もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

中曽根康弘元総理の葬送について

2020年10月02日 | 与党

 故中曽根康弘元総理の葬儀に対する公費支出が議論されている。

 葬儀は内閣・自民党の合同葬で行われ、1億9千万の葬儀費用の内9600万円を予備費から支出するものであるが、公費の支出を頑強に否定する人も存在する一方で、立憲民主党の枝野代表が29日の党会合で表明した「いろんなご意見はあるにしても、戦後を代表する総理大臣として、こうした形(公費の一部負担による合同葬)で、亡くなった元首相を哀悼することは、私はあっていいことだと思う。」が平均的な国民の意見ではないだろうかと思う。
 葬儀を格付けするのは如何なものかとは思うが、やはり最高の栄誉は国葬であろうと思うので、国葬についてネット上の記述を集めてみた。
 日本では、明治以降は国葬の必要が生じた場合には「特ニ国葬ヲ行フ」とする勅令が個別に発せられていたが、1926(大正15)年に国葬令が公布されて国葬の規定が明文化され、天皇・太皇太后・皇太后・皇后の葬儀は「大喪儀(国葬)」、7歳以上で薨去した皇太子、皇太孫、皇太子妃、皇太孫妃及び摂政たる皇族の葬儀は全て国葬(該当なし)、該当者以外の国葬については内閣総理大臣が天皇の裁可を経て定めるとされた。以上の経緯から23名(天皇・皇族10名、元老9名、韓国皇族2名、軍人2名(東郷・山本提督))が国葬の栄に浴している。戦後は国葬令が失効したために、皇室典範の規定で天皇のみ国葬とすることになったので昭和天皇が国葬で葬送されているが、唯一の例外として戦後復興の功績によって吉田茂氏が1967(昭和42)年に国葬の栄に浴している。戦前の国葬令であれば国葬で葬送された貞明皇后(大正天皇妃、1951(昭和27)年崩御)に対しては国葬とは明確にされなかったが事実上の国葬となったが、香淳皇后(2000(平成12)崩御)におかれては皇室の私的行事として葬送されている。
 歴代の総理や衆参院議長については国家が関与する合同葬や衆参院葬として行われているが、総理・議長経験はないものの長年の議員活動によって「憲政の神様」と評された尾崎行雄氏が衆議院葬で葬送されている。
 英米の例を見ると、王制であるイギリスでは国葬は原則として国王だけであるらしいが、対独戦争を勝利に導いたチャーチル元首相が1965年に国葬の栄に浴し、鉄の女と呼ばれイギリスを復興させるとともにフォークランド紛争を断行して国威を守ったサッチャー元首相は2013年にエリザベス女王が出席して国葬に準じた扱いで葬送されている。
 アメリカでは不文律的に大統領経験者に対しては国葬が行われるようであるが、ニクソン氏のように国葬を辞退することもあり得るようであるともに、対日戦の英雄とされたマッカーサー元帥は1964年に特別列車・砲車・礼砲・議事堂での遺体安置等国葬に準じて葬送されている。

 日英米の実状から考えると、元首以外に以外に対する国葬の基準については明確に規定している国は無いのではと考えているとともに、そのような基準を設けることが不可能であることを示しているものと考える。凡そ功罪は見る人の立場によって異なり、中曽根氏の国鉄民営化一つをとっても、国家経済にとっては大きな功績であるが民営化によって職を追われた左翼闘士からは不倶戴天の所業とされるだろう。アメリカ独立の最大の功労者であるワシントン、ジェファーソン元大統領にあっても、黒人奴隷を雇用したとして生前の功績を全否定する主張もあるようである。日本にあっても総理経験者に対して一律に国葬で葬送するとすれば、鳩山由紀夫氏や菅直人氏にその栄誉を与えることととなり、反対の大合唱が起こることは確実であろう。こう考えれば、日本の歴史に参画した功績を顕彰するためには「死去時の常識に沿って幾ばくかの公費を分担する合同葬」が最も無難であるように思うので、公費負担の割合が60%である中曽根氏の内閣・自民党合同葬は適切であると云いたい。