防災ブログ Let's Design with Nature

北風より太陽 ソフトなブログを目指します。

応用地質学会誌の論文

2009年06月16日 | 平成20年6月岩手・宮城内陸地震
応用地質学会誌の最新号に、「平成20年岩手・宮城内陸地震災害第一次現地調査報告」という論文が掲載されていました。特に話題となった荒砥沢地すべりですが、ちょっと違和感のある記載がされていました。どうも凝灰岩層の下の砂岩泥岩互層中の粘土層がすべり面になったのだという記載です。

これは、融雪を主体として滑る地すべり地帯にはよくあることですが、これだとあれだけ巨大な山がほとんど水平移動したことに対する説明がつかないと思います。やはり1G以上の鉛直方向の加速度で「浮き上がる」り、そこに過剰間隙水圧が発生、ドスンと岩体が落ちてきたと考えられ、その場所は軽石凝灰岩層が当てはまるのではないかと思うのですが。

なまずよりも森をみよ!?

2009年03月31日 | 平成20年6月岩手・宮城内陸地震

地すべり学会でお世話になった方からメールを頂戴しました。

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当方はいつも土質試験を行う部署にいるのですが,<WBR>地震で大滑動する地すべりの多くは,静的な強度が大きく,<WBR>雨雪では簡単にすべらないものが多いように感じています。(略)昨年東竹沢の対岸の末端部を物色したら,<WBR>前回の地すべり以降に取り込まれたと思われる木片をみつけまして年代測定をしてみました。<WBR>今年の研究発表会ででも発表できればと考えています。
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これまで地形学の分野では、最終氷期に地すべりの多発期がある(言いかえれば、地すべりの発生頻度は、ある程度気候変動に呼応しているんじゃないか)といった論調があります。でも、そ、ではなんであんな巨大な地すべりブロックができるのかという、規模を証明するところまでは論じきれていませんでした。
中越地震は、情報化社会になって始めて発生した地すべり地帯での直下型地震です。昨年の岩手宮城の地震では、地すべりから活断層の活動周期を逆算すべしという内容の報告も見られるようになりました。そこまで突っ込んだコメントをしとけばよかったですね。

コメントの再掲でした


今年の応用地質学会は仙台

2009年03月26日 | 平成20年6月岩手・宮城内陸地震
今年の応用地質学会は、杜の都仙台で行われます。いろいろネタは考えていたのですが、多分去年の6月に発生した岩手・宮城内陸地震の話題でもちきりでしょう。便乗するわけではないですが、私もなんとかネタを探したいと思います。ただ、荒砥沢はみ~んなやるのでほかの意外性のある話題でいきたいと思っています。

重要な指摘-釜井先生の論文から-

2008年11月22日 | 平成20年6月岩手・宮城内陸地震

今年6月に発生した岩手・宮城県内陸地震。皆さん覚えていますか。
ここ数年直下型地震が多く発生しているので、比較的記憶の薄いほうになってしまったでしょうか。
注目されたのは、キラーパルスの”低さ”によって、大規模な地すべりが発生した割には木造家屋の被害がほとんどでなかったことです。

ところが、

自然科学学会誌の最新号で、宅地防災の第一人者、京都大学防災研究所の釜井先生は、以下の重要な指摘をされています。

築館の舘下地区で谷埋め盛土の崩壊が発生した。この崩壊は,2003年三陸南地震の際に発生した谷埋め盛土崩壊箇所(幅約40m,長さ約200m)の西に隣接しており,その当時は滑らなかった谷埋め盛土が,今回のより強い地震動(K-net築館で3 ch合成約800Gal)によって,崩壊した事例である

この地区の斜面は,1970年代の農地改良事業によって造成された斜面である。造成の目的は畑地とも宅地への転用とも言われているが,結果的に造成後の利用が放棄され,長い間適切な維持管理がなされていない斜面であった。谷埋め盛土料は,尾根部を形成していた更新統の軽石流堆積物であり,多孔質なため土粒子の比重が軽く,有効上載圧が小さいうえ,地下水を貯留しやすい特徴がある。ただ,今回の事例では,2003年の崩壊よりも地下水の量が少なかったため,完全な流動化には至らなかった。転圧不足のため,盛土の締まりは悪く,大部分がN値3以下である。旧谷底付近の地盤強度は,特に小さく,しばしば,N値も測定不能(自沈)である。
2003年の崩壊箇所の盛土厚さ(旧谷地形の深さ)は,約4 mであった。隣接する谷埋め盛土の厚さ,これよりも厚く,今回崩壊した西側(向かって左)の盛土は約6 m,東側(向かって右)は約8 mである。すなわち,厚さの薄い谷埋め盛土ほど,不安定であり,順番に崩壊したといえる(但し,東側の盛土には排水施設が新設済)。この斜面の様に,盛土底面付近の地盤が液状化する場合,底面での抵抗はほとんど失われるので,崩壊の発生を左右するのは,側部抵抗の大きさであると考えられる。2003年と今回の地震によるこの地区での谷埋め盛土の崩壊事例は,そのメカニズムを実証した事例として貴重である。


