松本復興相の言う「被災者に寄り添う」は自分を上に立たせることなのか

2011-07-04 09:46:19 | Weblog



 昨7月3日(2011年)、松本龍復興担当相が東日本大震災の被災地岩手と宮城両県を訪ねて両県知事と会談した。そこでの発言がマスコミを賑している。先ず主なところを拾ってみる。

 《松本復興相、岩手・宮城両知事にきわどい発言連発》asahi.com/2011年7月4日2時2分)

 記事は、〈最初に訪れた岩手県庁の玄関前では、衛藤征士郎・衆院副議長からもらったというサッカーボールを持ち出し、「キックオフだ」と達増拓也知事に蹴り込んだが、達増氏は取り損ねた。〉ということまで伝えている。

 達増岩手県知事との会談。仮設住宅の要望をしようとした達増知事の言葉を遮って。

 松本「本当は仮設はあなた方の仕事だ。(仮設住宅での孤独死対策などの国の施策を挙げて)国は進んだことをやっている。(被災自治体は)そこに追いついてこないといけない。知恵を出したところは助けるが、知恵を出さないやつは助けない。そのくらいの気持ちを持って」

 松本(冗談めかして)「九州の人間だから、東北の何市がどこの県とか分からない」

 午後訪問の宮城県庁。村井嘉浩宮城県知事が応接室に遅れて入室。

 松本「お客さんが来る時は、自分が入ってから呼べ。しっかりやれよ

 被災した漁港を集約するという県独自の計画に関して。

 松本「県でコンセンサスをとれよ。そうしないと、我々は何もしないぞ

 会談後の宮城県側の記者会見。

 村井嘉浩知事「地元のことをよく分かっている方が大臣に就任して喜んでいます」

 ある県幹部「被災地に来て、あの言動はない」

 記事の論評。〈前日の福島県に続く就任後初めての被災地訪問だが、被災者の感情を逆なでしかねない発言を連発した。週明けの国会で野党が追及する可能性もある。〉――

 《「知恵出さないと助けない」=松本復興相、岩手、宮城で発言》時事ドットコム/2011/07/04-01:28)

 達増拓也岩手県知事との会談。

 松本「(国は)知恵を出したところは助け、知恵を出さないところは助けない、そのくらいの気持ちを持って(ほしい)」

 松本「九州の人間だから東北の何市がどこの県か分からん」

 政府事務方「しょっちゅう(被災地に)入っているのに、何をおっしゃる」(フォロー)

 村井嘉浩宮城県知事との会談。漁港の集約化を国に要望していることについて。

 松本「3分の1とか5分の1に集約すると言っているけど、県の中でコンセンサス得ろよ。そうしないとわれわれ何もしないぞ

 松本「お客さんが来る時は自分が入ってから呼べ

 記事論評。〈配慮に欠けるとの指摘を受けかねない発言を相次いで行った。〉

 《知恵出さなければ助けない 復興相、被災地に厳しい注文》47NEWS/2011/07/04 00:47 【共同通信】) 

 達増拓也岩手県知事との会談。

 松本「あれが欲しいこれが欲しいはだめだぞ、知恵を出せということだ

 村井嘉浩宮城県知事との会談。

 松本「知恵を出さないやつ(自治体)は助けないぐらいの気持ちを持って」

 松本「こっちも突き放すところは突き放す」

 記事論評。〈被災地の知事を激励する意味合いがあったとみられるが、真意や閣僚としての資質を野党が国会で追及する可能性もありそうだ。〉――

 《「突き放す時は突き放す」復興相が被災地知事に注文》MSN産経/2011.7.4 00:00)

 村井嘉浩宮城県知事との会談。

 松本「政府に甘えるところは甘えていい。こっちも突き放すところは突き放す」

 知事の漁港集約構想について。

 松本「県で意見集約をちゃんとやれ。やらなかったらこっちも何もしない」

 記事自体の論評は何もなし。

 《復興相「知恵出さない奴は助けない…つもりで」》YOMIURI ONLINE/2011年7月3日22時48分)

 達増拓也岩手県知事との会談。

 松本「知恵を出したところ(自治体)は助けるけど、知恵を出さないやつは助けない。そのくらいの気持ちを持って(やってほしい)」

 松本(冗談めかして)「九州の人間だから、(被災地の)何市がどこの県とか分からん」

 村井嘉浩宮城県知事との会談。

 松本(知事が遅れて入室したことに)「お客さんが来る時は、自分が入ってから呼べ

 同県の重点的な漁港整備要望について。

 松本「県でコンセンサスを得ろよ。そうしないと我々何も知らんぞ」

 記事自体の論評は何もなし。

 《松本復興担当相:岩手、宮城知事と会談「復興は知恵合戦」》毎日jp/2011年7月3日 23時37分)

