「ガラスの巨塔」（今井彰／幻冬舎）

　元ＮＨＫの看板プロデューサー・今井彰氏が「闇の王国」ＮＨＫの裏舞台を描いた問題作です。本の帯には「この小説を書くためにＮＨＫを辞めました」と記されています。
　１万人を超える社員を抱え、国内外に82の支局を構える全日本テレビ協会（ＮＨＫのこと）に、三流部署のディレクターからＮｏ．１プロデューサーにのし上がった男がいました。主人公の「西悟」（今井氏）です。彼は湾岸戦争の時に作ったドキュメンタリー番組をきっかけに、受賞歴多数の社会派ディレクターとして名を馳せ、プロデューサーとして手掛けた「チャレンジＸ」（「プロジェクトＸ」」は視聴率が20％を超える国民的人気番組になりました。天皇と呼ばれる会長の庇護の下、「選ばれし者」の特別職に誰よりも早く抜擢され、更なる野望をたぎらしていきます……。
　しかし、西の周りには彼に対する敵意に満ちた人たちでいっぱいでした。部下の出世を妬み、あらゆる手段を使って彼を引きづり降ろそうと裏工作を繰り返し、執拗ないやがらせをする上司。寝る暇もなく現場で働く社員を「モノ」としか見ない役員たち。彼のスピード昇進をネタに、彼を犯罪人に仕立てた「ねつ造記事」を書き続ける三流雑誌記者……。そんな彼らの攻撃に、西の心はズタズタになり、次第に体もむしばまれていきました。
　「プロジェットＸ」に並みならぬ愛情を込めていた今井氏。今井氏は、この番組（小説では「チャレンジＸ」）を自画自賛しすぎているようにも思えますが、制作者（プロデューサー）としての情熱がひしひしと伝わりました。