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現代ビジネスOPEN!! どりこの探偵局


河内孝さんの新著に失望  

元毎日新聞常務の河内孝氏が、1月に『次に来るメディアは何か』(ちくま新書)という本を上梓した。河内氏は2007年に『新聞社~破綻したビジネスモデル』を出し、新聞社の経営実務に携わった経験から、新聞社の危機を描き出し、話題になった。

メディア・インテグレーターという結論  

その後、新聞社の危機については、佐々木俊尚氏(元毎日新聞記者)が、昨年、文春新書から『2011年 新聞・テレビ消滅』を出し、これも話題になった。 
現実に、新聞・テレビは広告費の急減で、利益が激減、赤字会社も増える情勢になっており、危機は深まっている。
「次に来るメディア」について、上記の本を読んだ人たちは、知りたいところで、タイトルは目を引くが、この本は、次世代について何も語っていない。
河内氏は、「メディア・インテグレーター」という未来を提示していて、そのモデルは、メディア王ルパート・マードック氏が率いるニューズ・コーポレーションの発展形である。この本は、財務を含め、新聞社の経営状態を緻密に追っており、その事では、十分教科書として役に立つのだが、結論があまりにお粗末だ。供給側でどう細工をしても追いつかないぐらい、情報流通の現状は進化しているからだ。

ノーム教授の真意を掴めず  

今後のメディア経営において、単一のメディアの問題ではなく、情報環境を巨視的に捉える視点が第1に必要だ。つまり、もう情報稀少時代は終わり、供給者側からのコントロールが効かなくなっていることを自覚すべきだ。マードック・モデルは稀少時代の最後の勝者だったということだ。 
第2は、デジタルの本質をちゃんと勉強すべきだ。検索、フィルタリング、フィード、リンクなどデジタルならではの機能があり、それが有機的に搭載されて、優れたサービスが生まれる。それはアナログの人間にはわからない。 
第3は、メッセージの内容の問題だ。官庁に頼る報道スタイル、市民を上から見下ろすような論調、恣意的でありながら署名がない記事などに、読者は飽き飽きしている。それより、偏向しているのは承知で2チャンネルやツィッターからの情報をおもしろがっている。こうした読者側の質的変化を河内氏は無視している。  
私は、『2030年 メディアのかたち』の序文で、「〝究極のメディア〟が具現化するのは、10年以上先になると思います。2030年には、そのかたちはかなり明確になっていると思います。それまでに起こることは、すべて、この究極のメディアへのマイルストーンにすぎないのです」と書いた。 
河内さんの本の166ページに、コロンビア大学のエリ・ノーム教授の話として「個人がオーダー・メイドの専用チャンネルを持ちうるという意味で、1(メディア)対多(多くの視聴者)の時代が逆転して、1(個別の視聴者)対多(さまざまなコンテンツ)に代わったといえるだろう」と書いてある。 
せっかく、この話を聞きながら、河内氏は、「ノーム教授の議論に『落とし穴』があるとすれば、『一見、多様なコンテンツに見えても、出所を探ると皆、同じところで作られたもの、ということにならないか』という疑問だ」と書き、メディアの集中排除の話に進んでしまう。ノーム教授がメディア・コングロマリットを否定したことを、取り違えてしまっている。 私から見ても「究極のメディアへの道」から大きく外れた話になってしまっている。  

企業連合で「言論の独立」は可能か?  

結局、官報型ジャーナリズムの黄金時代に記者生活を送り、デジタルの本質を掴めない河内氏に未来予測は荷が重かったと思う。また、メディア・インテグレーターについて「テレビ、新聞社、出版社の機能を中核に金融機関、商社、電機、通信大手など大企業が人材と資金を提供するグローバルな企業複合体」と定義しているが。こういう形で、資金や人材を提供する企業に対して、言論の独立は可能なのだろうか? 私は日経に在職中、多くの大企業を取材してきたが、大企業には、河内氏の期待するような人材はほとんどいないというのが感想だ。創造性もなく、リスクテーキングもしない人たちが未来を創造できるはずがない。 

明治維新は西国雄藩の下級武士が起こした革命だった。幕府が有力な藩を抱き込んだところで、流れは止められなかったということを思い起こすべきだろう。
メディアの未来については、今後はデジタルがわかる若い世代の議論を聞きたいと思うのは、私だけではないと思う。

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