菅仮免の国会事故調参考人証言で如何に情報処理に関わる認識能力が劣っているか、そのことが最も現れている遣り取りが次の個所である。 野村委員「ちょっとこちらをご覧頂ければと思いますが、3月11日ですから発災当日なんですが、ちょっと見えなければ、こちらの方にございます」
ここでの菅の情報処理能力とは菅自身の矛盾だらけの情報公開論、矛盾だらけの対国民説明責任論となって現れている。
情報という事柄に対する認識能力の劣りは当然、組織のトップに立つ能力がないことの証明でしかない。
情報処理は深く解釈能力・判断能力に影響を受ける。解釈能力・判断能力のない人間が組織のトップに立つ資格を持てるはずがない。組織のトップに立つ資格のない人間が組織のトップに立ったことで悲劇が生じた。
スクリーに大きく映し出すが、ハキリとは見えない。保安院作成の「福島第1(原発)2号機の今後のプラント状況の評価結果」のことで、以下別のところから転載。
3月11日20時30分――原子炉隔離時冷却系(RCIC)中枢機能喪失。
21時50分――燃料上部から3メートルの水位。今後さらに下がっていく。
22時50分――炉心が露出する。
3月12日0時50分――炉心溶融の危険性。
5時20分――核燃料全溶融。最悪爆発の危険性。
野村委員「これは既に色々なところに掲載されているものですから、ご存じの方も多いと思いますし、総理もこれをご覧になられたと思うんですが、当日22時44分頃に官邸の危機管理センターの方に今後炉が万が一このまま防御できずに事故が進んでいった場合には、予想としてですね、例えば22時50分の段階では炉心が露出しますよと。
あるいは24時50分の段階では燃料の溶解が起こりますというようなものです。
すみません。失礼しました。これ2号機についての話です。今後こういうことになった場合という見立てという名称なんですけども、この種のものは当日、総理のお手元には届いたでしょうか」
菅仮免「確か、当日こういうものを見せられた覚えがあります。2号機です。当日非常に2号機・1号機、それぞれあったわけですが、その後の展開の中では1号機の方の危機的状況が大きいというふうに、少なくともその時点では焦点が1号機に移ってくるその前の時の、こういう見通しの案がなされたと思います」
野村委員「この段階でこのような可能性についてどのようにして国民に対して説明をしていこうというふうにお考えになられたのでしょうか。総理のご指示は何か出たんでしょうか」
菅仮免「私自身は先程来申し上げておりますように色んな方から、あるいはこういうことも含めて、今後の展開について色々な予測を私なりに聞いてはおりましたが。
しかし現実に、と言いましょうか、当時原子力安全・保安院なり、安全委員会なり、東電の来ている方の話は、こういうプロセスではなく、例えばある時期にではですね、今の認識とは違いますから、当時の認識ですが、水がまだ燃料の上であると、かなり遅い段階までそういう報告を東電なり保安院が私に対してもしておりました。
そういった意味で当時の国民への発信は官房長官にお願いをしておりましたけども、私の認識は、多分官房長官も同じだと思いますが、事実として分かっていることを隠すことはしないと。
しかし事実として分からないことまでですね、どこまでどういう表現をするのか、それは官房長官として判断をされてやっておられて、私はそれでよかったと思っています」
野村委員「昨日の官房長官のお話ですと、官房長官はむしろ情報の収集とか整理、判断、こういったようなところにやや問題があって、その情報をきちんと整理して、確定させたそのプロセスのところ、むしろ問題があり、それを決まったことを対外的に発表されているご自身には、それは致し方がない面があったんだという、そのような趣旨の発言があったように思います。
そうなりますと、その前提として、どのような事実を国民に伝えるのか、あるいはどこまで可能性の高いもので、どこまで可能性のないものなのかということについてのご判断をされるところか、先ず第一次的に重要だと言うことを(枝野が)昨日おっしゃってらしたと思うんですが、その責任を取られていられた方が総理でしょうか」
菅仮免「ちょっと質問の趣旨が正確には分かりませんが、少なくとも炉の状態ということのコアのファクト、事実というのはまずは東電、分かるとすれば東電なんです。
その東電も電源が落ちていますから、例えば圧力計とか水位計とか、あとになってみれば正確でなかった、あるいはそのときも(正確)でなかったんです。
