橋本大阪市長の大飯原発再稼働反対、最初の強硬姿勢もどこへやらのあっさりと掲げた白旗

2012-06-02 12:39:53 | Weblog

 関西電力の八木誠社長が4月9日午前、経済産業省訪問、枝野経産相に再稼働を目指す大飯原子力発電所3・4号機(福井県おおい町)の安全性向上の対策をまとめた工程表を提出。

■大飯原発3、4号機の安全性向上のための工程表の概要

【外部電源対策】

 ・3、4号機への送電線の増強(平成25年12月)

 ・鉄塔基礎の安定性向上のための対策(24年度)

【所内電気設備対策】

 ・恒設非常用発電機の設置(27年度)

 ・防波堤のかさ上げ(25年度)

 ・建屋の扉を水密扉に取り替え(24年6月)

【冷却・注水設備対策】

 ・中圧ポンプの配備(24年5月)

【格納容器破損・水素爆発対策】

 ・フィルター付きベント設備の設置(27年度)

【管理・計装設備対策】
 ・免震事務棟の設置(27年度)

 ・政府系関係機関とのテレビ会議システムの導入(25年度)

 (以上「SankeiBiz」記事から)

 政府と関西電力が目論んでいる再稼働時期以降の安全対策完了がいくつもある。いわば安全対策完了前の再稼働という矛盾――見切り発車の矛盾がそこにあるが、「そんなこと関係ない、関係ないって言ったら、関係ない、オッパピー」というわけなのだろう。

 だが、オッパピーだとしても、浜岡原発停止要請は“東海地震発生30年以内87%確率”を根拠としていたが、いくら確率が高くても一種の仮想の確実性であることと地震や事故発生時期の予測不可能性を兼ね合わせて見た場合、浜岡原発停止要請と大飯原発再稼働は二重基準となる、もう一つの矛盾を抱えることになる。
 
 4月9日午前、関西電力が「安全性向上のための工程表」を政府に提出。

 4月9日夜、野田政権は4回目の関係閣僚会議を開催。関西電力提出の工程表は政府の新安全基準に概ね適合と判断。最終判断は4月12日開催の次回会議に行うとした。

 枝野経産相(関西電力が提出の安全対策工程表について)「原子力安全・保安院が求めている内容に沿っており、安全対策を時期も併せて具体的に明らかにし、事業者みずから取り組む姿勢が明確になっていると確認した。大飯原発の3号機と4号機については、安全基準に照らしておおむね適合していると判断した」(NHK NEWS WEB

 どこに不備を認めることができないとしていながらの、最終判断先送りである。あまりに早い決定は拙速の批判を浴びる懸念があり、それを回避するための最終判断の先延ばしと見ることもできる。

 4月12日、5回目関係閣僚会議を開催。だが、結論を持ち越した。「再稼働ありきだ」、「拙速だ」だの批判回避のために徹底的に検討し、議論を重ねて完璧な結論を引き出すための努力を果たしている、そういったポーズを演じる必要からの結論持ち越しなのかもしれない。

 安全対策完了前の再稼働という矛盾に変わりはないし、浜岡原発と二重基準であることにも変わりはないにも関わらず、再稼働に向けて鋭意駆け込もうとしているのである。政府側からしたら、これらの解消できない矛盾を解消しようと謀るとしたら、時間をかけて徹底的に検討し、議論を重ねて、最初から決まっている結論を導き出すとするポーズを取るしかないのだろう。

 4月13日開催の6回目関係閣僚会合開催。大飯原発の安全性について最終確認。今夏の厳しい電力需給に対応するため運転再開の必要性があると判断。

 4月13日――

 橋下大阪市長「野田政権がそういう判断をされたのなら、あとは国民がどう判断するかだ。僕は安全については分からないが、こんな統治の仕方は絶対ありえない。国の原子力安全委員会にコメントを出してもらって、安全なのか不十分なのか、そのコメントが出たうえでの政治決断なら、それもありかと思ったが、一切そういうことをやらない統治の在り方では日本がだめになる」
 
 4月13日夜――

 橋下大阪市長「民主党政権を倒すしかない。次の(衆院)選挙の時に(政権を)代わってもらう。

 (内閣府の)原子力安全委員会に大飯原発が安全なのかどうか、コメントをしっかり出させないといけない。(安全委は)ストレステストの一次評価の結果を了承したが、安全だとは一言も言っていない。民主党の統治のあり方は危険だ。

 次の選挙では絶対(再稼働)反対でいきたい」(YOMIURI ONLINE

 橋下大阪市長「こんな再稼働は絶対許してはいけない。ストップをかけるには国民が民主党政権を倒すしかない。次の選挙の時に政権を代わってもらう」 (asahi.com

 4月24日午前――

 橋本市長、松井大阪府知事と共に訪れた総理官邸で大飯原発再稼働の8条件を藤村官房長官に申し入れる。 

 原発再稼働に関する8条件
  
 【そもそも論】

現在、政府が原発再稼働を検討する以前に、根本的に欠落している論点があるので指摘しておく。

1. 「次のフクシマ」級の原発事故が起きた場合には、日本を滅ぼすという危機感が欠けているのではないか。

2. 政府や国会に設置された事故調査委員会の報告も行われておらず、原発事故原因が究明されていない状況では、再稼働の検討はできないのではないか。

3. 原発事故は当事者の東電だけでなく、原子力安全・保安院と原子力安全委員会には「安全規制の失敗」が免れないのではないか。だとすれば、現在の再稼働の手続きは、いわば「A級戦犯」が進めている構図にならないか。

