昨7月10日(2011年)の朝日テレビ「サンデーフロントライン」に民主党の公務員制度改革や天下りを批判、7月15日という期限を区切って退職を迫られている古賀茂明経産官僚が出演し、民主党の問題点や官僚の悪しき体質等について発言していた。その中で気になる言葉があった。7月15日までに海江田経産相に進退について会談を申し込み、仕事をさせてくれと申し出た上でそれがダメなら辞めるしかないと自身の取ろうとしている態度を説明する中で、申し出た仕事の一つが「経産省の予算を半分にしろと言えば、お手伝いしますよ」であった。
民主党が脱官僚・政治主導等の目指した理想とかけ離れた現在の実態や官僚の常態としている姿勢等について興味ある発言を行っていて様々な内幕を知ることができる。記憶しておくために主なところを拾って文字に起してみることにした。
古賀茂明氏は民主党の公務員制度改革等を批判したために現在経産省の大臣官房付という閑職に追いやられていると番組は説明している。そのそもそもの発端が野党の参考人として国会に招致を受けて天下りについて、そのポストを維持するためにムダな予算がつくられ、業界との癒着が生れる。このことを民主党は批判していたが、それが骨抜きになってしまっているといった批判を行い、当時の仙谷官房長官から「今回の、古賀さんを、こういう所に現時点での、彼の職務、彼の行っている行政と関係のない、こういう場に呼び出す、こういう遣り方は、甚だ彼の、将来を傷つけると思います。優秀な方であるだけに大変残念に思います」と警告を受けることとなり、それが恫喝だと一騒動が持ち上がったことで名前が知られるようになったのだが、番組みもこのことを伝えている同じ経緯を2010年10月22日の当ブログ記事――《仙谷官房長官の“恫喝”は思想・信条の自由、職業選択の自由を脅かす発言 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》で取上げた。
古賀氏は東電の破綻処理を主張している点でも経営維持方針の菅政権の神経を逆撫でしている。
また番組は2011年5月23日発行の古賀氏の著作、『日本中枢の崩壊』には電力会社への官僚の天下りについて次のような言及があると紹介している。
「電力各社には通産省(現経産省)の幹部が天下るポストが用意されているので、本気でチェックはできない構造になっている。それが電力会社の悪しき体質を生んでいた」――
玄海原発の再稼動問題について。
古賀茂明氏「玄海の場合は町長が(再稼動に)前向きですね。それから、あのー、佐賀県知事もですね、タテマエ上は中立的な感じですけどやっぱり九州電力の関係も非常に深いと、いうことで、(再稼動に向けて)ここを攻めれば確実に落ちるという見通しが立つところですよ。
ま、菅さんがですね、脱原発解散するんじゃないかと、ですね、色んな流れができていく中で、経済産業省、物凄く焦ったと思うんですね。で、経産省は再生可能エネルギーって言ってますけども、基本的には原発は推進したいと。
それは後から出てくると思いますけども、自分たちのですね、天下りを含めた、あの、原子力をつかったですね、えー、互助会組織みたいなのがあるんですけども、まあ、自分たちの生活を保証する仕組みを維持するためには、原子力というのはどうしても維持推進しなければいけない。
そこにこの、これをやめろとか、ですね、そういう動きが広がりつつあるので、非常に、あの、危機感を持っていた。それはですね、止めたまんまで進めてもどうにかなるんじゃないかとなったらですね、これはもう取り返しがつかないので、えー、そこの白黒が出る前にとにかく動かすと言う実績をつくりたかったということだと思います」
長谷川幸洋東京新聞論説主幹「菅総理がどれだけ脱原発なのか、僕はちょっと疑問符をつけたいんですけれども、見た目はそういうふう(脱原発)に見える。でも、本当の問題は今古賀さんがチラッとお話になったように、そのォー、原発に象徴されるような、役所の既得権の問題。その裏側にあるのが公務員制度の問題なんで。
実は脱原発するかしないかという話と公務員制度を本当にやっていくかという話は、役所の既得権の問題だと把えると、実は裏腹の問題で、同じ問題だと思いますね」
仙谷の恫喝の結末が北海道、東北、九州、四国を一人で回る出張の辞令。移動距離は6000キロ。
2月15日、海江田経産相記者会見。
海江田経産相「古賀さん自身がその持っている能力を発揮できるような場所で仕事をしていただきたい」
一昨日(7月8日)長妻昭前厚労相。
