■オリジナル読み物は「ISSUE」で、ノンフィクション書籍情報は「BOOK WEB」で、ノンフィクション作家情報は「WHO'S WHO」で
オリジナル読み物満載の現代プレミアブログISSUEページへノンフィクション作品ガイド満載の現代プレミアブログBOOK WEBページへノンフィクション作家の情報満載の現代プレミアブログWHO'S WHOページヘ現代プレミアブログCOMMUNICATIONページヘ現代プレミアブログWORK SHOPページヘ
現代ビジネスOPEN!! どりこの探偵局


7月14日 埼玉大会 2回戦 県大宮公園球場

春日部共栄 12-0 小松原 (5回コールド)

レポート 小関順二


 関東屈指、というよりドラフト1位候補といったほうがピンとくる。春日部共栄のエース、中村勝(右投右打)のことだ。この日の相手、小松原は昨秋が地区予選1回戦、今春が地区予選2回戦敗退校である。興味は勝敗ではなく、中村がどんなピッチングをするかにあった。

◇1回裏→1、2番がストレートを空振り、3番がストレートを見逃し

◇2回裏→4番がストレートを見逃し、5番がスライダーを見逃し、6番がストレートを空振り

◇3回裏→7番がストレートを空振り、8番がスライダーを空振り、9番がストレートを見逃し

 何と9者連続三振に切って取り、4回裏は1番が二飛、2番が中前打で初出塁を許すが、3、4番をストレートで空振りの三振に仕留め、4回投げ11奪三振と上々の滑り出しを見せた。

 自己最速は143キロ。この日の最速は4回に4番を空振りの三振に仕留めたときの141キロ。今村猛(清峰)、菊池雄星(花巻東)の152キロにくらべると平凡だが、一度そのピッチングを見た人間には印象が強烈に残る。

 球持ちがいい、というピッチングをどういう言葉で表現したらいいのだろう。「腕を振っているのにボールが出てこず、あれ?と訝った直後にボールが飛び出てくる」――自分が打席に立って、中村と対峙している状態を想像してほしい。そんなボールが打てるだろうか。左肩の早い開きを抑え、ボールの出どころを見えにくくしているためこういう芸当ができる。

 これに100キロ未満のスローカーブ、120~125キロの横スライダー、さらに超高校級と言っても過言でない真縦に割れるスライダーを交え、これらが自己主張せず渾然一体となって共鳴し合う、つまりアンサンブルを奏でる。今年のビッグ2が今村、菊池の2人であることに異論はないが、ここに中村の名前を加えてもまったく違和感がないのはそういう緩急の妙と、それを可能にした百点満点の投球フォームを見せられてきたためだ。

 ちなみに、この日はバッティングでも6打点を挙げる活躍で、勝負強さをたっぷりと見せつけた。ただし、一塁到達時のタイムはいずれも5秒台だから足は速くない、というより遅い。ピッチングでは一塁に走者を置いたときのクイックが1・25~1・35秒と、これも遅い。ストップウオッチが映し出すプレーをどう充実させていくか、本格派右腕に残された数少ない課題である。

-------------------------
 『検証甲子園2009』のすべての記事は、『現代プレミアブログ』の姉妹サイト検証甲子園2009by講談社で読むことができます。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


 

人名 山田 和
よみがな

やまだ かず

プロフィール

1946年生まれ。福音館書店勤務後、93年に退社してノンフィクション作家となる。
97年『インド ミニアチュール幻想』で、講談社ノンフィクション賞受賞。08年『知られざる魯山人』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞

作品

インドの大道商人
平凡社、1991年4月
インドの大道商人
(増補、講談社文庫、1999年12月)
インド ミニアチュール幻想
平凡社、1996年7月
インド 旅の雑学ノート―熱闘編
ダイヤモンド社、1997年3月
インド 旅の本
平凡社(コロナ・ブックス)、1997年11月
インド旅の雑学ノート 驚愕編
ダイヤモンド社 1998年12月
インド不思議研究―発毛剤から性愛の奥義まで
平凡社 2002年9月
インド大修行時代
講談社文庫、2002年2月
瀑流
文藝春秋、2002年1月
21世紀のインド人 カーストvs世界経済
平凡社、2004年4月
知られざる魯山人
文藝春秋、2007年10月
魯山人の美食―食の天才の献立


平凡社新書、2008年7月 翻訳、(  )内は著者。
喪失の国、日本―インド・エリートビジネスマンの「日本体験記」
(M.K.シャルマ)、文藝春秋、2001年2月
喪失の国、日本―インド・エリートビジネスマンの「日本体験記」
(文春文庫、2004年1月)

