もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

安田純平氏の解放と自己責任

2018年10月27日 | 報道

 2015年6月にシリア国内で拘束されたフリージャーナリスト安田純平氏が、カタールで解放され帰国できた。

 同氏の解放に当たって日本と関係国が果たした役割と解放交渉の詳細、特に身代金の授受が明らかにされることはないだろうが、多くの労力と金銭が消費されたものと思う。安田氏は健康チェックのために入院中であり、自分の体験したことは後日の会見で明らかにするとしている。当時シリアに対しては、内戦激化の状況から外務省が邦人の渡航自粛を求めていたものであるが、安田氏は徒歩で入国した翌日から消息を絶ったとされている。マスメディアに所属(雇用)する記者やカメラマンが拘束・或いは殺害された場合には企業が大きな責任を負わされるため、危険な地域の情報についてはフリーランスに取材を委託またはフリーランスが取材した情報を使用すると企業も認めている。同氏が外務省の自粛要請を無視してまで渡航した背景も今後明らかとなるのだろうが、渡航前に記事の独占契約的なものをマスメディアと結んでいた可能性は充分に考えられると思う。自分の見聞・体験記事がマスメディアを通して世論を動かし得るかもしれないと考えて行動するフリージャーナリストの心情には敬意を表すものであり、企業の庇護なしに行う取材行動の全ては”自己責任”に帰するのはやむを得ないものであろう、しかしながら、今回の拘束~帰国の一連の全てを安田氏が”自己責任”として背負いきれるのだろうか。解放に尽力したカタールは、現在サウジアラビアなど4か国の経済制裁を受けており、国際関係や中東原油を考えれば日本がカタールに謝意を表し・解放費用を負担することすら微妙な状況であると思う。国の意志と離れて行われる行動が国際関係や2国間の関係を危殆に陥れる事態は過去にもあり、第一次世界大戦の勃発は、反オーストリア運動のメンバーだったセルビア人がオーストリアの皇位継承者をサラエヴォで暗殺したことが発端とされており、日本でも明治24年に起きたロシア皇太子襲撃事件(大津事件)、幕末に薩摩藩が起こした生麦事件等が有名である。これらは、国の意志を離れているので全て個人責任で処理される事案であろうが、政権は自国民保護の建前からこれらの行動を擁護しなければならないという困難に直面する。安田氏の事案が被害者であったとしても対応によっては同様の事態を招く危険性をはらんでいる。また、同氏の解放に身代金が払われたことが明らかとなった場合は、日本はテロに屈した国として国際的な信用を一挙に失うであろうし、誘拐ビジネスにとって日本人は格好の標的とされるかもしれない。繰り返しになるが安田氏はこれらの諸々を自己責任として背負いきれるのだろうか。