防災ブログ Let's Design with Nature

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有明海の脈動復活なるか - 諫早湾干拓の水門開放へ -

2008年06月27日 | 防災・環境のコンセプト

潮受け堤防開門命じる 諫早湾干拓訴訟判決
http://www.saga-s.co.jp/view.php?pageId=1036&blockId=954754&newsMode=article
湾内および湾周辺の環境悪化と、堤防閉め切りには相当の因果関係があると認定。開門に備える工期として判決確定から3年間の猶予を付けた。開門調査を拒んできた国に対しては「因果関係の立証に協力しない姿勢は、もはや立証妨害」と痛烈に非難。完成した国の巨大プロジェクトに見直しを迫る歴史的司法判断となった。

 久しぶりに目が覚めるようなニュースでした。
 私は諫早湾の対面にあたる福岡県の水郷柳川で育ち、有明海のダイナミックな潮の満ち引きと焦げ茶色の干潟を見て育ちました。
 
 大学に行って私は自然地理学を学び、関連する職業につくことになりました。もしそうでなかったら、このニュースを冷静に聞けなかったでしょう。良し悪し賛否は別として『環境論』ならぬ『感情論』的になっていたことでしょう。

 そして、このような問題は、司法判断に自然科学による客観的なデータを加えなければならないという複雑さ、むつかしさをはらんでいます。

 有明海は宝の海とよばれ、干潟とそれに続く浅海域の生物生産力は極めて高く、日本の沿岸漁業の重要拠点になっています。有明海(特に泥質干潟や河川感潮域)には、ムツゴロウやワラスボなど、中国や朝鮮半島によく生存する種が存在しています。

 これは有明海の地学的背景を十分に知っておかなければなりません。今から2万年前は最終氷期とよばれ、氷河が発達し瀬戸内海も干上がるほどでした。当然、有明海を陸地となっていました。このころに中国の揚子江・黄河などから運ばれてきた大量のレス(黄土)が堆積、そして1万年前くらいに温暖化し海水が戻ってきたときに、一気に有明海にスープ状に、そしてたこつぼ状の海にトラップされたのです。
 佐藤正憲編(2000)『有明海の生きものたち』http://item.rakuten.co.jp/book/1208233/によれば、筑後川などの河川からもたらされる土砂が湾内にそのまま堆積し、大きな潮位差は海水を濁らせ、揚子江に匹敵する土砂濃度(1-2kg/m3)の浮泥の海となっているそうです。
 
 特に、干潟に適応した塩生植物の1 種であるシチメンソウは、瀬戸内海にも分布記録があるが、そこではすでに絶滅し、現在日本に残されている産地は有明海の奥部だけ
で、シチメンソウの葉は夏は緑色であるが、晩秋には真っ赤に紅葉する。泥干潟を美しく彩る国内最大の群生は有明海の諫早湾にあったそうです。

鹿児島大学理学部助教授
http://www.isahaya-higata.net/isa/libr/lb020424ref0204/0204ref26-27.pdf

 また、有明海周辺の地盤は、知る人ぞ知る軟弱地盤です。表層部には有機質が多く含水率の高い極めて軟弱な層(=有明粘土層)が10~30mの厚さで分布しているhttp://home.hiroshima-u.ac.jp/sonodera/5aihara.pdfため、ほっといてもボーリングのロッドが沈むのです(このすごさはKon25さんhttp://ten-shock.jugem.jp/ がご存知でしょうか)。これが、平野であるにもかかわらず大都市ができずに水質汚染と水の需要量が少なくてすんだとは考えすぎでしょうか。

 先の『環境論ならぬ感情論』ではないですが、生態系を考えるとき『かわいい』生き物に感情移入し勝ちです。しかし、ここで冷静になって、地学的環境も踏まえ総合的・循環的な考えかたをしなければなりません。

裁判では、5年間水門を開け続けるよう判決されたようですが、九州のバイオスフィアhttp://www.monotsukuri.net/mirai98/bios/bios.htm を目指してほしいものです。

 このブログでお世話になっている、同じく”水郷”におられる島根県の今岡さんは、このニュースをどう感じていらっしゃるのでしょうか。