我が日本の誉れ高い菅仮免総理大臣が7月13日に首相官邸で内外大注目を集める中、記者会見を開き、従来の日本の基本的エネルギー政策の大転換を図る「脱原発依存」を掲げた。
菅仮免「私としてはこれからの日本の原子力政策として、原発に依存しない社会を目指すべきと考えるに至りました。つまり計画的、段階的に原発依存度を下げ、将来は原発がなくてもきちんとやっていける社会を実現していく。これがこれから我が国が目指すべき方向だと、このように考えるに至りました」
そして原発に代る電力の供給については先ず今夏という当座の問題について述べている。
菅仮免「しかしその一方で、国民の生活や産業にとって必要な電力を供給するということは、政府としての責務でもあります。国民の皆さん、そして企業に関わっておられる皆さんの理解と協力があれば、例えばこの夏においてもピーク時の節電、あるいは自家発電の活用などによって十分対応できると考えております。この点については、関係閣僚に具体的な電力供給の在り方について計画案をまとめるように既に指示を致しております」
節電と自家発電の活用で今夏は乗り切れます、安心してくださいと言っている。
では将来に亘る電力供給に関しては。
菅仮免「以上、私のこの原発及び原子力に関する基本的な考え方を申し上げましたが、これからもこの基本的な考え方に沿って、現在の原子力行政の在り方の抜本改革、さらにはエネルギーの新たな再生可能エネルギーや省エネルギーに対してのより積極的な確保に向けての努力。こういったことについて、この一貫した考え方に基づいて是非推し進めてまいりたい。このことを申し上げておきたいと思います」
新たな再生可能エネルギーや省エネルギーの積極的な確保で「脱原発依存」に代えていくと太鼓判を押し、これで冒頭発言は終わっている。将来的な電力供給問題を含めた緻密な計画に基づいた中長期的な工程に関しては一切言及がなかった。
但し新聞記者がこのことに関しての質問を行っている。
松浦共同通信記者「共同通信の松浦です。先ほど脱原発、大変大きな目標を出されたと思うんですが、これは何年までにどのぐらい減らしていくのかという目標をまず明示すべきではないかということが1つと、もう1つ、その大きな目標に取り組むのは9月以降、菅総理なのか、それとも違う総理大臣なのか、ここをはっきりさせていただきたいんですが、その2点お願いします」
菅仮免「私も割と先に先にものを考える方ではありますけれども、こういう大きな政策を進める上では、まずは基本的なところからきちっと積み上げていく必要があると思っております。先ほども申し上げましたけれども、まず現在の状況そのものが既に3月11日の事故を踏まえて、ご承知のように多くの原子力発電所は停止状態にあります。しかしそのことが、国民の生活やあるいは日本経済に大きな悪影響を及ぼさないために何をやるべきなのか、またそれのためにはどういう政策が必要なのか、そこをまずしっかりと、まずは計画を立ててまいりたい。このように考えております。
そして、原子力政策についていえば、現在存在している炉の中でも、かなり長い間運転を続けている、簡単にいえば古い炉もありますし、比較的新しい炉もあります。そういったことも含めて、どういう形で安全性を確保しながら、ある時期まではどの炉は安全性を確保して動かすけれども、しかしある時期が来れば古い炉は廃炉にしていくといった、そういった計画については、今後しっかりと中長期の展望を持って議論をし、計画を固めてまいりたい。
今私が具体的なところまで申し上げるのはあまりにも少し早過ぎるのではないかと思っております。ですから何月というようなこともいわれましたけれども、このエネルギー政策の転換というのは、やはりかなりの議論を必要といたしますので、今まさに国会においてもその議論が活発に行われているところでありますので、そういう議論も踏まえながら、私が責任を持っている間は私の段階でもちろんその議論、あるいは計画を、立案を進めますけれども、私の段階だけでそれが全てできると思っているわけではありません」――
「私も割と先に先にものを考える方ではありますけれども」と先見的計画性を備えていることを先ず宣伝してから、その宣伝に反して、「今私が具体的なところまで申し上げるのはあまりにも少し早過ぎるのではないかと思っております」と、「少し早過ぎる」という理由で中長期的な目標の提示を断っている。
