安倍政権が最初から身代金を払うつもりはなかったと見ることができる「邦人殺害テロ事件検証委検証報告書」

2015-06-05 09:43:23 | 政治


 「イスラム国」による湯川遥菜氏と後藤健二氏殺害に関わる」『邦人殺害テロ事件の対応に関する検証委員会検証報告書』が5月21日(2015年)に公表された。  

 報告書の最後に記載されている検証委員会のメンバーを見てみる。


○「邦人殺害テロ事件の対応に関する検証委員会」の構成

 委員長 内閣官房副長官(事務)
 委員長代理 内閣危機管理監
 国家安全保障局長
 内閣情報官
 委員 内閣官房副長官補(事態対処・危機管理担当)
 国家安全保障局次長
 警察庁警備局長
 外務省大臣官房長
 外務省中東アフリカ局長
 防衛省運用企画局長

○有識者(五十音順;敬称略)
 池内 恵(東京大学先端科学技術研究センター准教授)
 長 有紀枝(立教大学教授、難民を助ける会理事長)
 小島 俊郎(㈱共同通信デジタル執行役員・リスク情報事業部長)
 田中 浩一郎(日本エネルギー経済研究所常務理事・中東研究センター長)
 宮家 邦彦(立命館大学客員教授)

 身内10人に有識者はその半分の5人である。5人の内4人の政治的立場は知らないが、宮家邦彦は政府寄りの人物であろう。

 となると、11対4となる。このことが影響したかどうかは随時判明する。

 次にメンバー紹介の前で取り上げている「(参考)事件の主な流れ」を見てみる。文飾は当方。月日にすべてに年号をつけた。

 この中に安倍晋三がエジプト・カイロで中東政策スピーチを行った2015年1月17日の日付が入っていないから入れておいた。 
 2014年8月16日

・ 湯川氏が行方不明になったとの情報がもたらされ、外務省が事案を認知した。
・ これを受け、在シリア臨時代理大使を長とする現地対策本部、外務本省に領事局長を長とする対策室、官邸に内閣参事官を長とする情報連絡室及び警察庁に警備局外事情報部国際テロリズム対策課長を長とする連絡室をそれぞれ設置した。

 2014年11月1日

・ 後藤氏が行方不明になっているとの御家族からの連絡を受け、上記外務省対策室、現地対策本部、官邸情報連絡室及び警察庁連絡室にて対応した。

 2014年12月3日

・ 後藤氏夫人宛てに犯行グループからメールによる接触があったことを把握した。

 2014年12月19日

・ 犯人から後藤氏夫人へのメールによって、後藤氏が確かに拘束されているとの心証を持つに至った。

 2015年1月17日

・ 安倍晋三、訪問中のエジプトで開催した日エジプト経済合同委員会で「中東政策スピーチ」を行う。

 2015年1月20日

・ ISILによって発出されたとみられる動画を確認した。
・ これを受け、官邸に内閣危機管理監を長とする官邸対策室、外務省に事務次官(後に外務大臣に変更)を長とする緊急対策本部、警察庁に警備局長を長とする対策本部、公安調査庁に次長を長とする緊急調査室をそれぞれ設置した。また、防衛省においては、海外出張中の防衛大臣から「情報収集に万全を期せ」との大臣指示がなさ
れた。

 2015年1月24日

・ 湯川氏が殺害されたとみられる写真を持つ後藤氏とみられる人物の映像とメッセージがインターネット上に配信された。

 2015年2月1日

・ 後藤氏とみられる人物が殺害される映像がネット上に配信された。

 なぜ安倍晋三の中東スピーチを入れなかったのだろう。一部文言の適切性が問題となったのであり、検証に於いても検証対象としているにも関わらずである。

 2015年1月20日の動画とは「イスラム国」が2邦人を拘束し、72時間以内に2億ドルの身代金の支払いがないと2人を殺害すると述べている動画のことである。

 安倍晋三はこの拘束と身代金要求に対して同じ1月20日に訪問先のイスラエルで内外記者会見を開いて、冒頭、次のように発言している。

 安倍晋三「まず始めに、ISILにより、邦人の殺害予告に関する動画が配信されました」――

 2邦人拘束の犯行主体を「イスラム国」だとこの時点で特定したことになる。

 検証委員会の結論としての「総括」は、〈有識者からは、結果としてお二人の命を救うことはできなかったものの、今回の事件は救出が極めて困難なケースであり、その中で政府による判断や措置に人質の救出の可能性を損ねるような誤りがあったとは言えないとの全般的評価が示された。〉と、2人が殺害されたことに対する政府対応の失態は認めていない。

