2011年3月11日東日本大震災発生から4日後の3月15日、文部科学省は原発から北西およそ20キロの福島県浪江町に職員を派遣、午後9時前に最大で1時間当たり330マイクロシーベルトの高い放射線量を測定。
この調査地点は3月15日夕方のSPEEDIの予測に基づいて選んだものだという。
《SPEEDIで実測も非公表》(NHK NEWS WEB/2012年6月11日 18時31分)
いわばSPEEDIが教えた放出放射性物質高放射線量地点であり、教えた通りの放射線量を示したことによってSPEEDIの有効性を証明することになったということであろう。
この事実はNHK入手の、文科省纏めの福島原発事故対応検証報告書に記されているという。
「内外におけるコミュニケーションで不十分な面があった」と対応不備を認める記載もあるという。
今更不備を言っても遅過ぎる。
記事は、〈測定結果は官邸に報告すると共に報道機関に資料を配付し、インターネットで公開したものの、現地の対策本部には報告せず、自治体にも伝わらなかったとして「関係機関との連携に反省すべき点が見られた」と記しています。〉と書いているが、あくまでも福島県浪江町に於ける放出放射線量測定結果の公表であって、測定地点をSPEEDIのデータに基づいて選んだということも、またSPEEDIを用いて放出放射線量濃度や放出方向を予測計算していたことも未公表扱いとしていた。
未公表と言うと、体裁良く聞こえるが、〈SPEEDIの計算の前提になる原発からの放射性物質の放出源の情報が地震に伴う停電によって得られなかったため、原子力安全技術センターが震災当日から放出量を仮定して入力して得られた予測データを文部科学省に報告してきたにも関わらず〉実質的には隠していた。
いわば情報公開すべきを、その逆の情報隠蔽を謀っていたと見るべきだろう。
事故直後から報道機関が公表を求めたのに対して、3月23日に一部試算データ公表、4月25日正式公表だと、原発事故発生から1ヶ月半も経過した公表を記事は遅過ぎる情報公開だとする文脈で書いているが、効果が分かっていながら、未公表としていたのだから、情報隠蔽以外の何ものでもない。
文科省にしても、未公表の正当性を仮定のデータだからとしていた。
文科省「放出源の情報が得られていないため実態を正確に反映していない予測データの公表は無用の混乱を招きかねない」
だが、仮定のデータであっても、実態を、多分ほぼ正確に反映していた。
「関係者は予測は現実をシミュレーションしたものとは言い難いと認識しており、当時の状況では(未公表は)適当であった」
いずれの未公表正当性をウソにするSPEEDIの予測効果であろう。
政府一丸となってウソをついていたと見るほかない。
北澤宏一民間事故調委員長「予測が実際の放射線量に結びつくことが分かった段階で、SPEEDIは不確かとは言えず、直ちに公表して住民の被ばくを深刻なものにさせないよう必死に努力するのが責任だ。この検証ではSPEEDIを生かすにはどうすればよかったのか、住民の立場からの検証が決定的に欠けている」
被災住民を放射能の危険に曝した。国民生命軽視の隠蔽であり、この意味で国家犯罪に相当するはずだ。
また国会事故調は論点整理で、SPEEDIは「事故の進展中の活用は困難。100億円の予算が投じられたが、モニタリング手法の多様化が初動の避難指示では効果的」(MSN産経)としているそうだが、文科省が今回明らかにした事実はこの論点整理をも否定するはずだ。
例え放出放射線量濃度が仮定の数値を用いて入力したものであっても、記事も書いているように各地の放出放射線量濃度実測値と気象や地形等の情報入力によって避難方向・避難地域の適不適、あるいは危険性の有無は予測できたことを教えている。
国会事故調と違って、他の事故調はその有用性を表明している。
政府事故調「仮に予測データが提供されていれば、自治体や住民は、より適切な避難経路や避難の方向を選ぶことができたと思われる」
民間事故調「住民の被ばくの可能性を低減するため、最大限活用する姿勢が必要だった」
これまでもブログに書いてきたと同時に既にご存知の向きもあるかもしれないが、政府のスピーディに対する対応をおおまかに振返ってみる。
先ず震災発生の3月11日から約5カ月前の2010年10月20日に静岡県の浜岡原子力発電所第3号機が原子炉給水系の故障により原子炉の冷却機能を喪失、放射性物質が外部に放出される事態を想定した、菅首相を政府原子力災害対策本部会議本部長とした「平成22年度原子力総合防災訓練」を行っている。
この訓練は「原子力災害対策特別措置法」の「防災訓練に関する国の計画 第十三条」に基づいているが、原発事故対応を通して「国民の生命・財産を守る」ことに主眼を置いた訓練であり、そういった訓練でなければならないはずだ。
訓練では緊急時迅速放射能影響予測システ(SPEEDI)を用いた環境放射能影響予測を行なっている。
次に地震発生が3月11日午後2時46分。その約2時間後の午後4時49分に政府が132億円かけて開発したという「SPEEDI」を作動させ、放射性物質の拡散状況を予測している(TBSテレビ『「報道の日2011」記憶と記録そして願い』/2012年12月25日放送)。