長妻前厚労相「本当は古賀さんのような方を公務員制度改革の事務局長とか、そのど真ん中で仕事をしていただくようなポジションに据えてですね、フンドシを締め直すと、いうことが必要だと思うんですけど。やっぱりその天下りポストを少しでも減らすということはあー、全省挙げて抵抗が大きいですね。
ま、ある幹部は私のところに来て、やあ、これだといい学生が集まらないですと――
厚生労働省から見ると、何でうちだけ先にやらなきゃいけないんだと。何で遣り過ぎじゃないかと、いう思いが出てきてですね、そういうことが一つ(大臣)交代の要因になったのかどうか、それは、まあ、総理のみぞ知る話でありますけれども――」
福島の原発以降、政府が決めた東電救済の仕組みを批判。6月25日、松永経産省事務次官に呼ばれ、「君に相応しいポストはないから」と告げられ、7月15日までの退職を勧められる。7月6日(2011年)衆院予算委員会で塩崎泰久自民党議員にこの人事を追及される。
塩崎議員「大臣の決断による人事、という理解でよろしいですね」
海江田経産相「私がどういうことで、松永次官を通じて(退職勧奨を)やったということでございます。ご意見があるときはいつでも、あの、大臣室にお越しくださいということを何度も私は会見などで言ってございます。ま、残念ながら、私のところへは見えておりません」
ジャーナリストの須田慎一郎の画像出演。暴力団の親分風の風貌のため、ビートたけしから「叔父貴」と呼ばれている。
須田慎一郎「古賀さんを参考人招致に呼ばさせないためにも民間人にしておく必要がある」
古賀茂明氏「私が、あのー公務員でいると、国会に、簡単に呼べるんですよ、いつでも。前の日に来いと言えば、出て行かなければいけないんで。それが(退職勧奨の)一つの大きな要素だと思います」
中野雅至兵庫県立大学大学院教授「古賀さんがそういうことをおっしゃるじゃないですか、裏の話とか。それは官房とかから守秘義務違反だとか、そういう威しとかは全然ないんですか。服務規程違反とか」
古賀茂明氏「守秘義務、要するにそういう情報っていうのは何か、あの職務上知り得て、それが秘密ですと、そういうことになっていると、守秘義務に違反ですけども、恐らくそういう情報っていうのは(守秘義務が)あるっていうことを前提としていないんじゃないですか。だから、何でも言えるんだと思います」
要するに古賀氏が行っていることは職務上秘密としていることの暴露ではなく、半ば、あるいはまるきり公となっている制度や慣習、体質の批判、あるいは政策に対する対する批判だから、守秘義務違反には当らないということなのだろう。
後者の批判を許さないとなったら、独裁国家となる。
小宮悦子キャスター「公務員改革を進めようとしてきた古賀さんに対して懐柔なのかどうか知りませんけども、天下りを進められたことがあったって本当なんですか」
古賀茂明氏「去年の夏にですね、天下りというか、新しい仕組をつくったんですね。あのー、民主党がですね、辞めてから行くのは天下りだから、辞める前に行けばいいだろうという、非常に面白いロジックでですね、民間企業に行ったらどうだと。ポストなかなか見つかんないからと、まあ、正直にそのとき次官に言われた。
で、行って、まあ、いいところだと思ったら、まあ、一瞬戻ってきて、すぐまたそこに行けばいいよ、いうような話をされたんですね。これは私は天下りの斡旋そのものじゃないですかということで、まあ、お断りしたという経緯を――」
姜尚中「古賀さんは、あのー、民主党政権になったときに、公務員制度改革はもっと前進すると期待されました?」
古賀茂明氏「ええ、非常にしました。あのー、我々が自民党時代につくった法案というのは必ずしも完璧ではなかったのは、色んな、まあ、足を引っ張る勢力がいたので、で、まあ、そこで廃案になっちゃったんですけど、民主党政権は脱官僚依存とか、政治主導、えー、それから天下り根絶と、いうことを言って、政権についたので、これは相当思い切ったことをできるぞと、いう感覚は持っていて、期待は非常にしました」
姜尚中「それが結局挫折したっていうのは、民主党の中で何が一番問題だとお考えになりますか」
古賀茂明氏「えーとですね。やっぱり一番問題なのは恐らく、順番を、何と言うか、しっかりとつけられなかったって言うか、要するに先ず公務員制度とか、あるいは政治主導ってですね、その、あの、土台をきっちりつくって、そこから改革に行くというのが正しい順番だと思うんですけれども、民主党は大きな改革をやろうとすれば、時間は必要だと。