しかしその時点では多少水位計が動いていましたから、時折りその報告が来るんですよ。その報告を見ると、燃料棒が上にあるというのか、相当なときまできております。
多分、政府の中間報告にはそれが全部出ていいるはずです。そういう時にですね、そういう事実の報告があったということは、場合によれば言えますけども、いや、この事実は来たけれども、そうではないかもしれないというところまでですね、言う(公表する)のは、それはなかなか、それが官房長官であるのか誰であるのか別として、言えないと思います。
ですから、そういうことをですね、少なくとも炉の状態ということを把握して判断する、その専門家集団とすれば、それは東電自身と原子力安全・保安院と原子力安全委員会、他にも能力的にはあるでしょう、少なくともそういう所が法律で期待されていた所でありまして、それに添って官房長官が国民に対して、それを踏まえて話をされたと、そう理解をしております」
野村委員「例えばですね、こういったような事態が起こるかもしれないということをオープンにするということは全く考えてはいなかったということでしょうか。
つまり今このときにですね、避難が始まっているわけです。この避難、翌朝に亘って避難される方々が出てきています。さらにはその翌朝になりますと、避難の範囲を変えるといったようなことがどんどん起こってまいります。
そういったようなときに、一応国民に対して可能性は非常に低いけども、、こういったようなリスクもあるので、今回避難をして欲しいというようなことを、ある意味では政府の方針としてお示しになる選択肢もあったんだと思いますが、そのようなことは総理のお考えの中になかったんでしょうか」
菅仮免「基本的には国民の皆さんにお知らせする、その直接の担当は官房長官にお願いをしておりました。
多くの場合、官邸ははそういう制度になっておりました。昨日は官房長官であった枝野さんが、それも厳しかったんだと、本来は広報官がいてですね、知らせるのは広報官で、それをちゃんと集めて、ちゃんと誰かに分析させるのが官房長官がやる仕事であるんだけども、両方は厳しかったと、いうふうに言われていました。
私も同様な認識を持っています。
私が少なくとも、その5分までですね、予測とかなんなりとか判断をすることは、それは出来ません。やはり専門家、皆さんにこういうことを出してこられた、あるいはこういうことを見て頂いた専門家の皆さんにどうでしょうかと、その中で決まったのが先程のご説明しましたような避難範囲を決めるときには必ず保安院、原子力安全委員会、東電の関係者にも話を聞いて、ほぼ皆さんの提案に添って、決めていったと。
これを勘案したということです」
野村委員「避難の範囲をどう決めたかっていうことを聞いているのではなくて、国民に対してどれぐらいのシビアな状態にあるのかということを伝えるという、個々にある部分についての決定は官房長官が行うという形になっていたんでしょうか」
菅仮免「原則的なことを言えば、事実が事実として確認されていれば、それは伝えるというのは私もそういう方針でしたし、官房長官も同じだったと。
そういう意味では共通の方針です」
野村委員「例えばこういう可能性があると。これは全く、例えばですね、炉が制御できなくなったときにはこんなに早いタイミングでこういう事態が起こるということを一方で情報としてあるわけですね。
さらに総理が今おっしゃられましたように、それを防護できる、そういう動きも他方であると。
そういうような状況の中で、私共国民はこのことを何も知らされないまま、炉が今どうなっているかということは分からずに、念のための避難ですという情報だけしかいただけなかったわけなんですが、それは私共国民には、こういう情報を直に出すことは危険だと考えて対処されたんでしょうか。
それとも国民に何か伝えるっていう決めるプロセスがなかったということなんでしょうか
」
菅仮免「同じ言い方で恐縮ですが、事実として確定していれば、これは伝えます。これは事実として確定したものではなくて、ある解析結果です。
で、現実にそのとおりになりませんでした。なったかもしれません。
色々な事例があります。だから、事実として確定したことは伝える。これが私の内閣の原則ですし、そして枝野長官もそれにそってやってくれたと。
しかし確定してないものまでですね、色んな予測が出ますから、私のところに色んな予測を言ってきた人がたくさんおります。その予測を一つ一つ代わって説明するというのはこれは必ずしもやるべきであるか。あるいはできるかと言われると、それはそういう予測した人が自分としてそういう予測をしたと言われることまで止めませんが、代わってこの予測をですね、説明するというのは、それはそこまでは無理というか、そこまでやるのは必ずしも適切だとは言えないと思えます」
