2012年4月下旬~五月初旬にかけて調査のためは車をとばし目当ての山を
通ってみた。案の定いたるところに立ち腐れした蜜柑の木が見られた。
多くのオーナーが現実を踏まえて良心に従ったのである。つまり、いく
らなんでも新聞報道されて既知の神奈川全土に降り注いだ可能性が大き
い放射性物質は無視出来ないという心境だ。「今年とれた蜜柑です、食
べきれないのでこれはお裾分けです」と隣人や親戚にむやみには配れない。
農家にしたって、横浜、足柄、真鶴の被害を知っているので、良心をごま
かしながら出荷するはずがない。これが日本人なんだ。むろん損したから
といって、東京電力への賠償請求はせぬ。自分で損害額はぜんぶかぶる。
日本人とはこういう生き物だろう。
蜜柑栽培にふさわしい場所のひとつである神奈川西部には、小田原や根府川
はては熱海、湯河原、真鶴くんだりまで密柑山が連なる。蜜柑に関して賠償
請求したという報道はきいたことがない。たぶん泣き寝入りしたのであろう。
ただし、小田原の蜜柑卸業・井上という企業はなにごともなかったような顔
をして横浜や川崎、鎌倉あたりの学校給食用にたくさんの量を遠慮せず納品
していた。驚きである。もちろん、それら全部は各市の判断で廃棄処分になっ
た。各市の損失はそれぞれ2、3000万円だったと聞く。ちなみに、蜜柑農家
のほかに蜜柑の木オーナ制度がある。それによる個人の損害も相当額あった
だろう。多くのオーナーが収穫できるものでないと肚をくくって見捨てたの
だ。だから五月になってもあちこちに立ち腐れしたミカンの木が見られた。
チェルノブイリの報告ではとりわけ子供への被害は甚大だという。いろんな
形で放射汚染の影響が出るらしい。が、すぐには出ないで数年、あるいは数
十年後になるというから驚きだ。けっして油断できない。長いスパンで考え
なければならない。まさに人間が作りだした見えないモンスター物質だ。
エボラもサリンもデング熱も総じて正体が目にみえないものはこわい。お化
けとまっく同様なんだから、これらみな。