goo blog サービス終了のお知らせ 

goto_note

西東京市・北海道富良野の森林を舞台にした遺伝,育種,生態などに関する研究ノートの一部を紹介します

Local adaptation across Europeの読解

2006-08-28 | 研究ノート
・再び,Joshi et al. 2001 Ecology Letters読解に取り組む,ようやく何をやったのかを理解しつつあるようだ(Fig.1はなかなか難しいが・・・).この論文では,ヨーロッパ全域に分布する草本の普通種3種の相互移植試験を行い,Homeの効果,Homeから植栽地までの距離が適応度に及ぼす影響を評価し,地域適応がどの程度起こっているのかを調べようとしている.トドマツ標高別相互移植試験に設計がよく似ているので,マテメソと結果をしっかりと読み,参考になりそうなところを探す.

・一つのポイントとなるのは,Fecundity(m)を個体当たりの花序数として,有効Fecuntidy(F)を生存確率(p)×Fecundity(m)として求めているところである.生存率と適応度に関連する形質を掛け合わせる方法は,Montalvo & Ellstrand (2000)でも行われている.

・もう一つのポイントは,個体群の増殖率λである.困ったことに,この求め方が分からない.有効Fecundityから算出するのだが,「Leslieマトリックス(?)から得られるdominant eigenvalue(主要な固定値??)」とある.”Leslie”をセイコーの電子辞書で引くと,まずは「レズ」がでてきた.さらにリーダーズプラスはと見ると,「スコットランドの名門」とあり,貴族の歴史がずらずらと・・・.統計に詳しい人ならば常識なのであろう,ということで,Iさんにメールにて問い合わせ.

・このλから選択係数sを求めているのだが,こちらの方はいたってシンプルで,最もλが大きい産地の値λmaxと知りたい産地のλの値の比から算出するだけである.Home vs awayの効果,距離の効果を検出するための基本的な考え方は,分散分析におけるサイトと産地の交互作用を上手く利用している.一般化線形モデルで行っているのだが,生存率についてはやはりロジスティック回帰で二項分布を選択しており,表現などは極めて参考になりそうである.

・トドマツ標高別ではサイトはそれぞれ別に解析していたのだが,サイトと産地の交互作用で行う解析も一般化しやすくて悪くなさそうだ.また,選択係数については,自分の解析にも取り入れてみることも検討したいところだ.しっかし,まずはλの理解からだな・・・


 ということで(?),唐突ですが,参考までにレビューの一部を紹介します(細部については間違っている可能性も高いので,興味を持った方は自分でチェックしてみてください)

Joshi et al. (2001) Local adaptation enhances performance of common plant species. Ecology Letters 4: 536-544.

<マテメソ>
相互移植試験
・ヨーロッパ全域に自生する普通種3種,ムラサキツメクサ,オーチャードグラス, ヘラオオバコ)が研究対象.
・1996年,ヨーロッパの8地域(イギリス2箇所,ドイツ,スイス,アイルランド,スウェーデン,ギリシア,ポルトガル)が種子産地(以下,産地)と植栽地とした.ただし,オーチャードグラスはギリシアに,ヘラオオバコはスウェーデンに分布しないので,2種の産地はこれらを除く7産地である.
・各産地において各種20個体以上から採種し,各植栽地で播種育苗し,180×75cmの5つのプロットを設定した.各プロットには産地ごとに2個体ずつ,3種合計で44個体を植栽(ムラサキツメクサ8産地×2個体,オーチャードグラス7産地×2個体,ヘラオオバコ7産地×2個体).
・1997-1998年,生存,葉の最大長,個体ごとのラメット数,枝数,葉数,花序数,最大花序の長さと直径を測定.ただし,アイルランドとギリシアは1年目のみの計測.
・Fecundity(m)は個体ごとの平均花序数とし,これと生存確率(p)を掛け合わせたもの(m x p)を有効Fecundity(F)として求めた.
・単位期間における適応度の推定値として,Leslieマトリックスから得られた主要な固定値(dominant eigenvalues)を,産地,植栽地,年ごとに計算した.
・主要な固定値は集団の増加率λに一致し,開花個体がなければ0となる.個体群の増加率λを適応度の推定値として用いて,i番目の産地の相対的選択圧siを求めた.Siは最大のλを示した産地に対するi番目の産地のλの比率から計算でき,si=1-(λi / λmax)となる(McGraw and Antonovics 1983).
・選択圧0はある産地が他の産地に比べて,その種にとって最も適応度が高いことを意味する.栄養繁殖だけを行っている場合には,λ=0,s=1となる.ギリシアとアイルランドのサイトはλとsの解析からは除外.

