福島原発事故メディア・ウォッチ

福島原発事故のメディアによる報道を検証します。

朝日新聞は原発推進の「暗い過去」と決別できるか?

2011-04-18 22:48:30 | 新聞
20110419追記:4.の末尾に追記しました。再度ご覧ください。
=====================================================

前記事で始めた朝日新聞の世論調査批判の続きです。

3.「誘導尋問」の修正と再生
まとめ記事の中でとくに異様な感じを与えるところがある。今回の結果と2007年の結果とを比較しているところである。

『「原子力発電は今後どうしたらよいか」という質問で四つの選択肢から選んでもらうと、「増やす方がよい」5%、「現状程度にとどめる」51%、「減らす方がよい」30%、「やめるべきだ」11%。日本は電力の3割を原子力発電でまかなっていると紹介したうえで同様の質問をした2007年の調査では、「増やす」13%、「現状程度」53%、「減らす」21%、「やめる」7%で、「減らす」と「やめる」の合計が28%にとどまっていた』

2007年のアンケートでは、「日本は電力の3割を原子力発電でまかなっていると紹介したうえで」今後どうしたらいいか、問うていたのだ。その問いはより正確には以下のようだった。

『日本は電力の3割を原子力発電でまかなっています。今後どうしたらよいと思いますか。』
(2007年4月30日:「技術発展に期待と不安 科学と技術、朝日新聞社世論調査 世界初の人工衛星から50年」より)


これは「紹介」というよりは、「釘を刺した」というほうがいいだろう。そして、今回は、2007年にやったようなこうした露骨な誘導はいたしておりません、とわざわざ記事で(そしてグラフの注でも)注釈する。なるほど、これが世に言う「朝日新聞の良心」か。今回「電力3割原子力だぞ!」という脅し文句をはずしたのは、福島原発事故の真っ最中で、いくら推進派新聞でもそこまでやったら良識派のみなさまの神経を逆なですることになる、と恐れたのか。しかし、この過去の過ちの「告白」は朝日が原発事故が発生するまで、露骨な誘導で世論「調査」なるものを自分=原発推進の都合のいいように細工していたことを、これまた露骨に明らかにしてしまった。事故前の2007年の結果と、事故後の結果を比較したいのなら、今回の設問も「日本は電力の3割を原子力発電でまかなっていると紹介」・暗示・誘導し、あてこすり、恫喝したうえで問いを発し、結果の数値を比較したほうが正直ではないか。

それなら、こんな注釈で、みずから馬脚と「黒い腹」(忌野清志郎)をはしなくも、はしたなくも見せてしまった僕たち良識派の朝日君は、世論調査における誘導をこれできっぱりとあきらめただろうか。どうもそうではないらしい。それが、前記事の1で取り上げた奇妙な余剰的前振り質問「原子力発電を利用することに賛成ですか。反対ですか。」である。2007年調査ではこんな質問はない。原発の今後を問う質問の前は、原発とは関係ない質問(「食品を買う時に遺伝子組み換えの技術を使っているかどうか気にしますか」)である。ということは、「原発利用賛成・反対」質問は今回「電力3割原子力だぞ!」紹介を削除するかわりに挿入されたものである。この質問が後続する「原子力の今後」質問に与える影響については前記事の1で指摘した。朝日君の良識派に似合わぬ(いや、「それにぴったりの」と言うべきか)悪賢さは、前回の誘導を告白してドジな風を装い、それでいて前回と同じ効果をもたらす方策をこっそり挿入したことだ。さらに、ドジな告白を堂々とすることで、「今回の設問には前みたいな変な誘導はありません。だから、僕たちのたずね方のせいで原発反対の比率が下がったなんて、おっしゃらないでくださいね」と自分の腹黒さを反省の白い衣をつけて反転させ、実は今回も行われている誘導を隠そうとしているのだ。


4.無回答の隠蔽
ピエール・ブルデューは、世論調査における「無回答」の意味を強調した。無回答こそ最も重要である、と。案の定、朝日の調査の無回答は雄弁である。今回の調査で原発関係の質問は5問。それぞれの質問における個々の回答比率を合計してみよう。100%からその数値を引けば無回答率が得られる。

『◆福島第一原発の事故についてうかがいます。今回の事故について、どの程度、不安を感じていますか。(択一)= 99%、無回答率=1%
◆福島第一原発以外の原子力発電所でも、大きな事故が起きる不安を、どの程度感じますか。(択一)=99%、無回答率=1%
◆福島第一原発の事故について、政府の情報提供は適切だと思いますか。適切ではないと思いますか。=89%、無回答率=11%
◆原子力発電を利用することに賛成ですか。反対ですか。=82%、無回答率=18%
◆日本の原子力発電は、今後、どうしたらよいと思いますか。(択一)=97%、無回答率=1%』