そんなに揺れてなかった? 岩手県沿岸北部地震 震度6弱に修正

2008年10月28日 | 平成20年6月岩手・宮城内陸地震

そんなに揺れてなかった? 岩手県沿岸北部地震 震度6弱に修正
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081029-00000602-san-soci
気象庁は29日、7月24日に発生した岩手県沿岸北部地震の最大震度を、同県洋野町で観測した「6強」から、青森県五戸町などでの「6弱」に修正した。

 洋野町大野に岩手県が設置した震度計台と地面との間に数ミリのすき間があったことが、地震後の調査で判明。気象庁が7月25日に臨時震度計を設置したところ、その後4回あった地震で、従来の震度計の計測震度が、臨時震度計よりも平均1・6も大きいことがわかった。

 気象庁は大野震度計のデータは信頼性が薄いと判断し、同地震での震度を「不明」とした。この結果、同地震の最大震度は、青森県五戸町、同八戸市、岩手県野田村の合わせて5震度計で観測した「6弱」となった。

 気象庁は誤差が生じた原因を調べるとともに、震度計台を設置している各県と協力し、点検を強化したいとしている。

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震度はこんなものです。なんでガルで発表しないのか。。。客観的なデータを言ってもらったほうが良いように思います。


崩れなかったところにこそ

2008年06月23日 | 平成20年6月岩手・宮城内陸地震
このたびの岩手・宮城内陸地震についても、各研究機関、調査会社が続々と調査報告を出しています。今回は特に、わが国の災害史上でも最大規模と言われる地すべり(あくまで”史”上であって、歴史時代以前に発生した地すべりはいくらでもあります)が活断層と密接に関わる場所で発生したとあって、そのことに論議が集中しているようです。

今回崩れたところは、逆に言えば不安定だったものが安定に転じたということが出来ます。もちろん今後数年~十数年単位で土砂の流出が続くため、流域の自然の回復には人の人生一世代分は十分にかかってしまうので、大変なことには変わりありません。

しかし、これほどの地震を経験してもなお、くずれなかった斜面の方が広いわけです。それがなぜなのか、ここ数十万年間で繰り返された地震や豪雨で安定化したのか、あるいはそれでもまだ崩れていないのか、また、今回の地震でくずれそうになったがなんとか持ちこたえたのか、そういったいわゆる"目につきにくい”ことを地道に研究することも重要だと思います。灯台下暗しではすまされない問題です。

山の歴史も繰り返す

2008年06月20日 | 平成20年6月岩手・宮城内陸地震

 地すべり地形は人間の一生に例えることができます。
 若い時期には表面に”張り”があり、青年から中高年にかけて活動するたびに侵食谷・亀裂などの”しわ”が増え、やがて腰が曲がるように平坦になり、(人の一生と比べると桁違いに長い時間ですが)最終的には消滅します。

 http://www.kankyo-c.com/lanslide.html

 今回の岩手・宮城内陸地震で発生した荒砥沢ダム北側の大規模な地すべりについて、国際航業株式会社は、地震前後の詳しい地形解析結果を発表しました。

 岩手・内陸地震速報
 http://www.kkc.co.jp/social/disaster/200806_iwatemiyagi/pdf/sokuhou1.pdf(特に20ページ)

 これを見てみると、かなり高いところに今回の地震以前にも”地形の凹み”があったことがわかります。ふつうに考えると、山は高くなるほど険しく急になります。でも、この地形をみていると、今回の地すべりと同じように、過去にもだるま落とし、または”ヒザカックン”を食らって落ち込んだような形をしています。

 こんな地形ができるのは、おそらく地震によるある地層の急激な液状化であることが確実です。地震が繰り返された歴史は、活断層だけに潜んでいるのではないように思われます。


平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震(3) - ダムの近くの地すべり -

2008年06月16日 | 平成20年6月岩手・宮城内陸地震

平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震では、5,000万m3とも言われる地すべりの土量もさることながら、ダムが近くにあったことです。

