ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「はだしのゲン」

2007年08月13日 | TV番組関連
漫画「はだしのゲン」を初めて読んだのは小学校の低学年の時。学校の黴臭い図書館に唯一置かれていた漫画で在り、表紙に描かれたゲンの表情がとても印象的だった。1945年8月6日に広島に投下された原爆により過酷な運命を背負わされた多くの被爆者達の姿を主人公のゲンの目を通して描いたこの作品は、当時の自分にとって可哀想という思い以上に強烈な恐怖心を覚えさせた。「原爆の放った高熱で焼け爛れた皮膚を手足から垂れ下げ、爆風で飛び散ったガラス片等が全身に突き刺さったまま、ゾンビの如く彷徨う被爆者達。」や「膿んだ傷口から湧いた蛆虫を箸で一匹ずつ摘み取るシーン。」、「原爆症を発症し、大量の吐血をし乍ら死に絶えて行く被爆者の姿。」等々が実にリアルな絵で描かれていたからだ。同年代の人間との間で「はだしのゲン」の話が出ると、異口同音に「あの漫画は本当に怖かった。」という声が上がるのだから、如何に多くの人達に原爆の恐ろしさを感じさせた作品か判ろうというもの。そして恐怖心の後、脳裏に去来するのは被爆者達の無念さと哀しみ。貧しい乍らも幸せなゲンの家族が一発の原爆によって地獄の底に突き落とされた様は、数多の被爆者達の”哀しい現実”なのだ。

この不朽の名作がTVドラマ化され、一昨昨日&一昨日と二夜に渡って放送された。原作と一部異なる設定&ストーリーとなっているが(ゲンの家族構成から次兄が外されていたり、妹・友子の”誘拐”や弟・進次にそっくりな隆太がヤクザ組織に入ってしまう展開が無くなっている等。)、概して原作に忠実な内容。「父、姉、そして弟が倒壊した家屋の下敷きとなり、ゲン達が見守る中で焼け死んで行くシーン。」や「画家志望の学生・政二が被爆によって全身に大火傷を負い、周りから『化け物』と呼ばれて自暴自棄になっていたが、ゲン達の励ましで再び筆を執る決意をしたシーン。(「この手を奪ったピカが憎い!」という政二の悲痛な叫びが印象的。)」、「妹の友子が栄養失調で亡くなってしまうシーン。」等、原作を読んだ時と同様に何度も滂沱してしまった。

戦争の悲惨さや無意味さを訴える事が「非国民」とされ、様々な嫌がらせやリンチを加えられた時代。戦争に疑問を持ち乍らも、周りの目を意識して物言えぬ民となってしまった人々がどれ程居たのだろうか?全く疑問を持たなかった人達が多かったとするならば、画一教育の恐ろしさを感じてしまう。多くの人々が自らの頭で思考する事を停止し、無根拠で表面的な情報で一気に一方向に世論が動いてしまう様な現代は、嘗ての「少数意見を排除する時代」と何か似通った匂いをどうしても感じてしまう。「美しい国」が「全体主義国家」を意味するかの様な薄気味悪さ。

話をドラマに戻すが、中井貴一氏や石田ゆり子さん、小野武彦氏等、キャスティングの絶妙さが光っている。主人公のゲンを演じている小林廉君の演技力の高さは相当な物だが、それ以上に弟・進次役(及び隆太役の二役)を演じた今井悠貴君の演技力は圧巻。表情が実に多彩な上、演技を感じさせない自然さが、とても8歳の子役とは思えない。この2人の子役の演技力によって、作品の世界にグングン引き摺り込まれたと言っても過言では無い。そして彼等の屈託の無い笑顔が時折挟み込まれていたからこそ、戦争の悲惨さが余計に身に沁みた。吹き替えでは無く字幕処理という形で海外の人々にも是非見て貰いたい、丁寧に作り込まれた良作だ。

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30 コメント

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本当にすばらしかったです。 (パピプペ・ヨンジュン)
2007-08-13 03:25:57
giants-55さん、こんばんは!私も今しがた電話で
「千の風になってドラマスペシャル~はだしのゲン」
のことで母と話しをして、ゲンと進次・隆太を演じた子役さんが本当にうまかったと感心しました。父母役を演じた中井さんや石田さんほか各俳優さんの演技もすばらしかったけど、小林君と今井君の演技が本当にすばらしく、55サンが述べた通り彼らを引き裂いた原爆の悲惨さが余計強調された感じでした。
以前にも触れましたが私は「はだしのゲン」は「風と共に去りぬ」と並んで大好きな作品で気が参ってる時は両作の主人公であるゲンとスカーレットを思い出します。
それぞれ「広島原爆」や「100キロ幅の海へのジョージア破壊進軍」という未曾有の戦災を受けた時の彼らのたくましい行動には本当に脱帽です。
そしてその大変な中で新しい生命を取り上げ家族を守りきったという点は実に尊敬に値しますし、周囲の人々が次々と死ぬという極めて過酷な経験をしながらも希望を失わず強く生き抜いていこうとする姿も感動いたします。
本当に極端な逆境におかれた時にどう立ち向かっていくか・・・。ゲンにしろスカーレットにしろ彼らには非常に参考になるべきものがありますね。
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>パピプペ・ヨンジュン様 (giants-55)
2007-08-13 03:41:29
書き込み有難う御座いました。

以前書き込んで下さった内容から、「パピプペ・ヨンジュン様もこのドラマ番組を絶対に見ておられる筈。」と思っておりましたが、やはりそうでしたね。

漫画やアニメを実写化した場合、妙に弄繰り回されてガッカリさせられるケースが殆どなのですが、今回の「はだしのゲン」に関しては原作の素晴らしさと全く遜色の無い内容だったと思います。

小林君&今井君の演技は本当に達者で、「彼等が浪曲を披露しているシーン。(今井君の振り付けが実に可愛かった。)」や「薩摩芋を取り合っているシーン。」といった微笑ましいシーンから、「死に別れるシーン。」といった滂沱してしまうシーン等が今でも脳裏に焼き付いています。不勉強乍ら彼等の事は知らなかったのですが、これからの活躍が期待出来る有望株だと思います。

「踏まれても踏まれても、真っ直ぐ伸びる麦の様に強くなれ!」父・大吉の訓えを頑なに守るゲンの健気さに又泣けたりと、ドラマが終わった時点で自分の目は赤く腫れ上がっていました。
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「はだしのゲン」と「風と共に去りぬ」 (トキオ・ポーロ)
2007-08-13 06:02:23
おはようございます!

私も2夜連続で放送された「はだしのゲン」をみました。そして見終わった時の悲哀さとそれに相反した爽快感が深く胸をえぐった感銘はやはり「風と共に去りぬ」を見た時にも感じました。たしかにこの二つの作品は読者を夢中にさせるものがありますね。

戦争によっていかにひもじい思いをするか、いかに悲しい別れがあるか、そしていかに精神をすさませ、狂わせる恐ろしいものであるのか・・・。それらを訴えながらもその反面ところどころで笑いを取るようなストーリー展開も共通し、悲劇一辺倒でないところも両作品が強く魅了させるのではないかと思います。

南北戦争時の南部にしろ日米戦争時の日本にしろ、星条旗の軍隊の資本力・軍事力を考えぬままヒステリーに戦争に突き進んだ点は一致し、レットバトラーやゲンのお父さんのような少数派の意見を排除や弾圧する態度は55さんのおっしゃる通り、現代社会にも相通じるものがありますね。

原作「風と共に去りぬ」ではアシュレがメラニーへの手紙で「感情で喋りたてる政治家より事実を知っているバトラーのような皮肉屋の言動こそ耳を傾けるべきだった」というシーンがあります。映画でも冒頭で戦争は最後には常に不幸だけが残る・・・」と語っています。私達は両作品の訴えを肝に銘じておくべきでしょう。

それにしてもゲンと進次を演じた子役さんは可愛くて演技もお見事でしたね。感服しました。







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>トキオ・ポーロ様 (giants-55)
2007-08-13 11:19:07
書き込み有難う御座いました。

