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からみ・鍰の由来(10) 石見銀山「諸事に付認書差上控」(1810)は、「からみ」である

2021-04-04 09:03:01 | 趣味歴史推論
 石見銀山「諸事に付認書差上控」は、文化7年(1810)銀山附役人 山中百治が、勘定所役人 村田幾三郎・山本三保助の求めに応じて提出した鉱山技術の解説書である。1)

「諸事に付認書差上控」
1. 鏈拵(くさりこしらえ)
鏈拵は、鋪より負出し候荒鏈を或は掛け目10貫目、半切桶に水を入れ、右の鏈を入れ、よくよく鍬にてまぜ、泥を水にて流し、荒鏈をゑふと申す底のとがりたる目粗成るざるに入れ、右半切桶の内に、水を以てゆり洗ひ候えば、小砂並びに小鏈は、半切桶に溜り申し候。右洗い候大き鏈に石の添居り候は、石を鶴の嘴と申すものにて砕き、石と鏈とを分け申し候。右水に溜り候細鏈、小砂の分はゆり鉢と申し、差し渡し2尺程有の木鉢にて水につけ、砂と鏈をゆりわけ、鏈は内に溜り、砂は外へ出候て、正味に相成り申し候。右の通りいたし候ても石去り難き分は、鉄碓(うす)にて細末し石をゆり除け、正味にいたし候もこれ有り候。左候上にて、荒鏈10貫目に正味鏈何程と申す事に相成り申し候。尤も脇頭と正味鏈二様にも取り申し候、何程余分たりとも右の通りにて仕分け候。
 この節に「正味」2ヶ所、「正味鏈」1ヶ所、「正味鏈何程」1ヶ所あり。

2. 銅気有銀鏈小吹試しの仕様大意
 この節に「正味鏈20目」1ヶ所、「からみ」3ヶ所あり。

3. とかし鏈試様
 この節に「正味鏈10匁」1ヶ所、「正味鏈」1ヶ所あり。

4. 大吹の仕様大意(付箋に大の字を小と直すべしとあり)→図1. 図2.
 但、銅気無し鉿かねけ(銀気)の鏈 生吹の事あらまし
 正味鏈 10貫目
 呼鉛  2貫目
 鉿鏈  2貫目
 錬   1貫目
 合計  15貫目
 是は、銅気無鏈汲鉛にて灰吹に相成候、尤も鏈性合により合口鉿錬差し引き考え有り、右鏈の性により鉿錬、或いはからみ等合わせ加減多少相考え、正味鏈に交ぜ合わせ候。大概120貫目を1日吹に仕る、尤も鉿錬も鏈とは申し候えども、銀気は多分無之。
 鉿と申すは多く鉛気の有る鏈を云、銀気もあいには有之の鏈もあり候、からみと申すは、鏈吹き候節、石湯に成り流し候石をからみと唱え申し候、鉿からみ正味鏈のこわき(強き)解けかね候をとかし申し候、錬(こわり)は正味鏈のねばりをさやかし(清かし)申すものに御座候。
 右合鏈120貫目を8つに分け、15貫目を1床にかけ、大フイゴ2丁にて吹き立て申し候。鏈湯になり石は上に浮き候故、柄振りと申すものにて掻き上げ流し申し候、これをからみと申し候。先ず生吹の仕様大意右に准じ考えあり。
 この節に「正味鏈10貫目」1ヶ所、「正味鏈」3ヶ所、「からみ」5ヶ所あり。

5. 銅気有銀鏈正味鏈に拵立、焼釜へ懸け候事
  この節に「正味鏈」1ヶ所、「正味鏈300貫目」1ヶ所、「からみ」8ヶ所あり。

6. 鏈試し吹きのあわひの事
  この節に「正味鏈20目」3ヶ所あり。

結局、この文書には、
「からみ」が16ヶ所あり、すべてが「からみ」である。
「正味」2ヶ所、「正味鏈」6ヶ所、「正味鏈xx目方」8ヶ所 合計「正味」は16ヶ所ある。


考察
1. 慶長7年(1602)の「からミ」から文化7年(1810)の「からみ」まで石見銀山役人は、仮名の「からミ、からみ」で表記していたことがわかった。
2. 「正味鏈」という目方が付いていない単語が6ヶ所あること、「正味」に相成り候とあることから、この文書で「正味」が意味することは、「中味だけの目方」ではなく、「本当の中味」である。
3. 「正味」が16ヶ所も書かれているのだから、「からみ」が、正味(しょうみ)の対極としての「からみ 空味」を意味するのであれば、空味と書かれている場合があってもよさそうなものだが、全くない。筆者は、石見銀山の史料にも、他の鉱山史料にも「空味」の字を見つけることが出来なかった。
筆者は、「からみ」は「空味」に由来するのではないと思うようになった。
4. 日本国語大辞典には、「空味」(からみ)は載っていない。「空味」(くうみ)も載っていない。(もし「空味」があったとしたら、読みは「くうみ」であろう。)「空味」で表記される語はなかったのではないか。また「空身」(からみ)は、「身一つ」であり、意味が違う。

まとめ
 石見銀山「諸事に付認書差上控」(1810)は、「からみ」である。
 「正味鏈」の表記はあるが、「空味」は、なかった。


注 引用文献
1. 石見銀山歴史文献調査報告書Ⅳ(島根県教育委員会文化財課 平成20年 2008)
  山中家文書  解説 仲野義文  p22,23→図1.2.

図1.  石見銀山「諸事に付認書差上控」大(小)吹之仕様大意


図2.  石見銀山「諸事に付認書差上控」大(小)吹之仕様大意つづき



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2 コメント

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Unknown (かまさい)
2021-04-12 18:37:01
「からみ・鍰の由来」シリーズ、興味深く拝見しました。
なかでも真崎文庫の『至宝要録』の発掘、追加記入者の推定は素晴らしいと思いました。
思いもしませんでしたが、「鍰」がなぜ仮借されたのか、不思議ですね。
秋田藩で「からみ」が、南部藩では「鍰」が使われていた感じでしたが、『山要録』で「カラミ」18か所に対して一か所だけ「鍰」が使われていたのが何気に印象的でした。
 鐇 薪鍰板ナトヲ割ルニ用ユル  (「日本鉱業史料集」第一期 近世篇1『山要録』)
なお、「空味」ですが、『神岡鉱山史』の「神岡鉱山史料」中に次のようなのがありました。(p.54)
  売(空カ)味吹替稼方相対証文之事
御村方山内番夜坂其外銅鉛売(空カ)味打捨り有之・・・・
 安政六未年三月   下稼人
            ・・・・
私見ですが、石見銀山が鷺銅山主が加わって開発されているので、「からみ」は銅製錬で使われていた用語だったろうと思っています。
長文、失礼しました。
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Unknown (hagiustar)
2021-04-13 08:46:31
ありがとうございます。
1.「山要録」は、見られないので見られないので気にかけておきます。
2. 神岡鉱山史料の売味について
 文書で最も重要な単語である空味を売味と書き誤ることはない。空と売のくずし字は似ていない。→売のくずし字に似た字を「くずし字解読辞典」で探すと「殻」があった。→筆書きの原典には、「殻味」(からみ)とあるが、史料作成者が「売」と読み誤り、意味からみて、「から」なので「空か」としたのであろう。
3. 鷺銅山主は、気にかけておきます。
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