野村委員「事実っていうのはこうなるのかならないというのが事実ではなくて、これは正式なプロセスの中で出てきた解析結果でありまして、外の誰かが、専門家が言ってですね、総理の所にお届けになってるお話ではないわけですね。
要するに総理の所にこの情報を届けるべくして届けられた情報というわけですから。今現時点に於いてはこの事実が届いたと、この解析結果が届いたということは事実なんだと思うんです。
このような解析結果が届けられていますと。だから、最悪の場合はこういうことになると想定しつつ、それを極力起こらないようにするために今こういった対策を採っていますということが伝えられていれば、避難の仕方が随分違ったのではないかという声があるんですが、その点についてはどのようにお考えなんでしょうか」
菅仮免「ま、そういった問題は是非ですね、本当に皆さん方でよく検証していただきたいと思います。
おっしゃることは分からないわけではありません。しかし先程来言ってますように色んな予測に対してどういう対応をすべきかという案などは、当時上がってきておりませんでした。
そいう中でどこまでですね、色んな可能性を示されたものをどこまでどういう形で説明をするのか、それが適切なのか、それについては是非皆さんの方でも検証していただきたいと思います」
野村委員「ありがとうございます。私の方は以上でさせて貰いますが、ご質問させていただきました趣旨は、総理、まさにご自分がおっしゃられましたように、今回のは原災法が予定していたような災害とは違っていて、対応が非常に難しい複合的な災害であった。あるいは原子力事故であったというご発言であったと思います。
そこでかなりの工夫をされて、法律にないことを対処されたということであったわけなんですが、そうであればこそ、総理のところでの全体像のデザインの描き方というのが様々な所の、何て言うんでしょう、対策に影響してくることであったかというふうに思うわけなんですが、そういう点で最後に一言お伺いしたいんだけども、今振り返ってみれば、そういうようなところは法制度にきちっと定めておくべきであるとか、あるいは法制度になかったことしても、総理の権限でこういったことはすべきであるというようなことをまさに総理としてご経験された参考人の方から是非一言、ご助言頂ければと思います」
菅仮免「私は必ずしもこういう問題で総理の権限が弱かったとは思っておりません。原災法の今の法律は場合によっては事業者に対する指示もできるという法律になっておりますので、そのことが弱かったとか、弱過ぎるたということは思っておりません。
それよりも本来原災法のもとで、本部長の元の事務局を務める原子力安全・保安院が、大体が総理とか大臣は原子力の専門家がなるポストでは一般的にはありませんから、そうではない人がなることが前提として、きちっとした状況把握、きちっとした対策案、そういうものを提示できるような組織でなければならないし、それが不十分だったと。
ですから、今後、原子力規制庁なり、あるいは委員会を今後国会で議論いたしますけれども、そういう時にはしっかりとした、シビアアクシデントに対しても対応できる能力を持った、そういう組織が必要だと。そのことはおっしゃるとおりだと思っています」
菅の言っていることは最初から最後までメチャクチャである。
野村委員は3月11日22時44分頃、官邸危機管理センターに保安院提出の「福島第1(原発)2号機の今後のプラント状況の評価結果」を菅が即座に公表しなかったことについて、「この段階でこのような可能性についてどのようにして国民に対して説明をしていこうというふうにお考えになられたのでしょうか。総理のご指示は何か出たんでしょうか」と尋ねた。
対して菅は先ず、原子力安全・保安院も安全委員会も東電も「水がまだ燃料の上であると、かなり遅い段階までそういう報告を東電なり保安院が私に対してもしておりました」と、それが「当時の認識」だったとして、未公表を正当化している。
あるいは、「少なくとも炉の状態ということのコアのファクト、事実というのはまずは東電、分かるとすれば東電なんです。
その東電も電源が落ちていますから、例えば圧力計とか水位計とか、あとになってみれば正確でなかった、あるいはそのときも(正確)でなかったんです。
しかしその時点では多少水位計が動いていましたから、時折りその報告が来るんですよ。その報告を見ると、燃料棒が上にあるというのか、相当なときまできております」と言って、保安院の解析と現状の違いを言って、未公表を正当化している。