過酷な状況に在っても、常に前向きな心の強さ。男女の違いは在れども、ゲンとスカーレットは非常に共通性を感じますね。「上を見上げても限りが無し。下を見下げても、又同様に限が無し」判ってはいるものの、いざ過酷な状況に陥ると「自分だけが何故・・・。」とマイナス思考してしまうのが人間の弱さ。ゲンやスカーレットの強靭な心を見習いたいものです。

アシュレの手紙の文章、良く覚えてらっしゃいますね。この文章、正に人間社会の危うさを指摘していると思います。大勢に従う程楽な事は在りませんが、絶対に容認し難い事にはどんな艱難辛苦が在ろうとも異を唱えられる人間で在りたいですね。

ゲンを演じた小林君、そして進次及び隆太を演じた今井君(何となく阿部サダヲさんに似た顔立ちですが。)の演技の上手さは、ネット上でも随分記されていました。「神の演技」なんて絶賛の声も在った程。御存知の様に漫画「はだしゲン」は、今回のドラマで描かれた”先”が存在していますので、彼等を起用して続編を製作して貰いたいです。
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子に訓えを導く大きな父の姿 (パピプペ・ヨンジュン)
2007-08-13 14:16:27
こんにちは!返信ありがとうございます。
返信の最後の部分である>父の訓えを頑なに守るゲンの健気さにまた泣けたり・・・しごく同感です。この部分も二人の主人公に共通する要素なんですよね。
「風と共に去りぬ」の映画の冒頭では父の訓えに理解できなかったスカーレットが非常に裕福で子孫まで食うに困らない状況でであった環境が、南北戦争によって全く逆に子孫まで貧困にあえぐような世界に激変した時、父の訓えに理解し奮闘する姿は実に感動します。
宝塚でもこの作品は何度も再演していますが再演の少ないスカーレットを中心としたバージョンが13年前に一路真輝主演で公演されました。その終盤で、絶望の中のスカーレットのシーンに主題曲の「美しき南部」のハミングと共に父の霊声で「スカーレット、タラはお前の命だよ。タラがお前を呼んでいる、鳥も花も草も木も、白い綿の花もお前を呼んでいる。タラだけはお前の命なんだよ。」と死してなお娘を励ます父の演出に泣かされました。
子に訓えを導く大きな父親の姿、そしてその訓えが自ら死してなおも主人公を励ます原動力になっているところも多くの人の感動に繋がっていると思います。

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>パピプペ・ヨンジュン様 (giants-55)
2007-08-13 15:19:20
書き込み有難う御座いました。

ネット上で今回のドラマがかなり評判になっている様ですが、自分の周りでも見ていた人間が予想以上に多いです。既に発表されているかどうかは判らないのですが、視聴率もかなり良かったのではないでしょうか。視聴率至上主義者では決して在りませんが、これだけ丁寧に作り込まれたドラマには高い数字を取って貰いたいです。そしてその事によって、安直なドラマ製作が減ってくれると嬉しいのですが。

桂三枝氏を始めとして男性のヅカ・ファンが居ない訳では在りませんが、それでも野郎一人で宝塚歌劇団の舞台を観に行くのは勇気が要ります。宝塚市のみならず千代田区の専用劇場の前も数度通った事が在るのですが、女性ファンが大挙しているのを見掛け、何事も無かったかの様に通過した次第(笑)。でも触れられている「風と共に去りぬ スカーレット・バージョン」の内容を拝読すると、生で観たくなってしまいますね。
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過去にNHKの衛星放送で放映されました。 (パピプペ・ヨンジュン)
2007-08-13 16:35:52
55さん、こんにちは!

確かに男性一人で宝塚を見に行くのは勇気が要りますね。特に本場の宝塚大劇場は不可能だと思います。

宝塚企画で轟悠主演の総集編と和央ようか主演のバトラーバージョンは売られているのですが、バトラー編はお父さんが全くでてこないし、総集編も最後でのお父さんの霊声はバトラー視点で描かれてカットされているんですよ。残念です。

スカーレット編の初演はさらに前の1978年に汀夏子と安奈淳主演で公開されましたが、物語の前半部分を最初の華やかな歌とダンスで表現して、戦災後の荒廃したオハラ家から始まり「生きるためなら、何でもする」という家族の合唱の演出に当時のファンは打ちのめされたようです。16年後の一路真輝主演のときは大幅に改定され南北戦争勃発までを描いてから一機に南北戦争後の場面に飛ぶ演出にかわっていました。

この94年の一路真輝主演の雪組「スカーレット編」は同年公演された天海祐希主演の月組「バトラー編」
と共にNHK衛星放送で放映されました。当時衛星設備がなくて悔しい思いをしたのを今でも覚えています。ひょっとしたら、宝塚企画で在庫があるかもしれませんのでぜひ視聴してみたいというのであれば問い合わせてみてはいかがでしょうか?

