勿論、稲田朋美のこのような心理構造は安倍晋三も同じ穴のムジナとして持っている。
「朝日新聞社慰安婦報道検証第三者委員会」(中込秀樹委員長)とでも言うのだろうか(「asahi.com」には、〈朝日新聞社による慰安婦報道を検証する第三者委員会(中込秀樹委員長)〉と形容されていた。)12月22日、検証結果の報告書を公表した。
戦前の韓国・済州島で軍令により若い韓国人女性を奴隷狩りのように追い回して狩り立て、従軍慰安婦に仕立てたとした「吉田証言」が虚偽の事実に基づいて書かれた創作と判明後も、「吉田証言」を根拠として書いた記事誤報を訂正もせずに長年放置し、取り消す対応などが遅れたことを「読者の信頼を裏切るもの」と検証、本年8月に過去の記事を取り消した際に謝罪をしなかったことは経営陣の判断で誤りであったと指摘、その他の検証が報告書は明らかにしているという。
この第三者委員会の報告書公表を受けて早速、自民党政調会長の右翼国家主義者であり、歴史認識に於いてすべての面で安倍晋三と精神的一卵双生児である稲田朋美が自民党本部で記者団に発言している。
稲田朋美「報道が国際社会に与えた影響は小さくない。朝日は日本の名誉回復へ、運動の先頭に立ってもらいたい。
報道の自由は国民の知る権利に資するとして尊重されている。そのため、真実(だとする報道)については厳しい検証が必要だ。朝日は長期間誤りを訂正しなかった。報道機関としての自覚が足りない」(中日新聞)
稲田朋美がこのように発言するのは、「1993年8月4日の調査結果(河野談話)の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」(第1次安倍内閣・政府答弁書)ことを以って従軍慰安婦に関わる強制連行や強制売春、あるいは性奴隷(セックススレイブ)の事実は存在しないという歴史認識を絶対としていることに対応させて、虚偽の「吉田証言」に基づいて記事にした朝日の誤報が日本軍による従軍慰安婦強制連行の事実と強制売春、あるいは性奴隷(セックススレイブ)の事実を世界に振り撒き、日本の名誉を傷つけたとし、朝日が「吉田証言」を事実でないと認め、「吉田証言」に基づいて書いた記事を誤報と認めた以上、朝日新聞自らが日本の名誉を回復しなければならないという考えに立っているからだ。
勿論、政府答弁書を発した安倍晋三にしても同じ考えの同じ立場に立ち、朝日が先頭に立った日本の名誉回復という同じ趣旨のことを国会やその他で何度も発言している。
要するに安倍晋三や稲田朋美、その一派は従軍慰安婦に関わる自分たちにとってのそれぞれの非事実を朝日新聞の誤報が日本のみならず、世界に対して事実に変えて存在たらしめ、日本や世界の事実とした。その結果として日本の名誉を傷つけたとする論法を用いている。
特に朝日新聞がその虚偽・非事実を世界に広めるに役立った。日本の名誉を傷つけた罪は重大で、朝日新聞は自らの力で日本の名誉回復に務めなければならないと要求していて、朝日第三者委員会の報告書公表を受けて、稲田朋美は改めて要求した。
安倍晋三の意思をも受けているに違いない。歴史認識に於いて安倍晋三と精神的一卵双生児の関係にあるからなのは断るまでもない。
だがである。安倍晋三や稲田朋美、その一派が従軍慰安婦に関わる様々な事実を全面否定する根拠としている「政府発見資料」には強制連行を示す記述は見当たらなかったとしている論理には強制的に従軍慰安婦にされ、売春を強制されて性奴隷(セックススレイブ)とされた元従軍慰安婦の証言が抜けている。
いや、単に抜けているということだけではなく、一切見向きもしていない。
