安倍晋三の「幼児教育・保育無償化」の口から出任せ紛いの国全額負担の公約が17年総選挙大勝利の一端となった

2018-11-26 11:39:41 | 政治

 安倍晋三が2017年9月25日に記者会見を開き、9月28日に衆院を解散することを告げた。「安倍晋三記者会見」(首相官邸サイト)

 安倍晋三「子供たちには無限の可能性が眠っています。どんなに貧しい家庭に育っても、意欲さえあれば専修学校、大学に進学できる社会へと改革する。所得が低い家庭の子供たち、真に必要な子供たちに限って高等教育の無償化を必ず実現する決意です。

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 幼児教育の無償化も一気に進めます。2020年度までに3~5歳まで、全ての子供たちの幼稚園や保育園の費用を無償化します。0~2歳児も、所得の低い世帯では全面的に無償化します。待機児童解消を目指す安倍内閣の決意は揺らぎません。本年6月に策定した子育て安心プランを前倒しし、2020年度までに32万人分の受皿整備を進めます」

 次に財源。

 安倍晋三「子育て、介護。現役世代が直面するこの2つの大きな不安の解消に大胆に政策資源を投入することで、我が国の社会保障制度を全世代型へと大きく転換します。急速に少子高齢化が進む中、国民の皆様の支持を得て、今、実行しなければならない、そう決意しました。2兆円規模の新たな政策を実施することで、この大改革を成し遂げてまいります。

 しかし、そのつけを未来の世代に回すようなことがあってはならない。人づくり革命を力強く進めていくためには、その安定財源として、再来年10月に予定される消費税率10%への引上げによる財源を活用しなければならないと、私は判断いたしました。2%の引上げにより5兆円強の税収となります。現在の予定では、この税収の5分の1だけを社会保障の充実に使い、残りの5分の4である4兆円余りは借金の返済に使うこととなっています。この考え方は、消費税を5%から10%へと引き上げる際の前提であり、国民の皆様にお約束していたことであります。

 この消費税の使い道を私は思い切って変えたい。子育て世代への投資と社会保障の安定化とにバランスよく充当し、あわせて財政再建も確実に実現する。そうした道を追求してまいります。増税分を借金の返済ばかりでなく、少子化対策などの歳出により多く回すことで、3年前の8%に引き上げたときのような景気への悪影響も軽減できます」

 消費税2%の引上げによる税収5兆円強の5分の1は社会保障の充実、5分の4は借金返済と使い途は決まっていたが、この使い途を「私は思い切って変えたい」

 だが、以上の冒頭発言からは高等教育無償化と幼児教育無償化に具体的にどの割合で振り向けるかは見えてこない。だから、質疑応答で記者が尋ねることになったのだろう。

 芳村読売新聞記者「読売新聞のと申します。

 先ほど2兆円の経済政策というお話がありましたが、財源については、消費増税の使途の変更で全て賄うおつもりなのか、また、足りない場合はさらなる国民、企業への負担増も考えられているのでしょうか。よろしくお願いします」

 安倍晋三「財源の問題でありますが、先ほどおおむね2兆円必要であるというお話をさせていただいたところであります。その中で、消費税について、この安定化財源との関係においては、おおむね半々ということになるのだろうと思いますが、それ以外、例えば党において、保険について、こども保険という議論もありました。保険でどれぐらい対応するのかどうかという議論もあると思います。保険ということになれば、企業の負担も出てくるということかもしれませんが、そうしたことも含めて、党内において具体的には議論していくことになると思いますが、大宗は消費税から充当していきたいと考えております」――

 「先ほどおおむね2兆円必要であるというお話をさせていただいた」と言っていることは「2兆円規模の新たな政策を実施する」とした"社会保障制度の全世代型転換政策"を指しているはずである。この中に幼児教育の無償化、高等教育の無償化を入れているということなのだろうが、この両無償化に2兆円を充当させる予定でいるということなのだろうか、はっきりと判断できなかったから、確かめることができる記事をネットで探してみた。

 「消費増税による増収分の使途変更(幼児教育の無償化等に向けた新たな財源案)」みずほ総合研究所/2017年9月26日)