 達増岩手県知事との会談。

 松本「知恵を出したところは助け、知恵を出さないやつは助けない。そのぐらいの気持ちを持ってほしい」

 村井宮城県知事との会談。漁業集約方針について。

 松本「県でコンセンサスを得るべきだ。そうしないと我々は何もしない。ちゃんとやってもらいたい」

 両知事との会談で、仮設住宅で昼食会を開催して孤独死を避けたり、仮設と避難前の居住地をつなぐシャトルバス運行などのアイデアを披露して。

 松本「これからは知恵合戦だ」(以上引用)――

 先ず最初に、〈藤征士郎・衆院副議長からもらったというサッカーボールを持ち出し、「キックオフだ」と達増拓也知事に蹴り込んだが、達増氏は取り損ねた。〉ということだが、こういったいきなりのご挨拶は果たして許される態度だろうか。県知事の背後には不自由な生活を強いられ、困窮した多くの被災者や極めて困難な、困難であるゆえに日夜頭を悩ませることになっているに違いない多くの復興問題が控えていてるのである。例え二人がふざけ合う仲だったとしても、ふざけ合っていられる場合ではないし、ふざけ合っていい場面でもない。すべてが緊急な解決が求められている。

 被災自治体が置かれているこのような切迫した状況を何も考えないふざけた態度は被災者に対する冒涜以外の何ものでもないだろう。

 「毎日jp」記事が書いているように〈復興政策には被災自治体の主体的な取り組みが不可欠との認識を示し〉、そういった姿勢を強い態度で各自治体に求めたということなのだろうが、だとしても、自身が何様であるかのように上から目線に立った命令口調のオンパレードとなっている。

 それぞれ蛍光ペンで表したが、それがストレートに現れている発言箇所は、一記事は「知恵を出さないところは助けない」、もう一記事はこの発言に関しては何も触れていないが、あとはすべて「知恵を出さないやつは助けない」となっていて、相手を「やつ」呼ばわりしているところであろう。

 多分、日本に於ける中央と地方の関係が中央を上に置き、地方を下に置いた中央集権で成り立っている権威主義関係を自らも物の見事に体現し、国家権力に所属する者として自身を上に置いていたからこそ可能とした上に立った数々の命令口調ということなのだろう。

 国家権力を担い、地方を下に置いていたからこそ、村井宮城県知事の遅れての入室に対して、「お客さんが来る時は自分が入ってから呼べ」と自身を「お客さん」の位置に置いて命令口調で文句を言うことができた。

 国と地方一体となって緊急に復旧・復興に当たらなければならないときにお客さんも何もないはずだが、どうしても自身を「お客さん」として上に立たせたいらしい。

 国の復興担当大臣が果たして「お客さん」なのだろうか。

 大体が一方をお客さんの位置に置くことは国と地方言ったとなって取り組む“一体”という言葉、“一体”という思想に反する。“一体”とは分け隔てない対等な関係があって初めて力を発揮し得る状態を言うはずである。
 
 また国と地方を上下の権威主義関係で把える態度は松本復興相が言っていた「被災者に寄り添う」とする対等な関係を裏切る、その言葉をウソにする態度そのものであろう。

 被災地に寄り添うことによって初めて「被災者に寄り添う」ことが可能となる。だが、各記事が書いている殆んどの発言が被災地に寄り添う言葉とはなっていない。

 「asahi.com」では、達増岩手県知事が仮設住宅の要望をしようとしたところ、その言葉を遮って、「本当は仮設はあなた方の仕事だ。(仮設住宅での孤独死対策などの国の施策を挙げて)国は進んだことをやっている。(被災自治体は)そこに追いついてこないといけない。知恵を出したところは助けるが、知恵を出さないやつは助けない。そのくらいの気持ちを持って」と、国が知恵を出した例の一つとして「仮設住宅での孤独死対策」を挙げて、「国は進んだことをやっている」と自慢したとなっている。どういった国の「孤独死対策」なのか分からないが、地方も手をこまねいているわけではない。

 震災前の地域コミュニティーが崩れて高齢者の孤独死が相次いだ阪神大震災を教訓に各自治体が様々な工夫を凝らしていると、《仮設での孤立防止へ阪神教訓 近所ごと入居・年齢配慮…》asahi.com/2011年4月17日13時28分)が伝えている。

 4月17日付の記事である。4月17日以前の時点で既に対策に乗り出していた。

 仙台市は「10世帯以上の団体申し込み限定」とするハードルを設けて、親しいお隣さん同士の関係を仮設住宅でも維すべく取り図っているし、仙台市の南隣接市である宮城県名取市は仮設住宅への入居を希望した被災者に「地域ごとのまとまった入居を考えるので、あとは市に一任していただきたい」と呼びかけているという。

 機械的な抽選で仮設住宅の一室一室に順次当てはめていく、今までの隣近所がバラバラになってしまう方法ではなく、希望世帯を1軒ずつ住宅地図に落とし、隣近所を一纏めにしながら仮設住宅に当てはめていくという作業を行っているという。

 宮城県東松島市は抽選で入居者を決めるが、住宅の部屋割りを決める際、同じ地域だった人を近くに集めるよう工夫、高齢者ばかりが固まらない配慮もする方針だという。

 東松島市担当者「この地域はこの仮設住宅に、という決め方ができれば一番よいが、最初から十分な戸数がそろっているわけではないから」

 不自由な中で工夫し、孤独死対策、あるいは孤独生活対策を行っている。

 2004年の新潟県中越地震で被災した長岡市は被災地から近い仮設住宅に入ってもらうことを基本方針に市が部屋割りを調整したと、既に行ってきた孤独生活・孤独死対策を記事は紹介している。

 市担当職員「それでも入居者全員が顔見知りとはならないので、市が支援チームをつくり、住民の自治活動を促した」

 その方法とは、〈住民が集う場所として、50戸以上の団地には「集会所」を、50戸以下にも「談話室」を設け、運営を住民に〉委託するという方法だったそうだ。

 前例を学んで多くの自治体が行っている孤独生活・孤独死対策でありながら、「国は進んだことをやっている」と自慢する。その“進んでいない”発言は政治家としての程度を表している。

 但し、上記仙台市の場合はすべてが順調に運んだわけではなく、10世帯以上集められないとか、グループに入らない被災者もいて、〈締め切りまであと3日の時点で応募はわずか3件。用意した住宅は1割も埋まらず、市は早くも見直しを迫られている。〉と別の「asahi.com」は伝えているが、何事も試行錯誤だから、学びつつ解決していくはずである。

 元々のグループを維持する方法に拘るのは、「神戸では高齢者を優先的に仮設住宅に入れた結果、震災前の地域コミュニティーが崩れ、被災者の孤独死を防げなかった。その教訓」からだという。

 岩手県は長岡市を見習ったのか、50戸以上の仮設住宅地を対象に15箇所の集会所と、小さな住宅地には談話室を建設予定だという。《仮設住宅地に集会所 岩手県、15カ所に》MSN産経/2011.4.25 19:59)

 〈広さは約100平方メートル。うち1戸はすでに大船渡市で完成した。洋室やボランティアが駐在できる事務スペースのほか、台所や介助入浴ができる大きめの浴室などもある。

 介護が必要な高齢者の孤独死や寝たきり防止などのため、県はデイサービス機能を備えたグループホーム型の仮設の介護拠点も設置する。大槌町からは開設の要望が来ているという。〉――

 〈東日本大震災の被災地の仮設住宅で暮らす高齢者などの孤独死を防ごうと、宮城県岩沼市にサポートセンターが開設されることになり、市と運営する団体との間で協定が結ばれました。〉は2011年6月25日付「NHK NEWS WEB」記事。

 〈宮城県石巻市に室内に段差がないバリアフリーの障害者専用の仮設住宅がほぼ完成し、24日、入居を予定している人たちに公開されました。〉は2011年6月25日付の「NHK NEWS WEB」別記事。

 かくかように自治体は孤独生活・孤独死対策に工夫を凝らしている。

 孤独死対策を一つの例として挙げて、「国は進んだことをやっている」と、国だけ知恵を発揮しているかのように自慢できるのも、地方の努力を差し置いていることからも分かるように権威主義的に国を地方の上に置いた何様態度を自身の中で持っているからこそ言えた発言であろう。

 どこに「被災者に寄り添う」という一体的態度を見出すことができると言うのだろうか。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする