気ままな推理帳

本やネット情報から推理して楽しむブログ

コワニェの別子銅原価算出での計算間違い

2020-05-31 09:34:27 | 趣味歴史推論

 フランス人技師のコワニェは、別子銅の原価計算を「日本鉱物資源に関する覚書」に提示している。明治5年(1872)についてであるが、その頃の製造方法は、江戸期とほぼ同じであり、コスト計算がわかりやすいので、非常に参考になる。今回、詳しく見ていたら、1ヵ所桁違いの計算間違いを見つけたので、既に誰かが指摘していると思うが、念のためここに記しておく。間違いは、素吹の炭量を一桁少なくしてしまったことで、単純ミスである。そのため素吹炭代が非常に小さくなって、総原価が17%も低く計算されてしまった。
原典(図1,2,3)で間違っていた数字を正しい数字に換えてそれを太字で示した。

再精錬銅(丁銅)1000kg(1トン)に対する費用
採掘費                               150.536円
(トン当9.36円として16.083トン)             
焙焼(焼鉱)                              5.257円
(16.083トンの原鉱より14.920トンの焙焼鉱石を得)内訳
 採掘場より炉までの運賃                1.831円
 木材(トン当1.20円として2.707トン)            3.248円
 炉への鉱石装入及切出し費用(18トンにつき0.20円)      0.178円
第1熔融(素吹 鉑吹)                         65.519
 (14.920トンの焙焼鉱石より2.600トンの鈹を得)内訳
 炉までの運賃(1トン当0.077円)               1.149円
 吹子(1日0.30円として8.939日)                  2.682円
 助手(同0.25円として8.939日)                 2.235円
 フイゴ係(同0.1175円として35.756日)              4.201円
 消耗品
 炭(1トン当7.8053円として6996kg)             54.606
 ブラスク(炭灰)                     0.646円
第2熔融(真吹)                           12.996円   
 (2600kgの鈹より黒銅(荒銅)1181kgを得)内訳
 吹子(1日0.27円として6.937日)               1.873円
 フイゴ係(1日0.21円として13.874日)              2.913円
 人足(1日0.06円として6.937日)               0.416円
 炭(1トン7.8053円として881kg)              6.876円
 ブラスク                         0.918円
精錬(間吹)                              8.299円
 (黒銅1181kgより赤銅1010kgを得)内訳
 吹子(1日0.30円として2.043日)               0.613円
 フイゴ人夫(1日0.225円として4.100日)             0.922円
 炭(1トン7.8053円として709kg)                5.534円
 ブラスク                         1.230円
再精錬(棹吹 小吹)                          7.497円
 (赤銅1010kgより再精錬銅(丁銅)1000kgを得)内訳
 吹子(1日0.48円として1.668日)               0.801円
 助手及びフイゴ係(1日0.285円として3.336日)          0.951円
 木炭(1トン7.8053円として700kg)             5.463円
 るつぼ                          0.257円
 ブラスク                                 0.025円
一般経費                               32.833円
 雇人の俸給並に諸給費                           7.626円
 事務所費                                      1.636円
 建築物道路等の修繕費                         19.212円
 雑費                                             4.359円
雑費                                 12.381円
 処理に要する諸材料費その他雑費                                   4.728円
 銅山より積出港までの運賃                         2.550円
 神戸港迄の運搬費                                  0.900円
 積荷及び荷卸し費                               0.363円
 その他の運賃                                 1.094円
 積出港における諸費                           1.821円
 積出港における人夫賃                             0.925円
総計(再精錬銅1000kgの原価)                      295.318
                                      1565.19フラン
1872年(明治5年)においては、銅の平均市価は、60kgにつき20ドル(即ち1トンにつき1716.66フラン)であったので、結局1トンに付き(1716.66―1565.19=)151.47フランの利益となるわけで、同年の別子銅山の再精錬銅は581.748トンであったから、純益は、88117フラン(16626円)であったわけである。」

