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山下吹(9) 山下吹、奥州吹での酸化還元反応

2020-09-13 10:52:31 | 趣味歴史推論
 このブログは 筆者のメモ書きである。間違っているところがあるかもしれない。おかしいところを見つけたらご指摘いただければ幸いです。
メンデレーフ周期表が提案されたのが1869年(明治2年)であり、酸化数で酸化還元を論じるようになったのはもっとあとであろう。明治時代には反応式や生成物の組成を見極めることも容易ではなかったであろう。銅製錬の反応式は「近世住友の銅製錬技術」などを参考にした。1)4) 白鈹Cu2Sへ空気を吹き込んでCuが生成する主反応は、Cu2S+O2→2Cu+SO2 の直接的な反応であるとのことである。まさに銅のベッセマー反応である。

黄銅鉱CuFeS2における金属原子の酸化数は、Cuの+1、Feの+3が妥当である。2)すなわち、CuFeS2 は Cu2S・Fe2S3 である。ここで、Cu+1 , Fe+3 , S-2 が酸化数である。
黄鉄鉱FeS2のS2は2原子イオン(S-S)-2 である。ここでS-Sは共有結合。 よってFe+2 ,(S2-2 が酸化数となる。3)
では黄銅鉱中のCu+1, Fe+3, S-2 及び黄鉄鉱中のFe+2,(S2-2 が炭Cと空気中のO2によって、各工程でどのように酸化数が変化するのかを調べる。どの原子について酸化された、還元されたといっているかが、従来の解説では分かりにくい。一方が酸化されたら、他方が還元されたことになるので特にそうである。

別子銅山の製錬を反応式、反応生成物、各原子の酸化数の変化で見る。
焙焼
1. Cu2S・Fe2S3(Cu+1,Fe+3,S-2) +O2(O2 0) →Cu2S—FeS(Cu+1,Fe+2,S-2)+Fe2O3(Fe+3,O-2)+SO2(S+4、O-2
 Cuは、Cu+1で酸化数の変化なし、SはS-2→S+4と酸化される。その結果Feは、一部Fe+3→Fe+2へ還元されるもの、酸化数はFe+3で変化はないが、S-2より強いO-2と結合を換えるものがある。
2. FeS2(Fe+2,S2-2) +O2 →Fe2O3(Fe+3,O-2) +SO2(S+4,O-2
FeがFe+2→Fe+3へ酸化され、SがS2-2→2S+4へ酸化されている。
黄銅鉱のCu2Sはそのままであり、Cu+1の酸化数の変化はない。一方 黄銅鉱のFe+3は酸化数の変化は少ないが、Cu2Sから離れて、S-2からより強いO-2へ結合を変えて酸化物Fe2O3となる。黄鉄鉱のFe+2はFe+3へ酸化される。いずれの場合もSは、(S-2,S2-2)→S+4まで酸化される。
素吹
1. 焼鉱は、Cu2S—FeS(Cu+1,Fe+2,S-2)+Fe2O3(Fe+3,O-2) から成っている。
 C(C0)+1/2O2(O0)→CO(C+2,O-2) 
Fe+3はCOでFe+2に還元される。FeSはO2と反応してFeOとなる。
 Fe2O3(Fe+3,O-2)+CO(C+2,O-2)→2FeO(Fe+2,O-2)+CO2(C+4,O-2) 
 FeS(Fe+2,S-2)+O2 →FeO(Fe+2,O-2)+SO2(S+4,O-2
FeOはSiO2と反応して、Fe2SiO4 (Fayalite ファイヤライト 鍰 からみ)を形成する
  2FeO(Fe+2,O-2)+SiO2(Si+4,O-2) →Fe2SiO4(Fe+2,Si+4、O-2 
大部分のCuは、Cu2SのままCu+1 で酸化数の変化ないが、わずかのCu2Sが、金属Cu0まで還元される。(床尻銅) 
 Cu2S(Cu+1,S-2)+O2 →2Cu(Cu0)+SO2(S+4,O-2
真吹
1. 銅鈹には少しのFeSが混じっている。それをFeOに変え、SiO2と反応させて鍰をつくり取り除く。
 Cu2S—FeS(Cu+1,Fe+2,S-2)+O2→Cu2S(Cu+1,S-2)+FeO(Fe+2,O-2)+SO2(S+4,O-2
 2FeO(Fe+2,O-2)+SiO2 →Fe2SiO4(Fe+2,O-2
2. 主反応
 Cu2S(Cu+1,S-2)+O2 →2Cu(Cu0)+SO2(S+4,O-2
 S-2→S+4 へ酸化され、Cu+1は金属Cu0まで還元される。(平銅、真吹銅)
反応終期でCu2Sが少なく、生成した金属Cuが多くなると 
 2Cu(Cu0)+1/2O2 →Cu2O(Cu+1,O-2
の酸化反応がおこるが、このCu2O(Cu+1,O-2)は残っているCu2Sと反応し 
 2Cu2O(Cu+1,O-2)+ Cu2S(Cu+1,S-2)→6Cu(Cu0)+ SO2(S+4,O-2
金属銅Cu0へ還元される。