はだしのゲンの視聴率、ネットでもまだ表れていないみたいですが、かなり高かったであろうと私も推測します。

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はだしのゲン・2の放送もありえるかも (トキオ・ポーロ)
2007-08-13 17:51:19
再度投稿させてもらいます!
進次と隆太を演じた今井悠貴君が阿部サダヲさんに似ている?調べてみたら本当だと馬鹿受けしました(笑)。
先ほど「風と共に去りぬ」関連で宝塚の話題が出たようですが、ゲンを演じた小林廉君の方はタカラジェンヌだった樹里咲穂さんか宮路真諸さんに似ていると思いました。

蛇足ながら今回のドラマ、意地の悪い林のお婆さんが左時枝さんでしたね。30年前の映画では今は亡きお姉さんの左幸子さんがゲンのお母さん役でしたから思い入れもひとしおだったのではないでしょうか?ちなみにその時のゲンのお父さん役は「釣りバカ」のスーさんこと三国連太郎さんだそうです。この映画実写版もみてみたいですね。55さんはご覧になられましたか?

もちろん今回のキャストでその後のエピソードも放映して欲しいですね。多分今後も「千の風になって」の体験記事をフジテレビで受け入れることから、反響次第ではその可能性は大いにあると予測し、期待しています。


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>パピプペ・ヨンジュン様 (giants-55)
2007-08-13 22:58:42
様々な情報有難う御座いました。

汀夏子さんに安奈淳さんとは、これ又懐かしい御名前。今から33年前に宝塚で”ベルバラ”が初公演された際、確か汀さんも安奈さんも組違いでしたがオスカルを演じておられましたよね?(鳳蘭さんはフェルゼン役だったかな?)ポスターで彼女等の凛々しい姿を拝見した記憶が在ります。

余談なのですが昔からヅカ出身の女優に惚れる傾向が在り、遥くららさんや大地真央さん、黒木瞳さん、天海祐希さん等が好き(でした)。
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>トキオ・ポーロ様 (giants-55)
2007-08-13 23:23:25
書き込み有難う御座いました。

今井君、阿部サダヲさんに似てますでしょ。特にニターっと笑った時の目がソックリですよね。小林君は宮地真緒さん等にも似ていますが、「3年B組金八先生」のPart2に生徒役で登場し、その後は卒業生として「スーパーさくら」を営む大川明子役の大川明子さん(昔の芸名は村野仁美だったそうですが、馴染みが深いという事で役名と同じ大川明子に変えたそうです。)にも雰囲気が似ている気がします・・・って、こんなマニアックなソックリさん御存知無いですよね(笑)。

「はだしのゲン」はこれ迄に3回映画化されている様ですが、実は1976年公開の「はだしのゲン」及び1977年公開の「はだしのゲン 涙の爆発」は昨年にCS放送で初めて見ました。(1980年公開の「はだしのゲン PART3 ヒロシマのたたかい」だけは見ていない事になりますね。)1976年版では御指摘の通り左幸子さんが、そして1977年版では宮城まり子さんがゲンの母役をされていました。

「はだしのゲン」ではピンポンパンの”新兵ちゃん”こと坂本新兵氏が岸先生役、敬愛する大泉晃大先生が沼田先生役、そして「バ~ゲンだよ~!」で御馴染みだった牧伸二師匠がガラス屋の主人・堀川役を、「はだしのゲン 涙の爆発」では町内会長役を「グラッチェ!」のケーシー高峰師匠、逃げ回る市民の一人をクシャおじさんが演じている等、脇役もなかなか豪華なメンバーでした。
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