但し後者の発言には矛盾がある。「例えば圧力計とか水位計とか、あとになってみれば正確でなかった、あるいはそのときも(正確)でなかったんです」と言いながら、すぐあとで、「しかしその時点では多少水位計が動いていましたから」と前後で矛盾したことを平気で言っている。
だが、2号機の状況を予測し、解析して、「福島第1(原発)2号機の今後のプラント状況の評価結果」に纏めて官邸に提出したのは保安院自身である。
この解析は機能している圧力計や水位計、その他の計器、そして放出放射線量を測定して予測した解析であるはずである。
いわば菅は事実でないことを平気で言って、未公表の自己正当化を図っていることになる。
2号機よりも1号機の方の対応を優先させるとして、1号機の原子炉内の圧力を抜くためのベントを海江田経産相が東電に対して指示したのは保安院がこの文書を官邸に提出した3月11日22時44分頃から約3時間後の3月12日午前1時30分頃である。
この緊急を要する状況把握にしても、菅が行ったはずはなく、東電や保安院が機能している圧力計や水位計、その他の計器、そして放出放射線量を測定して行ったはずで、その状況が官邸に伝達されていたからこそ、海江田経産相が東電に対してベント指示を出せたはずである。
当然、1号機も2機も緊迫した危機状況にあったということでなければならないはずで、にも関わらず「水がまだ燃料の上であると、かなり遅い段階までそういう報告を東電なり保安院が私に対してもしておりました」と正反対の状況を説明している。
保安院の、「福島第1(原発)2号機の今後のプラント状況の評価結果」がかなり正確に解析していたことは水野賢一みんなの党議員が2012年3月8日に野田内閣に対して提出した「炉心損傷等の定義に関する質問主意書」に対する202年3月16日答弁書が証明している。
〈東京電力株式会社福島第一原子力発電所の第一号機から第三号機までの各号機における炉心の状態の解析結果について、
第一号機においては、
2011年3月11日午後6時頃に炉心損傷が始まり、その後、燃料が溶融し、溶けた燃料が原子炉圧力容器下部に移行していたものと推定されるとしており、
第二号機においては、
2011年3月14日午後8時頃に炉心損傷が始まり、その後、燃料が溶融し、溶けた燃料が原子炉圧力容器下部に移行していたものと推定されるとしており、
第三号機においては、
2011年3月13日午前十時頃に炉心損傷が始まり、その後、燃料が溶融し、溶けた燃料が原子炉圧力容器下部に移行していたものと推定されるとしている。
これは、第一号機から第三号機までの各号機において一についてでお示しした「メルトダウン」が生じたことを意味している。また、第四号機については、燃料が装荷されておらず、第五号機及び第六号機については、非常用電源により原子炉の冷却を行ったため、これらの号機については、いずれも一についてでお示しした「炉心損傷」に至っていない。〉・・・・・
1号機のメルトダウンは5月半ば頃の東電による暫定評価で判明したものだが、より正確なメルトダウン到達時間は3月12日午前7時前後だということだが、保安院解析の時間は「3月12日0時50分・炉心溶融の危険性」となっていて、より早めの対応が必要となる危機管理から言うと、6時間早い時間は早過ぎることはないはずである。
菅は理屈にもならない責任逃れの言い訳をした上で、「事実として分かっていることを隠すことはしない」とか、「事実として分からないことまでですね、どこまでどういう表現をするのか、それは官房長官として判断をされてやっておられて、私はそれでよかったと思っています」、あるいは「事実が事実として確認されていれば、それは伝えるというのは私もそういう方針でしたし、官房長官も同じだった」とヌケヌケと自己正当化の強弁を用いている。
言っていることは、“事実として確定していなければ、情報公開はしない”を原則としているということである。
野村委員に、被災者が状況も分からずに避難しなければならなかった、こういった情報は危険だと考えて出さなかったのか、それとも「国民に何か伝えるっていう決めるプロセスがなかったということなんでしょうか」と問われて、次のようにどうしようもない証言を行なっている。
菅仮免「同じ言い方で恐縮ですが、事実として確定していれば、これは伝えます。これは事実として確定したものではなくて、ある解析結果です。
で、現実にそのとおりになりませんでした。なったかもしれません。