HP

備考
更新日 09/07/14




コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


原武史のノンフィクション100選:和書その2
※コメントは選者ご本人によるものです

入江相政日記〈第1巻〉昭和十年一月~昭和十四年十二月 (朝日文庫)
入江相政日記〈第2巻〉昭和十五年一月~昭和二十年八月 (朝日文庫)
入江相政日記〈第3巻〉―昭和二十年九月~昭和二十二年十二月 (朝日文庫)
入江相政日記〈第4巻〉―昭和23年1月~昭和25年12月 (朝日文庫)
入江相政日記〈第5巻〉 (朝日文庫)
入江相政日記〈第6巻〉昭和三十三年二月~昭和四十年十二月 (朝日文庫)
入江相政日記〈第7巻〉昭和41年1月~昭和44年12月 (朝日文庫)
入江相政日記〈第8巻〉昭和45年1月~昭和47年12月 (朝日文庫)
入江相政日記〈第9巻〉 (朝日文庫)
入江相政日記〈第10巻〉 (朝日文庫)
入江相政日記〈第11巻〉昭和五十五年一月~昭和五十七年十二月 (朝日文庫)
入江相政日記〈第12巻〉昭和五十八年一月~昭和六十年九月 (朝日文庫)
入江相政/朝日新聞社編
朝日文庫/1994年
60年代から70年代にかけて、宮中で起こった「魔女問題」が目を引く

戦後革命論争史〈上巻〉 (1956年) (戦後日本の分析)
戦後革命論争史〈下巻〉 (1957年) (戦後日本の分析)
上田耕一郎
大月書店/1956年
中野で地域活動に励み、構造改革派に属していた時代の上耕の記念碑的著作

マルクス主義と現代イデオロギー (1979年)
上田耕一郎、不破哲三
大月書店/1979年
1960年代に入ってからの、上田、不破兄弟の「変貌」がよくわかる。『戦後革命論争史』と併せて読みたい

秘境駅へ行こう! (小学館文庫)
牛山隆信
小学館文庫/2001年
日本にはこんな駅がいまでもあることを気づかせてくれた功績は大きい

第一阿房列車 (新潮文庫)
内田百けん
新潮文庫/2003年
ヒマラヤ山系を同伴しての汽車旅は、鉄道から見た1950年代の日本各地の姿を活写している

班のある学級―大西忠治実践記録集 第2部 (1964年)
大西忠治
明治図書/1964年
1960年代、「班」を小中学校に本格的に導入した一教師の実践論

■『有名中学合格!』
大森篤子
講談社/1976年
長男と次男の双方を東京教育大附属駒場中学に合格させた元祖教育ママの貴重な体験記

梨本宮伊都子妃の日記―皇族妃の見た明治・大正・昭和 (小学館文庫)
小田部雄次
小学館文庫/2008年
(元)女性皇族の日記は珍しい。玉音放送を聞いた日の憤怒が、当時の日本人一般の反応とは極めて異なっている

一殺多生―血盟団事件・暗殺者の手記 (1974年)
小沼正
読売新聞社/1974年
茨城県大洗出身の純朴な青年が、テロリストへと「成長」してゆくまでの回想記

平成ジャングル探検 (講談社文庫)
鹿島茂
講談社文庫/2007年
れっきとした大学教授が、東京の風俗店をあちこち歩いてその実態をルポした危険行為に感嘆する

羊の歌―わが回想 (1968年) (岩波新書)
加藤周一
岩波新書/1968年
没後に読み返してみると、これもまたノンフィクションと文学を架橋した作品だったと実感する

六ケ所村の記録―核燃料サイクル基地の素顔 (講談社文庫)
鎌田慧
講談社文庫/1997年
ふるさと青森に対する著者の熱き思いが20年にわたる不屈の取材を可能にした

教祖誕生 (講談社文庫)
上之郷利昭
講談社文庫/1994年
新興宗教のルポ物としては初期のものだろう。著者は明治学院大学出身のノンフィクション作家として唯一かもしれない

天然痘が消えた (1982年) (中公新書)
北村敬
中公新書/1982年
1970年代にインドに派遣され、現地の風俗・習慣に悩まされながら天然痘を根絶させるまでの悪戦苦闘が伝わってくる

木戸幸一日記 上巻 (1)
木戸幸一日記 下巻 (2)
木戸日記研究会校訂
東京大学出版会/1966年
この日記は何度読み返してもやっぱり面白い。戦中期の皇太后と昭和天皇の関係を知る上でも数多くの貴重な記述がある

編集者 国木田独歩の時代 (角川選書)
黒岩比佐子
角川選書/2007年
専門分化がまだ進んでいなかった20世紀初頭の日本を鮮やかに照射

将軍様の鉄道 北朝鮮鉄道事情
国分隼人
新潮社/2007年
金日成と鉄道の深い関係に初めてメスを入れた一冊。付録のDVDも見ごたえがある

■『小林一三日記』
小林一三
阪急電鉄/1991年
太平洋戦争末期、空襲でボコボコにされた阪急沿線を丹念に視察する創業者の姿に感銘を受けた

逸翁自叙伝―青春そして阪急を語る
小林一三
阪急電鉄総合開発事業本部コミュニケーション事業部/2000年
サラリーマンが郊外の分譲住宅地から定期券で通勤するライフスタイルはここから始まった