 また、安倍晋三の一部文言が「イスラム国」を刺激したのではないかと問題視された中東政策スピーチに関しての結論は、〈エジプトにおける総理の中東政策スピーチを含め我が国の政策的立場や事件への対応方針について行った様々な発信は適切なものであったが、個別具体の状況において考慮すべき様々な要素が想定されることから、対外発信の在り方については、引き続き、多角的な観点からの検討が必要である。〉と、中東政策スピーチを含めて、「イスラム国」による2邦人拘束と殺害に関わる政府の様々な対外発信そのものに問題はなかったとし、今後の「対外発信の在り方」については「個別具体の状況において考慮すべき様々な要素」を想定して、「多角的な観点からの検討が必要」だと問題提起している。

 と言うことは、そうはなっていないから問題提起したのであって、中東政策スピーチを含めた政府の対外発信が何ら問題はなかったとしているわけではないことになる。

 中東政策スピーチに関しての検証を見てみる。

 〈総理スピーチでのISIL関連の言及は、ISILを刺激するものではなかったか。〉と【論点】の項で取り上げている。

 〈スピーチ案を検討した時点で、政府としては、邦人が確かに拘束されていると認識し、犯行主体を特定するには至っていなかったが、様々な可能性がある中でISILである可能性も排除されないとの認識であった。〉

 犯行主体の一つに「イスラム国」を想定していた。にも関わらず、中東政策スピーチで次のように発言した。

 安倍晋三「イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISILがもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと戦う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」――

 スピーチ案を検討した時点で犯行主体の一つに「イスラム国」を想定していながら、「ISIL」という名称で「イスラム国」を名指しして、2億ドルの援助で以てその勢力の阻止に戦いを挑んだのである。

 その2億ドルの援助がそのまま身代金の2億ドルという金額に転用された、あるいは跳ね返ってきたと見ることができる。

 動画での覆面した男の言葉をみると、どうしてもそうなる。

 「日本の総理大臣へ。日本はイスラム国から8500キロ以上も離れたところにあるが、イスラム国に対する十字軍に進んで参加した。我々の女性と子どもを殺害し、イスラム教徒の家を破壊するために1億ドルを支援した。だから、この日本人の男の解放には1億ドルかかる。それから、日本は、イスラム国の拡大を防ごうと、さらに1億ドルを支援した。よって、この別の男の解放にはさらに1億ドルかかる」

 勢力の阻止に戦いを挑んだことが、「イスラム国に対する十字軍に進んで参加した」と看做されるに至ったと解釈することができ、2億ドルの援助を勢力阻止の資金と見て、1ドルずつの身代金の要求理由へとつながっていったと見ることができる。

 だが、報告書はこのような解釈は取らずに、〈スピーチの表現については、日本側の意図とは異なるが、ISILにより脅迫の口実とされたとの指摘がなされた。〉との文言で、日本の意図を歪めて脅迫の口実にしたと看做し、〈ISILは自らに都合よく様々な主張を行うが、ISIL関連部分を含む総理の中東政策スピーチの内容・表現には、問題はなかったと判断される。〉として、上記「総括」へと持っていった。

 安倍晋三が表明した2億ドルの支援がそのまま身代金の金額になったとする解釈が正しいかどうかはマスコミが後藤夫人へのメールで身代金要求があったと伝えているその身代金の金額が2億ドルより少ない金額なら正しいと証明することができる。

 勿論、最初から2億ドルを要求金額としていて、2億ドルの支払い能力のない後藤夫人を介して支払い能力のある日本政府に支払わせる予定で後藤夫人にメールを送っていたと見ることもできる。

 そうすることのメリットは、日本政府に対して身代金の支払いを頑固に拒否しているアメリカやイギリスに拘束があったことも身代金要求があったことを秘密裏にしたままに、しかも2013年の主要国首脳会議(G8サミット)で首脳宣言に盛り込んだ「テロリストへの支払いを拒否する」とした約束に表向きは触れずに人質を解放できるようにしてやることであり、「イスラム国」側としても全てを秘密のベールに包むことで、拘束した人間の国籍の政府に身代金を支払いやすくすることができることである。