色々な事例があります。だから、事実として確定したことは伝える。これが私の内閣の原則ですし、そして枝野長官もそれにそってやってくれたと。
しかし確定してないものまでですね、色んな予測が出ますから、私のところに色んな予測を言ってきた人がたくさんおります。その予測を一つ一つ代わって説明するというのはこれは必ずしもやるべきであるか。あるいはできるかと言われると、それはそういう予測した人が自分としてそういう予測をしたと言われることまで止めませんが、代わってこの予測をですね、説明するというのは、それはそこまでは無理というか、そこまでやるのは必ずしも適切だとは言えないと思えます」・・・・・
「現実にそのとおりになりませんでした」と言って、すぐに「なったかもしれません」と付け加えて、その当時はいずれなのか判断不可能であったかのように言っているが、どのような結果が出るのかは後になって分かることであり、原子炉の圧力と温度が下がって安定して初めて事後的に判断可能となる“なった・ならなかった”でありながら、安定していないどころか、危機がどう進行するかも分からない時点では不可能な事後の判断を以てして公表しなかったことの正当な理由とする詭弁を用いて誤魔化している。
何よりも問題なのは、情報が出た時点でそのとおりになるかならないかという事実の確定と情報公開とは別問題であるという認識がないことである。
だから、「事実として分かっていることを隠すことはしない」とか、「事実が事実として確認されていれば、それは伝える」、あるいは「事実として確定していれば、これは伝えます」といったことが言える。
もし頭のいい菅仮免が言うように、“事実として確定していなければ、情報公開はしない”を原則とすることが正しい情報処理の方法だとすると、気象庁の天気予報は日々事実として確定していないことを情報公開していることになる。
原子力事故と天気予報とではその重大性に違いある。原子力事故の場合は、情報によっては国民の間にパニックが生じ、飛んでもない混乱を引き起こす危険性を抱えていると言うかもしれないが、日本列島縦断の進路を取って各地で大雨を降らし、洪水や土砂崩れ・がけ崩れを誘発する危険性を抱えたこれまでの例を見ないような刻々と勢力を増していくと見られる大型台風を予報した場合、原発事故の被害程ではないとしても、相当な被害をもたらすことは前以て予想できる重大性を抱えているはずである。
だからと言って、“事実として確定していなければ、情報公開はしない”という原則に則って上陸という事実が確定してから、あるいは日本列島縦断という事実が確定してから台風情報を発するということが許されるだろうか。
今回のような重大な原子力事故や大型の自然災害といった場合の国民に対する情報公開とは事実の確定の有無とは無関係に国が責任事項としている国民の生命・財産の保護に役立てることができるかどうかを基準に判断されるべき対国民説明責任であって、一国のリーダーとして菅仮免が例え「事実として確定」していない情報であったとしても、その危険性が捨て切れないかどうかを自己判断して行うべき務めであるはずである。
ここで言っている自己判断とは野村委員が「どこまで可能性の高いもので、どこまで可能性のないものなのかということについてのご判断をされる」と言っていたことに相当する。
だが、菅仮免は国民の生命・財産の保護よりも、“事実として確定していなければ、情報公開はしない”基準とする非合理性に囚われていた。
但しここが判断能力欠如の菅の菅たる所以なのだろう、菅仮免は、“事実として確定していなければ、情報公開はしない”原則を自ら破っている。
多分、2011年3月22日に近藤原子力委員会委員長に作成要請最悪事態想定の「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」を公表しなかったのは“事実として確定していなければ、情報公開はしない”の原則に則ったからなのだろう。
このシナリオは「想定し得る不測事態」として、「1号機水素爆発発生→原子炉注水不可能→付近の放射線量上昇→作業員退避→4号機燃料プール注水不可能→燃料露出と融溶→同時に2号機・3号機注水不可能→格納容器損壊→放射性物質の外部大量放出」を予測、避難範囲を「半径170キロ、住民強制的移転、半径250キロ、住民任意の移転」と予測していた。
だが、20111年末情報公開請求をキッカケとして発見され、公文書として扱われ、公になった。
そして菅は「事実として確定」していなかったこの最悪のシナリオを首相退陣後、さも事実として確定する可能性が高かったように詐術して自己功績の情報として利用した。