考察
1. 炭代を間違った原因
 素吹1枚(/日)で1800kgの焙焼鉱石を仕込み、炭約844kgを消費する。(即ち鉱石の46.89wt%の炭を要する)、では14.920トンの鉱石では、必要な炭は14.920×0.4689=6996kgとなる。原典では、1桁小さく間違えて、699kgとしてしまった。
2. 利益額について
 以上のように、正しい数字を用いれば、1872年の純益は88117フラン(16626円)となり、1年間の純益としては約1/3の少額になる。計算間違いの数字を用いた原典では、純益は239662フラン(45219円)であったのである。1円=5.300フラン 1ドル≒1円
 銅の市価 1トン当たり             323.9円
 丁銅1トンの原価                  295.3円                    原典(間違い)では、246.2円
 明治5年の別子銅による純益                            16626円      原典(間違い)では、45219円
 明治5年の売上高(市価で全量売れたとして)188430円     
3. 現在の金額でどのくらいに相当するか
 明治5年の1円は現在の1万円とみて2)
 銅の市価 1トン当たり              324万円
 丁銅1トンの原価              295万円
 明治5年の別子銅による純益 166百万円
 明治5年の別子銅の売上高   1884百万円
これからみると 
①銅の市価が トン当たり324万円と現在の60万円に比べ5倍と高価であった
②年間売上高は19億円で純益が2億円程度であった。

注 引用文献                                            
1. フランス人技師コワニェの明治6年(1873)別子銅山の視察記録「日本鉱物資源に関する覚書」石川凖吉編著 羽田書店(1944)→国会図書館デジタルコレクション コマ67~76 p114~133 →図1,2,3
2.  「昔の1円は今の何円?」 http://sirakawa.b.la9.jp/Coin/J050.htm
 白米の小売値段でみると 明治5年の1円は現在の14000円
 金価格で見ると 1円金貨(金1.5g)は 5000円×1.5=7500円
 コワニェの吹子日当0.3円は、現在15000円位とすると →1円が50000円
図1. コワニェ「日本鉱物資源に関する覚書」-1


図2. コワニェ「日本鉱物資源に関する覚書」-2


図3. コワニェ「日本鉱物資源に関する覚書」-3


江戸期の別子銅山の素吹では、珪石SiO2源の添加操作はなかった?(12)

2020-05-24 09:31:42 | 趣味歴史推論

 表題の(10)(11)では、南部藩尾去沢銅山の素吹1枚、真吹1枚に必要な経費とその内訳の一覧を江戸期の古文書「御銅山傳書」で調べた。今回は、珪石添加とは関係ないと思われるが、ついでに前工程のきら鉑仕上(選鉱)と本燃込み・焼直し(焙焼)に必要な経費とその内訳を読んだので記しておく。1)
鉱石の計量は鉑枡と呼ばれる特別の度量で、四方1尺7寸5分、深さ7寸5分の容量を鉑舛1舛とした。2) よって1舛=53.03×53.03×22.73=63.92リットル 1斗=639リットル 米1斗=18.039リットルであるから 鉑舛1斗の容量は、米1斗の(639/18.039=)35.4倍に相当し、鉑重量としては、300貫~370貫とされた。鉑の買上価格は藩営開始の明和2年(1765)で、1升 300文であった。
以下の入方積(安永5年(1776)改)では、2斗の生鉑(約700貫目)が「きら鉑仕上げ」され、2斗窯で焙焼される費用が記されている。冷やしを含めた焙焼日数は本燃やし約25日+焼直し約20日かかるが、ここに上げられた見積書では1筒(すなわち2斗を焙焼し終わる)に必要な人件費(1日分であったり、2/3日分であったり4日分であったり職により異なる)、燃料代、運送代などが挙げられている。

雲母(きら)鉑仕上並びに燃込吹方入方積
二斗雲母(きら)仕上 但し 40本鉑脊負(せおい)叺(かます)にて
 ・代1貫文         25本焼脊負叺にて
       右は床屋閖場(ゆりば)まで
  内訳
  ・500文      きら脊負10人 但し1人に付き25本但し焼叺にて如此
  ・400文      笊(ざる)上げ8人 但し1人に付き50文づつ 
             當時16人にて1仕上用4人づつ4日定目    132文1人1日8文づつ手子へ御下候4日にて16人前
  ・100文      笊上げ手子2人 但し2日に右人数にて2斗仕上燃込み(もやしこみ)當時4日に1仕上枚の積
本燃込み一筒焼直しまで入方積
 ・5貫128文8分8厘
  内訳
  ・66文6分     盛貴 定数2人 但し1ヶ月御給代1人に付き1貫文づつ
  ・44文4分     盛貴 定数2人御扶持米2升 但し100文に付き4升5合積
  ・4文       盛貴2人味噌60匁 但し100文に付き1貫500匁積
  ・6分       盛貴2人塩2勺よって但し1升に付き30文積
  ・11文8分     釜大工6分6厘6毛御扶持米5合3勺3才 但し1日8合づつ但し100文に付き4升5合積 釜大工働定目1日1人にて1枚半燃の定目割合を以如此
  ・33文3分     釜大工6分6厘6毛 但し1ヶ月(御給代)1人に付き1貫500文の割合を以如此
  ・1文1分       釜大工6分6厘6毛 味噌16匁6分6厘但し1人に付き25匁の割合を以如此 但し100文に付き1貫500匁積
  ・2分       釜大工6分6厘6毛塩6才6(弗) 但し1升に付き30文積
  ・20文        鉑ねり半人日雇 但し1人に付き40文割合を以如此
  ・46文6分        中間2人御給代 但し1ヶ月1人に付き700文割合にて如此
  ・35文5分     同2人御扶持米1升6合 但し1人に付き8合但し100文に付き4升5合積
  ・3文3分       同2人味噌50匁1人に付き25匁 但し100文に付き1貫500匁積
  ・6分       中間2人塩2勺 但し1人に付き1勺づつ 但し1升に付き30文積
  ・23文3分     釜廻り1人御給代 但し1ヶ月1人に付き700文積
  ・17文6分6厘    同1人御扶持米8合分 但し100文に付き4升5合積
  ・1文6分6厘      同1人味噌25匁 但し100文に付き1貫500匁積
  ・3分         同1人塩1勺 但し1升に付き30文積
  ・80文          焼脊負2人 但し1ヶ月御給代1人に付き1貫200文づつ
  ・44文4分         焼脊負2人御扶持米2升 但し1人に付き1升づつ100文に付き4升5合積
  ・4文         同2人味噌60匁但し1人に付き30匁づつ 但し100文に付き1貫500匁積
  ・6分         同2人塩2勺 但し1人に付き1勺 1升 30文積
  ・2貫400文       本燃し春木300挺 但し 1丁に付き8文積
  ・120文       大炭8貫目 但し10貫匁に付き150文積
  ・160文       衣草40貫 但し1貫に付き4文積
  ・1貫600文    焼直し春木200挺 但し1挺に付き8文積
  ・120文       同 炭8貫匁 但し10貫匁に付き150文積
  ・120文       同 衣草30貫 1貫に付き4文積
  ・25文         釜大工半人 但し1ヶ月御給代1人に付き1貫500文の割合如此
  ・8文8分8厘        同半人御扶持米4合代 但し100文に付き4升5合積
  ・8分3厘        同半人味噌12匁5分 但し100文に付き1貫500匁積
  ・1分5厘        同半人塩5才分 但し1升に付き30文積
  ・46文6分      中間2人1ヶ月御給代 1人に付き700文づつの割合如此
  ・35文5分      中間2人御扶持米1升6合 但し100文に付き4升5合 但し1人8合積如此
  ・3文3分     同2人味噌50匁  但し100文に付き1貫500匁但し1人に付き25匁積如此
  ・6分        同2人塩2勺 但し1升に付き30文積
  ・20文      鉑ねり半人日雇 但し1人に付き40文割合を以如此

 合計内訳を合計すると、5貫100文7分8厘となって、頭の金額に比べ28文1分だけ小さい。(-0.6%の違いは、計算間違い,写し間違い、読み間違いか?)

