花夢

うたうつぶやく

061:論のうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
9月8日

正論はいらない。君のうなだれた頭が僕の肩にあるから
小春川英夫

結論を先に延ばしたその訳を青い小鳥がついばんでいた
星桔梗

極論に極論重ねる楽しさよ月下美人が一輪ひらく
村本希理子

進化論からも外れて生きている化石のような愛し方をする
あみー



「論」というお題から、全体的に理屈っぽい短歌が多い気がしました。
いい雰囲気だなぁと感じた作品を。

小春川英夫さん。あま~い作品。個人的に好きです。
星桔梗さん。青い小鳥の存在がかわいい。これはハッピーエンド?
村本希理子さん。そこを楽しみますか。そして、そんなやりとりも内容も全て月下美人に吸収されてゆく。
あみーさん。これは「私らしい愛」なんてところからも遠い。化石なのだから。それが心地良い。


060:キスのうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
8月20日

バスタブでついばむようなキスをしてふたり魚になって眠ろう
暮夜 宴

雨を待つとかげのように夕空に背伸びをすればやがて降るキス
橘 こよみ



素敵すぎるキスの作品2作。

橘こよみさんは、この題詠をご自身で決められた「縛り」のなかで書かれていたといいます。
この作品のとかげの存在がとてもいいのですが、もしその「縛り」で「とかげ」という単語が与えられていなかったら、どうなっていたのでしょう。


059:ひらがなのうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
8月19日

母さんが作った途切れ途切れのひらがなのようなパスタを食べた
zoe

ひらがなで告げてくださいそのときはあなたのなかにひろがる海を
坂本樹

ひらがなのなまえをかいたてのひらをみずにひたしてひにあててみる
新井蜜

ひらがなであなたのなまえをよびながらしおさいのまちをあるきたいです
小春川英夫

朝風呂の窓うつくしく頭から水にほどけてひらがなになる
白辺いづみ

黒薔薇に矛盾を撒いて育てればひらがなとしてほころんでゆく
橘 こよみ



ひらがなはゆったりとしていて好きな作品が多くて、もうフィーリングで選んでいます。

そのなかでも、zoeさんのひらがなのようなパスタは面白い!
完全に視覚的なひらがなでできていて、珍しい作品でもありました。

白辺いづみさんの朝風呂の光景もとても好きです。
脆くて美しすぎる。繊細で流麗。

橘こよみさんの黒薔薇の育て方にいたっては、橘こよみさん流としか言いようがありません。

そして、やわらかさを出す男性作者。
(とか言いつつ、性別をよく間違えるわたし)

坂本樹さんは、個人的に、ひらがなのひとだと思っています。
そうか、そのひらがなは声にもなるのか。

新井蜜さん、小春川英夫さんの、全文ひらがな短歌。
感覚に心地良い。ひらがなのやさらかさと共に、いい雰囲気が出ていると思いました。


058:鐘のうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
8月19日

人を人たらしめるため打ち鳴らす鐘が大気にめり込んでいく
ぱぴこ

晩鐘のひびかふなかに頭を垂れて祈りはかつて人をゆるしき
大辻隆弘

きみが「あ」と言うときに似た音をさせ今日の最後の鐘は鳴り止む
砺波湊



鐘は難しい!
意図的に組み込まれた感じに見えがち。

ぱぴこさん。大気にめり込む鐘の音。低くて重い音なのだろう。
大辻隆弘さん。下の句が重い。人の業。祈らなければ。
砺波湊さん。鐘の余韻すら「きみ」へと繋がる。マニアック。面白いです。

ぱぴこさんははらっぱちひろさんになったのね。


057:空気のうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
8月19日

サンキストレモンのような空気から君の気配が消えた三月
ふしょー

月のない夜の空気に包まれて愛を語ってしまいだしそう
野良ゆうき

細胞が夏の空気にひたされてとても素直な表情をする
橘 こよみ

いもうとに憎まれてゐる甘美さよ空気うすめてダリアが揺れる
萱野芙蓉

ぬぐつても手でぬぐつてもゆつくりと崩れゆく空気になつてゐる
大辻隆弘



深い空気が心地良い作品ばかりでした。

ふしょーさん。サンキストレモンのすぅっとした空気感に負けました。
野良ゆうきさん。眠っているものをゆっくり動かすような。
橘こよみさん。細胞まで素直になってゆくその一面に澄んだ夏の空気。
萱野芙蓉さん。上の句にドキッとする。下の句がそれを受けて静かに。
大辻隆弘さん。ゆっくりと崩れていくその空気のうごきが見えるよう。



056:タオルのうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
7月18日

「こぼれ落ちる感傷をぬぐうには白い無地のタオルがお薦めですが」
小春川英夫

もういいよ タオルケットにくるまって世界に甘やかされてしまおう
百田きりん

コウナアよりタオルの投げることもなくゴングがはりのチヤイムが鳴りぬ
桑原憂太郎

雨の日はタオルが乾きにくいのと気まずい二人の間に挟む
こはく

こそばゆい素足絡めて一枚のタオルケットを奪いあう日々
はせがわゆづ



タオルはタオルらしく、なんとなくぼややん(?)とした作品が多い感じ。

妙な台詞をつぶやく小春川英夫さん、
気まずい二人の間に湿ったタオルを挟むこはくさん、
印象的でした。


055:労のうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
7月18日

正直なひとを労うやわらかな風をもとめて丘陵にいる
富田林薫

片目だけ瞬きをする労力で全て無効にされて7月
稲荷辺長太

モザイクを読み書きするハードディスクの過労に弱きウイルスきたる
カー・イーブン

もたれてはいけないひとの労りの言葉をひとつずつつぶす夜
みち。

労わりの言葉いくつも掛けられてジャガイモだらけのカレーを貰う
平岡ゆめ



稲荷辺長太さん。
ウインクを「片目だけ瞬きをする労力」と描写するそのまわりくどさが、無効にされたあっけなさを効果的にしている気がしました。

カー・イーブンさんのマシンは、なにやら人間味あり、なんだかすこし大変そうで、面白かったです。

平岡ゆめさん、カレーのなかのごろごろとしたジャガイモたちが労わりの言葉たちに重なって見えました。
じゃがいもから無骨で粗野な感じが伝わってきて、それが労わりの言葉のイメージに繋がっていきました。
印象の残し方が面白いと感じました。


054:電車のうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
7月18日

人間がだんだん重く思はれて電車は春の多摩川を越ゆ
春畑 茜

小6の5月の夜を切り裂いて走る電車を少し恨んだ
惠無

今すぐに君に会いたい満たされぬ人々を食み電車は走る
はな

君の顔 電車の中で三日月が咲かないですかなんて思った
短歌製造機メカ麦3号(オペ:佐々木あらら)



春畑茜さん。
作中の重さが作品の量感を出している気がします。
春の多摩川のゆるやかさのなかで。

メカ麦3号君。
メカ麦ファクトリー部門担当者さんも困惑する短歌を製造。
ブログトップの付け句「そんな春でも悪くはないか」の短歌でも、
ものすごく面白い作品を発見したのですが、
リロードしてしまったがために消えてしまいました。夢のようです。


053:爪のうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
6月21日

いつかいつかこの子がわれの骨拾ふならむと思ふ爪切りながら
春畑 茜

子の爪はそっと切られて夕闇の木立のうえに上弦の月
野樹かずみ

爪を切るひとの小さき影を抱きふけゆく夜にいだかれてをり
村本希理子

くれないに爪染め上げて8月の夜の記憶を引き上げてくる
平岡ゆめ



春畑茜さん、野樹かずみさん、村本希理子さんの爪を切る作品。
爪を切りながら、そっと感じること。

平岡ゆめさんは、女性らしい作品。
くれないの爪は女を強める力がある(気がする)。


052:あこがれのうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
6月18日

あこがれと言うには強い感情で愛と言うには少し足りない
稚春

ひかり降るうた詠むひとにあこがれて草のひなたへ踏みいだしかな
本田鈴雨

あこがれはこの身にすこし残りゐてエレベーターに月夜をのぼる
春畑 茜

あこがれはジャムの小瓶に詰めたままひとつもうまくうたえていない
末松さくや

すこしづつ減つても割れぬ消しゴムのやうなあこがれ小箱にしまふ
近藤かすみ



「あこがれ」って平坦な単語のような気がしていたのに、全然違いました。
すごく言葉に力のある作品ばかりで、キラキラ光っているよう。
あこがれを平坦に扱っていたのは、自分でした。

稚春さん。微妙な感情。このラインに立つと、どっちかに転ばなきゃいけないみたいで戸惑います。
本田鈴雨さん。美しい歌ですね。草のひなたの心象風景に思わず立ち止まってしまいました。
春畑茜さん。その幻想的さに参りました。すこし残った憧れがほのかに光りながら上昇する様子。
末松さくやさん。ジャムの小瓶が可愛らしいけれど、その小瓶を見つめる瞳は笑っていない。さくやさんの強さの気がします。
近藤かすみさん。いつかなくなってしまいそうな危うさを持ちながら小箱に仕舞われている、それ。