ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

2007年12月01日 | 其の他
彫刻家でも在り、詩人でも在る高村光太郎氏の代表作「智恵子抄」。「最愛の妻・智恵子との結婚以前から始まり、彼女が精神を病んで入院して亡くなった後迄を記したこの詩集」が自分は好きで、特に「レモン哀歌」という詩は忘れ難い。

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レモン哀歌

  そんなにもあなたはレモンを待つてゐた

  かなしく白くあかるい死の床で

  私の手からとつた一つのレモンを

  あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ

  トパアズいろの香気が立つ

  その数滴の天のものなるレモンの汁は

  ぱつとあなたの意識を正常にした

  あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ

  わたしの手を握るあなたの力の健康さよ

  あなたの咽喉に嵐はあるが

  かういふ命の瀬戸ぎは

  智恵子はもとの智恵子となり

  生涯の愛を一瞬にかたむけた

  それからひと時

  昔山巓でしたやうな深呼吸を一つして

  あなたの機関ははそれなり止まつた

  写真の前に挿した桜の花かげに

  すずしく光るレモンを今日も置かう
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自分にとって、非常に近しい人間が亡くなった。一般的に言えば大往生と言って良い年齢だし、父を若くして亡くした自分にとって「死」は比較的身近な存在だったなのに、いざ亡くなるとその喪失感が大きい事に驚いている。「その人が居なければ、今の自分は無い。」という当たり前の事を、今更乍ら痛感しているのだから情けない。

「どんな人物で在れ、魂が肉体から抜け落ちた瞬間に肉体は物と化してしまう。」という点に於いては、人間全てが平等なのだなあと改めて思う。肉体は物と化してしまったが、様々な思い出は自分の中でこれからもずっと残り続けて行く。今は唯、「有難う。」という思いだけだ。

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6 コメント

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智恵子抄 (海老太郎)
2007-12-01 07:52:14
長年読んでいなかった「智恵子抄」の文庫本を本棚から引っ張り出してきました。
私事で恐縮ですが、長年前に私の妻が比較的重い病気にかかり、丁度自分と高村光太郎氏の置かれている境遇が似ていると思い購読した一冊でした。
まだ若かった私は当時この詩集を読むたびに落涙した思い出があります。
レモン哀歌は昭和14年の作品ですね。
言葉に出来ないくらい感動的な味わいがあります。
giants-55様が今回こちらでこの詩集について語られたのをきっかけとして、またこの本を再読したいと思うばかりです。
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なつかしー (ほーほー)
2007-12-03 20:33:37
久しぶりに智恵子抄にふれられてうれしいです。レモン哀歌は有名ですが、わたしは、別の詩が好きでした。もう、題名も確かではないのですが・・確か、山頂にて・・??とかそんな感じの詩です。山に登った時の詩。どこかから、探してきてもう1回読まなくちゃ。
それにしても、わたしが智恵子みたいになったら、うちの相方はそんなに愛してくれるものなのか・・?とかいろいろ考えてしまいます。苦笑。
わたしの持ってた本の中の写真では、智恵子さんは色白で素朴な美しさを持った人でした。着飾らなくても抱きしめたくなるような感じの人だったのでしょう。高村光太郎の詩を読んだ当時、美しさと、心の病ゆえの無邪気さ、はかなさ、せつなさ・・そんなものを感じ取りました。ずいぶん昔のことで・あーおばさんになったこと。
携帯、インターネット、手紙も書かなくなったこのごろでは、こんな二人みたいな愛も希少価値です。より、新鮮に感じますね。
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作品名は・・ (ほーほー)
2007-12-03 21:08:54
樹木の二人・・(あどけない話、)でした。山頂にてではありません。記憶のなかでは、そう変わっていました。苦笑。
それにしても、時代がかわってもいいものはいい!ですね。
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>ほーほー様 (giants-55)
2007-12-03 22:40:43
書き込み有難う御座いました。

ほーほー様も「智恵子抄」が御好きなのですね。学生時代、国語の教科書に「レモン哀歌」が取り上げられており、哀しい詩なのだけれども、同時に何とも言えない透明感&静謐さが漂うこの詩にすっかり魅了されてしまいました。早速、文庫化されていた「智恵子抄」を購入し、今迄に何度読んだ事か。

「樹下の二人」は「あれが阿多多羅山、あの光るのが阿武隈川。」で始まる詩ですよね。行を追う毎に眼下に風景が広がって行く様な感じが素敵な詩で、自分も好きです。後は定番ですが「あどけない話」(「智恵子は東京に空が無いといふ、ほんとの空が見たいといふ。」)や「人に」(「いやなんです あなたのいつてしまふのが-)、「風にのる智恵子」(狂つた智恵子は口をきかない」)も印象深いです。

智恵子さんは、やはり美しい方なんですね。自分は御写真を拝見した事が無いので、頭の中でイメージを作り上げていたのですが、どうやら大きくは外れていない感じなのでしょう。
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Unknown (Spa supernova)
2007-12-04 13:36:30
ご自愛ください。
自分も19歳のとき近しいものを失い、呆然と約1年を過ごしたことがあります。

「智恵子抄」は母親の愛読書でして、都会(東京に限らず)に行くと必ず「空がない」を連呼します^^;。
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>Spa supernova様 (giants-55)
2007-12-04 14:50:58
御気遣い戴きました事、心より御礼申し上げます。

居るのが当たり前と思っていた者が、或る日突然居なくなってしまう。その存在が近しければ近しい程、喪失感はなかなか癒えないもの。当時のSpa supernova様の御気持ちも察するに余り在ります。

唯、御骨になった時点で「嗚呼、もうこの世には居ないのだな・・・。」と諦めが付いた部分も。今は、日々をより有意義に生きて行きたいという思いで一杯です。

「智恵子抄」を愛読されている方は多いのですね。「智恵子は東京に空が無いといふ、ほんとの空が見たいといふ。」で始まる「あどけない話」はインパクトが在る詩なので、都会に出るとこの一節を思い浮かべられる方も少なくないかと。
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