THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「祖国とは国語」(藤原正彦/新潮文庫)

2006年02月15日 | Weblog
 新潮新書の「国家の品格」が昨年ベストセラーになった藤原氏。今年1月に敢行された本書は、「国家の根幹は、国語教育にかかっている」と藤原氏が「国語」の重要性について書いたエッセイが収録されています。表紙の帯に「あぁ、こういう人に文部科学大臣になってもらいたい」という齋藤孝氏の推薦文が書かれています。
 また、本書には、ユーモラスな藤原家の知的な風景を軽快に描く「いじわるにも程がある」、出生地満州への老母との感動的な旅を描く「満州再訪記」も収録されています。
 私は以前、藤原氏の「数学者の意地 父の威厳」(新潮文庫)というエッセイ集を読んで、彼のみずみずしい文章にひきこまれてしまいました。彼は国際的な数学者であると同時に、文学にも秀でていることに驚きました。
 それはになぜか。藤原氏のエッセイによると、藤原家には昔から文学全集などが書棚に豊富に並んでいて、いつでも手にとって読める環境の中で育ったからだと書いています。母ていさんが不朽の名作「流れる星は生きている」(敗戦下の悲運に耐えて生き抜いた1人の女性の苦難と愛情を描いた長編小説)の作者であると知って、納得しました。

「わがタイプライターの物語」([文]ポール・オースター[絵]サム・メッカー/新潮社)

2006年02月15日 | Weblog
 「幽霊たち」「偶然の音楽」(新潮文庫)「シティ・オヴ・グラス」(角川文庫)など、大学時代に私はポール・オースターに傾倒していた時期があります。彼が織り成すハードボイルドの文体やストーリーの展開に魅了されました。
 最近は彼の本から遠ざかっていましたが、先月、新聞の広告に載っていた彼の単行本のタイトルに惹かれて、それを買わずにはいられませんでした。
 パソコンが席巻している今、「タイプライター」は忘れ去られた過去のものになったと思っていましたが、ポール・オースターは今でも手動式のタイプライターを愛用しているというのです! それも4半世紀にも渡って…。
 本書は70ページあまりの薄い本で、文章も少なめですが、彼の友人サム・メッサーが描いたタイプライターの絵が39点、オールカラーで収録されています。彼の力強いタッチで鮮やかな色で描かれたタイプライターはどれも生命を帯びているように感じます。私はこんなにインパクトがある絵をあまり見たことがありません。
 柴田元幸氏による訳も簡潔で読みやすく、作家「オースター」の人間味がひしひしと伝わってくる贅沢な1冊でした。