もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

東名あおり運転死亡事故の公判開始に考える

2018年12月02日 | 社会・政治問題

 昨年6月に起きた、あおり運転の挙句に高速道路上に停車させて夫婦2名が後続車に追突されて死亡した事件の裁判が、明3日から始まる。

 公判までこれ程の長期間を要したのは、警察は自動車運転処罰法の過失致死容疑(懲役7年が上限)で送検したのに対して横浜地検が同法の危険運転致死罪(同20年)での立件を目指したためである。過失運転致死罪が停車後にも適用されるか否かで争われることは明白で、弁護側は車を運転していない停車中の事故であり、過失運転致死罪からは無罪としている。検察は同時に監禁致死傷罪(懲役20年を上限)を併合罪として訴追しているが、これも短時間の停車が監禁に当たるか否か論議を呼ぶとされている。このことは、事案が自動車運転処罰法改正に危険運転致死傷罪を盛り込む過程で想定していない態様の事故であり、法律の限界を示しているものと思う。今回は容疑者が知らない間に法の盲点に該当する犯罪を起こしたものであるが、世の中には法に精通した人間が意図して法の抜け穴を利用する犯罪も少なくない。法治国家には該当する法律施行前に犯した法律違反は罪に問われないという「法の不遡及」の原則があり、人道的・情誼的には許されない行為であっても犯人が罰せられない場合がある。このように考えれば、(殺人にも等しい)2名の死亡事故を引き起こした容疑者の確定判決は、極めて短期間の懲役刑になる危険性がある。もし、今回の事案を教訓として、車が停車した状態でも停車に至る過程で起きた危険運転の延長という考えを取り入れた法改正が為されたとしても、法の不遡及・一事不再理の原則から今回の容疑者を裁判に掛けることはできないため、横浜地検は詳細な捜査と法理武装のための時間が必要だったものと思う。厳格に法の不遡及・一事不再理の原則を貫く日本に比べ、偉大な法治国家である韓国では、日本統治下における日本協力者を遡及して処罰できる特別法や光州事件に対して元大統領である全斗煥・盧泰愚両氏を断罪する特別法によって遡及処罰することは正義であり、セウォル号沈没事件でも船主を遡及処罰するための特別法を制定したことも記憶に新しい。また、日本では訴追された罪状が複数に及ぶ場合の併合罪の加重の規定があるものの、情状酌量との相殺程度に扱われ訴追された罪状のうちの最高刑が言い渡されることが一般的である。アメリカでは訴追要因のうち有罪とされた罪状の量刑を積み重ねる累積量刑が行われるために懲役何百年という判決も珍しくなく、仮に複数回の恩赦を得たとしても生きて再び世に出る機会がない服役囚もいる。

 世界各国に比べて日本の刑罰は比較的に甘いと云われることが多いが、中国を始め多くの国が採用している一定金額までの被害は窃盗とみなされない刑法等から見て、一概に軽いとは言えないと思うが、長らく永山事件を死刑判決の基準としていた法の運用と、極悪非道な犯罪者にも更生のための情状酌量を期待する国民性が由来してのことかとも思う。菊池寛の「恩讐の彼方」に描かれる市九郎が洞門を掘った贖罪行動は万民に期待できるものではないと思うが。

 


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