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山下吹(15) 別子銅山の真吹の熱収支を推算する-2

2020-10-25 09:23:43 | 趣味歴史推論
 真吹において、鈹酸化で発生する発熱量が大きいが、大量の木炭が必要になる理由を前報に基づき考える。
鈹成分には酸化すべきS分とFe分の量が非常に大きい。これは酸化発熱量が大きく有利ではあるが、酸化のための酸素を大量に供給しなければならない。そうすると酸素の(77/23=)3.3倍重量の窒素も同時に供給することになる。反応を進行させるには、高温に維持しなければならない。先ず融解し高温に上げるのに必要な熱量のために木炭の燃焼を必要とする。木炭を燃焼させるためには、大量の酸素を供給しなければならない。そうすると大量の窒素が同伴供給される。その空気が高温の排ガスとして、熱を持ち去ってしまうということになる。すなわち、
鈹の酸化は高温で起きる→鈹の酸化すべきS,Feが大量 →必要酸素量が大量→供給空気量が大量→排ガス放熱量(特に窒素)が大量→木炭の燃焼熱の有効率が低下→大量の木炭が必要

1. 木炭1kg の燃焼し1250℃の排ガスが出る場合の有効熱量を計算する。
燃焼熱(酸化熱) 7,000Cal
木炭600℃までの加熱熱量 0.23×600=138Cal、 必要酸素量 32/12×0.89=2.37kg
その空気中の窒素量 77/23×2.37=7.93kg、 窒素ガスと共に放散する熱量 0.244×7.93×1250=2,419Cal
発生CO2ガス量 44/12×0.89=3.27kg、 CO2排ガスと共に放散する熱量 0.217×3.27×1,250=887Cal
有効な燃焼熱量は 7,000-(138+887+2,419)=3,556Cal 利用率=3,556/7,000=0.51
これは理論空気量の場合である。
もし、酸素過剰率50%、すなわち1.5倍の酸素を供給した場合は
余剰空気の量=(2.37+7.93)×0.5=5.2kg、余剰空気と共に放散する熱量 0.244×5.2×1,250=1,586Cal
酸素過剰率50%の場合、有効な燃焼熱量は、7,000-(138+887+2,419+1,586)=1,970Calと非常に少なくなる。燃焼熱の(1,970/7,000=)0.28しか利用できないことになる
好ましい酸素過剰率は、操業温度、排ガスの安全性(CO,SO2ガス濃度)、操作法などにより、決まるであろう。
あと必要な熱量は、鈹を加熱して融解するに必要な熱量、床壁面からの伝熱放熱量、浴面からの放射熱量である。

2. 鈹を加熱して融解するに必要な熱量と木炭量を計算する。
FeSとCu2Sの式量、融点、融解熱、熱容量は以下のとおり(推定値)1) 
FeS 式量87.9 融点1193℃ 融解熱(23kJ/mol)熱容量 61.0J/molK at1000K
Cu2S  159.1   1100℃     23kJ/mol    (85.2J/molK)

計算を容易にするために鈹は融点1100℃までは反応が起こらず融けた状態になるとする。(実際の鈹は多種の混合物なので、融点はこの温度より低くなる)。
鈹1kgを1100℃の融解状態にするのに必要な熱量を計算する。
鈹1kg中、Cu 2S(=530/63.5/2)=4.18mol、 Fe S(=230/55.8)=4.12mol である。
1kgの鈹の熱容量は、Cu2S分=85.2×4.18=356J/K、FeS分=61.0×4.12=251J/K、合わせて607J/K=0.145Cal/℃kg
鈹 1kgを融点1100℃まで温度を上げるのに必要な熱量(顕熱分)は 0.145×1100=160Cal、 鈹1kgの融解熱は 23×8.30=191kJ=46Cal、
よって鈹1kgを1100℃の融解状態にするのに必要な熱量は 160+46=206Cal
酸素過剰率50%の場合、鈹を融解状態にするには、(206/1,970=0.105)、鈹重量の10.5%の木炭が必要になる。
鈹375kgの場合には213×375=79,900Cal、 375×0.105=39.4kgの木炭が必要となる。
これは木炭量143kgの(39.4/143=)0.276 に相当する。
この他に床壁面からの伝熱放熱、浴面からの放射熱分を賄う木炭燃焼熱が必要となる。

注 参考文献
1. 熱容量 化学便覧基礎編Ⅱ-248(丸善 昭和59年 1984)
  FeS 54.64J/molK at 298K 61.0J/molK at1000K Cu2S 76.32J/molK よりCu2S at1000K=76.32×61.0/54.64=85.2J/molKと推算した。
 融解熱 同上266