 〈社会保障の充実に回される1兆円強を除く約4兆円について、教育無償化などにも2兆円程度を充当できるよう使途を見直すという意味合いであると解される。〉

 みずほ総合研究所にしても、「意味合いであると解される」と推測しなければならない、明確な断定を許さない安倍晋三の発言ということなのだろう。

 要するに消費税を5%から10%へと引き上げるときの取り決め通りに8%から10%増税時の予想税収5兆円の5分の1に当たる1兆円はそのままの従来からの社会保障制度の充実に、残る4兆円のうち2兆円を教育無償化に回して全世代型の社会保障制度に持っていき、最後の2兆円を国の借金に回すということになる。

 安倍晋三はこの記者会見で国難とまで位置づけて北朝鮮の脅威を言い立てて国民の危機意識に訴えたことと、特に多くの国民生活に直結する幼児教育の無償化と高等教育の無償化が功を奏したのだろう、2017年10月の総選挙で与党自民党は単独で絶対安定多数の266を超える291議席を獲得、公明党の35議席を加えて憲法改正発議に必要な3分の2以上の議席を獲得する大勝利を手に入れることになった。

 ところが、2017年9月25日の解散記者会見から約1年以上経過した2018年11月14日になって、東京都内開催の全国市長会の会合で内閣府から無償化の財源を地方も負担することが求められたと、2018年11月15日付「asahi.com」記事が伝えている。

 具体的には現在の負担割合を来年10月から開始の幼児教育・保育の無償化でも維持する案だという。

 記事から負担の内訳を見てみる。

 私立保育所と私立幼稚園 国2分の1・都道府県4分の1・市町村4分の1
 公立保育所と公立幼稚園 市町村全額負担
 認可外保育施設や一時預かり等 国3分の1・都道府県3分の1・市町村3分の1

 記事は、〈今は利用者が負担する保育料などが必要経費に加わるため、負担割合は同じでも、国、都道府県、市町村それぞれの負担は増えることになる。〉と解説している。

 件の記者会見では幼児教育にしても、保育無償化にしても、安倍晋三は「子供たちには無限の可能性が眠っています」だ、「幼児教育の無償化も一気に進めます」だ、「消費税の使い道を私は思い切って変えたい」だなどと自分を主体とした勇ましい発言に努めたのみで、地方にも負担を求めるとは一言も言っていなかったのだから、誰もが国が財源の全額を負担するものだと思って聞いていたはずだ。それ程にも勇ましいブチ上げ方だった。そして2017年9月25日のこの記者会見以後、1年以上も、国の負担だと多くの国民が信じていたはずだ。

 意に反しての地方のこの負担増は安倍晋三の記者会見での口振りを吹き飛ばすもので、全国市長会としたら、寝耳に水だったに違いない。

 但し寝耳に水で済ます訳にはいかない。地方にも負担を求めると言うと聞こえはいいが、国が財源を負担するような口振りで公約していたのだから、実質、地方への皺寄せとなる。

 このような食い違いの原因を記事は、〈政府が昨年の衆院選の際、詳細を詰めずに無償化を打ち出したツケが表面化している。〉と解説している。要するに安倍晋三は無償化を口から出任せ紛いの無責任さでブチ上げた。

 記事が伝えている市長それぞれの反対意見を見てみる。

 谷畑英吾滋賀県湖南市長「私どもは6月6日と8月30日に(菅義偉)官房長官から『無償化については全額国費で負担するので、市町村には迷惑をかけない』とのお話をいただいた。地方に財政負担を突然強いるのは、地方自治法の趣旨から逸脱している。地方は何とでもなると思っているのか」

 菅義偉が過去に全額国費負担を確約していたなら、安倍晋三は2017年9月25日の記者会見では無償化を確証がないままに全額国費負担の積りで公約としてブチ上げていたことになる。

 この無責任も然ることながら、その積りを1年後にあっさりと投げ捨ててしまった安倍晋三の無責任も立派の一言を与えなければならない。

 別の市長「1年後の無償化開始を延期してほしい」

 同じ内容を伝えている「NHK NEWS WEB」記事から、市長の発言を見てみる。

 「無償化は国が決めた政策なので、必要な財源はすべて国が賄うべきだ」

 「無償化の負担が消費税の増収分を上回り、赤字になってしまう」

 反対の市長が大勢を占めているということは安倍晋三の地方創生がさして機能しているとは言えない状況にあることを否応なしに浮かび上がらせることになる。

 このような口から出任せ紛いの「幼児教育・保育無償化」国費全額負担の公約が2017年10月総選挙の大勝利の大きな一因となった。

 全くいい加減な話だが、このいい加減さは安倍晋三が抱えている性格の一端としてあるものであろう。

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