来は大丈夫かいな?って、なんとなく心配になっちゃいます。