東電は3月11日午後2時46分地震発生から約2時間後の3月11日16時36分、福島第一1・2号機の原子炉水位が確認できず、注水状況が不明なため原災法第15条に基づく事象(非常用炉心冷却装置注水不能)が発生したと判断して、3月11日16時45分に原災法第15条報告を行っている。
その4分後に「SPEEDI」を作動させたことになる。
当然と言えば当然だが、要するにSPEEDIに関しては迅速な対応を行った。
昨年の8月27日(2011年)、東京都千代田区の日本プレスセンターで行われた民主党代表選共同記者会見。
質問者「今のホットスポットにも絡むんですけど、文部科学省が持ったスピーディっていう放射線の飛散の状況についての発表が遅れましたですよねぇ、対応の遅れ、あるいは、被災地の方の対応の不信感ということの一つに情報開示の遅れというのがあると思うんですが、この点については担当大臣として海江田さん、どうですか」
海江田経産相「私は今回、この福島の事故の対応で、自分自身に色々と反省することもございます。その中の、やはり一番大きな問題が先ずスピーディの存在を私自身、知らなかったんです。
これは正直申し上げまして、で、まあ、そのとき官邸にいた他の方にもお尋ねをいたしましたが、実はスピーディの存在そのものをみんな知らなかったということでありまして、これはやっぱり大変大きな問題であります」
菅仮免を政府原子力災害対策本部会議本部長とした2010年度原子力総合防災訓練時の経産相は大畠章宏で、大畠が訓練に参加している。
だとしても、「スピーディの存在そのものをみんな知らなかった」という事実は浜岡訓練の事実を無意味化し、その無意味化は普段言っている「国民の生命・財産を守る」をウソにする事実をも含むことになり、訓練の経費を無駄遣いしたことにもなる。
予算の適正な支出も「国民の生命・財産を守る」に関係してくる。
3月12日午前1時頃、「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」の試算に基づく予測図がファクスで首相官邸に届けられていたが、菅仮免の許には上がっていなかった。
5月19日記者会見。
福山官房副長官「何らかの形で利用したのではないか。首相のもとにあがった事実はない」(日経電子版)
6月3日(2011年)の参院予算委員会。
森雅子自民党議員「(SPEEDIの予測を)なぜ住民に知らせなかったのか。知らせていれば避難できた。子供を含めて内部被曝しているのではないか」
菅仮免「情報が正確に伝わらなかったことに責任を感じている。責任者として大変申し訳ない。予測図は私や官房長官には伝達されなかった」(MSN産経)
《枝野官房長官の会見全文〈20日午前〉》(asahi.com/2011年5月20日12時59分)
5月20日午前の記者会見――
記者「原発のSPEEDIのデータが、昨日夕方の福山副長官会見で、総理には上がってないと発言した。本当に上がっていないとすれば、何のためにデータを取り寄せたのか。」
枝野「これは私も見ていない。福山副長官も見ていない。危機管理センターの幹部のところには、各省いろんな関連部局から情報がファクス等送られてくるのはコピーをとって配られるわけだが、そういうところにまったく上がってこなかった。まったく少なくとも政府とか危機管理センター幹部のレベルのところで全く共有されずにあった情報であるということだ。私も報道等をみて、どういうことになっているのかと問い合わせたところだが、官邸の担当部局のところにファクスはきていたが、そこの段階で止まっていたと報告を受けている」
記者「政府のこれまでの説明は、SPEEDIの元となるプラントの放出量が分からないから使えなかったということだが」
枝野「だから少なくともその何日か後の段階で、SPEEDIというのがあるようだがどうなっているんだと私が問い合わせた時に、放出放射性物質量がわかることを前提としたシステムなので、これは役に立たないという報告を受けた。
私から、いや逆に放射線量、周辺地域の放射線量がわかっているんだから、それは逆算して放出放射線量が逆算できるのではないかというアプローチはないのか、ということが数日後にあった。その時点での私への報告も、その2日目の未明にそうしたファクスが届いていたこととどういった整合性があるのか、しっかりと確認をしたいと思う」
記者「政府は情報はすみやかに公開したいと言ってきた。SPEEDIを公表しなかったことをどう考えるか」
枝野「私などからは繰り返し、すべての情報は迅速に公開するようにと指示を繰り返している。少なくとも私の手元に来ているような情報は、少なくとも問い合わせがあれば公表するということでやってきた。しかしそもそもが情報そのものの存在自体が伝えられていないなかにあったことについては大変遺憾に思っている。ただ、こうした今回取り上げられている推測も含めて、単位1ベクレルが放出された仮定でどうなるのかとか、仮にこれくらい出ていたらこういうことになりそうだな、ということも、我々の承知しないところでいろいろ試算していたものがあるということを把握した段階で、それは全部出せと指示した結果として皆さんの手元に届いている」
記者「ファクスが来て上に上がってなかったというが、その情報はいらないという判断だったのか、何らかのミスだったのか」
枝野「そこのところについてはしっかりと検証を、我々自身としてもやりたいし、遠からず検証委員会を立ち上げたら第三者的にも検証してもらいたい」