上の3で問題にした、奇妙な誘導質問の無回答率が18%と、がくんと高いのがわかる。「福島原発や他の原発の事故が怖いとか不安とかおっしゃいましたけど、でもあなたもやっぱり原子力の電気を利用しているのですよね」という、罪悪感を誘う突っ込みを入れられて、気の毒に受話器の向こうでじっと沈黙している調査対象者(統計の対象!きっとガンの統計のときも同じだ!)の姿が浮かぶ。この事実からも、上の3や前記事の1で言ったことが裏づけられる。

ところで、この調査の回答率は60%だったそうだ。朝日新聞の電話調査に協力する気になった60%の人々のグループと協力を拒否した40%の人々のグループを通して、原発に対する意見は均等に分散しているだろうか。どちらかのグループに特定の回答の偏りを予想させるバイアスは考えられないか。たとえば、「原発を今後なくしたい」と思い、朝日の原発事故報道に多々疑問を持つ人が、朝日の調査に協力するだろうか。朝日新聞が、朝日新聞の調査に協力してくれる人の意見をまとめるというのは、東大・東工大の原子力の先生が、研究費をもらい、弟子たちを就職させている東電の原子炉を監督するという構図と並行的ではないか?

追記(20110419):
もう一つ、この調査に答えていない重要な人々がいる。調査対象について朝日は言う。

『 〈調査方法〉…コンピューターで無作為に作成した番号に調査員が電話をかける「朝日RDD」方式で、全国の有権者を対象に調査した(東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島3県の一部を除く)。』

「被災した岩手、宮城、福島3県の一部を除く」調査は、もはや無作為抽出とは言えず、客観性を装った「コンピューターで無作為に作成した番号に調査員が電話をかける」という記述は露骨な虚偽だ。この世論調査の統計的な整合性は崩壊している。もっとも、「全国の有権者」には被災地の人々は含まれない、という棄民意識を前提にすれば話は別だが。

「3県の一部」には原発事故の避難区域・屋内退避区域・高い放射線量を観測した区域が含まれているのかどうか、良識派の朝日新聞は明示していない。もしそれらの区域の人々、今、原発事故の過酷な現実を日々生きている人々、原発について、今、言いたいことをたくさん持っているに違いない人々が調査の対象から外されているとしたら、この調査には統計的な整合性の問題とは別に、ほとんど倫理的というべき問題が生ずる。国の無作為のために、現時点での、そして将来にわたる不安にさらされている人々は、朝日様の無作為抽出からも排除され、無意味な「無回答」を強いられて、世論から無視されるのだ。


5.設問の文体的ゆらぎ
これも一見ばかばかしく見えるが、しかし、どうでもいいことではない。ばかばかしくみえるのは、良識ある朝日君の必死の小細工がなんだか悲壮だからである。「原発の今後」の問いの選択肢をもう一度見てみよう。

増やすほうがよい
現状程度にとどめる
減らすほうがよい
やめるべきだ

なぜ、最後だけ「べき」がつくのだろう。原発反対派は、かたっくるしい議論をする原理主義者だからな、という朝日伝統の反原発嫌悪潜在意識の溶融&漏出か?
シンプルにすべてを「ほう・・・よい」でまとめて、「増やすほうがよい、現状程度にとどめるほうがよい、減らすほうがよい、やめるほうがよい」としたほうがわかりやすく、答えやすく、結果も理解しやすいのではないか。さもなければ、「増やすべきだ、現状程度にとどめるべきだ、減らすべきだ、やめるべきだ」すべて「べき」ヴァージョンにしたらどうだ。この二つの提案を比べれば、単に意見・感想を問う「ほう・・・よい」型のほうが、原則・判断の問題となる「べき」ヴァージョンよりもはるかにやさしく近づきやすいのがわかる。原発をやめる、という選択肢だけ「べき」だというのは、原発をやめるというあなたの選択の荷を重くしているのだ。

朝日新聞は、チェルノブイリのあと、世論を「それでもニッポンは原発推進しかない!」という方向に鼓舞した暗い過去を持つ。毎日新聞のように原発反対に大転換するのは、いまさらかっこ悪いのかもしれない。だから、彼らは、放射能の被害を受けるなら、あなたも私も一心同体、おなじニッポンじんではありませんかと、「原発の電気で生きているから原発に反対する資格はない」あなたに語りかけてくるのである。


最新の画像もっと見る