内容のメモと考察
1. この定目は安永5年9月改(1776)であった。
2. 選鉱(きら鉑仕上げ)工程
 鉱石は金場に集められ、からめによって、砕かれ鉑ごしらえされ、山色吟味(やまいろぎんみ 品位鑑定)される。鉑山色の聞書によれば、以下の様な品位がある。3)
「・なたね鉑 ・にじ鉑 ・みため鉑 ・あみだ鉑 ・のしめ鉑 ・黒のしめ鉑 ・洛く壽り(らくすり?)鉑 ・鉄(くろがね?)鉑 ・一代鉑 ・とかげ鉑 ・茶鉑 ・紫鉑 ・きら鉑 ・麴(こうじ?)鉑 ・赤鉑 ・やしま鉑 ・まん壽(まんじゅ?)鉑 ・なんばん鉄鉑 ・めなし鉑 ・炭灰鉑 ・柿色鉑」
 各山から山色吟味を終えた鉑が脊負によって集められ、選鉱作業がなされる。純良の鉱石は重鉑(おもはく)と称えてそのままで、それ以外は笊や扇舟(樋)で水を使った比重選鉱により、10種以上に区別される。(重鉑、羽色鉑、片羽鉑、2番、3番片羽鉑、毒鉑、銀毒鉑、羽色粕鉑、閖板鉑、扇舟掫鉑 根子物鉑 ほろ鉑 下閖場掫舟鉑 舟尻粕鉑)
3. 焙焼工程 麓三郎によれば、以下のように述べられている。4)
「焼窯は装入容量により、2斗窯と1斗窯との別があったが、安永9年(1780)頃から小型の方が冷却が早いとてもっぱら1斗窯を操業した。1斗窯の装入量は鉱石300貫とし、種々の精鉑を適宜配合したもので、細粒のものは粘土水で捏ねて団状にして装入した。焙焼にはまず木炭を敷き薪材を積み並べその上に鉱石を盛り上げ、更に衣草(きぬくさ)とよぶ藁、枯草類をかける。そして窯の中心部に火を点じ窯全体に火が廻るようにするのである。装入する燃料は木炭4貫目、薪材(これを春木という)290挺、衣草50貫である。火気が全く無くなるのを待って焼鉑を取出す。この間20日乃至25日かかる。この操作を「本燃し」という。こうして焙焼された焼鉑を更に「焼直し」と称する第二次の焙焼を行う。方法は第一次と全く同じである。焼直しには木炭2貫目、春木175挺、衣草25貫目程度を要する。日数15乃至20日で冷却する。所要燃料の数量は記録のよって多少の相異あるが、ここには寛政元年(1789)のものによった。この操業には釜大工1人、釜燃し4人、焼鉑脊負等の雑役2人が従事した。
 阿部小平治稼行の時期(1713~1726)には焼窯は143筒(但し何れも2斗燃し)、寸吹(素吹)床3丁、真吹床2丁であった。焼窯1箇の生鉑装入量は1斗8~9升(600~650貫目)、消費燃料は春木120挺、木炭20貫目。寸吹床1丁に対して焼鉑2斗7升を装入し、所要燃料は木炭60貫目。真吹床1丁は銅鈹100貫目を処理し、燃料の木炭は50貫目を定目とした。小平治稼行時代の計算では生鉑2斗2升(約770貫)を原料とする、焼窯、寸吹、真吹等の製錬所費用1日分(筆者注 1筒や1枚分の間違いではないか、そうでないと合計するのはおかしい)の見積もりとして、銭23貫559文としており、そのうちに床役金として450文が含まれている。」
この23貫559文と今回の11貫753文とは2倍の違いがあるがその原因は分からない。
4. 不確かな言葉、名称などについて
①「きら鉑仕上」となっているのは、山色のなかに「きら鉑」があり、尾去沢の標準的な鉑なので、この名称で、「全種の鉑仕上」を指すようにしているのか?「きら鉑」とは脈石が雲母であるのをいうのであろうか。
②盛貴(もりき もりたか、せいき? 貴で正しいのか?) 窯に鉑や春木を盛る職の人を指すのか?
③鉑ねり 細粒の鉑を粘土で練って団状にすることを指しているのであろう。
5. 生鉑(600~700貫目)を選鉱し、焙焼し、素吹し、真吹して、荒銅約60~70貫目を挙げることを定目とした各工程の費用は以下のように記されている。
  選鉱  1貫文
  焙焼  5貫128文8分8厘
  素吹  4貫387文2分4厘
  真吹  1貫233文6分5厘
 惣〆   11貫753文7分5厘
ここに書かれたのを筆者が合計すると 11貫749文7分7厘となって 3文9分8厘だけ少ないが0.03%の違いと小さい。個々の工程の計算違いについては先に記したとおりである。
 別子銅山の荒銅製造原価に比較して、相対的に焙焼の費用が極端に大きいと感じる。本燃込みと焼直しの2回分であることと、薪代(春木)がかなり大きいことが原因のようである。今後別子との比較をしてみたい。

注 引用文献
1. 「御銅山傳書」 内田周治 嘉永2年(1849.3.10)写 日本鉱業史料集第10期近世編(上)p125~134(白亜書房 1988))→図1,2,3
2. 「鉑舛の定法」同上p44 
3. 「鉑山色の聞書」同上p48→図4 
4.  麓三郎「尾去沢・白根鉱山史」p230~234(勁草書房 1964.9.30)
図1. 「御銅山傳書」の「雲母鉑仕上並びに燃込吹方入方積」-1


図2. 「御銅山傳書」の「雲母鉑仕上並びに燃込吹方入方積」-2


図3. 「御銅山傳書」の「雲母鉑仕上並びに燃込吹方入方積」-3


図4. 「御銅山傳書」の「鉑山色の聞書」の部分

 

 

 


江戸期の別子銅山の素吹では、珪石SiO2源の添加操作はなかった?(11)

2020-05-16 11:36:31 | 趣味歴史推論

2020-5-10に公開したブログ表題(11)は、字の読み間違いがあったので、訂正して、2020-5-16に再度投稿しました。

 表題の(10)では、南部藩尾去沢銅山の素吹1枚に必要な経費とその内訳の一覧を江戸期の古文書「御銅山傳書」1)を読んだ。今回は、その後工程である真吹1枚に必要な経費とその内訳「真吹一枚入方積」2)を読んだ。
真吹一枚(一と吹き)の装入量は、銅鈹100貫目、木炭45~60貫目。得る荒銅は約40貫目、銅歩約30貫目。操業時間21~24時間、従事者は、真吹大工1人、手子1人、炭灰搗1人,計3人であった。