ある程度の期間、政権を維持するために、いきなり官僚と戦うのは得策ではないという判断を一番最初にしたと思うんです。ですから、そのときに官僚が一番嫌がるのは公務員改革制度なんですね。そこはむしろエサとして、ここは手心を加えるよと、いうのは示して、だから他のことは協力してくださいと、まあ、取引にいったんだと思うんですけども、そこの根っこを変えないとですね、何をやろうとしても各省が足を引っ張るという構図になりますんで、それは結局のところ、今、大きな改革は進んではいないですね」
姜尚中「組織的に国家戦略会議って最初ありましたね。それに対して少し期待なんかありましたか。それを改革の完成装置になるじゃないかという」
古賀茂明氏「それもありますし、公務員の身分になっちゃってですね、どんなに、あの、出来が悪くても、一回上に上がっていけば、絶対下がらないという仕組がありますから、そういうのを変えて、それから、まあ、人事をですね、官邸主導で今、大臣ひとりでやらなくちゃいけない。そしたら、官僚に取り込まれちゃったり、あるいは威されてですね、多分、海江田大臣はそういう状況にあると思いますけれども、長妻さんがいい例ですよね。
人事を自分の思い通りにやろうと思ったら、結局は官僚を全部敵に回しちゃって、そのときに総理が、あの、前に出てきてですね、サポートする体制になっていればいいんですけども、それができていない。
そういう、あの、官邸が後ろ盾になって人事ができるっていう、そういう仕組に変えるとかですね、いくつかポイントがあるんですけど、ま、そういうことが今のところ実現していないということで、まあ、昔のまま官僚は各役所の事務次官を向いて仕事をすると、いう体制になっているので、改革はなかなかできないと思います」
在職中から自分に回ってくるときのために天下りに便宜を図る相互扶助もそうだが、出来の悪い役人でも年功序列でそれなりに出世させてその人間を守ると、その人間が忠実な部下の姿を取った強力な味方となって上司の力となる、そういった相互扶助の慣習も古賀氏が言っている「互助会組織」に於ける一つの制度となっているはずだ。
小宮悦子「先程の古賀さんのお話ですと、公務員制度改革というのは官僚が一番嫌がる話だから先送りする。そうしたことによってずるずる取り込まれることになっちゃった。その状態が今も続いているということですか」
古賀茂明氏「そうですね。取り込まれるという面もありますし、要するに官僚が総理を向いて仕事をする仕組につくれていないので、結局は、あの、今までどおり、各省の自分たちの天下りを含めてですね、各省ごとの生活の互助会みたいなもんなんですけども、それを維持しよう、維持しよう、その力は常に働くので、何かやろうと思うと、必ず後ろ向きに足を引っ張られて、結局進まないと言うことだと思います」
小宮悦子「官邸がその仕組ですね、つくれていないのが分かっているのでしょうか」
長谷川幸洋東京新聞論説主幹「うん、まあ、よく分かっていると思いますよ。分かっている上で、霞ヶ関に乗っかってるんだと思うんですね。ま、古賀さんていう方を、ご本人なかなか説明しにくいだろうから、私が申し上げるけども、民主党政権で脱官僚と政治主導で始まったわけですよね。
そのときに古賀さんは最初っから実はキーパーソンだったんです。それはあの、公にされていますから、お話しますけども、仙谷さんが古賀さんを補佐官に使いたかった。それが一点。
それからもう一つさっきVTRにありましたけれども、長妻さんも、実は、あのー、古賀さんのアイディアを借りて、あの、動かしたいと、実は思ってたんですね。
まあ、実は長妻さんの友人なので、相談されて、誰かいい改革派の官僚はいないかと。で、実は私は古賀さんを紹介してですね。古賀リストと言う改革派官僚のリストを長妻さんにお渡したことがあるんです。
そういうように最初の民主党政権というのは最初っから古賀さんのような方を活用して改革を進めていこうと思っていましたけど、なぜできなかったのか。
それはね色々とあると思うけども、やっぱり時間の問題は一つありますよね。それから準備不足。あのー、鳩山政権が成立したのは9月で、12月にはもう予算編成が3カ月後で、精一杯で、時間が非常に足りなかった。それから国家戦力局って先程お話がありましたけど、あれはとってもいいアイディアだと僕賛成です。
でも、8月の時点で鳩山さんに国家戦略局、どういうふうに使っていくんですかとご本人に私聞いたら、そのときに鳩山さんはご自身の頭の中で全然整理ができていなかった。
つまり内閣官房長官と国家戦略局の仕事の切り分けみたいなイメージも、政権発足一月前なのに、全然できていないですね。全然準備不足だった。
で、準部不足、時間が足りない。で、予算編成が迫る中で民主党政権がスターとし、で、結局、うー、自分たちのイメージを出せないまま、現在に至って、今や霞ヶ関に全く乗っかっちゃった状態で、古賀さんがいわば邪魔者になって出してしまう。
