【007】6750mの「切れ痔」
単独&無酸素 登頂でエベレストに挑戦中の栗城史多さん(くりき・のぶかず/27歳)からメッセージと画像が届きました。
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ナマステ。
ホワイトアウト【※1】の6700mを越えた時、お尻に何かむずむずしたものが走る。あまりにもむずむずするのでズボンを下ろして見てみると、血が出ているではないか。
記念すべきエベレストの初登山で、いきなり「切れ痔」になってしまった。気圧の変動なのか、緊張なのか、とにかくお尻が痛い。
トイレットペーパーを使うのがもったいないので、お尻を氷になった雪に付けてみると血がどっとついた。まるで「いちごのかき氷」のようだった。
栗城はABC【※2】からフィールド・スコープというハイテク双眼鏡で何をしているか常にチェックされているので、ABCのスタッフはきっと、季節外れのいちごのかき氷を見たことだろう。
けっして食べることのできない、かき氷を……。
今まで8000m峰を3度登ってきて、初めてC1【※3】への荷揚げに失敗した。それは切れ痔のせいではなく、何か大きな壁を感じているからだ。
いつもの荷物に、いつも通りの出発だったが、歩いて10分もしないうちに今回の登山が普段とは何かが違うことを全身で体感していた。
それは6400mからの出発だからなのか、それとも何か威圧的なものがあるからなのか。正直いってよくわからないが、これが世界最高峰の重圧なのだろう。
ノースコル【※4】は複雑な迷路のような氷河だ。しかもその迷路が壁のように聳え立っている。ノースコルの壁にたどりついた時にルートが複雑なことを知った。
遠くから見ると左やら右やらどちらに行けばいいのかわかっていたが、実際近くに行ってみると氷河がとてつもなく大きく、そして複雑だった。登り始めてすぐに天候が変わり、まわりは霧に包まれ、さらに迷走しはじめた。
雪はモンスーンの影響で重く、そして、膝以上の深さがある。6000mを越えたところを両手で雪をかき出し、膝を上げていく。いったいどこまで登ればいいのだろう。
濃い霧が目の前のゴールをかき消していく。そして自分がどこにいるのかわからなくなってきた。気温はけして寒くはない。音も無く、時折、氷河の鼓動が聞こえる。
無線で副隊長からルートの指示を仰いだ。しかし、濃い霧のためABC内でも迷走が続き、まとまらない意見の無線が聞こえてくる。
気が付くと真っ白い雪の左右それぞれに、黒い大きな穴だけがはっきりと見えた。クレバスだ。
右側のクレバスの幅は2mもある。一方、左側はスノーブリッチ【※5】になっており、僕の体重を果たして支えきれるだろうか。
注意深く左側のクレパスを観察すると、その先には真っ直ぐと伸びる雪壁が見える。もしこの先に行くとなると、ここを通るしかないだろう。
山の声というより、自分の声を信じて、スノーブリッチを全力疾走で渡りきる。
といっても、荷物などで身体は重いので、四つんばいになって体重を分散させながらゆっくりと、だが。
そして、何も見えない雪壁を登っていくと、目の前に大きな氷河とクレバスが待っていた。
左も右もない、氷河の一本道にロープがかかっているということは、正しいルートにたどりついたのだ。思っていた以上に時間が経つのが早い。まだ半分も行っていないのに6時間もかかっている。
しかし、ここで敗退するわけには行かない。ここから先、3つの雪崩れの巣があるが、ここを登りきれば目の前に僕が合いたかった人がいる。
そう思ってザックを背負うとお尻に激痛が走った。そして、冒頭で紹介した「いちごのかき氷」ができたためこれ以上の進行を断念。いったんABCまで引き返すことにした。
明日はお尻の治療に専念します。ノースコルは複雑な氷河の迷路です。まるで都会の雑踏のように。
でも僕はその雑踏を走り抜けてみせます。
どんな誘惑があろうと。
ナマステ。
今日は休養です。
特設バーバーヒマラヤで門谷君が坊主にしていました。
髪を切っているのは山本カメラマン。最後はソリまで入っていました。
なぜ、最後はソリなのでしょうか(嫌がる門谷)。
【※1】
雪や雲などがガス状に立ちこめ、視界全体が真っ白になって空間や方向、高度の識別が不能になる現象のこと。
【※2】&【※3】&【※4】
ABC(アタック・ベース・キャンプ)やC1、ノースコルの位置情報は[栗城多史 エベレスト登頂ルートマップ]をご参照ください。
【※5】
雪渓の割れ目や氷河のクレバスなどに、橋のように架かっている雪の塊のこと。
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切れ痔を「いちごのかき氷」とは栗城さんらしい表現ですが、誰にも踏み荒らされていないバージン・スノーにイチゴ色は映えるだろうな……と、思わず心配よりも先に絵画的な妄想(?)をしてしまいました(栗城さん、ごめんなさい)。
なお、栗城さんは、標高7000mにあるC1(ノースコル)への再トライにはすでに成功しており、現在はさらにその先(標高8400m)を目指して準備中です。
予定では、9月14日(月曜日)の15時30分から「ギネス記録に挑戦シリーズ」の第2弾として、標高8400mで「カラオケ」を熱唱するそうです。詳細は、Yahoo!の専用ページをご参照ください。
……栗城史多 公式&関連サイト……
<Yahoo!:エベレスト 地球のてっぺんに立つ!>
http://kuriki.yahoo.co.jp/
<栗城史多 公式ホームページ>
http://kurikiyama.jp/
<栗城史多 公式ブログ>
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/bt_nobukazu
<VanaH:エベレスト プロジェクト!>
http://www.vanah.co.jp/