2014年10月3日の衆院予算委で民主党辻元清美が総務相の高市早苗に対して高市自身の歴史認識に反する内閣の歴史認識継承の矛盾を追及した。果たして成功したかどうかである。
辻元清美「歴史認識について河野談話は政権が引き継ぐというだけではなくて、各閣僚が足並みを揃えて引く継ぐところまでして貰わないと困る、不協和音が出てはですね。
これは全閣僚の問題だと思いますので、何人かで、今まで違っていたことを仰っていた方にお聞きしたいと思います。
先ず高市大臣。積極的に発言をされてきました。私も色々と読ませて頂いて、例えばですね、『正論』にかつてですね、こういうことをお書きになっています。
村山談話を指して、『この不見識な見解をこのまま放置するならば、犯罪国家の国民として、子孫を縛り続けることになる』
今でもこのご認識ですか」
高市早苗「私は憲法66条の精神に則りまして、えー、閣僚は、えー、一致してですね、えー、この国会に対して、ま、責任を負うものだと思っています。この場は私の個人的な見解を、えー、述べる場ではないと考えております」
辻元清美「あの、そうしましたら、閣僚として村山談話と河野談話を継承するということでよろしいでしょうか」
高市早苗「先ず、あのー、河野談話につきましては。官房長官談話でございます。これは菅官房長官から、引き継がれるか、また、そうでないか、(菅)官房長官の決定で、私は閣僚として引き継がせて頂きます。
村山談話につきましては、ま、既に閣議決定されたものでございます。ま、政権として引き継ぐということを伺っておりますので、内閣という機関の一員としてこの方針に従います」
辻元清美「かつてですね、高市さんがえー、英霊慰霊顕彰勉強会というのところでですね、『今から思えばなぜ歴代自民党政権が村山談話を継承してしまえ、踏襲してしまえ、閣僚全員がガンジガラメにされてきたのかと、アホらしくなってしまいます。私が一番無念に思っているのは、安倍内閣までもが村山談話を踏襲したことだ』と仰ってるので、私はお聞きしているのです。
もう一度お聞きしますが、このときはこう仰っていましたが、踏襲するということですね」
高市早苗「現在私は内閣の一員でございます。一政治家としても、信念・主張、これまでの主張はございますけれども、内閣のメンバーが国民の代表であります国会に対しましてみんながバラバラ、銘々が好きなことを言い出しては、それは内閣として機能しないと、考えております」
自民党席からだろう、かなりの数の拍手が起こる。
辻元清美「私とほぼ同じ時に当選をしましたが、えー、高市さん、随分とお変わりになった、今お聞きしながら思いました」――
次いで安倍晋三の「吉田証言」が河野談話強制性認定に影響を与えたとするかつての発言と今回の河野談話作成過程検証チームが影響を与えなかったと結論づけた報告との矛盾を追及するが、高市早苗に対してもそうであったように、安倍晋三にも、軽くいなされたのだから、痛くも痒くもない追及で終わっていた。
最後の「私とほぼ同じ時に当選をしましたが、えー、高市さん、随分とお変わりになった、今お聞きしながら思いました」は言わなくてもいい、余分な発言である。攻め込むことができなかったから、余分なことを言って締めくくらなければならなくなる。
要するに高市早苗の自身の主張とは違う歴史認識ではあっても、内閣の一員として内閣が決めたことは継承するというガードを突き崩すことができなかった。
だが、このことは重大な問題を孕んでいる。突き崩すことができなかったことによって、自身と内閣の歴史認識が異なっていても、内閣の一員として継承すると言えば、どのような歴史認識を持っていようとも許されるとする大義名分を逆に与えることになったからだ。
と言うことは、内閣の一員ではない立場では好き勝手な歴史認識をいくらでも発言できるということも認めたことになる。
高市早苗は村山談話に関して「この不見識な見解をこのまま放置するならば、犯罪国家の国民として、子孫を縛り続けることになる」と言い、「今から思えばなぜ歴代自民党政権が村山談話を継承してしまえ、踏襲してしまえ、閣僚全員がガンジガラメにされてきたのかと、アホらしくなってしまいます。私が一番無念に思っているのは、安倍内閣までもが村山談話を踏襲したことだ」とまで言っているのである。