安倍政権が行った「河野談話」作成過程検証の報告書、《慰安婦問題を巡る日韓間のやりとりの経緯》(2014年年6月20日報告書公表)には、「河野談話の根拠とされる元慰安婦の聞き取り調査結果について、裏付け調査は行っていない」と書いてあり、しかも検証は日韓間に於ける「河野談話」作成に関わる検証のみで、「検討チームにおいては、慰安婦問題の歴史的事実そのものを把握するための調査・検討は行っていない」と、従軍慰安婦の存在そのものに関わる事実究明には一切タッチしていない。
いわば「河野談話」作成過程検証チームは「河野談話」作成チームが裏付け調査を行っていなかったことを以って元従軍慰安婦の証言が証明している強制連行その他の従軍慰安婦に関わる様々な事実を無視しているばかりか、検証チーム自体も「慰安婦問題の歴史的事実そのものを把握するための調査・検討」を行わないことで、元慰安婦の証言を無視する二重の無視を行っている。
何度もブログに書いているが、当時日本軍が占領していたインドネシアでオランダ人民間収容所に収容していた20歳以下の若いオランダ人を十数名の日本軍兵士がトラックで乗り付けて拉致同然に連行し、慰安婦に仕立て、売春を強制した事実は戦後現地オランダ軍の軍事裁判に掛けられて主犯格の日本軍将校の一人が死刑の判決を受け、処刑されたことは、関わった日本軍兵士の様々な証言を含めて裁判記録として残されているし、強制的に従軍慰安婦にされたオランダ人女性の証言も残されている。
インドネシアではインドネシア人作家によって数々の聞き取り証言が記録され、日本人も聞き取りを行っている。歴史家の鈴木隆史氏は「私は決してあの苦しみを忘れらない、そして伝えたい」と題して元従軍慰安婦に対して2013年3月と8月に聞き取り調査を行い、紛れも無い強制連行と強制売春等々の証言を得て、記録に残している。
東南アジア社会史研究者であり、慶應義塾大学経済学部名誉教授の倉沢愛子氏は同じくインドネシア女性元慰安婦に対する聞き取りを《インドネシアにおける慰安婦調査報告》と題してPDF記事にしてネットで公開している。
その他台湾やフィリッピン、その他の地域で日本軍によって強制的に従軍慰安婦として狩り出され、セックススレイブとされた女性たちの多くの証言が残されている。
このような多くの証言に共通している構図は日本軍兵士によって身体的強制力を以って連行されて慰安所に監禁され、自由を奪われ、同じく身体的強制力を以って多くの日本軍兵士によって売春させられたという事実である。
単なる偶然の一致かもしれないが、著者の吉田清治自身がフィクションと認めた「吉田証言」に描かれた強制連行と強制売春の構図と共通している。
だが、安倍晋三と稲田朋美、その一派は裁判記録にまで残されているこのような証言を一切無視し、「政府発見資料」には強制連行を示す記述は見当たらなかったことの事実一つを以って従軍慰安婦に関わる全ての事実を否定し、朝日誤報によって日本の名誉が傷つけられたとしている。
さも、「吉田証言」と朝日誤報が従軍慰安婦の事実を歴史上に登場させ、世界に広めて日本の名誉を傷つけたたかのように朝日を非難し、名誉回復を要求している。
「吉田証言」と朝日誤報がなくても、日本軍兵士によって行われた従軍慰安婦に関わる数々の忌まわしい事実は戦争中の歴史に登場し、世界に存在足らしめていたのであり、それが元慰安婦の多くの証言によって戦後の歴史の中で明らかにされたという経緯を取っているに過ぎない。
安倍晋三や稲田朋美一派の数々の証言を無視し、「政府資料」の記述一つを根拠とした日本軍による従軍慰安婦強制連行や強制売春等の事実の否定は、物的証拠がなくても、多数の証言を前に無罪宣告するに似た乱暴な歴史的裁きであり、乱暴な対朝日名誉回復要求としか言い様がない。
戦前日本国家を肯定し、正当化したいがばっかりに従軍慰安婦の否定だけに終わらない安倍晋三や稲田朋美、その一派の数々の歴史の歪曲といったところなのだろう。
その程度の認識能力しかない。