 だが、安倍政権はそうしなかった。2015年1月20日、全てが明るみに出た。

 そして検証委員会の検証の何よりも問題点はこの肝心の身代金については、2015年1月20日の動画配信時に犯人が2人の日本人に2億ドルの値段をつけた言葉のみが報告書に載っているだけで、検証に関しては身代金問題は何も取り上げていないことである。報告書のどこを探しても、「身代金」の言葉は見えない。

 もし政府が1月20日の動画で初めて身代金の要求を知ったのだとしたら、イスラム国は2014年12月3日と2014年12月19日に単に後藤健二氏を拘束していると知らせるためにのみ後藤氏夫人宛てにメールを送信したことになる。

 そして「イスラム国」は後藤氏が行方不明になっているとの家族からの連絡があった2014年11月1日頃から2カ月半置いて、2015年1月17日の安倍晋三の中東政策スピーチで身代金要求を思い立ち、2015年1月20日に身代金要求の動画をネット上に流したことになる。

 「イスラム国」が同じような身代金要求の拘束事件を起こしていながら、身代金要求を2カ月半も、湯川氏に関してはそれ以上放置していたとは考えいくい。

 検証委員会が検証の対象に身代金要求を取り上げなかったことによるメリットは身代金要求に政府がどのような姿勢でいたのかを隠すことができることである。少なくともどのような姿勢でいたのかを明らかにせずに済む。

 明らかにしないということは結果的に隠す行為に当たる。

 実際に検証は身代金問題について何ら明らかにしていない。明らかにしないままに〈政府による判断や措置に人質の救出の可能性を損ねるような誤りがあったとは言えないとの全般的評価が示された。〉としている。

 裏を返すと、政府がどのような姿勢でいたのかを検証によって明らかにした場合、不都合が生じるからということになる。
 
 このことは、(ISILとの直接交渉)という項を見れは理解できる。

 〈ISILから政府に対する直接の接触や働きかけがなく、また、ISILはテロ集団であって実態が定かではないとの状況下、政府は、ISILと直接交渉を行わなかった。また、ISILは際立った独善性・暴力性を有するテロ集団であり、理性的な対応や交渉が通用するような相手ではなく、そのような相手に対して、人質を解放するために何が最も効果的な方法かという観点から、メールを通じて直接コンタクトすることではなく、関係各国や部族長、宗教指導者等あらゆるルート・チャンネルを活用し、最大限の努力を行ったものである。〉――

 〈ISILは際立った独善性・暴力性を有するテロ集団であり、理性的な対応や交渉が通用するような相手ではな〉いからとの理由で、〈ISILと直接交渉を行わなかった。〉――

 ネット上に動画が配信された2015年1月20日の午後の訪問先イスラエルでの内外記者会見で、「菅官房長官に対し、人命第一に対応に全力を尽くすよう指示した。今後とも人命第一に、私の陣頭指揮の下、政府全体として全力を尽くしていく」と述べている。安倍晋三の陣頭指揮下で「人命第一」を最優先事項としたということであり、同様のテロ集団が2013年1月16日に発生させたアルジェリア邦人人質事件では、その間中、安倍晋三は「人命最優先」、「人命第一」をお題目のように唱えていたにも関わらず10人を犠牲にした教訓から言っても、口にした「人命第一」は実現しなければならない“公約”と言ってもいいものであり、当然、「人命第一」・「人命最優先」のために手段を選んではいられないはずだが、〈独善性・暴力性を有するテロ集団〉だからと手段を選んだ。

 ようするに「人命第一」・「人命最優先」よりもテロ集団と交渉しないことを優先させた。

 このことは、同じ(ISILとの直接交渉)の項の次の記述を見るとより理解できる。

 〈1月22日、中田考氏が、日本外国特派員協会において、日本政府がISIL支配地域に2億ドルの人道支援を行うという具体的提案を示し、日本政府が受け入れれば同提案をISIL側につなぐ用意がある旨述べた。しかしながら、中田氏の提案はISIL支援にもつながりかねないものであったほか、一般論として、こうした事案については様々な協力の申し出が寄せられる中で、当然取捨選択をしなければならず、また、他のチャンネルにおける信頼関係への影響という要素も考える必要もあった。こうした観点から、政府としては、中田氏の提案については受け入れなかったものである。〉――

