花夢

うたうつぶやく

030:政治のうた

2006年11月23日 | 題詠2006感想
やはり、自分の好みだと、作者さんが偏ってしまう部分があります。
自分はどの人の作品をどれくらい選んでしまうのだろう。というのも、すこし楽しみです。

逆に、ときどき、やっぱりこの作品、選んでおくべきだったーとか、このひと見逃してたー。という思いをするときもあります。

小説でもなんでも好きな作品を見つめると、その作者さんの経歴がとても気になります。
性別や年齢、どんなところでどんなふうに育ってきたんだろう。と。
たぶん、その言葉を生み出す根幹が知りたいのだと思います。


仰向けの政治家の像ひび割れた隙間を虫と水が這い出る
紫女

倒れた像のひび割れた隙間から虫と水が這い出る光景。
・・・すこしぞくっとします。

メッセージ的なことを強く叫んでいる作品ではないけれど、
だからこそ、そこにある光景を見せられてたたずんでしまいます。
流れる時間と、無常さ。
哀しくてさびしいため息のようなものが聞こえてきそうです。



はるの日はためらいがちなぼくたちのやさしい王の政治のように
飯田篤史

「政治」のお題は政治に否定的な作品が多かったのですが、飯田さんの政治はあくまでやわらかい。
肯定的というよりは、単純にあかるいものへのまなざし。という感じで。

ためらいがちなやさしい王の政治。
ためらいがちでやさしい秩序。
それは、はるの日。



合併の町に小さな政治あり曇硝子を塞ぐポスター
水須ゆき子

政治なんていうと大層なことのように思われるけれど、実は身近にあるものなんですね。
私の住む町も合併の議論がなされた町でした。

「曇硝子を塞ぐポスター」というのが印象的。
曇硝子というのは中が見えないように加工されている硝子なのですが、
そこをさらに見えなくするかのように塞いでしまうポスター。

合併の対象になる町は、そもそもとても小さな町なんですね。
それこそ、国を動かす政治など遠い出来事のような、日々の暮らしが根付く町。
そんな小さな町の閉塞感を感じるような作品です。



あからさまにあかるいあそびあの人をあくまで政治的においつめる
村上きわみ

ちょっと楽しいいじわる。
あの人が苦しむのを見て、ふふふと笑っていられるような。

内容は子悪魔的なのに、「あ」で韻が踏まれていて、とても明るく小気味良い作品。
からっとしているところがスキ。



029:草のうた

2006年11月23日 | 題詠2006感想

埋め草のような仕事で名を知られ食うに困らぬ境遇だとは!
五十嵐きよみ

五十嵐きよみさんの題詠は「ドン・ジョヴァンニはアリアを歌わない」というタイトルで連作となっています。
モーツァルト作曲 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」の登場人物がそれぞれの立場でうたを詠んでいるという設定で、縦糸(「ドン・ジョヴァンニ」)と横糸(題詠100首の各題)が見事に織り成されています。
こんなこともできるのだと、ただただ眼を見張るばかり。

ただ、お恥ずかしい話、私はもともとオペラになんの知識もないため、あらすじを読んでストーリーを掴もうとするも、どうも心もとないというか、たどたどしい感じで、もっと「ドン・ジョヴァンニ」のことを知っていたら楽しめただろうに。という気持ちもありました。

そんな私にとって、五十嵐さんの題詠で親しみやすかった存在がレポレロでした。
従者という立場が、ジョヴァンニにとても近く、しかしながら第三者的であるので、登場人物やストーリーがうまく掴めていない私にも、まるでト書きのような感じでジョヴァンニの様子を教えてくれるのです。

そんなレポレロが発するこの台詞。
しかも、歌劇という舞台に、短歌で台詞を挿入してしまうなんて!
かっこよすぎる!



草原を青一色でぬりつぶす売れない画家の靴下のよう
富田林薫

ぱぁっと、鮮やかな、鮮やかすぎる、鮮やかすぎて突拍子もない感じの青色が浮かびます。
売れない画家の靴下といえば、そうなんだろうと思います。
妙なとこで自己主張が強いの。アイツ。

草原をぬりつぶすのが、売れない画家を連想させるのかと思いきや、売れない画家の靴下のところまで飛んじゃう突拍子もなさ。
それがまた、妙にあざやかにくっきりと残ります。

らくがきみたいだけど、自己主張だ。



廃屋が草に食べられゆっくりとあるべきものに戻されていく
みち。

廃屋ってときめきます。
朽ちていくものって、どうしてあんなにときめくんだろう。

廃屋が草にさわさわさわとゆっくり侵食されていく。
残されるさびしさとおだやかさ。



今生の最後の月を見るように煙草屋までを並んで歩く
ひぐらしひなつ

ドラマのような光景で、せつないです。

ドラマでは、寂しげなBGMが流れたりするんだろうけれど、
実際は静かな静かな夜の道。



<振り返り>
このあたりは、立ち止まってしまったら、走れなくなる。という恐怖感があり、うまくはまらないお題はとりあえず妥協して詠んだりしちゃってました・・・。