< 2007年に掲載の フォトエッセイを 加筆・修正し、最掲載しています >
フォトエッセイ 写真家の見た風景
― 第三話 ― 写真の裏側 ・ 職務質問編
シーン1.
社会人になって間もない頃のことです。 あるとき私は、群馬県 水上町にいました。 アマチュア無線好きの友人の車に乗せてもらい、国鉄上越線の写真を 撮りに行きました。
「 今日はずいぶん お巡りさんが多いなあ 」。 国道17号線や鉄道沿線の所々に、警官の姿がありました。
「 何かあったのかなあ? 」 ということで、無線機で警察無線を聞いていました。 この時代の無線機は、警察無線も受信できていたのです。
季節は夏。 時に、群馬県で国体が開かれている最中でした。 水上町でカヌーの競技があり、皇太子 ( 現在の天皇、皇后 ) が訪れる事になっていたようです。 世間に無関心だった私たちは そんな状況などまったく知らず、線路脇に車を停め、警察無線を聴きながら 線路内を徘徊していました。
すぐに数人の警官に取り囲まれました。 とりあえず事情を話すと、すぐに立ち去るように言われました。
友人は冷静に 「 あの胸のバッヂは 群馬県警の者ではないなー 」 など 言ってましたが、私は 頭の中が真っ白になっていました。
思えばこれが、私の 職務質問歴の始まりでした。
新潟交通 燕市郊外より < 新潟交通は 1999年4月に廃止されています >
< OM-3 80mm F8 1/250sec ブラウンフィルター RD100 >
シーン2.
あるとき私は、新潟県にいました。 新潟市と燕 ( つばめ ) 市を結ぶ 新潟交通の電車を写すためです。
燕市郊外の 畑の中に高等学校があり、すぐ近くに線路がありました。 昼過ぎから夕方にかけての長時間、私は学校のブロック塀の横に ワゴン車を停めていました。
あたりが薄暗くなり、部活の終った生徒が帰り始めたころ、一台のパトカーがやって来ました。 どうやら、学校が通報したようです。
一人の警官が車から降りて来て、免許証の提示を求めてきました。 免許証をパトカーに持って行き、もう一人の警官に渡します。 無線で警察署に連絡をとり、免許証の照合をします。 同時に車のナンバーも照合し、盗難車かどうかも調べているはずです。
この作業に3分くらいかかります。 その間にさっきの警官が寄って来て、話しかけてきます。 どこから来たのか? 何をしているのか? など、簡単な質問をして 時間をつぶします。
話しをしながら車の中をのぞき込んでくるので、私はわざと窓を半分しか開けません。 すると、窓に顔をこすり付けるようにして、車の中の様子を見ようとします。 つい、笑いたくなります。
そのうちに免許の確認が終わり、帰っていきます。 立ち去るお巡りさんに対し、「 ごくろうさま 」 と、事務的な言葉使いでお見送りしました。
新潟交通 燕市郊外より
< OM-3 80mm F11 1/250sec ブラウンフィルター RD100 >
シーン3.
あるとき私は、真夜中の妙義道路にいました。 星空の写真を写すためです。
妙義道路は暴走族対策のため、夜間通行止めになっていた時期があります。 根性無しの暴走族は このバリケードを見て、スゴスゴと帰って行きます。 私は暴走族ではないので、バリケードをちょっとだけずらして、その先の風景を見に行きます。
冬の夜空はオリオン座やスバル、おお犬座などが一晩中輝いています。 妙義山の奇岩をシルエットにし、この星空を写すのです。 近くの神社の関係者以外、誰も来ないはずなので、道路沿いから 心おきなく撮影を楽しめるのです。
すると、下仁田 ( しもにた ) 警察のパトカーが巡回にやって来ました。
「 進入禁止と 書いてあったはずですよ! 」 と言うので、「 暴走族ではないので入りました 」 と答えました。 すると ため息を一つついて、「 次回からは警察署に立ち寄って、手続きをとって下さい 」 と言って、帰っていきました。
その後、幾度となくこの場所を訪れていますが、下仁田警察に合うことはありませんでした。
新潟交通 燕市郊外より
< OM-4Ti 40mm F8-11 1/250sec PLフィルター RD100 >
シーン4.
あるとき私は、妙義荒船スーパー林道にいました。 国道254号から 軽井沢町に抜ける道路です。
近年、インターネットで知り合った同士が 林道で集団自殺する事件が相次ぎました。 群馬県内でも数件起きています。 それ以来、林道関係者や警察が、林道を巡回するようになりました。
星空や朝焼けの写真を撮りに出掛け、車の中で仮眠をとっていると、死んでると思われ、窓をはげしく叩かれ、起こされることもあります。
林道から神津牧場への
T字路が、妙義山の日の出の撮影ポイントです。
もうすぐ夜明け。 国道から林道に入り、
T字路に差しかかった所に パトカーが停まっていました。
お巡りさん二人が車から降りて、妙義山から昇る朝日を眺めながら 深呼吸していました。 どうやら 夜勤明けのようです。 思えば 大変なお仕事です。
私は、邪魔しない様に そーっと通り過ぎようとしましたが、気付かれてしまいました。 二人はそそくさと車に乗り込んでしまいました。 なんだか悪いことをしちゃった感じです。
私は、パトカーを横目に見ながら 「 お疲れさまです~ぅ 」 と、心の中でつぶやきました。
― 第三話 ― 写真の裏側 ・ 職務質問編 ― 終 ―
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