大いに結構だが、中長期的な目標の提示を断りながら、現在の原発停止状況が日本の経済や国民生活に与える影響の緩和にはどういう政策が必要か、これから計画立てていく。耐用年数に達する古い原子炉を廃炉とする場合の計画については「今後しっかりと中長期の展望を持って議論をし、計画を固めてまいりたい」と、中長期的な目標の計画作成はこれから行っていくと言っている。
何のことはない、「私も割と先に先にものを考える方ではありますけれども」言いながら、「何年までにどのぐらい減らしていくのかという」中長期的な目標は菅仮免の頭の中には何も入っていないということに過ぎない。
いわば具体的計画性がないままにく記者会見を開いて公表した「脱原発依存」、「将来は原発がなくてもきちんとやっていける社会」の実現を訴えたに過ぎない。
しかも与党民主党とも内閣とも謀った「脱原発依存」でないことがたちまち露見することになった。
《脱原発依存は「首相の思い」=民主・岡田氏》(時事ドットコム/2011/07/14-19:25)
7月14日の記者会見。
岡田幹事長「本格的な議論はこれからだ。(今後の)道のりを示すためには、きちんとした議論がなされなければならない。そういうものがない中で首相の思いを述べた」
「脱原発依存」は菅仮免の個人的な思いに過ぎないと切り捨てている。
だからなのだろう、「今私が具体的なところまで申し上げるのはあまりにも少し早過ぎるのではないか」ということになったのは。
《脱原発は首相の希望、内閣の目標でない…枝野氏》(YOMIURI ONLINE/2011年7月14日15時24分)
7月14日午前の記者会見。菅仮免の「脱原発依存」について。
枝野「遠い将来の希望という首相の思いを語った。政府の見解というより、そういったことを視野に入れた議論を進めるというのが政府の立場だ」
やはり菅仮免の個人的な思いに過ぎないと言っている。記者には見せないだろうが、陰で見せていたに違いない苦虫を潰した顔がいともたやすく想像できる。
記者「原発をなくすことは内閣としての政策目標か」
枝野「首相の記者会見ではそこまで言って」
菅仮免はごく個人的な「遠い将来の希望という」思いを語ったに過ぎないのだから、「内閣としての政策目標」であるはずはない。聞かずもがなのことだが、確認のために聞いたのか。
政府が成長戦略の一環に位置づけてきた原発輸出について。
枝野「我が国はどの国よりも厳しい安全性の下で(原発を)当面活用していく。輸入する側がどう受け止めるかを含めて、中期的に検討する」
儲け話は早々簡単に捨てられるかっ、といったところか。
こうなると、菅仮免の「私も割と先に先にものを考える方ではあります」も大分怪しくなる。
この菅仮免の「脱原発依存」に橋下大阪府知事がエールを送っている。《菅首相に橋下知事エール「支持率、確実に上がる」》(MSN産経/2011.7.14 12:50)
7月14日の発言。橋下知事は原発依存度を下げる必要性を訴えてきたとのこと。
橋下知事「確実に国民の声をくみ取っている。これからが大勝負なので、具体図を描いてほしい」
「確実に国民の声をくみ取っている」と歓迎はしているが、「具体図を描いてほしい」と他と同じように中長期的展望に関する言及がないことを指摘している。
橋下知事「今まで誰もこんな大号令は掛けられなかった。吹っ切れた状態でぐいぐい進んでいけば、(支持率は)確実に上がると思う」
具体的計画性も展望もない、個人的な思いを「大号令」だと持ち上げるのは本人の自由だが、「(支持率は)確実に上がると思う」などと言うと、支持率狙いの前科がなかったわけではないのだから、そうか、やっぱり支持率狙いの記者会見だったのか容疑を固くすることになる。
記者会見翌日の14日の夜、民主党の石井一選対委員長と当選1回の衆院議員約20人と会食したという。ご機嫌よくニヤニヤ笑いを満面に浮かべていただろう菅仮免が想像できる。《脱原発依存、言い訳連発=新人議員と会食-首相》(時事ドットコム//2011/07/14-23:44)
菅仮免「東京、神奈川から3000万人が移住するような事態も想定して決断しないといけない。だから『脱原発(依存)』なんだ」
