陰陽師 (太極ノ巻)文芸春秋このアイテムの詳細を見る |
久々の紙もの紹介です。本当に、最近は本を読む余裕もなかったんだなあ・・・
で、ご紹介するのは夢枕獏氏の『陰陽師』シリーズ、太極ノ巻です。夢枕氏の作品はどれも好きなんですが、特にはまっているのがこの『陰陽師』のシリーズと『キマイラ』シリーズですね。どちらも伝奇的要素が強いことと、独特の文章リズムに魅力を感じます。
『陰陽師』の各エピソードは、決まったように安倍晴明邸で酒を酌み交わす晴明と源博雅が「呪」論議を繰り広げるところから始まります。この太極ノ巻に収められている六話についても、判で押したように庭を愛でつつ酒を飲む二人が描写されています。本当に旨そうに飲んでいて、羨ましいばかりなんですよね・・・いつか話題は都で起こる怪異に移って行き、「どうだ、一緒に行かぬか」「う、うむ」「ゆこう」「ゆこう」と言うことになる。黄金のワンパターンです。ワンパターンであるが、単なるワンパターンに陥らぬように工夫がされています。作者が一番心砕いているのは、ここまでの描写です。ここまでを楽しむことにこそ、『陰陽師』読みの真髄があると断言しておきましょう。
そうはいっても、ここのエピソードで語られる怪異も興味深い。中でも面白かったのは「鬼小槌」でしょうか。人情の機微がよく出ていると思いました。
都に流行る猿叫の病。あまりの痛みに、寝床の中で猿の鳴き声の如き悲鳴をあげてしまうと言う奇病。この奇病を追った晴明は病に伏せる中将の枕元に意外な人物の姿を浮かび上がらせた・・・
ラストシーンでは、蘆屋道満までが酒宴に乱入し、事件の絵解きをするのですが、このシーンがまた、面白い。次は道満を主人公にしたお話なんてどうですかね?