 要するに2億ドルの身代金を2億ドルの人道支援という形に変えて「イスラム国」に提供するなら、人質解放の仲介をする用意があるとの中田考氏の提案を、〈ISIL支援にもつながりかねない〉という理由、そういった提案はたくさんあるから、〈当然取捨選択をしなければなら〉ないという理由、報告書が〈過去の例(例:イラクにおける邦人拘束事案)において、部族長、宗教指導者に対する働きかけが功を奏し、当該邦人の解放につながったこともあったことから、今回も、外務省関係者が、現地の部族長や宗教関係者に連絡をし、日本の中東への貢献等の情報を現地に発信するよう依頼するなど、2名の邦人を解放するために何が最も効果的な方法かという観点から、あらゆるルート・チャンネルを活用したと評価できる。〉と書いているように、既に依頼しているチャンネルを差し置いたのでは信頼関係を損なうという理由で中田氏の提案を受け入れないことにしたとしている。

 中田考氏の提案を断った経緯、その理由からは「人命第一」・「人命最優先」の姿勢をどこにも見ることができない。逆に「人命第一」・「人命最優先」の姿勢を裏切る形の、確実とは決して言い得ない他の解決策の優先となっている。

 中田考氏の“ルート・チャンネル”を試しもぜずに断っておきながら、〈2名の邦人を解放するために何が最も効果的な方法かという観点から、あらゆるルート・チャンネルを活用したと評価できる。〉としている。

 検証委員会の検証報告には矛盾だけが目立つ。

 この点についての矛盾は他にも見い出すことができる。〈あらゆるルート・チャンネルを活用したと評価できる。〉としていながら、【有識者との議論における指摘及び課題】の項で、〈政府による外国政府諸機関との関係を中心とした情報収集によって得られる情報には自ずと限界があることから、日本側の民間の個人や団体の有する情報をより積極的に聴取し対処策に活かす手法も、今後検討されるべきであるとの意見も示された。〉と、政府利用の〈ルート・チャンネル〉の情報収集に限界があったことと、そうでありながら、〈日本側の民間の個人や団体〉といった〈ルート・チャンネル〉は積極的に活用しなかったこととの矛盾である。

 警察庁も国際テロリズム対策課長を長とする連絡室を設置して、捜査に乗り出している。【事実関係】 (犯人側からの接触・政府の対応)の項で、〈警察庁は、犯人と思われる者から後藤氏の御家族に送られたメールを分析したが、具体的に、犯行主体がISILであるとの確証を得ることができなかった。〉と検証しているが、〈日本側の民間の個人や団体〉等の〈ルート・チャンネル〉は積極的に活用いなかったことと考え併せると、警察庁は湯川氏や後藤氏と交友関係にある「日本側の民間の個人や団体」からの情報招集を積極的には行っていなかったことになる。

 もし積極的に行っていたなら、今後の課題とすることはない。

 犯行主体を特定することは初歩的で重要な作業の要であるはずである。〈スピーチ案を検討した時点で〉、犯行主体を「イスラム国」である可能性を想定していながら、なぜ湯川氏や後藤氏と交流を持っていた民間からの情報収集を積極的に行って犯行主体を特定する努力を行わなかったのだろうか。

 結果、2014年8月16日の湯川氏行方不明の情報から2015年1月20日の動画配信まで5カ月間、「イスラム国」自体が自ら正体を現すまで、犯行主体だとは特定できなかった。

 警察庁のこのザマは一体何を意味するのだろうか。

 にも関わらず、〈政府による判断や措置に人質の救出の可能性を損ねるような誤りがあったとは言えないとの全般的評価が示された。〉と検証している。

 以上挙げてきた矛盾、特に身代金問題に対して政府がどのような姿勢で臨んでいたのかを検証から省いていることと、身代金と同じ金額の2億ドルを人道支援という形に変えて「イスラム国」に提供するなら、「イスラム国」に人質解放をの仲介をする用意があるとの中田考氏の提案を断ったことを考えると、いわば身代金の支払いで人質解放を目指していたなら、省くことも断ることもないだろうから、政府が最初から身代金要求には応じない姿勢でいて、その姿勢に添うために結果的に身代金問題を検証から省くことになり、省いたまま政府対応を評価する矛盾した検証報告となったということではないだろうか。

 そのために政府寄り優勢のメンバー構成を必要とした。

 実際は早い時点で犯行主体を「イスラム国」と特定していながら、身代金要求には応じない姿勢でいたことを隠すために2015年1月20日の動画配信まで犯行主体を特定できなかったと時間稼ぎしなければならなかった可能性も疑うことができる。

 そういう姿勢でいるなら、そういう姿勢でいると国民に理由と共に正直に説明すべきである。そういう姿勢でいながら、「人命第一」だ、「人命最優先」を唱えていたとしたら、国民を欺く行為に他ならない。

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