これは全然違う。本当に違うと思います」
鳩山前首相は中身に当る制度や役目のイメージもなく国家戦略局をハコモノから入って形式のみで構想したことになる。
小宮悦子「古賀さんは15日にまでに(進退の)結論を出せと言われています。どういうお気持ですか」
古賀茂明氏「えーとですね、ちょっとこの間、あの国会の議論とか聞いていますと、大臣が、恐らく、事務方の情報を全部鵜呑みにしている感じで、(苦笑交じりに)非常に私に対して敵意さえ剥き出しの、あの、ご発言をされて、私は、あの、一度もお話したことはありません。
ですから、先ずは大臣に、白紙の状態に戻していただけませんかと、いうことをお願いした上で、えー、お時間を頂こうかなと、いうふうに思っています。ただ、えー、そのときに仮に私を辞めさせるとしてもですね、えー、その辞めさせるということのルールというのが、今ないんです、全く。
ある日突然、明日クビだよと言われて、辞めなさいっていうこともあるんですかと、その辺、ルールをちゃんとつくっていただくということもお願いしたいですし、それから、あのー多分、密室で会議をするとですね、えー、一方的に役所の側から色んな、あの、誤った情報が流されると思うので、私は、あのー、マスコミフルオープンで、会談させていただきたいということをお願いしていきたいと思います。
まあ、あの、数日心の整理をした上で、お願いしたいと思っています」
なかなか手強さを感じさせる、海江田経産相側、あるいは経産省側にとっての敵となる予感を漂わせている。
小宮悦子「お気持としては、残りたいという――」
古賀茂明氏「先ず残るってことを目的としているのではなく、仕事をするってことが目的なので、まあ、大臣には電力改革でもいいですし、公務員改革もいいですし、あるいは、その、経産省の予算を半分にしろと言えば、あの、そういうこともお手伝いしますよと、いうことで、
仕事をやらせてくださいということを申し上げたい。
いや、絶対にお前には仕事をさせないと、いうことであればですね、それは残っていても意味はないので、いうことになるのかなと思います、ハイ」
小宮悦子「どう転ぶんでしょうか。経産省が要らないと言ったらね、菅さんが抜擢するっていう人事はできないですか」
長谷川幸洋東京新聞論説主幹「まあ、その菅さんのご決断一つで何でも出来る。総理大臣、オールマイティですから、何でもできますね。まあ、ずばり言えば、あのー、松永次官の代りに経産次官をおやりになればいいんじゃないかなと(笑う)。
実はね、昨日ツイッターしてたら、経産省のOBの方が私に、あの、メールをくれまして、あの、古賀さんはたった一ついいところがある。それは事務次官をやることだと。なる程なと思いましたけど、そういう、この方OBですけども、OBの官僚で、そういうふうなことをおっしゃる方もいるわけですから、そこは海江田大臣、ご決断難しいならば、是非菅総理、おやりになれば、支持率上がるんじゃないかなあと、思いますけども(笑う)」
「総理大臣、オールマイティ」でありながら、実際は全然オールマイティでなかったと現状は逆説を踏んでいる。権力活用の能力を備えているかどうかが問題。
古賀茂明氏(笑いながら)「あの、支持率で話をやってもらいたくはないですけど」
小宮悦子「少しは流れが変わる可能性がまたあるのではないでしょうかね。ありがとうございました」
古賀茂明氏「ありがとうございました」(以上)
支持率上げを狙って、菅仮免が古賀氏を経産省事務次官に任命するハプニングは否定できない。だが、いくら古賀氏が有能でも、すべての上に立つトップの能力が無能であるなら、両者の間に能力の齟齬、あるいは意思疎通の齟齬が生じて、使い切れない、使われ切れないといった局面に至らないとも限らない。
このことは最初は改革派官僚として古賀氏の起用を思い立っていながら、遂には使い切れなくて敵対関係に至ったことによって既に証明されている。
「経産省の予算を半分にしろと言えば、あの、そういうこともお手伝いしますよ」という発言を取り出すために長々と書いたが、自信と目論見がなければ言えない発言のはずである。予算を半分にできるということは半分がムダな予算で構成されているということになる。
当然、経産省だけではない、他の省についても言える半分の予算のムダだと敷衍可能となるはずである。
この無駄がなくならなければ、いくら消費税を上げたとしても、当座は税収増に役立ったとしても、そのうち焼け石に水となりかねない。
古賀氏は問題はどこにあるかを教えてくれている。
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