韓国高裁「徴用工」賠償命令判決:個人的請求権は外交的保護権の埒外なのか、志位和夫の記者会見発言から窺ってみる

2018-11-03 10:45:41 | 政治
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 玉城デニーは普天間の辺野古移設阻止で安倍政権を踊らすことができるのか、阻止できないままに自身が踊るだけで終わることになるのか。

 2018年10月30日付「NHK NEWS WEB 」記事が、〈太平洋戦争中に「徴用工として日本で強制的に働かされた」と主張する韓国人4人が新日鉄住金に損害賠償を求めた裁判で、韓国の最高裁判所は30日、「個人請求権は消滅していない」として、賠償を命じる判決を言い渡した。〉と伝えた。

ネットで調べた事実を纏めると、日本と韓国との間に1965年(昭和40年)6月22日に「日韓基本条約」(正式名称「日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約」)が締結されて、両国間の請求権の完全かつ最終的な解決し、それらに基づく関係正常化などが取り決められた上、この締結に伴い、「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」(通称「日韓請求権協定」)が結ばれた。

 「日韓請求権協定」の第2条1は次のように規定されている。

 一方の締約国の国民で1947年8月15日から協定署名日の1965年6月22日までの間に他方の締約国に居住したことがある者の財産、権利及び利益を除いて、〈両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。〉

 韓国政府と韓国民が韓国内に持っていたが、日韓併合以降に日本政府や日本国民によって毀損された「財産、権利及び利益」と、日本政府と日本国民が日韓併合以降に韓国内に持つに至っていたものの日本の敗戦によって失われた「財産、権利及び利益」の双方共に相手国に対する請求権は「日韓基本条約」で取り交わした日本の韓国に対する総額8億ドル(無償3億ドル、政府借款2億ドル、民間借款3億ドル)の経済援助によって「完全かつ最終的に解決された」ものとしている。

 だが、韓国最高裁判所は「個人請求権は消滅していない」と判決した。

 この判決に対して外相の河野太郎は2018年10月30日、「談話」(外務省/平成30年10月30日)を発表している。(一部抜粋)

 大韓民国大法院による日本企業に対する判決確定について(外務大臣談話)

1 日韓両国は,1965年の国交正常化の際に締結された日韓基本条約及びその関連協定の基礎の上に,緊密な友好協力関係を築いてきました。その中核である日韓請求権協定は,日本から韓国に対して,無償3億ドル,有償2億ドルの資金協力を約束する(第1条)とともに,両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産,権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題は「完全かつ最終的に解決」されており,いかなる主張もすることはできない(第2条)ことを定めており,これまでの日韓関係の基礎となってきました。

2 それにもかかわらず,本30日,大韓民国大法院が,新日鐵住金株式会社に対し,損害賠償の支払等を命じる判決を確定させました。この判決は,日韓請求権協定第2条に明らかに反し,日本企業に対し不当な不利益を負わせるものであるばかりか,1965年の国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の法的基盤を根本から覆すものであって,極めて遺憾であり,断じて受け入れることはできません。

3 日本としては,大韓民国に対し,日本の上記の立場を改めて伝達するとともに,大韓民国が直ちに国際法違反の状態を是正することを含め,適切な措置を講ずることを強く求めます。

 「請求権に関する問題は『完全かつ最終的に解決』された、韓国最高裁判所の判決は「国際法違反」だと反発し、この是正を韓国政府に求めている。

 安倍晋三も同じ10月30日に韓国最高裁判決について首相官邸エントランスで記者団に対して「発言」(首相官邸サイト)している。

 安倍晋三「本件については、1965年の日韓請求権協定によって完全かつ最終的に解決しています。今般の判決は国際法に照らしてあり得ない判断であります。日本政府としては毅然(きぜん)と対応してまいります」――

 一旦国と国が締結した取り決めなのだから、「国際法に照らしてあり得ない判断」だと河野太郎と同様に国際法違反だと韓国最高裁判所の判決に反発を示している。新聞記事風に言うと、"不快感を示した"。あるいはそれ以上だったのかもしれない。

 ところが、韓国最高裁判所が「個人請求権は消滅していない」と判決したことに対する安倍晋三や河野太郎、いわば日本政府の反発に共産委員長の志位和夫が記者会見で異を唱えたことを2018年11月1日付「NHK NEWS WEB」記事で知った。この記事に導かれて、共産党サイトにアクセスしてみた。

 「徴用工問題の公正な解決を求める――韓国の最高裁判決について」(共産党/2018年11月1日)

日本共産党幹部会委員長  志位和夫

(1)

 10月30日、韓国の最高裁判所は、日本がアジア・太平洋地域を侵略した太平洋戦争中に、「徴用工として日本で強制的に働かされた」として、韓国人4人が新日鉄住金に損害賠償を求めた裁判で、賠償を命じる判決を言い渡した。

 安倍首相は、元徴用工の請求権について、「1965年の日韓請求権・経済協力協定によって完全かつ最終的に解決している」とのべ、「判決は国際法に照らしてあり得ない判断だ」として、全面的に拒否し、韓国を非難する姿勢を示した。

 こうした日本政府の対応には、重大な問題がある。

(2)

 日韓請求権協定によって、日韓両国間での請求権の問題が解決されたとしても、被害にあった個人の請求権を消滅させることはないということは、日本政府が国会答弁などで公式に繰り返し表明してきたことである。

 たとえば、1991年8月27日の参院予算委員会で、当時の柳井俊二外務省条約局長は、日韓請求権協定の第2条で両国間の請求権の問題が「完全かつ最終的に解決」されたとのべていることの意味について、「これは日韓両国が国家として持っている外交保護権を相互に放棄したということ」であり、「個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではない」と明言している。

 強制連行による被害者の請求権の問題は、中国との関係でも問題になってきたが、2007年4月27日、日本の最高裁は、中国の強制連行被害者が西松建設を相手におこした裁判について、日中共同声明によって「(個人が)裁判上訴求する権能を失った」としながらも、「(個人の)請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではない」と判断し、日本政府や企業による被害の回復にむけた自発的対応を促した。この判決が手掛かりとなって、被害者は西松建設との和解を成立させ、西松建設は謝罪し、和解金が支払われた。

 たとえ国家間で請求権の問題が解決されたとしても、個人の請求権を消滅させることはない――このことは、日本政府自身が繰り返し言明してきたことであり、日本の最高裁判決でも明示されてきたことである。

 日本政府と該当企業は、この立場にたって、被害者の名誉と尊厳を回復し、公正な解決をはかるために努力をつくすべきである。

(3)

 韓国の最高裁判決は、原告が求めているのは、未払い賃金や補償金ではなく、朝鮮半島に対する日本の不法な植民地支配と侵略戦争の遂行に直結した日本企業の反人道的な不法行為――強制動員に対する慰謝料を請求したものだとしている。そして、日韓請求権協定の交渉過程で、日本政府は植民地支配の不法性を認めず、強制動員被害の法的賠償を根本的に否定したと指摘し、このような状況では、強制動員の慰謝料請求権が請求権協定の適用対象に含まれると見なすことはできないと述べている。

 1965年の日韓基本条約および日韓請求権協定の交渉過程で、日本政府は植民地支配の不法性について一切認めようとせず、謝罪も反省も行わなかったことは、動かすことのできない歴史の事実である。

 徴用工の問題――強制動員の問題は、戦時下、朝鮮半島や中国などから、多数の人々を日本本土に動員し、日本企業の工場や炭鉱などで強制的に働かせ、劣悪な環境、重労働、虐待などによって少なくない人々の命を奪ったという、侵略戦争・植民地支配と結びついた重大な人権問題であり、日本政府や該当企業がこれらの被害者に対して明確な謝罪や反省を表明してこなかったことも事実である。

 今年は、「日本の韓国への植民地支配への反省」を日韓両国の公式文書で初めて明記した「日韓パートナーシップ宣言」(1998年、小渕恵三首相と金大中大統領による宣言)がかわされてから、20周年の節目の年である。

 日本政府と該当企業が、過去の植民地支配と侵略戦争への真摯で痛切な反省を基礎にし、この問題の公正な解決方向を見いだす努力を行うことを求める。(文飾は当方)

 1991年8月27日の参院予算委員会で具体的にどのような質疑応答があったのか、ネットで調べてみた。

 「1991年8月27日 参議院予算委員会」

 清水澄子(当時社会党の参議院議員)「外務大臣、韓国では民間の中からどのような要求が起こっておりますでしょうか」

 外務大臣中山太郎「アジア局長から具体的にご説明を申し上げたいと思います」

 政府委員谷野作太郎(外務省職員)「お答え申し上げます。韓国におきまして最近、いわゆる強制連行者あるいは元軍人軍属の方々、サハリンの残留者の方々、元戦犯、あるいはその家族の方々の補償、あるいは未払の賃金の支払等を求めて色々な訴訟なりを行う運動が起こってきておりまして、私どもも報道等を通じてそのようなことを承知致しております」

 清水澄子「今、なぜこのような補償要求が起きてきたのでしょうか。その理由をどうお考えでしょうか」
 
 政府委員谷野作太郎「個々のケースによって当事者の方々のお気持等は異なるのではないかと思います。一概に私の方からご説明する資料もございませんけれども、他方、いずれにいたしましても、先方もご存知の通りでございますが、政府と政府との関係におきましては、 国会等でも度々お答え申し上げておりますように1965年の日韓間の交渉を以ってこれらの問題は国と国との間では完全に且つ最終的に決着しておるという立場を取っておるわけでございます」

 外務大臣中山太郎「昨晩、私は委員会終了後に来日中の韓国の外務次官と約40分間会談を致しましたが、政府間の関係は韓国の外務省の次官のお言葉を借りれば、今日ほど日韓関係が円満にいっていることはないというご意見でございました。盧泰愚大統領の訪日、また海部総理の訪韓ということによって日韓関係は未来に向けて共同のパートナーとして協力をやっていく。

 グローバルな立場でも協力をしていこうということが日韓間の国際的な外交に関する基本的な認識であるということも昨晩双方で確認を致した次第であります」

 清水澄子「そこで今をおっしゃいましたように政府間は円骨である。それでは民間の間でも円滑でなければならないと思いますが、これまで請求権は一切解決済みとされてまいりましたが、今後も民間の請求権を一切認めない方針を貫くおつもりでございますか」

 政府委員谷野作太郎「先ほど申し上げたことの繰り返しになりますが、政府と政府との間におきましてはこの問題は解決解決済みという立場でございます」

 政府委員柳井俊二(当時外務省条約局長)「ただいまアジア局長からご答弁申し上げたことに尽きると思いますけれども、敢えて私の方から若干補足させていただきますと、先生ご承知の通り、日韓請求権協定におきましては両国間の請求権の問題は最終且つ完全に解決したわけでございます。

 その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国は国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。

 従いまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではありません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます

 柳井俊二が言っていることを纏めてみると、日韓請求権協定によって日韓両国が国家として持っている外交保護権を相互に放棄した結果、日韓間に於ける国家レベルの賠償請求権問題は最終且つ完全に解決したが、それぞれの国民個人の賠償請求権に関しては日韓双方共に国家の立場で外交保護権の名のもとに行使・保護することはできないものの、「国内法的な意味で消滅させたわけではない」、いわば個人としての賠償請求権は国に行使・保護を求める外交的保護権の埒外にあり、行使することに関しては可能だということであろう。

 このことを根拠に韓国最高裁が「個人請求権は消滅していない」と判決したのかどうか分からないが、1991年8月27日の参院予算委での当時の外務省条約局長柳井俊二の答弁に相対応していることになる。

 「Wikipedia」「日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約」の中の「個人請求権に関する日本政府答弁と訴訟」の項目に共産党委員長志位和夫が挙げた個人請求権を認める上記国会答弁以外に1993年5月26日の衆議院予算委員会での丹波實外務省条約局長答弁を同様例として示している。

 1993年5月26日衆議院予算委員会質疑

 丹羽實政府委員(外務省条約局長)「この(日韓請求権協定)第2条1項で言っておりますのは、財産、権利及び利益、請求権のいずれに付きましても、外交的保護権の放棄であるという点につきましては先生(宇都宮真由美元社会党衆院議員)のおっしゃるとおりでございますが、しかしこの1項を受けまして3項で先程申し上げたような規定がございますので、日本政府と致しましては国内法をつくりまして、財産、権利及び利益につきましては、その実態的な権利を消滅させておるという意味で、その外交的な保護権のみならず実体的にその権利も消滅しておる。