《菅前首相インタビュー要旨》(時事ドットコム/2011/09/17-19:58)
2011年9月17日までのインタビュー。
記者「3月16日に『東日本がつぶれる』と発言したと伝えられた。」
菅仮免「そんなことは言っていない。最悪のことから考え、シミュレーションはした。(東電が)撤退して六つの原子炉と七つの核燃料プールがそのまま放置されたら放射能が放出され、200キロも300キロも広がる。いろいろなことをいろいろな人に調べさせた。全て十分だったとは思わない。正解もない。初めから避難区域を500キロにすれば、5000万人くらいが逃げなければならない。高齢者の施設、病院もあり、それも含めて考えれば、当時の判断として適切だと思う」・・・・
さも撤退を阻止した結果であるかのように誇っているが、菅がこのインタビューに応じるずっと以前から、「事実として確定」しなかった事実を情報源として救世主であるかのように見せかている。
この発言から、菅が東京を救ったとする説が生まれているように思える。
この、「事実として確定」しなかった事実を利用した自己顕示は無能を埋め合わせて有能と見せかけるペテンがなせる技であろう。
有能であるなら、“事実として確定していなければ、情報公開はしない”を原則とすることではなく、国民の生命・財産の保護に何が必要かを原則として情報公開に臨むはずだ。このことを対国民説明責任の基準とするはずだ。
情報として伝達された予測、予想、解析の類は既に一つの事実である。それぞれが一つずつの事実としてそこに存在することになる。その事実をどう解釈し、自らの情報となしてどう発信するか、しないか、どう情報公開するか、しないかは偏に自身の合理的判断能力にかかっている。
事実として確定している、いないは関係しない。
危機管理は「事実として確定」した事態に対処することでもあるが、何よりも「事実として確定」していないが、十分に予測される事態に万が一に備えて対処することも重要な危機管理である。
地震学者その他が貞観地震とその津波の歴史的事実を指摘して東電に対してその備えをするよう警告としての情報を発したのは、後者の危機管理に入るはずだが、東電は無視した。
警告としての情報を発信した当時の貞観地震と津波クラスの再来の予測は「事実として確定」していない事実だったが、予想される一つの事実として東電に情報を突きつけた。
この事例一つ取っても、菅仮免のように、“事実として確定していなければ、情報公開はしない”を原則としていたなら、とても危機管理を任せることはできない判断能力の持ち主と断言せざるを得なくなる。
菅は最後に原子力事故対応の原災法について、「私は必ずしもこういう問題で総理の権限が弱かったとは思っておりません。原災法の今の法律は場合によっては事業者に対する指示もできるという法律になっておりますので、そのことが弱かったとか、弱過ぎるたということは思っておりません」と言って、原災法に不備はないことを言い、次いで、「本来原災法のもとで、本部長の元の事務局を務める原子力安全・保安院が、大体が総理とか大臣は原子力の専門家がなるポストでは一般的にはありませんから、そうではない人がなることが前提として、きちっとした状況把握、きちっとした対策案、そういうものを提示できるような組織でなければならないし、それが不十分だった」と証言、不備・不足は東電のスタッフや保安院のスタッフの専門的能力にあることを訴えている。
だが、最初に「総理の権限が弱かったとは思っておりません」と言っているのである。決して弱くはないその権限を持ちながら、東電や保安院、その他との情報共有に活用できなかった。
ここに菅本人は気づかない矛盾が存在することになる。
3月11日22時44分頃には保安院が、「福島第1(原発)2号機の今後のプラント状況の評価結果」を官邸災害対策本部事務局に提出しているし、同じく保安院が3月12日午後1時頃に「1号機において耐圧ベントができない場合に想定される事象について(案)」等を提出し、曲がりなりにも東電現場が原子炉の制御に成功しているのは現場自らの努力と同時に保安院やその他からの曲りなりの状況把握、曲りなりの対策案の提示があったからこそであり、そうでありながら、「きちっとした状況把握、きちっとした対策案、そういうものを提示できるような組織でなければならない」と言っている。
自身の無能を隠蔽する東電や保安院に対する責任転嫁にしか見えない。
責任転嫁だと断じても、これまで見てきた菅の判断能力の非合理性から見て、不当な批判だとは決して言えまい。