「真吹1枚へ入方積
・ 1貫233文6分5厘
  内訳
  ・63文        前1人御給代
  ・22文2分     前1人御扶持米1升、但し100文に付き4升5合積
  ・2文       前1人味噌30匁、但し100文に付き1貫500匁積
  ・3分          同1人塩1勺、但し1升に付き30文積
  ・53文        手子1人1日御給代
  ・22文2分     同1人御扶持米1升、但し100文に付き4升5合積
  ・2文          同1人味噌30匁、但し100文に付き1貫500匁積
  ・3分       同1人塩1勺、但し1升に付き30文積
  ・30文       すばい1人1日御給代
  ・22文2分     同1人御扶持米1升、但し100文に付き4升5合積
  ・2文       同1人味噌30匁、但し100文に付き1貫500匁積
  ・3分       同1人塩1勺、但し1升に付き30文積
  ・900文        吹炭60貫匁、但し炭灰炭共に 但し10貫目に付き150文積にて如此
  ・74文       鉄200匁、但し1貫文に付き2貫700匁積
  ・3文3分      解ねば3貫匁、但し10貫匁に付き11文積 
  ・12文1分      小土2脊負分、
           但し1日30文御給代1升御扶持米よって22文2分 100文に付き45合 加えみそ30匁よって2文 塩1勺3分
  〆54文5分     1日前 右は小土脊負1人かかり物働定目 素吹2軒へ5脊負1軒へ2脊負半ずつ 真吹2軒へ4脊負 1軒へ2脊負ずつ 跡(都?)合9脊負の定目割合
  ・9文7分5厘    衣莚並びに土莚共に入り用、わり金にて5分 但し1枚に付き19文半積
  ・3文        ほぜり棒(掘ぜり?)1本
 〆

惣〆 11貫753文7分5厘
 右の通りに御座候以上   鉑方
 安永5年申戌月改 」
     

真吹1枚の内訳を合計すると、1貫276文1分5厘となって、頭の金額に比べ、42文5分だけ大きい(3.3%の違いは、計算間違い,写し間違い、読み間違いか?)

内容の検討
1. この定目は安永5年9月改(1776)であった。
2. 解ねば3貫匁.(3文3分)が問題である。前報の素吹では「解礬5貫匁」相当する箇所に書かれており、単価が10貫匁に付き11文と同じである。

先に(2020-5-10)「祢知」(ねち)と読んだが間違いで、「祢ば」(ば=は+濁点)「ねば」であると訂正する。「御銅山傳書」の中にあと1ヶ所だけ「ねば」があった。3)炭入方御定目の内に 素吹で入用な炭220貫目、真吹の炭60貫目に次いで、
ねば  通しねば素吹5貫目真吹3貫目
 小土 素吹2叺(かます) 同 真吹1叺
とある。この「通し」との記述と単価が同じことから、「礬」と「ねば」は同じ物を指していることが分かる。
ねば」は、日本国語大辞典によると、方言で「粘土」(ねばつち)のことである。4)
ねば[粘](名)方言②粘土 岩手県和賀郡 福島市 栃木県 群馬県勢多郡 多野郡 埼玉県秩父郡 三重県志摩郡 島根県 岡山県邑久郡 香川県 愛媛県大三島
「ねば」の真吹での使い方は、素吹と同じであろう。

まとめ
1.  素吹、真吹の定目は安永5年9月改(1776)であった。
2.  真吹にも、珪石の添加操作はなかった。
3.  素吹と同様に、解ねば(=解礬 粘土)が使われるが、炭灰と練られて炉の修繕に使われたと推論した。

注 引用文献
1. 「御銅山傳書」 内田周治 嘉永2年(1849.3.10)写 日本鉱業史料集第10期近世編上/下」(白亜書房 1988))
2. 「真吹1枚入方積」は、「御銅山傳書」(上) p140~144 →図1,2
3. 「ねば」は、(下)p5「炭入方御定目」の内にあり→図3 
4. 日本国語大辞典(小学館 1972)
図1. 「御銅山傳書」の「真吹一枚入方積」-1


図2. 「御銅山傳書」の「真吹一枚入方積」-2


図3. 「御銅山傳書」の「祢知」の部分


江戸期の別子銅山の素吹では、珪石SiO2源の添加操作はなかった?(10)