映画にもなった史上最悪のダム災害(
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=240867)である、1963年イタリアのバイオントダムでは、ム貯水池にすべり込んだ地すべりは, <大波>を引き起し,その波はダム天端を乗り越えて下流のロンガローネ村などを襲い1190名の死者を出し、地すべり地や下流域を総計すると死者2125名にのぼりました(アーバンクボタ第20巻より)。

実は、今回の被災地の近いところで、バイオントダムの6年前にダムの貯水池地すべりが問題になっている場所がありました(以下、アーバンクボタ第20巻より引用します)。宮城県栗駒市の鳴子ダムです。

《地学的要因》
空中写真判読で認められた過去の地すべり変動地を図に示した.問題の地すべり7ヵ所は,明らかに過去の種々な地すべり変動地域に発生している.これは,過去に滑落した,安定ないし準安定状態にあった地すべり移動体の一部が,ダム湛水によって再び不安定になった事を示すものである

《水位下降時》
最初の湛水時に移動を起して一時停止し,6年後,地すべりの対策工事のために貯水位を8日間で6m
降下させた直後に再移動した.

ダムでは放水により水位が低下することがあります。そのときに、水位の低下が急激だと、土の中に地下水が大量に残った状態になってしまいます。土のなかにはすき間に水をたくさん含みながらも砂粒同士が接触していることによって安定しているのですが、急激な水面低下によって地下水がぬけたりすることによって、土砂をつなぐ役割をしていた水がなくなりすき間に水をたくさん含みながらも砂粒同士が接触していることによって、ついには地すべりに至ります。

今回の被災地は、長年にわたり火山灰が積もった地域で、大量の水を含んでいたようです。奥羽山脈にはダムが多いだけに、活断層ばかりに気をとられているわけにはいかないようです。


平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震(2) - This is the Landslide -

2008年06月15日 | 平成20年6月岩手・宮城内陸地震
今回の地震では地すべりが発生しています。マスコミ報道では山崩れ、土砂崩れ、ひどいものでは山”帯”崩壊という誤字をそのまま(また解説図が幼稚だったこと。。。)使ったりという有様です。しかし、どういうわけか『地すべり』という言葉は殆ど出てきません。

地すべりという言葉が使われるのは、選挙の際『地すべり的勝利(landslide victory)』という言葉をたまに聞きます。こっちの意味は「起こる要因としては、議題、不満、問題等があって、それに対する意見が一気に片方へ寄ることが主な原因」のようです。ここで重要なのは、一気に片方へ寄ること でしょうか。

我々地盤技術者からみると、もう地すべりとしか言いようのない典型的な地すべりです。添付した画像には、昭和40年代から使われている地すべりの模式図を示しました。どちらかというと、これはあくまで模式図であって、実際はこんなにいろんな現象が一気にまとまって発生するもんかいなあ、とすら思っていました。

しかし、映像をみてみると、あまりにも模式図的な地すべりです。やはり、風景の基盤を作る地形は、地震によってもたらされるのだと思います。

平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震(1)

2008年06月14日 | 平成20年6月岩手・宮城内陸地震

2008年6月14日8時43分頃,岩手県内陸南部を震源としたM7.2の地震が発生し、多くの被害が発生しました。特に斜面の落石防護ネットを設置する作業をしていた方が、斜面崩落に巻き込まれるという、同業者の私にとっては痛切・残念の極みのニュースも耳にしました。

火山が噴火し、山が崩れる。この自然の摂理は災害という不幸をもたらし、また、『ひとめぼれ』という美味しいブランド米の生産基盤をもたらす土壌を供給し、温泉で疲れを癒すといった恵みと表裏一体であることを忘れてはなりません。

マスコミ報道は、防災に関して稚拙な報道を繰り返しています。「今後余震が起こるんでしょうか」程度の質問を学者先生に聞いても「はい」としか答えようがありません。なお捜索が続く温泉宿の周辺には美しいブナの原生林に覆われ、豊かな生態系を育んでいる複雑な地形は、実は今回のような地震に伴う地すべりが元であることを認識しなければなりません。

こんなに山が大きく崩れるような地震は、ちょっとなかったんじゃないですかと知った風なことをいうアナウンサーや評論家、2004年新潟県中越地震のことをもう忘れたのでしょうか。台湾やパキスタンでの地震でも同様なことが起こっています。

エンドユーザーやマスコミ報道になにも言わない地盤技術者も問題ですが、必要以上にあおる報道も疑問に思います。