4. 原発が十分な安全性を持つかどうかは、信頼に足る専門家が客観的・中立に判断すべきであり、政治家がそれを判断するというのは「間違った政治主導」ではないか。

以上の「根本的に欠落している論点」を踏まえた上で、次の「八条件」を満たすことが原発再稼働の前提条件であると考える。

1. 国民が信頼できる規制機関として3条委員会の規制庁を設立すること

2. 新体制のもとで安全基準を根本から作り直すこと

3. 新体制のもとで新たな安全基準に基づいた完全なストレステストを実施すること

4. 事故発生を前提とした防災計画と危機管理体制を構築すること

5. 原発から100キロ程度の広域の住民同意を得て自治体との安全協定を締結すること

6. 使用済み核燃料の最終処理体制を確立し、その実現が見通せること

7. 電力需給について徹底的に検証すること

8. 事故収束と損害賠償など原発事故で生じる倒産リスクを最小化すること

 5月30日、細野原発事故担当相出席の関西広域連合会合。《大飯原発再稼働問題 関西広域連合「政府の安全判断は暫定的」》FNN/201205/30 21:48)

 細野原発事故担当相「基準を満たさないという判断がなされた場合には、これは、大飯(原発)3・4号機を含めですね、全ての原発、いかなる原発であったとしても、使用の停止を含めた厳格な措置が講じられるということになることは、あわせて申し上げたいと思います」

 25年度完成だ、27年度完成だと、再稼働予定時期には基準を満たしていない安全対策がいくつもあることに対して再稼働を許可したとしても、以後次の定期検査まで許可を認め続けるわけではない。「基準を満たさないという判断がなされた場合」は「使用の停止を含めた厳格な措置」を講ずると言っている。

 言っていることが最初から矛盾している。

 山田京都府知事「暫定基準であるという形で、お話しをしていただいた。暫定というのは、基準だけなのか?」

 橋下大阪市長(テレビ電話出席)「基準が暫定なのに、なぜ安全は暫定とならないのか?」

 細野原発事故担当相「この原子力の安全ということに関しては、もはやですね、万全というのはあり得ないと。常に、新しい知見に基づいて、新しいさまざまな対応をし、常に高いレベルを目指していくというのが、私ども政府の認識でございます」

 原子力の安全に関しては万全はあり得ないから、安全対策が25年度完成であっても、27年度完成であっても、取り敢えずは暫定的な安全基準で動かして、以後のことは新しい知見に基づいた様々な対応を図っていくと言っている。

 だがである。もし「万全というのはあり得ない」なら、「あり得ない」以上、「常に、新しい知見に基づいて、新しいさまざまな対応をし、常に高いレベルを目指し」たとしても、その安全対策にしてもやはり万全ではないことになる。

 ということは常に暫定的な安全基準で再稼働することが許されることになる。浜岡原発の再稼働問題が持ち上がったとしても、他の場合でも、「この原子力の安全ということに関しては、もはやですね、万全というのはあり得ないと。常に、新しい知見に基づいて、新しいさまざまな対応をし、常に高いレベルを目指していくというのが、私ども政府の認識でございます」が錦の御旗となって罷り通ることになる。

 そこどけ、そこどけ再稼働だとばかりに。

 万全はあり得なくても、最大限の安全基準を前提とするのが危機管理であって、「万全というのはあり得ない」を絶対条件として、取り敢えずは動かすといった暫定措置は現時点で可能な限りの万全を期すべき危機管理の手前許されないはずだ。

 「暫定」という言葉の意味は、「正式に決定するまで、仮に定めること。臨時の措置」(『大辞林』三省堂)であって、細野は「暫定的」という言葉を直接には使っていないが、「万全というのはあり得ない」として、万全ではない安全基準で取り敢えず動かすとしていることは「暫定的」措置そのものとなる。

 同5月30日――

 関西広域連合、大飯原発3・4号機の再稼働に関する声明を発表。

 関西広域連合の『原発再稼働に関する声明』

関西地域は、40 年以上にわたって、若狭湾に立地する原子力発電所から安定的な電力を受け続け、産業の振興と住民生活向上が図られてきた。またのそ安全確保のため立地県である福井が独自に特別な安全管理組織と専門委員会を設置し、常時厳しい監視体制がとられてきた。関西の現在発展は、こうした取組がなければありえなかったといっても過言ではない。

