< 2007年に掲載の フォトエッセイを 加筆・修正し、最掲載しています >
群馬県 二度上 ( にどのぼり ) 峠より 角落 ( つのおち ) 山と 北関東の夜景
< OM-3 風景 : 50mm F1.4 10sec ,
月 : 300mm F5.6 1/500sec ( 二重露出 ) >
写真集 西上州の山 ( 上毛新聞社 刊 ) より抜粋
フォトエッセイ 写真家の見た風景
― 第一話 ― 満月の夜になると
犯罪大国アメリカでは、凶悪事件や事故が多発するのが 満月の夜である。
そのため、警察の取り締まりは普段よりも厳しくなる。 それは何も、海外に
限った事では無い。
この日本でも 満月の夜になると、アヤシイ人が 現れちゃうことがある ・・・
数年前の9月の、ある満月の夜のことである。 休日を利用し、私はカメラを持って軽井沢方面に出掛けた。 午前3時、松井田町 ( 現 安中市 ) の国道18号線沿いのコンビニに、食料を買い込むため立ち寄った。
ドアを開け、座席のゴミを片付けていると、ふと 背後に怪しい人の気配が ・・・!
振り向くと、薄暗い駐車場の陰から突然、20歳前後の男が、死相感を漂わせて現れた。
しまった! 逃げ場が無い! 物取りか? 変質者か? 凶器は?
男は、意を決して 私に言った。
「 失恋しました! 車に乗せてください!」 と。
彼はヤケになって、前橋市内のアパートから 自転車に乗って出てきたらしい。 碓氷バイパスの手前で、トラックの交通量の多さに怖くなり、軽井沢まで乗せて欲しいと言う。
車の中で彼の失恋話を聞き、私はずっと笑いっぱなしだった。
彼は群馬県の大学にかよい、夏休みを使って自動車の免許を取るため、実家の福井県に帰っていたとのこと。 そして 夏休みが終わり、群馬に戻ってみると、彼女は別の男と付き合っていたと言う。
矢ヶ崎山より 軽井沢町 と 浅間山
< OM-4Ti 24mm F11 1/60sec PLフィルター RD100 >
写真集 西上州の山 ( 上毛新聞社 刊 ) より抜粋
風景写真を撮る都合があるので、直接は 軽井沢の街には行けない事を伝え、和実 ( わみ ) 峠方面へと向かった。
私たちは 軽井沢インターチェンジにほど近い、高岩山を望む橋の上で朝日を待った。 上着が無いとかなり寒い朝だった。
「 ぼく、日の出を見るの、生まれて初めてですよ 」 と、彼。
「 ・・・ ( 人生初?) 」 と、私。
撮影ポイントをもう一か所。
別荘地を抜け、林道から 浅間山を見渡せる場所に向かった。 朝霧の雲海を期待していたのだが、この日は出ていなかった。
眼下に、軽井沢の街並み。 その背後には浅間山の姿。 私には見慣れた風景だが、彼には新鮮に見えていたようだった。
故郷でも、思い出していたのだろうか ・・・。
帰り道、再び別荘地を走った。 アスファルトの所々に デコボコが作ってあって、乗り心地が良くなかった。
「 このデコボコって、なんであるんですかねえ? 」 と、彼。
少し間を置いて、「 嫌がらせじゃないの~ぉ 」 と、私。
このセリフが想像以上にウケて、彼は笑い転げた。 たぶん今日、彼がはじめて見せた笑顔だった。
「 あっ、コイツ笑うんだぁ ・・・ 」。
良く見れば、笑顔の似合う男の子だった。
午前7時。 私たちは軽井沢の駅前でお別れをした。
彼はこれから 草津へ向かうのだと言う。 道路地図も無く、土地感もまったく無く ・・・。
このまま彼を放り出してしまっていいものかと不安だった。 まあ、子供でもないし、あとは自分の力で何とかしてもらおうと思った。
駅前の街路樹に朝の光が差し込んで、木漏れ日がキラキラとまぶしく見える。
一瞬、彼の後ろ姿に、あの頃の自分の姿が 重なった気がした。
彼に出会えて、忘れかけていた記憶が ふと 蘇えった様な、ちょっぴり照れくさいような、さわやかな気分になった。
「 ありがとう。 そして 願晴れ ・・・ 」。
― 第一話 ― 満月の夜になると ― 終 ―
< 無断転載を 固くお断りします >
りっぱな大人になれたのでしょうか
いつも思うけど 布施さんてホント『怖いもの知らず』ですよね。
白たいだったら絶対に乗せませんぜ!
即ボーハンベル「ビーッ」ですよ。
きっと、幸せになってると思います。 彼なら・・・。
危険な人には見えなかったので 同乗させました。
今とはちょっと、時代が違いますからね・・・。
すがすがしい気分になりました! 私にとっても 良い体験でした