THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「直筆で読む『坊ちゃん』」(夏目漱石/集英社新書ビジュアル版)

2008年04月13日 | Weblog
 今月は夏目漱石に関する本を集中的に読んでいるのですが、3冊目はこの本。昨年の秋に刊行以来、話題となった本書をようやく買って読んでみました……。以前はどこの本屋さんにも平積みされていましたが、半年以上たった今では話題の本のコーナーにも並んでいなくて、新書棚の隅っこにようやく1冊見つけました。
 本書は、漱石が40歳の時に3週間で書き上げたといわれる青春小説の傑作「坊っちやん」の直筆原稿をカラー写真版で完全収録したものです。漱石が原稿用紙に書いたままの「肉筆」で、書き始めから終わりまですべて読むことができます。この種の「復刻物」は今までも研究者や一部マニアの間では流布していたものの、新書版で発売されたのは初めてのことです。
 手書き文字を書いたり読んだりする機会が減ってきた現代、当時最高の知識人の直筆原稿にじっくり接してみることは価値がありそうです。
 岩波版「漱石全集」の元編集者・秋山豊氏による直筆の味わい方・解読の手引きと、漱石の孫・夏目房之介氏のエッセイも収録されていて、存分楽しめます。
 神経質で几帳面そうな漱石は、毛筆で原稿用紙のコマの中にもバランスを考慮した几帳面な字を抑制をきかせて連ねていますが、現代人には読みにくい字で、誤字・脱字・癖字(当て字)が多く、それが各社の編集者たちを悩ます結果になりました。出版社や全集・文庫本によって、表記や表現が一部異なるのもそのためだそうです。
 でも、本書は漱石のオリジナル原稿。用紙への書き込みやシミなどもリアルに見ることができます。名作の裏舞台を楽しめる1冊です。


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