立読ブログ

立読師による一人語りのブログ 今後ともよろしう

読了記録~三崎亜記は( ・∀・)良い!~

2012-10-06 10:32:45 | 
廃墟建築士 三崎亜記 集英社

いやー…久しぶりに読んでいて興奮した
SF…?といっていいのか…
なんとなくだがこれは「少し不思議」の略がしっくりくる気がする
七階の撤去…廃墟建設…夜の図書館…蔵守…
七階だけ撤去?…廃墟を建設する?…図書館の夜になにが?…蔵を守ってどうする?
一見なんでもないようでよく見ると少しズレてる
でも そのずれている感じが普通の世界
三崎亜記の描く世界は私たちの世界と少し違う
その違いが魅惑となってゾクゾクする

しかしこの作家の魅力はそこだけではない
口幅ったい言い方だが 教科書に向いている小説 なのだ
それはつまらないとか型にはめられたとか
ネガティブな意味ではない
百人が読んで百人が同じ意味を理解できる文章
本を読んでいると自分の好きなように読み
好きなように解釈してそれを表現することが
とても良いことのように考えられがちだが
自分にしかわからない解釈や表現で
いかほどのことが他人のココロに伝わるだろうか?
国語の訓練とは 
つまり自分だけの読み方という殻を破り
他人の読み方に身を投げうって
その上で自分を伝える術を身につけることだ
自分の好きに読ませてくれない授業はつまらないしたいくつだ
しかし 他人がどう読んで欲しいと思っているか がわかってくると
自分が文章表現をするときの第三の目として働き
より伸びやかな伝わる文章が書けることである

んで 三崎亜記の小説はその他人の読み方に
思いをはせざるを得ない文章なのだ
表面的には面白い着眼点の世にも奇妙な物語チックに
短編を紹介することもできる
しかし 文章に書かれていない
「これは…つまりあのことではないか?」と
作者が本当に言いたいことを読み取ろうと
手を伸ばしたくなる
いわゆる

ここで作者は何を言いたいのでしょう?

という作業を自然と促されてしまう
例えば 七階闘争 という短編では

「犯罪の発生率が七階に集中しているから七階を撤去する」

というまことに理不尽というか物理的に阿呆な行政決定と
七階というものがいかに特別なものなのか
七回万歳!という不思議な価値観が常識の人々による
七階護衛の闘争劇で 
真面目に七階の住人一軒一軒を回って
「七階からの移転についてご理解とご協力を…
…もちろん費用は行政側が全額負担いたします」と真面目に説得にやって来る市の役員とか
反対派によるマンションの全階七階化テロとか
笑える不思議世界がたまらないのだが
しかし気が付けば…
身の回りで起こっている様々な
反対運動と行政の攻防だけでなく
それを冷ややかに見る一般人もひっくるめた
社会運動の本質って何? ということを考えさせてくれる

三崎亜記は読者に 自分の好きなようにではなく
作者がそう読ませたいという読み方に
寄り添わざるをえさせなくするという点で
国語の授業テキストに適しているのではないかと思うのだ
そして最後にとても重要な点だが
小説がとても面白い という点でも
つまらない読書を少しでも面白くしてくれる良書だと思うのだ


久しぶりにおもしろさに興奮する読書を堪能した
しばらく三崎亜記の本を読みあさろうと思う