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山下吹(13) 塩野門之助の「銅のベスマーリジング」(2)

2020-10-11 10:04:00 | 趣味歴史推論
 前報の続きである。技術用語を読みやすくするために以下のように書き換えている。
満素→マンガン 硫→硫黄 硅素→ケイ素 酸化炭素→一酸化炭素 炭酸→炭酸ガス 気→空気 熱度→温度 1基→1kg 1熱→1Cal(=1kcal) 欠→減量 飛散→放散 最大→大 最小→小

3. ベスマーリジング
 銑鉄をベスマーリジングしてそのケイ素・マンガン・炭素を燃焼するときは、容易に鍛鉄を収得されるべし。もしこの法を銅鈹に応用してその硫黄と鉄とを燃焼し直ちに精銅を産出することを得ば、熔銅夫の仕働をして大いに簡略ならしむべし。しかりといえどもベスマー法の実地銅鈹に対する如何については大いに銑鉄と異なる所あり。
 銑鉄中その燃焼すべき雑物はわずか9/100~10/100に過ぎず。----銅鈹の含銅は高度のものにてようやく60~70/100 通常25/100~30/100に過ぎざる故、熔物原量の30/100より75/100に至るあまたの雑物を酸化排除せざるべからず。なかんずく鉄の酸化硅酸化より生出する多量の鉱滓はことに銅鈹のベスマーリジングをして困難ならしむべし---
鉄のケイ素(の酸化熱)は7830Cal/kg (1000gの水を0℃より1℃に温むるに必要なる熱量を1熱(=1Cal=1kcal)と名づく)その炭素(の酸化熱)は8080Cal/kg そのマンガン、鉄(の酸化熱)は各々1350Cal/kgを発生す(マンガンの発生する熱量を鉄の熱量と同一に仮定す)。そうして銅鈹の硫黄(の酸化熱)はようやく2250Cal/kg、その鉄はわずかに1350Cal/kgを発生するに過ぎず。また送気の酸素に対しても鉄の親和力は銅の親和力より大なり。そうしてその比較1350Cal/kgと660Cal/kgとの如し。しかりといえども銅の比熱は鉄の比熱より小なるのみならず(グリュネールに従えば、高温度にて銅の比熱は鉄の比熱のおよそ2/3なり)銅とその原鈹の比較量は鉄とその原銑の比較量に対し遠く小なり。また銅の熔解点は鉄より低度なることおよそ400℃。故に銅鈹におけるベスマー精煉は銑鉄におけるよりむしろ小の熱量を要すべし。
ここにベスマーリジング中熔物の発生する熱量とその消費する熱量を概算し銑鉄の場合と銅鈹の場合を比較すべし。

(甲)銑鉄(グリュネール)
銑鉄変性中の減耗を10/100とし、そうしてこの減量は、
炭素         0.04
ケイ素        0.02
マンガンおよび鉄   0.04
      計    0.10
の燃焼によると仮定し、また炭素の2/3は一酸化炭素を組成すと想像するときは、銑鉄1kg毎に熱量382.41Calを発生すべし。
 (計算) 炭酸ガスを組成せし炭素 0.013kg(←0.040kgの1/3)------8080Cal×0.013=105.04Cal
一酸化炭素を組成せし炭素 0.027kg(←0.040kgの2/3)------2473Cal×0.027=66.77Cal
ケイ素                   0.02kg------7830Cal×0.02=156.60Cal
酸化を組成せしマンガンおよび鉄       0.04kg -----1350Cal×0.04=54.00Cal
発生せし熱量の総額                         382.41Cal
消費熱に至っては変性中ガス体と放散する部分のみ概ね算定するを得べし。銑鉄1kgの含有雑物を燃焼するには、0.105kgの酸素を要す。
 (計算) 炭酸ガスを組成せし炭素0.013kgに対し-------32/12×0.013=0.035kg
      一酸化炭素を組成せし炭素0.027kgに対し----16/12×0.027=0.036kg
 ケイ素 0.02kgに対し ----------------------------32/28×0.02=0.023kg
 マンガンおよび鉄 0.04kgに対し--------------------2/7×0.04=0.011kg
       燃焼に要せし酸素総量                0.105kg
空気の余燼すなわち窒素の量は0.350kg なり
 (計算)3.33×0.105--------------------------------------------------------------=0.350kg 
また炭酸ガスの量は0.048kg 一酸化炭素の量は0.063kg
 (計算) 炭酸ガス-----------------------------------------------------44/12×0.013=0.048kg 
      一酸化炭素---------------------------------------------------28/12×0.027=0.063kg 
そうしてガス体と共に放散する熱量は1℃毎に0.1112Calなり。
 (計算)窒素と-----------------------------------------------0.350×0.244=0.0854Cal
 炭酸ガスと-----------------------------------------0.048×0.217=0.0104Cal
     一酸化炭素と---------------------------------------0.063×0.245=0.0154Cal
 1℃毎に放散する熱量の額              0.1112Cal
銑鉄湯の温度は変性の最初に1250~1300℃ その終期に1500~1600℃ 始終の平均1400℃なり。そうしてビン口より発出するガス体もまたこの温度を有するとせば、放散熱量総額155.68Calを得べし。
 (計算)放散熱量総額----------------------------0.1112Cal/℃×1400℃=155.68Cal
ガス体の温度は鉄湯の温度より余程小なるものにして決して同一の温度を得るに至らず。-------ガス体温度の極大として鉄湯と同じく1400℃を仮定するものは熱量定算をして安全ならしむるためなり。
発生熱量382.41Calより放散熱量155.68Calを減せば226.73Calを得べし。
この差は変性中熔物鏡面の発射する熱量およびビン体を透徹放散する熱量を補充してなおあまたの剰余を与うべし。-----この計算によって銑鉄湯を通過攪拌する冷気はこれを凍せざるのみならずかえってこれを熱するゆえんを了解すべし。