2020-05-16 11:17:29 | 趣味歴史推論

 2020-5-3に公開したブログ表題(10)は、字の読み間違いに基づく間違いがあったので、修正して、2020-5-16に再度投稿しました。

表題の(8)では、南部藩尾去沢銅山の素吹では、珪石の添加操作がなされていなかったようだと記した。今回は江戸期の古文書「御銅山傳書」1)(嘉永2年(1849.3.10)写し)のうち、関係がありそうな箇所のみを辞典を片手になんとか読んでみた。肝心の1字が難く、筆者の読みが正しいのか、お分かりの方は教えていただきたい。
素吹一枚入方積」2)という素吹1枚に必要な経費とその内訳の一覧があった。実施記録ではないが、必要な費用金額が大小合わせ全て挙げられているので、今の目的には合った書面である。
素吹一枚(一と吹き)の装入量は焼鉑600貫目、木炭は約200貫目。得る銅鈹は80~100貫目、床尻銅25~35貫目。操業時間18,19時間、従事者は、素吹大工1人、床前働1人、吹子指1人、炭灰搗1人、計4人であった。

「 素吹一枚入方積
 ・ 4貫387文2分4厘
  内訳
  ・140文       床大工1人1日御給代
  ・22文2分        同1人扶持米1升、但し100文に付き4升5合積
  ・2文        同1人みそ30匁、但し100文に付き1貫500匁積
  ・3分        同1人塩1勺、但し1升 30文積
  ・110文       吹子2人1日御給代、但し1人に付き55文割合い如此
  ・44文4分         吹子2人御扶持米2升、但し100文に付き4升5合積
  ・4文        同2人みそ60匁、但し100文に付き1貫500匁積
  ・6分        同2人塩2勺、1升 30文積
  ・33文        寸吹1人1日御給代
  ・22文2分        寸吹1人扶持米1升、但し100文に付き4升5合積
  ・2文        寸吹1人みそ30匁、但し100文に付き1貫500匁積
  ・3分        同1人塩1勺、但し1升 30文積
  ・519文7分5厘      炭灰4斗 この炭34貫650匁、但し10貫匁に付き150文積
  ・31文        炭灰1人(3分3厘?)1日御給代、但し1ヶ月1人に付き700文候  但し1人働定目3升の割合
  ・23文6分2厘       炭灰1人(3分3厘?)御扶持米1升6才4(弗)、但し(1人に付き8合ずつ?) 100文に付き4升5合積
  ・2文2分       炭灰1人(3分3厘?)味噌33匁(2分5厘?)、但し100文に付き1貫500匁積
  ・3分9厘       同1人(3分3厘?)塩1勺3才3(弗)、但し1升に付き30文積
  ・5文8分5厘      衣莚(ころもむしろ)3(枚)分、但し1枚に付き19厘5(毛)積
  ・3文7分5厘      返し木5(枚)分、但し1枚に付き7文半積
  ・1文5厘      鍰板7(枚)分 1枚に付き15厘積
  ・15文1分3厘      小土2脊負半、但し1日御給代 1人に付き30分 御扶持米1日1升候22文2分味噌30匁代2文 塩1勺代3分 
  ・54文5分      但し1日分已に合計を以て如此
            但し1日9脊負の定目 素吹2軒へ5脊負 1軒へ2脊負半ずつ 外 真吹2軒へ4脊負 1軒へ2脊負候分
  ・5文5分      解礬5貫匁、但し10貫匁に付き11文積
  ・74文         鉄200匁、但し1貫文に付き2貫700匁積
  ・3貫300文       吹炭220貫匁、但し10貫匁 150文積
 〆
 真吹1枚へ入方積
 ・ 1貫233文6分5厘
  内訳
  ・63文       前1人御給代
  ・22文2分     前1人御扶持米1升、但し100文に付き4升5合積
  以下略 」

 素吹1枚の内訳を合計すると、4貫418文1分9厘となって、頭の金額に比べ、30文9分5厘だけ大きい(0.7%の違いは、計算間違い,写し間違い、読み間違いか?)

