THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「超バカの壁」 (養老孟司/新潮新書)

2006年02月20日 | Weblog
 「今の日本社会には、明らかに問題がある。どんな問題があるか。私はものの考え方、見方だと思っている。そこがなんだか、変なのである」(本書より)
 養老孟司氏の「超バカの壁」が現在、ベストセラーになっています。「バカの壁」「死の壁」と「壁」シリーズの完結編という本書。いずれも大ベストセラーとなったたでけに、今回も商業ベースでつくられたものだろうという感じもしましたが、新聞広告をたびたび見ていると、ついついまた手が出てしまいました。

 養老氏が言う「バカの壁」とは、「自分の意識だけが世界のすべてだと思い込む一元論的な考え」のこと。 
 本書では、フリーター、ニート、「自分探し」、テロとの戦い、少子化、金の問題、靖国参拝、心の傷、男と女、生きがいの喪失など、養老氏が現代人の抱える様々な問題の根本に迫っています。
 「ニートの存在に感謝せよ」「都会化は子どもを育てない」「首相の靖国参拝も自由。無宗教の施設建設は全く意味がないことで、宗教に対して無知の人たちの発想である」「衣食が足りている日本が、そうでない国(北朝鮮)に礼節を求めても無理韓国、中国の反発はほっておけ」「雑用を自ら引き受けよう」……。
 本書を読めば、すべての人生の悩みや社会問題が解決できそうに思いますが、これらの意見は、あくまでも養老氏の考え。まえがきに「自分のことは自分で決めるべき、伝えられるのは『考え方』だけ」とあるように、本書は指南書でも教養書でもないのです。
 「いまの日本で問題とされている多くは、そもそもの問題設定、議論の出発点が間違っている」というのが養老氏の主張です。その上で、一元論に陥らないように注意しながら自分のことは自分で決めるべき、しかし、よく分からないままでもいいとも言っています。
 現代に生きる私たちは、この世にあるすべての問題には明快が答えがあり、進歩こそが社会の発展であると思いがちですが、そういう考えは人間のエゴであり、「バカの壁」なのです。 

 本書は、全国の読者から寄せられた質問を氏に編集部が直接聞いたもので、リライトしてまとめた形式になっているため、過去の2作に比べて、より氏の「本音」が多く出ているような気がしました。最後は養老氏は、(趣味の)虫取りのことをのぞいて、この3冊で自分の言いたいことはすべて言い尽くしたと書いています。