そのようななか 、関西電力大飯原子発所第3号機・第4号機が定期検査を終え、再稼働の時期を迎えているが、関西広域連合は、東京電力福島第一原子力発電所の事故を踏まえ、安全性が確認できなければ再稼働すべきでは ないとの立場から、政府に対し三度ないとの立場から、政府に対し三度にわたる申し入れを行い、これに基づいて5月19日と本日の広域連合委員会において説明を受けた。

「原子力発電所の再起動にあたって安全性関する判断基準」は 、原子力規制庁等の規制機関が発足していない中での暫定的判断基準あることから、政府の安全判断についても暫定的なものである。従って、大飯原発の再稼働については政府の暫定的な安全判断であることを前提に、適切な判断をされるよう強く求める。

平成24年5月30日

関西広域連合

連合長 井 戸 敏 三 (兵庫県知事 )

副連合長 仁 坂 吉 伸 (和歌山県知事 )

委員 嘉 田 由紀子 (滋賀県知事 )

委員 山 田 啓 二 (京都府知事 )

委員 松 井 一 郎 (大阪府知事 )

委員 平 井 伸 治 (鳥取県知事 )

委員 飯 泉 嘉 門 (徳島県知事 )

委員 橋 下 徹 (大阪市長 )

委員 竹 山 修 身 (堺市長)

 「暫定的」という言葉をやたらと使っている。再稼働容認を「暫定的」を口実に正当化しているようにも見える。

 同5月30日――

 橋下大阪市長「(再稼働を)容認するわけではない。暫定的な安全基準に基づく暫定的な判断なのだから、限定的に動かすのが論理的な帰結だ」(MSN産経

 自身が主張した夏場1、2カ月の間の臨時運転を條件とした再稼働容認の発言となっている。

 5月30日夜、関係閣僚会議開催。

 野田首相「(関西など)関係自治体の一定の理解を得られたと認識している。立地自治体の判断が得られれば、4大臣会合で議論し最終的には私の責任で判断する」(ロイター

 6月1日午前9時過ぎ――

 橋下大阪市長「大飯原発の問題は正直、負けたといえば負けたと思われても仕方ない。反対し続けなかったということにおいては、責任も感じている」(日テレNEWS24)

 3条委員会規制庁設立等の条件付き大飯原発再稼働反対から、夏場の1、2カ月の間の臨時運転條件の再稼働容認へ、さらに無条件の再稼働容認へと後退、「正直、負けたといえば負けたと思われても仕方ない」と敗北宣言を出すに至った。

 6月1日午前夜――

 《橋下市長 原発で民主と対決撤回も》NHK NEWS WEB/2012年6月1日 21時19分)

 橋下大阪市長「暫定的な安全判断なのに、政府は原発の安全を宣言し、国民をだましたということで政権の在り方としておかしいと言ってきた。今回、細野大臣が、暫定的な基準による暫定的な安全判断だということを真正面から認めたとなれば、前提事実がなくなる。

 大阪維新の会としても、以前に決めた方針というものが変わる可能性は大いにある」

 記事はこの最後の発言を、〈原発問題で民主党と対決するとした方針を撤回する可能性が高いという考えを明らかにしました。〉と解説している。

 だが、「細野大臣が、暫定的な基準による暫定的な安全判断だということを真正面から認めた」からと言って、政権批判の「前提事実がなくなる」わけではあるまい。逆に「前提事実」が明白になり、政権批判の正しさが証明されたということではないだろうか。

 あるいは「国民をだましたということで政権の在り方としておかしいと言ってきた」ことの正しさが証明されたということであるはずである。

 いくら細野原発事故担当相が「暫定的な基準による暫定的な安全判断」だと真正面から認めようと、現時点で可能な限りの万全を機した安全基準で再稼働を許すということではなく、「暫定的な基準による暫定的な安全判断」で再稼働することに変わりはないからだ。

 民主党政権打倒と大飯原発再稼働反対・阻止に向けて益々熱意を燃やすのではなく、再稼働容認の白旗をあっさりと掲げた。

 《橋下市長、倒閣発言を撤回「今後は慎重に使》YOMIURI ONLINE/2012年6月1日21時37分)

 橋下大阪市長「(倒そうとする)前提事実がなくなった。

 『倒閣』は人生で1回使うかどうかのフレーズ。今後は慎重に使う。

 (夏場限定の再稼働論を引き続き主張している観点から)大飯原発がずるずる動き続ければ、国民は民主党政権がおかしいと思ってくれる。どう政権を監視してもらうかを考えるのが僕の重要な役割だ」

 しかし、夏場限定の稼働の確約もないままに現時点で可能な限りの万全を期した安全基準での再稼働ではなく、暫定的安全基準による再稼働であることに変わりはないし、大飯原発再稼働に向けた最初の強硬な姿勢からの、その強硬な姿勢をどこかに捨ててしまった後退であることに変わりはない。

 それが「負けたといえば負けたと思われても仕方ない」という言葉になって表れたということでなければならない。

 白旗を掲げるにしても、回りくどい言葉ではなく、もっと素直に潔く認めるべきであろう。

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