内容の検討
1. 鍰板7(枚)は、焼鉑と一緒に仕込んで、早く熔けやすくするためであろう。大きさは、長さ1尺7寸幅8寸(51×24cm)厚みの記載なし 厚み1cmと推定すると、比重4.4なので、5.4kgとなる。すなわち1.44貫となり、7枚では10貫仕込んだことになる。3)
2. 解礬5貫匁 が問題である。まず「礬」と読んだのであるが、正しいのかどうか。解礬5貫で5文5分と安価であるのでたやすく入手可能なものである。同じ字がこの傳書の中に1ヶ所だけあった。
「解き礬御買は入の節 小石なき処よく解け候よってごの之有り処を脊負すは申すべき第一なり」3)
「解き礬」の読みは(ときばん ときはん)か。文中の「ご」の言葉もなじみがないが、辞典によると、「ご」は、枯れ落ちた松葉のことである。4) 
小石が入っていない部分は、解けやすいから、山から礬を採取して背負う場合は、枯れ落ちた松葉があるようなところをすべきであることが重要な事だと解釈した。ここで、「解く」とは、「高温炉中で熔ける」、「水に溶解する」、「細かく割る」、「解きほぐす」などどれを意味するのか。

「礬」でないかもしれないと思い、似た字で、下が石でなく、土の字を大漢和辞典で探した。1字だけあった。6)
「」あぜ、くろ、つつみ 
ここは、やはり「礬」の方が適当である。
次報(11)「真吹一枚入方積」で、「礬」=「ねば」(粘土 ねばつち)であることがわかった。
「礬石」(ばんせき)であれば、明礬石である。しかし明礬石を粘土と思うことはないであろう。「礬土」(ばんど)であれば、アルミナであるが、当時は元素がまだ発見されていなかった時代であるから、アルミナを指すのではないであろう。「礬」(ばん はん)で、ある種の土壌すなわち粘土を表していたと結論した。方言や山言葉だったのかもしれない。
3. 「小土」は、粉土を指していると思われ、読み方は、(こなつち こど こづち こひじ)のどれであろうか。辞典には「小土」はなかった。なお 「泥」(どろ)を「こひじ」ともいう。「こづち」は「壌」があてられている。7)
4. 「解き」となにか。床(炉)を毎回修繕するための 炭灰(すばい)が、木炭の粉(炭灰)と小土とを「ねば」(粘土)を混ぜて解きほぐすことを意味しているのでなかろうか。
以上の事から推論して、礬(=ねば 粘土)は、炉に仕込まれたのではない可能性が高い。

まとめ
「御銅山傳書」の素吹一枚の必要経費を記した書面を読んで以下のことがわかった。
1. 珪石の添加操作はなかった。
2. 鍰板7枚(推定10貫目)を添加していた。早く熔けやすくするためであろう。
3.   「礬」5貫が使われるが、「礬」とは「ねば」粘土のことで、炭灰と練られて炉の修繕に使われたと推論した。

お願い
「解礬」「小土」の正しい読みや意味するもの、使い方を知る方は教えてほしい。

注 引用文献
1. 「御銅山傳書」 内田周治 嘉永2年(1849.3.10)写 日本鉱業史料集第10期近世編上/下」(白亜書房 1988))九州大学工学部資源工学科所蔵の内田家文書
  尾去沢銅山は明和2年(1765)南部藩の御手山(直営)となり、それ以降の銅山に関連する稼行仕法の秘伝、定法、定目をとりまとめた筆写本が「御銅山傳書」である。
2.「素吹1枚入方積」は、「御銅山傳書」(上) p135~140 →図1,2
3.「 鍰板」は、「御銅山傳書」 (下)p71 御買入品寸法定法 ・鍰板 長さ1尺7寸幅8寸 10訂にして

4.「解き礬」は、(上)p116「床屋御役所勤務覚」の内にあり。→図3 
5.「ご」(古語辞典 改定新版 旺文社1988)                                                                    

6. 大漢和辞典(大修館 1958)

7. 大辞典(平凡社 1936)

図1. 「御銅山傳書」の「素吹一枚入方積」-1


図2. 「御銅山傳書」の「素吹一枚入方積」-2


図3. 「御銅山傳書」の「解き礬」の部分