奥州吹
素吹に相当する吹きで鈹(Cu2S-FeS)を取り出し、焙焼窯で酸化し、次に吹床で炭(→一酸化炭素)により還元して、銅を得るやり方である。
鈹の焙焼 Cu2S-FeS +O2 →Cu2O、CuO(Cu+2,O-2) + Fe2O3 +SO2
奥州吹  C +1/2O2 →CO(C+2,O-2
     Fe2O3(Fe+3,O-2) +CO(C+2,O-2)→2FeO(Fe+2,O-2)+CO2(C+4,O-2) 
     2FeO+SiO2 →Fe2SiO4
     Cu2O(Cu+1,O-2),CuO(Cu+2,O-2) +CO(C+2,O-2) →Cu(Cu0) +CO2(C+4,O-2
    
考察など
1.「近世住友の銅製錬技術」には、素吹で Fe2O3+SiO2 → 2FeO-SiO2 の反応式が書かれている。1) Fe2O3(Fe+3,O-2)がFeO(Fe+2,O-2)に変化してからSiO2と反応するのではないか。しかしFe+3がFe+2に還元される反応式が書かれていない。そこで筆者は、Fe2O3+CO→2FeO(Fe+2,O-2)+CO2 であろうとして書き入れた。Oと強く結び付いてFe2O3(Fe+3)になっている大量のものをFeO(Fe+2)に還元できるのは、COではないか。このCOでの還元式が省かれた理由はなにか。
2. 主反応は、Cu2SとO2の直接反応で金属Cuが生成するとされている。1)5)6)など
古くは、2Cu2S + 3O2 → 2Cu2O + 2SO2
      2Cu2O + Cu2S → 6Cu + SO2
の 2段階からなるものとして説明されてきた。 

注 引用文献
1. 「近世住友の銅製錬技術」p42 別子銅製錬技術研究会(泉屋博古館 2017.12.25)会メンバー:樋口隆康1 住友芳夫1 末岡照啓2 村上順一郎1 廣川守1 森芳秋3 高橋純一3 (1泉屋博古館 2住友史料館 3住友金属鉱山技術本部)
2. 結晶工学ハンドブック p60,66 (共立出版 1971)
3. 同上 p44,58
4. web. 「冶金の曙」>サイトマップ>関連情報>銅製錬
5. web. 京都大学学術リポジトリ 北野貢「銅製錬の基礎反応の相律論的研究( Abstract要旨)」理学博士論文(1966-09-27)
「この研究から銅製錬の本質は,一旦生成されたCu2O が Cu2S と反応 して粗銅 Cu が生成されるのではなくて, 直接Cu2S と O2 から金属銅が直接生成されることが明示された。」
6. web. 黒川晴正 家守伸正「銅製錬転炉における造銅期の反応解析」資源と素材 Vol.119, (2) 55(2003)
「PS転炉(銅のベッセマー法)でのCu2SとO2の反応機構を以下のように導出した。
①初期 Cu2S + O2 = 2Cu + SO2
②中期 O2 = 2O
    Cu2S = 2Cu + S
     S +2O = SO2
③終期 O2 = 2O
     S + 2O = SO2
     2Cu + 1/2O2 = Cu2O 」


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