記事はこの発言を次のように解説している。〈「脱原発依存」をめぐる政府・与党内の調整不足などへの批判を意識してか、福島第1原発事故の行方によっては、首都圏から避難させることも一時考慮したことなど、言い訳のような発言を繰り返した。〉
記者会見では「東京、神奈川から3000万人が移住するような事態」の想定については一言も触れていないのだから、言い訳のための後付けの発言と取られても仕方がないだろう。
脱原発依存を打ち出した理由について。
菅仮免「原発事故はすごいことだと印象を受けた。工学部出身で原発問題について相当基礎知識も持っていたし、自身で研究を重ねた」
知識と研究を自己過信する割には計画性も展望もない「脱原発依存」の記者会見であった。個人的な希望、あるいは思いを話したに過ぎないから、当然の反映なのだろう。
出席議員「全原発へのストレステスト(耐性評価)の実施は思い付きでは」
菅仮免「3月11日から考えていたことを整理して、思いを国民に伝えようと思った」
オーストリアのベルラコビッチ環境相が欧州の原発について耐震性などを調べる「ストレステスト」を欧州連合(EU)各国に提案する考えを示したのは3月13日。検討を加えて実施したのが6月1日から。
菅仮免が原発事故発生の「3月11日から考えていた」ことであっても、「ストレステスト」という形ではなく、原子力安全・保安院がこれまで行ってきた安全基準に基づいた安全性のチェックに代る新しい方法を「3月11日から考えていた」ということなのだろう。
それがいつか分からないが、EUが検討し、行うことになり、6月1日から実施に踏み切った「ストレステスト」が頭を占めるようになった。
日本の政治家で最初にストレステストの必要性を訴えたのは河野太郎自民党議員だと「Wikipedia」に出ている。
〈日本の政治家で最初にストレステストの必要性を訴えたのは、自民党の河野太郎衆議院議員。浜岡原発の停止を政府が指示した際に、5月6日付けの自身のブログで「ようやく浜岡原発の停止を政府が要請した。残りの原発に関してもきちんとしたストレステストをすべきだ。」と発言している。〉
浜岡原発停止要請は今後30年間に87%の確率で東海地震発生の確率論からの停止要請であって、ストレステストを行った上での停止要請ではない。地震発生の確率論からの要請だったから、他の原発の停止は必要ないとした。ストレステストに基づいた停止要請なら、他のすべての原発も浜岡停止時点でテストをクリアする必要が生じただろう。
事実だと俄かには信じ難いが、菅仮免は「3月11日から」から原子力安全・保安院に代る新しい安全基準を模索していた。
だがである。菅仮免がストレステストを言い出したのは3月11日から4カ月近く経った7月6日午前の衆院予算委員会の答弁の中であって、海江田経産相は鳩山前に、「首相の独走。もう頭に来た。今さら何を言っているんだ」(毎日jp)と怒りをぶちまけたという。
要するに前以て知らされていなかったし、議論や検討を加えて打ち立てた原発再稼動の新しい安全基準というわけでもなかった。ストレステストに関する「内閣としての統一見解」づくりが後付けとなったのはそのためだろう。枝野官房長官と海江田経産相、それに細野原発担当相が纏めて5日後の7月11日に公表することとなった。
「3月11日から考えていたことを整理し」た新しい安全基準でありながら、また相当に煮詰まった具体像を描いていてもいいはずだが、自身の頭の中だけにとどめて前以て内閣の誰にも謀らず、当然誰とも議論も検討も経ずに、要するに自分だけの「思いを国民に伝えようと思った」。
内閣というチームを組んでトップに立つリーダーの態度と言えるだろうか。チームワークを必要とするのに個人プレーで国家運営を謀るこの独善性は自己優越性からきているに違いない。
「脱原発依存」の中長期的な目標も展望も示さない記者会見と言い、当選1回の衆院議員約20人との会食の場に於ける計画性もない個人プレーでしかなかったことを暴露する発言と言い、自己過信だけは優れているが、先見性も計画性もない政治家像しか窺うことができない。
これが一国の総理大臣としての政治家像というわけなのだろうか。
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