 ただ、請求権につきましては外交的保護権の放棄ということにとどまっておる。個人のいわゆる請求権というものがあるとすれば、それは外交的保護の対象にはならないけれども、そういう形では存在し得るものであるというものであるということでございます

 宇都宮真由美社会党議員「韓国政府がその外交保護権を放棄したからといって、日本の法律で直接、その韓国人の権利を消滅させるという、その根拠は何なんでしょうか」

 丹羽實政府委員「それは何度も立ち戻りまして恐縮ですけれども、韓国との請求権・経済協力協定の第2条1項を受けまして3項の規定があるものですから、日本政府が相手国、この場合は韓国ですが、韓国政府及び国民の財産、権利及び利益に対して如何なる措置をとっても、相手国あるいは相手国政府としては如何なる主張もしないということになっておるものですから、その意味で、日本政府がまさにこの財産、権利及び利益というものを消滅させても、韓国としては如何なる主張もしないということが規定されておるものですから、日本政府としてはそういう措置を取ってということでございます」

 宇都宮真由美社会党議員「それは韓国政府が何も言わないということで、韓国人が何も言わないということまでは決めていないと思います。ちょっと長くなりなりますので、もうこれでやめます」

 韓国従軍慰安婦の戦後補償の問題についての質問に移る。(文飾は当方)

 「請求権につきましては外交的保護権の放棄ということにとどまっておる。個人のいわゆる請求権というものがあるとすれば、それは外交的保護の対象にはならないけれども、そういう形では存在し得るものであるというものであるということでございます」

 要するに外務省条約局長である丹羽實は国家間レベルの請求権に関しては外交的保護権は放棄されていて、その権利行使はできない取り決めだが、国民個人の賠償請求権に関しては外交的保護権放棄の埒外であり、そのような形で存在しているということを言っていて、1991年8月27日の参院予算委で政府委員として出席した外務省職員柳井俊二の答弁と同趣旨の答弁となる。

 だから、「それは韓国政府が何も言わないということで、韓国人が何も言わないということまでは決めていないと思います」との表現を用いた宇都宮真由美社会党議員の、「日韓請求権協定」が個人的請求権をどう扱うかまでは「決めていない」とする指摘に繋がることになっている。

 確かに損害賠償を命じる判決は韓国最高裁が言い出したことで、韓国政府が日本に対して直接言い出したことではない。それゆえに三権分立の制度に基づいて国家としては行使不可能であるものの、「日韓請求権協定」で取り決めた外交的保護権放棄とは埒外の賠償請求と認めるのか、韓国最高裁判所と言えども、広い意味では韓国の一部分であるゆえに外交的保護権放棄の埒内とするのかによって扱いは違ってくる。

 前者の立場に立つなら、損害賠償請求は正当性を持つ。後者の立場に立つなら、安倍晋三や河野太郎等、日本政府の「1965年の日韓請求権協定によって完全かつ最終的に解決している」との主張が正当性を持つことになる。

 但し日本国内に於いて最高裁判所の国に対する判決を高裁判所と言えども、広い意味では国の一部分であるという理由で国とは違う考えは受け入れることはできないと判決を拒否する例は聞いたことがない。大体が安倍政権は最高裁は憲法の番人に位置づけている。最高裁の国に対する判決に従わなければ、憲法違反を犯すことになる。 

 少なくとも最高裁判決拒否不可能は韓国に対しても当てはめなければならない一般例となる。当然、個人の請求権に関わる上記2例の国会質疑政府側答弁に従わなければならないはずだ。

 日本側が勝手に請求権を拒否する国内法法律をつくることはできないし、つくったとしても韓国に対して効力を持つことはない。韓国との取り決めによって国家間の条約としなければならない。

 元朝鮮人従軍慰安婦の日本政府に対する損害賠償請求訴訟に対して日本政府は1965年の「日韓基本条約」で賠償義務は政府間で決着済みとの態度を取っているが、今後改めて訴訟が起こされた場合、外交的保護権放棄の埒外とされる可能性も浮上する。

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