(乙)銅鈹
銅鈹変性中の減耗を40/100としそうするとこの減量は
 硫黄----------------------0.23
 鉄-------------------------0.17
    (計)   0.40
の燃焼によると仮定す。また成るべく銑鉄との比較計算を容易ならしめんため、ビンの腹部に一鉱滓口を想像し、鉄は酸化硅酸化するに従いビン外に流出すと仮定す。--------鉱滓は最高度に流離性を有せざるべからざる故、勤めて単硅酸鉄(硅酸の酸素量と塩基の酸素量相いひとしきものにして100分中酸化鉄71、硅酸29を含有す)を組成せしむ------酸化鉄と硅酸と抱合して鉱滓を生ずる時は多少の熱量を発生すべきもこれを計るに由なきをもって発生熱額中これを算入し能わず。しかりといえども計算の結果についてはむしろ安全度を増すべし。
銅鈹1kg毎に747Calを発生すべし。
 (計算)硫黄 0.23kg--------------------2250Cal×0.23=517.50Cal
     鉄  0.17kg--------------------1350Cal×0.17=229.50Cal
      発生熱量の総額            747.00Cal
消費熱に至っては変性中、ガス体と放散し鉱滓と流れ去る部分のみ概算し得べし。-------
銅鈹1kgの硫黄および鉄を酸化するには0.278kgの酸素を要すべし。
 (計算)亜硫酸ガスを組成する硫黄0.23kgに対し----32/32×0.23=0.230kg
     酸化鉄を組成する鉄0.17kgに対し-------------16/56×0.17=0.048kg
      硫黄および鉄の燃焼に要せし酸素の総量        0.278kg
空気の余燼すなわち窒素の量は0.931kgなり
 (計算)77/23×0.278-----------------=0.931kg
亜硫酸ガスの量は0.46kg
 (計算) 64/32×0.23-------------------=0.460kg
そうしてガス体と放散する熱量は1℃毎に0.298Calなるべし。
 (計算) 窒素と----------------0.931kg×0.244=0.227Cal
亜硫酸ガスと-------0.460kg×0.155=0.071Cal
       1℃毎にガスと放散する熱量   0.298Cal
ビン内熔物の平均温度は1250℃と仮定して実際に遠からざるべし。そうしてガス体もまたこの温度を有すると想像せば、およそ372.50Calを放散すべし。
 (計算)放散熱量総額------------0.296×1250℃=372.50Cal
鉄0.17kgの燃焼によって成立せし酸化鉄の量は0.219kgなり。そうしてその組成する硅酸鉄すなわち鉱滓の量は0.308kgなり。
 (計算)酸化鉄の量-----------------------72/56×0.17=0.219kg-
     硅酸鉄すなわち鉱滓の量-----100/71×0.219=0.308kg
鉱滓の比熱は決して0.26(0.32~0.36の間違い?)を超過せざるべし。またビンを離れ去る瞬間において鉱滓含蓄の熱量は400~450Calなるべし。
(計算 (0.32~0.36)×1250=400~450Cal)) 
故に鉱滓の持ち去る総熱量はおよそ138.60Calなり。
 (計算) 鉱滓と共に流れ去る総熱量-----------------450Cal×0.308=138.60Cal
ガス体と飛散する熱量372.50Calに鉱滓と流れ去る熱量138.60Calを加え、その額511.10Calを発生熱量747Calより減せば235.90Calを得。
この差は変性中熔物鏡面の発射する熱量およびビン体より透徹放散する熱量を補充すべきものなり。

(甲)(乙)両計算の結果なる補充熱量すなわち変性物の凝結を予防すべき熱量を比較せば
 銑鉄の場合においては、鍛鉄900gに対し226.73Cal
 銅鈹の場合においては、精銅600gに対し235.90Cal
なり。故に熱量的にベスマーリジングは銑鉄におけるよりもかえって銅鈹において満足なるべし。
(論文おわり)

注 引用文献
1. web. 塩野門之助「銅のベスマーリジング」日本鉱業会誌7(71)p15~25(1891)