記者「仮定に基づく試算とはいえ、避難指示を出す前に総理が見ていたら役だったのではないか」
枝野「少なくとも避難区域の指示等についての時に、そういった情報があればそれは意義があったと思う」
記者「長官はSPEEDIの存在を知らなかったが、原子力安全委員会という総理に助言する立場の部局は知っていたはずだが」
枝野「その点は常に私、例えば班目委員長などのそばにいたわけではないので、その辺のそういうやりとりがあったかどうかは承知していない」 ――
「放出放射性物質量が分かることを前提としたシステムなので、これは役に立たないという報告を受けた」
「役に立たない」情報を何のためか分からないが、3月12日午前1時頃に官邸に上げたことになるが、3日後の3月15日夕方の時点で文科省はSPEEDIの予測に基づいて福島県浪江町に職員を派遣、午後9時前に最大で1時間当たり330マイクロシーベルトの高い放射線量を測定して見事役に立たせている。
決して占い師に占って貰って、浪江町が最も放出放射線量が高い場所ですよと教えられたわけではない。
3月12日午前1時頃にファクスで官邸に届けられたSPEEDIの予測図は官邸の担当部局の所で止まっていた。
文科省は福島県浪江町の測定結果にしても官邸に報告したものの、測定場所選定はSPEEDIの予測データに基づいたものだと官邸に対して情報公開しなかったのだろうか。あるいは情報公開したが、最初のSPEEDI予測図と同様に官邸の担当部局の所で止まっていたのだろうか。
前者であっても後者であっても、首相のところまで届かない度重なる情報隠蔽、あるいは情報停滞は官邸という組織、あるいは政府という組織の体裁を成していなかったことになる。
当然、双方の責任者である菅仮免の、満足に組織を統括・運営することができない責任となる。
例え3月12日午前1時頃、「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」の試算に基づく予測図がファクスで首相官邸に届けられたものの、官邸の担当部局の所で止まっていて菅仮免の許には上がっていなかったことが事実であったとしても、SPEEDIの存在そのものは官邸が承知していたことを細野補佐官が記者会見で明らかにしている。
5月2日(2011年)の記者会見。
細野補佐官「公開することによって、社会全体にパニックが起きることを懸念したというのが実態であります。
ここまで公表が遅くなったことにつきましては、本部の事務局長として、心よりお詫びを申し上げたいと思います」(TBSテレビ『「報道の日2011」記憶と記録そして願い』/2012年12月25日放送)
細野補佐官はSPEEDIの存在を知っていたし、その予測結果を知っていた。予測結果を知らずして、パニック懸念はあり得ない。
放出放射線量が過小であった場合は逆に公表して、安心して下さいとアナウンスしたはずだ。
また細野補佐官自身が知っていた事実と3月12日午前1時頃にファクスで官邸に届けられたSPEEDI予測図が官邸の担当部局の所で止まっていた事実とは真っ向から矛盾することになる。
あるい担当部局の所で止まっていたとということを菅仮免等が事実としていることは問題でなくなる。
細野個人、あるいは細野個人に限ったごく身近な周辺がパニックを懸念して、公表しないという情報隠蔽を選択したのだろうか。原子力災害対策本部長でもないのに、あるいは内閣の長でもないのにそういったことをしたなら、越権行為、独断専行となるばかりか、官邸に於ける情報共有という点で大問題となる。
細野補佐官が知っていた情報である以上、菅仮免、枝野官房長官、その他原発事故に主として関わっていた閣僚その他が情報共有していなければならなかったSPEEDI予測結果であり、パニック懸念でなければならなかったはずだ。
菅仮免、あるいは枝野官房長官が、いや細野補佐官がパニックを懸念して公表しないことを一人で決めた、我々の関知外だと果たして言うことができるだろうか。
一つの組織に於いて万全を期すべき情報共有が破綻していたことになり、その破綻に対しても責任者たる菅仮免の責任が生じる。
菅仮免が言う、「予測図は私や官房長官には伝達されなかった」の事実にしても情報共有の破綻を示す一現象であり、当然、そこに負わなければならない責任が生じているはずだが、SPEEDI予測結果が住民避難に活用されなかったかばかりか、高放射線量地域に避難した住民も多く出ている事実に対する責任が重なって、犯罪で言うと重罪となるはずだが、「予測図は私や官房長官には伝達されなかった」の事実で対抗して平然と重罪を回避している。
この重罪回避は優先させるべき「国民の生命・財産を守る」の責任意識よりも自己保身意識を優先させていることから生じている態度であるはずだ。
逆に自己保身よりも「国民の生命・財産を守る」の責任意識を常に優先させていたなら、原発のシビアアクシデントという国民の生命・財産に関係する重大事故に直面しての情報共有の停滞・破綻は国民の生命・財産をなお一層の危険に曝す要因となりかねず、決してそういったことは招かない組織運営を心がけなければならなかった。
だが、至る場面で情報共有の停滞や破綻を招いていた。「国民の生命・財産を守る」の責任意識もなければ、その能力もなかったということだろう。
このことが国民の生命・財産の軽視に当たる国家犯罪に相当しないとしたら、国家の危機管理の存在理由を失う。