<結果>
・生活史特性に対するサイトと産地,その相互作用の効果は3種全てにおいて大きい.成長形質(葉,枝,ラメットなど)や生存率では大きな環境変異(サイト間変異)が認められた(Table 2).一方,大部分の形質について,ecotypicな遺伝変異(産地間変異)が認められたが,どの種でも特定の産地が大多数のサイトで適応度が高いということはなかった(Table 3).大きな産地とサイトの交互作用は,HomeとAway,距離の効果として検出され,時間の経過によって一定か効果は大きくなる傾向にあった(Table 2).

・ムラサキツメクサでは,地域適応性は成長形質,繁殖形質,生存に最もクリアにHomeの効果が表れており,経過時間とともにその効果が大きくなった.HomeはAwayに比べて32%も長い葉を持ち,花序数が20%多く, 2年目には生存率も9.3%高かった.オーチャードグラスでは,繁殖特性はHomeの方がAwayよりも優れており,花序長は13%大きかった.ヘラオオバコでは,花序数,花序サイズなどの繁殖特性に加えて,葉長などの成長形質もHomeの方が優れていた.

・環境変異と遺伝変異の程度は種間で有意に異なったが(種×サイト, 種×産地の交互作用,Table 4),Awayに対するHomeの有利性と距離の効果(距離の増加に伴い,選択圧が増加すること)は3種で共通していた.当初は,サイト間の気候類似度が距離の主な要因だと考えていたが,有意な関係は認められなかった.

・安定分析(stability analysis,Bell et al. 2000, J. Ecol.など)では,調査した3種ではサイト全域にわたり,選択インデックスが産地間で有意に異なっていることを示された(Fig.1).特に,オーチャードグラスとヘラオオバコでは,ポルトガル,ドイツ,イギリスの1箇所の産地について産地安定性が一貫して認められ,他の産地よりも選択に対して有意に感受性が低いことが示された.

<図表の説明と主な結果>
[Table 1] 8サイト間の地理的距離と気候類似度(1月と7月の平均気温と平均降水量から計算).サイト間距離は235kmから3322km,気候類似係数は34%から99%まで変異がある.

[Table 2] 種ごとにサイト, 産地とサイト x 産地の相互作用(Home, distance,残差),Time x home, Time x distanceの相互作用について,生存,成長形質,繁殖形質(花序数,花序長)の有意確率を記載.生存,成長,繁殖形質ともにサイト間,産地間で高度に有意.サイトと産地の交互作用からなるHomeと距離の効果は種によって異なる.

[Table 3] 個体群の増加率λから得られた産地ごとの選択係数(a.ムラサキツメクサ,b.オーチャードグラス,c.ヘラオオバコ).選択係数が0は他のサイトに比べて,そのサイトが最も成功したサイトであることを示す.ムラサキツメクサは,6サイト中4サイトが自生地の選択係数が0.オーチャードグラスでは3サイトで自生地の選択係数が0.ヘラオオバコは自生地が必ずしも0になっていないが,自生地に距離が近い方が選択係数が低い傾向にある.

[Table 4] 選択インデックスの分散分析結果.Source of variationは種, サイト, 産地, サイト ×産地(Home, 距離,サイト×産地の残差).そのほか,種×サイト, 種×産地, 種×Home,種×距離,種×サイト×産地の残差.結果は,種間・サイト間・産地間,サイト×産地(Homeの効果)で高度に有意.そのほか,サイト×産地(距離の効果)種×サイトや種×産地でも有意.つまり,3種を込みにした解析でも,Home(もしくは距離)の有利性は共通.しかし,種や種とサイトや産地などの相互作用では効果の程度が違う.

[Fig. 1] 3種の産地ごとにみたヨーロッパの8サイトにおける産地安定性.Y軸は選択インデックス,x軸はサイトの質.個々の産地の選択インデックスは,サイトごとの全ての産地の選択インデックスの平均値によって計測されたサイトの質によって回帰された.選択係数0はある産地が与えられたサイトで最も適応度が高かったことを示す.x軸の左から右へサイトの質が減少するように並べてあり,回帰直線の傾きは,各産地のサイト全体におけるパフォーマンスの程度を示し,矢印は各産地が自生地で示した選択インデックスとリンクしている.基本的に右上がりの直線となっており,サイトの質が低いと選択インデックスが高くなる(選択圧が高い)傾向が見れる.オーチャードグラスとヘラオオバコのイギリスの1箇所,ドイツ,ポルトガルでは直線がx軸と平行か,右下がりとなっており,サイトの質に依存しないことが分かる.

(レビューおわり)