であるなら、継承するのかどうかの点に絞って追及するのではなく、自身の歴史認識と異なる継承の矛盾に絞って追及すべきだったはずだ。
「そうとまで言っている以上、犯罪国家の国民として、子孫を縛り続けることになる不見識な村山談話に閣僚としてガンジガラメになるのはアホらしいと、なぜ自身の主義主張を優先させて閣僚の就任を断らなかったのか」と追及しなかったのだろうか。
「総務大臣の就任を断れば、あれ程までに非難・否定していた村山談話を閣僚として継承せずに済むし、自身の主義主張・歴史認識に忠実であることができたはずだ。意に反する歴史認識にガンジガラメになるよりもその方が潔い政治家としての評価を受けることができたはずだ」と、そうあるべきだと言いながら、逆に潔くないではないかと暗に批判できたはずだ。
「一番無念に思っていた安倍内閣の村山談話踏襲に閣僚の一員だからと言って自らも加わるのは一番無念に思って自身の気持を裏切ることであって、果して潔い政治家のすることだろうか。なぜ閣僚就任を断らなかったのか」と。
例えこの追及が高市早苗に巧みに言い抜けられたとしても、自身の主義主張に潔くない政治家という印象を植えつける作戦に絞って、時間がくるまで追及し続けたなら、高市早苗を総務相に任命した安倍晋三の人事上の感覚についても少しは疑問符をつけることができたはずだ。
高市早苗が安倍内閣の閣僚の一員になれたのは、既に周知の事実となっているように歴史認識に於いて安倍晋三と同じ穴のムジナを形成しているからに他ならない。
013年4月23日参議院予算員会。
丸山和也自民党議員「いわゆる村山談話ですね、戦後50周年の、出された村山談話、これについてお聞きしたいんですけれども、これについての評価がいろいろ分かれております。昨日も白眞勲君、先生から質疑がございましたけれども、私はこれを読みまして非常に問題があると思っている。
どの部分が特に問題があるかということは、最後から二段目の『わが国は、遠くない過去の一時期』、ここの部分ですね。この中でどこが問題かといったら、三点問題がございます。
まず第一、『遠くない過去の一時期』、これは歴史の評価としていつを指しているんですか、いつからいつまでですか、全く明らかになっていない。『国策を誤り』、どういう国策を誤ったのか、どういう国策を取るべきだったのか、全く触れていない。『植民地支配と侵略によって』、この植民地支配と侵略という、植民地いわゆる政策。植民地というのは色んな定義がございます。西欧列強がやった、イギリスのインドの支配のようなものもありますれば、日本の例えば植民地と言われている日韓併合、国と国との合意によってなされた、こういうのもございます。
ですから、ここら辺も全く中身を吟味しないまま、とにかく曖昧なまま済みませんというような、事勿れ主義でうまく仲よくやりましょうよみたいな文章になっているんですね。こういう談話であっては歴史的価値は全くないと私は思うんですね。これについて総理はどのように思われますか」
安倍晋三「ただいま丸山委員が質問をされた点は、まさにこれは曖昧な点と言ってもいいと思います。特に侵略という定義については、これは学界的にも国際的にも定まっていないと言ってもいいんだろうと思うわけでございますし、それは国と国との関係において、どちら側から見るかということにおいて違うわけでございます。
そういう観点からも、この談話においてはそういう問題が指摘をされているというのは事実ではないかと、このように思います」――
自身の歴史認識に関しては村山談話を否定していながら、内閣として継承する。これは自らの歴史認識に関わる主義主張に潔くできないことからの裏切りであり、マヤカシ行為以外の何ものでもない。
この精神構造に於いて安倍晋三と高市早苗は“懇ろな”関係にあると言うことができる。
自身の歴史認識と異なっていながら、内閣の一員として内閣の歴史認識を受け継ぐことが如何に自身の主義主張に潔くないかということを印象づけることができた場合、閣僚になりたくてもなることができないかなり多くの自民党議員が出てくる可能性は考えることができる。
そうなるべきだし、そうするよう仕向ける努力はすべきだろう。
辻元清美の追及は時間とカネのムダ遣い以外の何ものでもなかった。