安吾新日本地理 (河出文庫)
坂口安吾
河出文庫/1988年
いまだ敗戦の傷が癒えぬ日本各地を訪れ、見たまま、聞いたままを記した貴重な記録

あさま山荘1972〈上〉
あさま山荘1972〈下〉
坂口弘
彩流社/1993年
拙著『滝山コミューン一九七四』を書く際の道標となった作品


「和書その3」に続く


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


7月13日 和歌山県大会 2回戦
智弁和歌山 9-2 串本 (8回コールド)

レポート 氏原英明
 
 きょうは地元・奈良を離れて、隣県の和歌山へ。隣県とはいえ、電車で乗り継いでいくと2時間はかかる。結構、遠いのである。 そこまでして、なぜ和歌山に行きたかったかというと、見たいチームがあるからである。
 
 それは、春・夏通じて3度の全国制覇を誇る智弁和歌山だ。
 チームを率いる高嶋監督は監督通算勝利数が56勝と、トップの元PL学園監督・中村順司氏に2差と迫る。 大記録更新に向けて、周囲の期待も高く、さらに、今年のチームのエースを務める岡田俊哉は今秋のドラフト候補としても注目されている。

 チャンピオンチームの戦いぶり、高嶋監督の采配、エース岡田の仕上がり、など注目すべき点の多い智弁和歌山だが、今回はストレートに1試合の面白み、について書いてみたい。

 野球とは面白いもので、強いチームが必ず勝つとは限らない。特に、短期決戦で行われる高校野球では、強豪校が苦戦したり、足元をすくわれたりすることが往々にしてある。 力が落ちるといわれるチームが、(言葉は悪いが)弱者の戦いぶりを熟知し、泥臭く戦ったとき、そうしたことが起きるのだ。
 
 きょう、智弁和歌山と対戦した串本はそんな「弱者」の立場を熟知した試合運びを見せてくれた。 結果的にはコールドで決したが、中盤まで1-4の善戦を見せ、智弁和歌山に冷や汗をかかせた。羽山―浅利の2年生バッテリーによる巧みな配球が、強力智弁和歌山打線をてこずらせたのだ。
「外の変化球を投げて、甘く入るのが一番怖い。とにかく、インコースを使えと指示しました」
 そう話したのは串本・堀木監督である。右サイドからスライダーとシンカーを投げる羽山は技巧派くタイプだ。強力打線を前にすると、変化球で交わしたくなるが、このバッテリーは変化球に固執せず、とにかくインコースを突いたのだった。
 
 えぐって、えぐって、えぐって……である。

 打者を打ち取るためのセオリーとして「内に速く、外に緩く」というのがある。内を意識させたうえで、外で勝負し打者の目線を惑わせるためだ。羽山、浅利の二人は、「これでもか」、「これでもかと」、内へ投げ込んだ。

 4回までは2安打1失点。初回に死球の出塁から守備陣のミスでホームスチールを食らったが、
「1-0が続いた時は少し焦りました」
 とは登板がなかった智弁和歌山・岡田は試合後に話している。
串本バッテリーの配球は、まさに弱者が強者を脅かすものだった。5回には3失点を喫したが、先頭に打たれた二塁打は打ちとった飛球を右翼手が目測を誤ったところから始まった。
 配球を間違えての失点は一つとしてなかった。

 試合後、羽山を上手くリードした捕手・浅利に話を聞いた。
「智弁和歌山は打線がいいので、バッターの意識をそらそうとリードをしました。羽山のスライダーを生かすために、インコースを使っていこうと考えました」
 大正解である。

 ただ、残念だったのは、そうしたリードから流れを引き寄せながら、ミスが多かったことだ。
 先制点のホームスチールも、5回の3失点も防げない点ではなかった。堀木監督は、「もっと、アウトを取ることに執念をもってやってほしかったですね。簡単にホームスチールをやられたり、ベースを離れるのが早すぎたりとかそこが悔しい」
と唇を噛んだ。
 
 打線の方も反撃の形をほとんど見せられず、2安打に終わった。5回まで好投を見せても、そうした流れを作ってしまっては試合に勝つことは難しい。結局、6回からは智弁和歌山打線に安打を連ねられた。
「ピッチャーがバテてきたのもありますけど、その中で、声をかけたりとかして、投手を引っ張ってあげられなかったのが、悔しいです」
 と浅利はいった。
 彼を含めて、串本のスタメンには下級生6人が名を連ねていた。若いチームには大きな経験になったであろう。そして、彼らの戦いぶりは、5連覇を狙う智弁和歌山打倒に、大きなヒントとなったかもしれない。

 弱者が強者に勝つためには、「内に速く、外に緩く」、である。

 -------------------------
 『検証甲子園2009』のすべての記事は、『現代プレミアブログ』の姉妹サイト、『検証甲子園2009 by講談社』で読むことができます。
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/koshien2009/




コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )