SMEI / ドラベ症候群 / 重症乳児ミオクロニーてんかん について

SMEIの診断を受けた長男に関連して調べたことたち

ドラベ症候群の児に予防接種を行うべきか?(論文+私的意見)

2014年03月01日 | 一般情報・疫学・レビューなど

基本的には、このブログでは客観的な医学情報のみを関係する方に紹介、共有することを目的に投稿していますが、今回の題材は少し解釈がややこしいため、私的意見や説明も加えて記載します。

Lancet Neurol. 2010 Jun;9(6):592-8. Effects of vaccination on onset and outcome of Dravet syndrome: a retrospective study.

背景
百日咳ワクチン接種はけいれんや二次性の知的障害を含む脳症の原因になると考えられてきたが、過去の調査により、ワクチン脳症と呼ばれてきた14名の児のうち11名は、ナトリウムチャンネルのSCN1A遺伝子の突然変異に関連して生じるドラベ症候群であった。
この研究では、ドラベ症候群とワクチン接種の関連が明らかであることが、思い出しバイアスであるのかどうか、ワクチンが障害の発生や転機に影響を及ぼすのかどうかを調査した。

方法
SCN1A遺伝子変異を持ちけいれん発作で発症した記録のあるドラベ症候群の児において、ワクチン接種とけいれん発作の間に関連があるかどうか調べるために、過去の診療録と予防接種歴を解析した。
患児をワクチン接種後、短期間にけいれん発作があった群となかった群に分け、2群間の臨床的特徴、知能障害、SCN1A変異について比較した。

結果
40人の患児のワクチン接種歴とその後のけいれんの情報が評価された。
ワクチン接種後2日以内にけいれん発作がみられることが多く、接種日と翌日に発作があった群(12名)と、それ以降に発作があった群(25名)またはワクチン接種前に発作があった群(3名)の2群に分けた。
けいれん発作が発症した平均時期はワクチン接種後のけいれん群で生後18.4週(SD 5.9週)、ワクチン接種との関連が低い群で26.2週(SD8.1週)であり、違いは7.8週(95%CI 2.6-13.1週; p=0.004)だった。
2群間に知的障害、けいれんのタイプ、遺伝子変異タイプに有意差は認めなかった(p>0.3)。
さらに事後解析において、発症後に予防接種を継続した群とやめた群の児間で、知的障害に2群間での相違を認めなかった。

解釈
ワクチン接種は、SCN1A変異によりいずれ発症するであろう、ドラベ症候群の早期発症の契機になりうる。
しかしながら、予防接種が発症の前後で影響を及ぼすとの結果ではないため、SCN1A変異のある小児の予防接種を控えるべきではない。


上記はランセットという有名な医学雑誌に掲載された論文ですが、同時にコメントで研究に不足している部分が指摘もされています。

Lancet Neurol. 2010 Jun;9(6):559-61. Dravet syndrome and vaccination: when science prevails over speculation.

この研究は過去の情報を初発のけいれん発作と臨床データの記録のみで評価している。
考慮すべき他の要素として、SCN1A変異が証明されていないドラベ症候群の児や十分な臨床データのない児の除外、様々な年齢で知的障害を評価するための異なる評価方法、予防接種後すぐに発症した群の発症年齢に影響を与える予防接種の一定のタイミング、予防接種を受けていないコントロール群がないこと、けいれん発症後予防接種を追加した児の数が少数であること等があげられる。


また、後日、
この論文に対して「イヤイヤ、遺伝子変異が分かっているなら、予防接種は遅らせることで発症を遅らせたりもしくは防いだりできる可能性もあるので、予防接種は控えて、場合によっては抗てんかん薬も使用すべき」という意見も掲載されています。

Lancet Neurol. 2010 Dec;9(12):1147-8; author reply 1148-9.  Vaccination and Dravet syndrome.

これに対して、しっかりと著者が反論を掲載していますが、正しい方向性こそあれ、現時点で、絶対的な結論が既に出ているわけではないのかもしれません。

 

その他にも、この話題に関する日本語で分かりやすい記事をみかけました。 予防接種で、てんかん発作は増えるか

てんかんであることだけを理由に予防接種を避けることは、かえって病気にかかってしまうリスクが高くなり、むしろ悪い結果につながってしまうかもしれないことが分かりやすく説明されています。

ただし注意したいことは、この記事の一部では、予防接種によるけいれん発作を生じる頻度(インフルエンザの場合2%、麻疹の場合6%)と病気に罹患した場合にけいれん発作を生じる頻度(インフルエンザの場合27%、麻疹の場合25%)を比較して、自然に病気にかかった方がけいれんのリスクが高いことを強調しています。

私が個人的に追記しておきたいことは、麻疹の予防接種を受けた場合、全ての接種者に6%の確率で発作が生じますが、予防接種を受けなかったからといって全員が麻疹に罹患するわけではないということです。

麻しんは今年は増加傾向にありますが、2013年の報告数は1億2千万人以上の人口がある中で232例それ以前の2012年には283例、2011年は439例でした。

近年、予防接種は高い接種率で推移しているため、今後、インフルエンザのような大きな流行が起きることも考えにくく、もしかしたら予防接種を受けていなくても日本で生活している限り、麻疹にかからないで一生を終えるかもしれません。

またインフルエンザワクチンは接種をすると、接種をしていない人と比べて半分程度の発症して医療機関を受診することに対する予防効果がありますが(今シーズンの場合)、完全に発症を予防できるわけではなく、ワクチンを受けることで発作のリスクがある上に、接種を受けてももインフルエンザにかかって発熱やけいれん発作が起きることもあります。
Interim Estimates of 2013–14 Seasonal Influenza Vaccine Effectiveness — United States, February 2014 MMWR, 2014 / 63(07);137-142
 

でも、ここで私が言いたいことは、麻疹やインフルエンザのワクチンは接種しなくても良いということではありません(私は長男に両方とも接種させました)。
麻疹は感染力が強く、どこで感染するか分かりませんし、今後の流行がないとは誰も断言できません。さらに、麻疹に罹患した場合、予防接種で起きるけいれん発作よりもはるかに強い発作となることが予想されます。さらには、麻疹に感染することで周りの他の誰かに感染を広げてしまうリスクまであります。
また、インフルエンザは予防接種による発熱の頻度がそれほど高くなく、毎年1000万人程度の感染があるので、半分だけでもリスクを減らせれば十分に割りに合うと考えることができるかもしれません。 

でも、これが1980年から日本国内の感染報告がなく、世界的に撲滅運動が行われているポリオの定期予防接種だったら、また小児期での定量的な水平感染リスクがまだよく分かっていない任意接種のB型肝炎だったら、予防接種を受ける必要性の考え方は変わってくるかもしれません。

ここで私が言いたいことは、予防接種は単純に受けた方が良い、もしくは受けない方が良いといった結論はないということです。
予防接種は病気にならないための手段なので、その効果は病気にならないので(困らないので)本人には分かりません。
一方、病気になってもいないのに、予防接種を受けることで副反応が生じることがあります。
発熱は予防接種に多い副反応のひとつなので、発熱に弱いドラベ症候群の児に対してはより慎重に適応を検討する必要があります。
論文にもあるように予防接種を契機に脳症を発症したという報告もあります。

それぞれの保護者の方と予防接種を行う医師との間でよく相談し、予防接種を受けることによる医学的なメリットとデメリットをよく理解し、納得のできる形で、必要な予防接種をおこなっていくことが大切であるように思います。 


追記(2016/12)

下記に関連論文を追記しておきます。

予防接種を受けることによる全体の予後には影響が見られなかった。
接種を受けるワクチンをよく吟味して予防接種を受けるべき。
Pediatr Neurol Briefs, 2015. Vaccinations and Dravet Syndrome. 

予防接種による脳症のリスクを予防接種を受けない理由いするべきではない。
Epilepsia, 2013. Epilepsy and vaccinations: Italian guidelines


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